なくてはならない会社になるために / 2001年8月

なくてはならない会社になるために ~お客様の声で化学変化を起こす~
田村 均 氏

みなさん、こんにちは。ただ今ご紹介いただきましたリコーの田村です。今日は「なくてはならない会社になるために」ということでお話しさせていただきたいのですが、リコーがどうやったか、こうやったかという話はまったくありません。

私は1993年にリコーでCS推進室の勤務を命じられ、それから「カスタマーサティスファクションというのは何だろう」とか、いろいろダッチロールしながら推進してきたわけです。それから3年後、1996年ぐらいに、みなさんが勉強されている日本経営品質賞の審査基準書に出会い、これで目からウロコというのがありました。今まで体験だったのが体系化されて、何と役に立つものだろうということでずっとのめり込んできました。その後もマルコム・ボルドリッチ賞(MB賞)の勉強をさせてもらったり、ベンチマーキングの勉強をさせてもらったり、いろいろ勉強させていただいて、こういうことを意識して普段仕事を頑張ると、会社というのはきっとうまくいくのだろうなというのがおぼろげながら分かってきたのです。その話をたくさんさせていただきたいと思います。
ですからこういう所で高い席からみなさんに話をするほど、自分が考えた理屈とか理論というのはないのです。みんな聞いた話です。要は僕にボルドリッチが乗り移ってしゃべっているようなものです。僕が考えた内容をしゃべるのでしたらもうちょっと偉そうにしゃべれるのですが・・・。

アメリカの頭の良い人が考えて、日本やドイツがとても景気の良い時に、どんなことを大事にしてやっていると環境が変わっても会社というのはうまくいくのだろうかと。アメリカの中でも景気の悪い、良いというのはあるので、良いところと悪いところを比べると、景気が良い企業というのは何を大事にしているのだろうかと。そんな因果関係の中から、こういうことをやると多分会社というのは良くなるのではないかというようなエッセンスがたくさん出てきて、それがマルコム・ボルドリッチ賞とか日本経営品質賞に反映されています。
ですから人の手柄を私が全部取ってしゃべっているだけなのです。何ともみっともない話なのですが・・・。言ってみれば、青森県の恐山のふもとの「いたこ」さんという状態に入るわけです。要は自分は何も能力はないのだけれど、いきなり乗り移ってきてワッとしゃべるというやつです。
今から2時間ぐらい、ボルドリッチが乗り移ってきてドッとしゃべります。特に新しい話はありませんので、感じたところだけちょっとメモを取っていただければいいなと思います。今日は資料はまったく用意しておりません。相当整理しながらしゃべるつもりですが、あっちへ行ったりこっちへ行ったりするので、あれはいいな、これはいいなといういことでメモだけ取っていただければありがたいと思っています。

まず、「なくてはならない会社になるために」ということですが、サブタイトルだけがオリジナリティがあるのです。ここだけ一生懸命考えました。「お客様の声で化学変化を起こす」ということです。この化学変化ということがキーワードです。
物理的変化というのは質的なものは全く変わらないのです。格好が変わっただけなのです。ですから世の中の環境が変わった、頑張れ、頑張れと言って、何かいろいろなルールや制度を決めたりして形を変えても、本質が変わらないと世の中に対応できないという話です。
そうではなく、化学変化、全く質の違うものに会社は変わらなければなりません。なぜならば、マルコム・ボルドリッチ賞が研究された時代背景は、アメリカは双子の赤字に苦しみ、とても経済が立ち行かない状態になっていたわけです。
世の中の環境が変わった。
何が変わったかというと、お客様が商品や会社を選ぶ時代に変わったわけです。にもかかわらず、「自分たちが作ったものを使ってちょうだいな」というやり方でずっと来た。それで良かった時代から、そうではなく、物は潤沢にあるのでお客様が選ぶ時代に変わったのです。にもかかわらず景気の悪い会社は何をやっているかというと、俺のやったやり方で問題ないのだということで、小手先のことで変化を起こしていただけなのです。それが物理変化なのです。

そうではなくてもっと本質的に、自分たちのやっていることが本当に合っているのかどうかということを謙虚にお客様にお伺いすることによって、自分たちが分からなかったことに気が付く。そしてどんどん直していくという変化をするのです。それが化学変化です。質が変わるのです。
化学変化というのはAという物質とBという物質を合わせて、触媒を入れて熱を加えると何か変化します。だからどういうものを自分たちの会社の中に取り込み、変化させるか。

変化を促進するためには二つしかないと言われています。

一つはお客様の声です。
なぜならば、お客様に向かって仕事をしているわけです。お客様がどんなものを欲しいのか。どんなものだったら大丈夫なのか。どういう時は良くないのかとか、全部お客様が判断します。そのお客様の声がどんどん会社の中に入ってくるような仕組みを会社に作る。こういう会社はうまくいっているということです。

それからもう一つは、ライバルも含めて外部、よそでやっている仕事のやり方を取り入れたり、そういう情報を社内に取り入れることによって、今まで自分たちが良いと思っていたのだけれど、もっと優れたやり方をやっているところがあると気が付くわけです。そういうことでもっと頑張らなければいけない、ここはこう直した方が良いということが取り入れられる。そのことによって変化が起きます。

こういうお客様の声、外部の情報と比べるということによって変化を起こす。そのようなやり方をすると、お客様から見たときに、なくてはならない会社に残れるというような話です。

少し堅い話から入ります。これも私が考えたのならもうちょっと威張れるのですが、1995年にハーバード・ビジネスレビューという本に偉い学者が書いているのです。お客様から見て世の中に存在していい、要するに「お前らそこにいてもいいよ」と言われる会社はパターンとして3つしかありませんと。どのパターンに入っているか、私も含めてみなさんも胸に手を当てて反省した方がいいのです。この3つから外れていると会社はいらなくなってしまうのです。だから早く気が付き、どのパターンなのか、よりいちばん近いところに入っていかないと市場からなくなってしまうということです。

まず1つ目は、世の中にない製品、サービスを提供し続けている会社です。
常に新しい、必要なものをどんどんお客様に提供する。そしてお客様も良いものを作ってくれたと喜んでくださる。そんな商品を常に世の中に先駆けて出してくれる会社。これがパターンのひとつだそうです。
これはProductive Innovator(プロダクト・イノベーター)というのです。Productiveですから物、Innovationですから革新。革新的な製品、サービスを提供する企業ということで、Productive Innovatorというのだそうです。こういう会社はお客様から見て、いてもいいよという会社だそうです。

2つ目のパターン。これはそんな新しいものでなくてもいい、世の中にあるもので結構ですと。品質も機能も特に目新しくなくても結構。しかしとにかく飛び抜けて安い値段で提供してくれている会社です。安い値段というのは価格破壊と言うのでしょうか。
ある条件を満たすと売価がどんどん下がっても困らないのです。もっと安く作れれば問題ないのです。今の時代は安く作る前に値段が下がってしまうのでみんな困ってしまうのです。ですからどんどんコストを下げながら安い値段でものを提供してくれる。
これがOperational Excellence(オペレーショナル・エクセレンス)いうのです。Operationalというのは操業度とかハンドリングのことです。それがBetter、Bestその上のExcellenceです。「超最高」というやつです。いろいろものを作って提供するまでのコストがえらく安く社内で展開でき、その結果潤沢な利益を取ったとしても、今までよりもとても安い値段で提供してくれる会社。これがOperational Excellenceです。
これはどんな会社かというとイメージがつきづらいと思います。企業というのはみんな努力していますが、どこでどうなるか分かりません。今現在は「ユニクロ」、ファーストリテーリング社というのがあります。あの会社がこれに当たるのだろうと思います。
あそこの製品は新しい物は特にありません。フリースにしてもストレッチパンツにしても、特に新しい物はない。しかし値段はとにかく安いです。チノパンを買いに行っても本当に買いやすい値段です。
入っていくとスーパーマーケットみたいなバスケット、カゴが置いてあります。普通、洋服屋に入っていくときにカゴを持って入っていくということはありません。しかし値段が安いものですから、3点、4点カゴに入れて帰ってくるわけです。
私も「ユニクロ」という所に行きました。何を買いに行ったかというと、最初フリースを買いに行きました。あれは私にとって衝撃的でした。フリースなんてものは世の中にあるものです。しかし当時世の中にあった値段というのは1万5千円ぐらいです。実は私は見た目よりもちょっとお洒落なものですから、ヘリーハンセンのフリースを持っていたのです。1万5千円ぐらい出すとなると、やはりちょっと汎用性の高い色合いを買います。要するに無難な色というやつです。だから紺のフリースを持っていたのです。私は本当は派手好きなので本当は紺なんか着たくないのだけれど、あちこち行くときにいちばん無難な色だったから紺だったのです。これは1万5千円だからそうしたわけです。
しかし1980円と書いてあるわけです。面白い、行ってみよう。1回来て雨に濡れたら溶けちゃうのかなと思いながら行って触ってみるわけです。全然問題ない。そして2つ買ってきました。紫と黄色です。すごい色を買ってきました。
初対面の人も多いのであまり家庭内の話も何なのですが、私の奥さんは小学校の同級生で、学級委員長をやっていました。だからずっとその関係が続いていて、いつも私は叱られてばかりいるのです。御他聞に洩れず、そのフリースを2つ買ってきた時も怒られました。「お父さんはいつもそういう安い物ばかり買ってくる。私たちはお父さんの仕事に合わせて交通の便の良い所に住んでいるのだ」と。
私、すごい所に住んでいるのです。代官山という所に住んでいるのですから・・・。すごく便利です。恵比寿の駅は近いし、東横線は近いし、日比谷線は近いし、もう今一等地です。駅の売店を見たら恵比寿、中目黒、代官山と散歩の本が出ていて、思わず買いました。そうしたら僕がいつも行っている電気屋が載っていたりして、えらく身近に感じるのです。
何を言っているかというと、地の利を考えてそこにいるものですから、住んでいる部屋が狭いのです。とにかく狭いのです。4人家族で、4人揃ったら誰か1人立たないと飯が食えないのですから・・・。私は朝立って食べて、昼間立ち食いで、夜は立ち飲みですから、ずっと立ちながら一生送るのではないかと思うのです。そういう家なので、安い洋服なんて買ってくると家の学級委員長が怒るわけです。「押入れに置いておいても誰も着ないのでしょう。保管料だと思うと、家賃から比べるととんでもなく高い物につく。だからワンシーズン1個でもいいから、本当に気に入った物を1つずつ買ってください」と言うのです。「たとえそれが10万円でもいいです」と。しかし本当に10万円で買ってきたら今度クビを締められるわけですが、そういうふうに言うわけです。
だからものすごく怒られました。「何ですか、この色は?」紫なんてオカマかと言われますから、僕が好きな色だとは言えません。「これは風水で言うと、家族がみんな健康になる色なんだ。」「そうなの。それではこっちの黄色は何なの?」「これは風水で言うとお金が入ってくる色なんだ」と。「そうなの。ところでいくらしたの?」ときたわけです。「1980円なんだけど、特別にこの3日間は1900円なんだ。」そうしたら「お父さん、他にどんな色があった?」と言ったのですから・・・。もう銭を持って買いに行くぐらいの雰囲気でした。そんなに厳しい学級委員長ですら、値段がとても安ければ「良い」となるわけです。
ですからOperational Excellenceの会社というのは、学級委員長からも認められて、世の中にいてもいいという会社です。

世の中景気が悪くなって、一番くたばってしまっているのが3番目のパターンに入りきれない会社なのです。
3番目のパターンというのはどういうパターンかというと、世の中にあるもので、機能、性能もほぼ同じものを提供してくれている。値段もほぼ同じです。ほとんどの会社がこういう会社だそうです。でもそういう企業が、お客様から「あなた、いてもいいですよ」と言われるには唯一理由がないといけないのです。これが商品以外のことで何か副詞、形容詞がつくことです。「あの会社は安心だ」「あの会社は信頼がおける」「あの会社に頼むと正確だ」、とにかくそういう副詞と形容詞がつくようなサービスを持っている会社でないと、3番目のパターンは勝ち残れないのだそうです。
これはちょっとグサッときませんか? 日本のほとんどの会社が3番目の、同じような製品、サービスで、機能、性能も同じ、質も同じ、値段もほぼ一緒というものを扱っているのだそうです。「あの会社に頼むと安心だ」というような副詞や形容詞がつくサービスを持っている会社、これがCustomer Intimacy(カスタマー・インテマシー)というのです。顧客との親密度が強いというのです。

こういう企業、この3パターンどれかしか生き残れないというのです。3番目になり損ねている会社がしこたまあるのだそうです。そういう会社が一生懸命、化学変化を起こさないと、お客様がどうしてあなたと付き合っているのか理由が分からなくなってしまうのです。

バブルの最中はそんなことはあまり考えませんでした。お客様自身も太っ腹なので、長く付き合っているから別に他を見ないわけです。「あんたでいいよ」となっているわけです。ところがどんどん自分の方も買うことに真剣になればなるほど、どうしてあそこと付き合っているのか分からなくなる。そうなると見積りを他から取ったり、黙ってよそへ行ってしまったりということになってくるというわけです。

それではなぜ私どもと長く付き合ってくれているのかということを一生懸命勉強しろというのが実はCS経営なのです。自分たちが取り扱っている商品を見たときに、お客様から見て我々に期待されているのはどういうことなのだろう。そして我々はそれをどのレベルまで提供できているのだろう。ライバルと比べて我々はどこでお客様から評価されているのだろう。こういうことを会社全体で考え、共有し、仮説を立ててここまで頑張ろうと言い、そして一年経ってもう1回振り返ってみる。成長したか、しないかということをお客様から評価を受ける。こういうサイクルを回している会社がCS経営でなくてはならない会社になっていきやすい会社です。

ですから一般的に「お客様を大事にします」とか、最近ですと「CSなんか古い。そんなレベルではない。これからは感動だ。Customer Delightだ」と言う人がいるのです。CS、Customer Satisfactionでは弱い。Customer Delightだと。CDか。いや、CDはもう古い、MDだなんて・・・、全然意味が違うのですが・・・。
Customer Delightだとか言われるのですが、私も1993年にCS担当になったときに、コンサルタントの方がいろいろアドバイスをくれました。「田村さん、CSというのはバブルの最中に1回やって、もう言葉としては古い。これからは感動だ。感動の経営をしなければいけない」と言われたのですが、感動というのはとても難しいのです。お客様に感動していただくというのは相当難しいなと思うのです。

こういう仕事をしていて、感動というのはどんな話があるのかなといろいろな所で情報をいただいたことがあるのですが、素晴らしい感動をした話があります。心が洗われるような話なので、少しご紹介したいなと思います。

もう古い話です。1989年の5月の4日の毎日新聞に投稿されたものです。聖路加国際病院の小児科の先生がものすごく感動し、これをみんなに知らせなければいけないと。いちばん素晴らしいメディアは何かということで、当時毎日新聞の読者欄に投稿した話なのです。
これが「1粒のブドウのエピソード」という話です。ちょっと読みます。大分慣れてきたので淡々と読めるようになってきたのですが、最初の頃は途中で胸がつっかえてしまいました。そのような話なのです。


「病棟にいるKちゃんは1歳で発病し、再発を繰り返している5歳の血液ガンの女の子です。もはや完全治癒を目指しての治療は諦めざるを得ず、苦痛を軽くして良い時間を伸ばしてあげるターミナルケアに方針を変え、彼女も家族も私たちも頑張っています。外泊を多くして、できるだけ家で過ごすことができるようにしているのですが、時々体のどこかが痛くなったり、発熱したりして病院に戻ってきます。
ついこの間の夜のことです。ベッドの脇で甘栗をむいてあげているお父さんから、とても嬉しくなるような話を聞きました。
『甘栗ぐらいならお安いご用なんですけどね、昼過ぎにはブドウが食べたいなんて言うんですよ。近くの八百屋さんに行ってみましたけど、ブドウなんか影も形もありません。当然ですよね。それで日本橋の高島屋まで足をのばしましてね。そうしたらあることはありましたけれど、桐の箱に入った巨峰で何万円もするのです。この子なんかどうせ食べてもどうせ5、6粒ですからね、諦めようと思いましたけれど、一応話をしてみたんですよ。そうしたら売り場の人が親切な人で、量り売りで売ってくれんたですよ。それで今日はブドウに栗、もうほとんど秋ですよ。上機嫌でね。』」


こういう話です。私はとても感動しました。こういうのを社内にどんどん展開しないといけないのかなと思ったのです。これを展開する。大変なことだな、どういうふうにやっているのかなと。この店員さんはどんな教育を受けているのだろうか。この店員さんは量り売りにしてくれた時に上司に相談したのかなとか、いろいろなことを頭に浮かべました。
これは聞かなければいけないと、すぐ高島屋に電話したのです。どこに電話したらいいか分からなかったのですが、お客様相談室というのがあったのでここに電話をしたわけです。そうしたらオペレーターの方が「ちょっとお待ちください。こちらから折り返し電話しますから」と言って電話を切ったのです。
すぐくるとは思わなかったのですが、ものの6分ぐらいして責任者から私に電話がかかってきたのです。「どういうことなのでしょうか?」「実はこういう新聞を読んだのです。これは相当古い話なので最近の話ではないのですが、こういうのを読んで私は感動しました。この人にお会いしたいのですが、何とか会わせてもらえませんでしょうか?」と言うと「残念ですができません。」と言われたのです。
これは嘘の話かと思ったのですが、実はこの新聞が出た次の日に、高島屋の役員の方がうちのテナントにこんな素晴らしい人がいるのか、是非会ってお礼を言いたいので探すようにと指示したらしいのです。ところが心のきれいな人はどこまでもきれいなのです。名乗らない。すごいです。私だったらすぐ、「私です!」と出て行くわけですが、名乗らないのです。
私は上司に相談したのかなどたくさん聞きたかったのですが、結果的に分からなかったのです。こういう話を聞いて、こういうことを社内に展開しようということはやはり無理だと諦めたのです。
やはりCustomer Delightというのは外部のコンサルの方が目標値として言うのだろうなと。社内の実践者にはCustomer Delightはやはり難しい。
なぜならばこういうのを横展開しようとしたら、感動しなくなってくるのです。
このお父さんはじっと巨峰を見ていたのだと思うのです。じーっと・・・。気持ち悪くなるくらい見ていたのだろうと思うのです。それで一応聞いたみたということなのでしょう。これを馬鹿なスタッフが横展開しようとするとひどいことになってきます。「いいか、中年のお父さんがブドウをじっと見たら、きっと子供が病気だ。量り売りがいかがですかと言ったらどうだ?」こんなことを言ったら感動も何もありません。こういうのはよくありがちではないですか。

こういうことをやっていると、またこういう話があるのです。ホテルオークラというのがあります。あそこでもすごく感動した話があったのです。どんな話かというと、これも涙なくしては語れない話です。笑いながらしゃべっているのは、何回もしゃべって多少麻痺しているからです。

「調味料立てと写真立て」というタイトルです。


初老のご夫婦がホテルオークラのレストランに定期的にお食事に来られていた。ウエイトレスの中ではもう評判のご夫婦です。お年寄になってもあれだけ仲睦まじく定期的に食事に来られている。結婚したらああいう夫婦になりたいねというくらい注目の的でした。
そのご夫妻がピタッと来なくなったのです。どうしたのかしら? 私たちの味が悪かったのかしらとか、何かサービスが悪かったのかとか、もしくは病気しているのではないかとか、とにかく来られなかったことをすごく気にしていたのです。
何ヶ月か経って、そういうご夫妻がいたことも普段の日常に紛れて忘れた頃に再び来られたのです。だんなさん一人で来られました。きっと奥様が後から来られるのだろう、待ち合わせなのだろうということで、オーダーを取りに行きました。多分飲み物だけで、奥さんが来られたら料理がセットになるのだろうと思って「お飲み物は何にしましか?」と言ったら、料理も頼まれたそうです。
どうしたのだろうと思い、料理を運んだら、内ポケットから写真をお出しになり、調味料立てに立てた。実は奥様がお亡くなりになっていたのです。そしてお亡くなりになった後の雑用が終り、だんなさんがひとりで、お二人の思い出の場所に食べに来られたのです。
その時に奥様の写真が調味料立てに立っていたのです。ソースや醤油というものの間ですからあまりにも気の毒だということで、そのウエイトレスさんはもし今度来られたらということで、自分の家にある写真立てを磨いて持って来たのです。
そして次の月にまたその方が来られた。料理と一緒に写真立てを持って行って、「よろしかったらお使いください。」これはすごいでしょう?私、ちょっと涙ぐんでしまっています。「どうぞ」と言ったというわけです。そうしたらそのお父さんは声にならないぐらいに涙が出てきたということです。


これはすごく感動する話です。自分の家にある写真立てを磨いて、今度来られたら、そんな大事な人の写真をソースや醤油なんかの間ではなく、きちっとした写真立てに入れて食事をしてもらいたいという話です。これは感動する話です。
こういうのを「社内で横展開するぞ」というと大変なことになってしまいます。
「いいか、ずっと来ていた奴がいきなり一人の場合はきっとどちらかが死んだんだ。そういうのは何回もない。だから写真立てを3つぐらいでいいから用意しておけ」とか、何も感動しません。

だからこのCustomer Delightというのは無理だと思いました。せめてもう今現在起きているお客さんのご不満とかをまずやっつける以外に手はないと思いました。
このCustomer Delightというのは目指す姿ではありますが、せめてCustomer Satisfaction。これですら難しいのですから・・・。

ということで、私どもは今一生懸命Customer Satisfactionというのはなんだろうということで頑張ってきたわけです。いろいろ頑張ったわけですが、結局最初解りませんでした。何が解らないかというと、お客様の満足というと日本人の我々は昔からやっているということになってしまうのです。
というのはお客様を大事ではないと思っている社員は誰もいないのです。絶対お客様のことを大事だと思っているのです。だってDNAに入っているのですから・・・。血液なんか抜いてしまい分析すると赤血球、白血球、「お客様第一球」ぐらい入っています。
もう歴史が証明しています。「お客様第一主義」という言葉はいつ頃生まれたのかご存知ですか? 1700年代です。さかのぼると徳川第五代将軍、吉宗の頃に「お客様第一主義」ということが書かれた本が出ているのです。これはすごいです。
京都の商人で石田梅岩という方がいました。この方が「およそ商人たるものはお客様のことを第一に考えて商いに励めば8割方成功する」と『都鄙問答』という本の中に書いてあるわけです。「お客様第一主義」です。
吉宗の頃からお客様が大事だということは分かっているので、お客様が大事だということを改めて言っているのは景気が悪くなって、今ぐらいです。バブルの最中なんてお客様が大事なんて誰も会社で言っていないでしょう。全く言っていません。私が入社した時でも、お客様が大事ですなんていう講話は聞いたことがありません。そんなことはもう当たり前になっているのです。
たまに飲み屋か何かで先輩が説教するわけです。「お前、給料は誰から貰っていると思う?」とか、いきなり禅問答みたいなことを言うわけです。酒を飲んでいる時に難しいことを言うなよと思いました。給料は誰から貰っているなんて、そんなことは会社に決まっているじゃないか。でも会社と言うと間違いかもしれないなとか、いろいろ考えてじっと黙っていると、「お前、教えてやる。お客様から貰っているんだ、馬鹿野郎。」そんな程度です。先輩がちょっと教えるぐらいではないですか。
今なんか会社から貰っているなんて気もしません。銀行から貰っていると思ってしまいます。どんどんそのお金の出所が分からなくなってくるのです。
お客様が大事だなんていうのは昔は誰も教えてくれません。今景気が悪くなって、もう一度原点に戻らなければいけないので、商売の原点だ、お客様が大事だ、ということで、こういう勉強会がどんどんあちらこちらにあるわけです。

すごいです。私なんか年間150回です。頼まれたら行く、頼まれたら行くですから、もうJQA一本。売れる前の演歌歌手みたいなものです。この一曲で呼ばれたらどこへでも行くのですから・・・。これは好きでやっていると言ったらそれまでなのですが、日本経営品質賞を普及したいのです。知ってほしいのです。こんな化学変化が起きる素晴らしいものがあるのだと世の中の多くの人は知らないのです。
日本は広報活動にパワーがないのです。マルコム・ボルドリッチ賞の弟版、妹版みたいなものが世界53ヶ国に普及しているのですが、日本以外は全部国がスポンサーになっています。日本だけです。生産性本部、ボランティアの鬼澤さんみたいな人が協議会なんていってやっているのは・・・。
私は純粋な勤め人ですから、勤務時間中に来ているのです。会社の方も呆れかえってしまっているのです。社業に影響がなければ好きにやっていいと言われているのです。年間150回やっていると影響がないわけありません。今日だって、本当は終るとこれから岐阜まで行かなければいけないのですが、岐阜まで行く電車がないので、名古屋泊まりで明日の朝、頑張って岐阜に行くわけです。行けば760人待っているというのです。760人というと歌いがいがあります。もうこれはパッションです。
何の話をしているかというと、あまりにも当たり前すぎて、経営戦略まで落ちているということに気が付いていないのです。お客様を大事にしますというのは、その石田梅岩が言ったように今でも経営戦略に全部残っているらしいのです。おそらくみなさんの会社の経営理念などを見ると、「お客様を大事にします」とか「社会に貢献します」とか「地域に・・・」と必ず書いてあると思います。「お客様をコケにしてむしり取ってやるのだ」なんて書いてないと思います。絶対お客様を大事にするということが書いてあるわけです。日本はそういう会社が集まっているのです。

しかし景気が悪いというのはどういうことですか?それだけでは足らないということです。なぜそれだけでは足りないかというと、お客様を大事にしますという考えがあったとしても、それぞれの会社で扱っている商品が違います。それから同じ商品を扱っていたとしても会社の経営規模が違ったり、同じ規模ぐらいだとしても社員の質が違ったりして、それぞれが何で勝負するかということが絶対に違うのです。

ですから我が社にとってお客様を大事にするということは、実はこのことと、このことと、このことをやることなのだということを明確にしないでお客様を大事にしますと言っていても、それぞれ会社に勤めている個人が自分の考えでお客様を大事にするのです。だから戦略にならないのでバラバラになるのです。

個人が自分の考えでやれる範囲というのは決まっているのです。決まっているということはセコイことしかやれないということです。セコイことというのはどういうことかというと、礼儀正しくするとか、お金のかからない地味なことしかできないということなのです。挨拶とか、電話に早く出るとか、人に親切にするとか、そういうことしかできないのです。
そういうことがたまたま自分たちの商品特性に合って、それが競争に勝つために重要な領域の商品を扱っているのであれば、その会社はそれで伸びるのです。しかし私どもが扱っている商品で、いくら礼儀正しくてもだめなのです。

例えば複写機というのがあります。あの複写機というものの商品特性は、お客様からみると無関心商品なのです。複写機に関心を持っていません。扱っている商品を軽く言っているつもりはありません。複写機というのは大事な商品なのですが、例えば私が勤めているリコーの複写機である必要はほとんどないのです。ゼロックスさんの複写機でも問題はないのです。そういう意味でお客様からみると関心のない商品なのです。
ですから普段自分の会社でコピーを使うときに、自分でコピーをとらない立場の方、いらっしゃるでしょう。社長とか偉い役員は自分で複写機ってなかなか使いません。そういう方が対象になっているこういう勉強会があります。「大変申し訳ありませんが、どちらの複写機をお使いでしょうか?」と聞いてみることがあります。見事です。「リコーのゼロックス」と言いますから・・・。「どちらのお車にお乗りですか?」「トヨタの日産」と言っているのと一緒です。
というのは関心がないのです。お客様からみたら無関心です。だって良い複写機を入れたから会社の業績がうんと伸びたという話はあまり聞きません。「いやあ、良い機械を入れてくれたおかげで業績がバンバン伸びました」なんて話はある特殊な業種を除いてありません。コピーサービスの業種以外はないのです。というのは間接的な生産財だからです。要らない機械だなんて言っていません。リコーの人もいますから、後で殴られてしまうかもしれません。

ですがそんな複写機が唯一関心を持ってもらう時があるわけです。
どういう時かというと、出会いは常にアンハッピーなわけです。機械が動かない時、使えない時は関心を持ちます。しっかりと見ます。「どこの機械だ? やっぱりリコーか。」何を言っているんですか。さっきまでリコーのゼロックスと言っていたじゃないかというぐらいの機械です。
ですから我々は、出会いが常にアンハッピーのときにどれだけ頑張るかということで頑張っているわけです。そうすると早く復旧をするとか、壊れる前に何とか部品を供給することで直すとか、そういうことに命をかけているわけです。そういう商品特性の会社です。
そういう会社で礼儀正しいサービスエンジニアがいたとしても、腕がなければ役に立ちません。何もしないで機械の前で4時間立っていた。「帰れ、お前!」と怒られるに決まっています。やっぱり触ったら直るというぐらいでないとだめです。礼儀正しくなんかなくてもいいのです。もうそいつが行って触ったら直ってしまう。そういうときは営業がカバーします。「お客さん、あいつは強暴ですから近寄らないでください。その代わり私がカバーします。ちょっと部屋から出て行ってください。2分で直します。」それで十分なのです。

本来機能に向かってどれだけのことができるか、商品特性によっていろいろ変わるのです。そのことをしっかりと考え、見据えて、自分たちは何をするのだという戦略なのです。そういうような位置付けだということを理解しないで、CSだとかお客様が大事だと言っていた時期が長いのです。

ですからここに集まっているみなさん、全てCSに対するやり方が違うのです。それは自分たちの扱っている商品によって違うからです。それから自分たちが対象にしているお客様によって違うからです。

自分たちの商品は何なのか。
これをどうやって整理するのか。
どこに納めているのか。
誰がお客様なのか。
そのお客様は何を期待しているのか。

こういうことを、仮説を立てて整理をするのです。
そしてそれがお客様に受け入れられて、どのレベルまで満足していただいているのかということをきちんと把握し、それを全社員でオープンにして、やはりこっちに行こう、こっちだよねということをみんなでフォーカスする。そしてそこに頑張る。そうすると会社は強くなっていくわけです。

お客様のご意見です。上司が言っているのではないのです。社長が言っているのではないのです。社長が言っても聴かない社員というのはいっぱいいるでしょう。それは大人ですから、「社長、俺はお前の話は絶対に聴かないんだ」ということを面と向かっては言いません。そんなことを言ったら危険だし、危険なことは誰もしません。「分かりました」と言って、半年後に「やっぱり難しいですね」と言うのです。
「頑張ります」というのは頑張っていない証拠なのです。「やってみましょう」というのもセットで聞かないとだめです。やった後、「どうだった?」と聞くと「やはり難しいな。」こういうのは最初からやる気がなかったのです。大人の会話というのはえらく難しいです。「分からない」というのは「やりたくない」と言っているし、「勉強しなきゃ」というのは「勉強する時間なんてないぞ」と言っているのです。
これが分からないと推進というのはできません。「分からない」と言われ、「そうか。それでは説明に行くぞ」と言うと「邪魔だ」と言われるのです。「何だ、お前、分からないと言ったから来たんじゃないか」と言うと、「いいんだ、いいんだ」と言う。「せっかく来たのだから飲んで帰ろうよ」と。「飲む時間があったら勉強しようか」と言うと「そういう堅いことは・・・。」と言われ、明日行くと忙しいと言われ、どうなっているんだと。全部やりたくないという感じです。
でもお客様から言われるとみんな素直でしょう。というのは、日本人というのはお客様を大事にしているからです。だからお客様の声で社員が変わっていくわけです。ですからマルコム・ボルドリッチ賞の研究によると、伸びている会社は「お客様の声をシャワーのように浴びている」というのです。シャワーのように浴びるわけですからどうなるかというと、やはり俺たちが間違っていたと心が洗われてきれいになってしまうわけです。

自分たちが良いと思って作ったものも、お客様からみたら4割は何らかの不満を持ちます。これがアメリカのボルドリッチ賞のバックヤードのプロジェクトにあるのです。タープ社という所が調査しました。
アメリカ人というのもしつこいです。1万円以上の商品を買ったときに、その人が満足した場合と満足しなかった場合、その対応に満足した場合、しなかった場合、またそこから買うか買わないかということを5年間調べたのです。しつこいと思いませんか? 5年間です。
そして結論は我々の勘とほぼ一緒です。当たり前だそんなもの、5年もかけるなと思ったのですが、5年かけた方が説得力はあります。というのはパーセンテージが出てくるわけですから。これはすごいです。
先輩から、「クレーム?即やらなければだめだよ」と言われた覚えはありませんか? 即やれというのは合っているのです。それから「クレーム?それは氷山の一角だ。」これも合っているのです。でもそれはその先輩が言っているから信じていないのです。他のことで信じられない人がたまに真実を言ったからって信じられません。
ところが数字で表れると信じられます。記憶が良くないので大体の数字でいきます。

提供する商品を買った人がいます。満足したか、しないか。ややこしいですから、どちらでもないというのはとってしまいます。そうすると満足した人、しなかった人、6:4です。ここがもうポイントです。どんなに良いと思ってやっていたとしても、全てのお客さんを満足させることができないということがもう出ているのです。

4割のお客様、不満を持った方で「リコーさん、私不満です」と言う人と言わない人といるでしょう。これも6:4だそうです。言わない方が多いのです。
言わない人はどうするかというと、リコーから92%買わないのです。
8%、奇特な方がいると思いますが、「それは他に選ぶものがなかったから」だというのです。
だから基本的には全部買わないのです。リコーに何も文句を言わず黙って去っていくので、
Silent customer is silent gone.
 ここだけ英語を使います。「ゴーン、日産か?」というと違うのです。silent goneですから過去分詞です。
この方はSilent customer。私どもに対して静かなお客さんなのですが、お友達にはおしゃべりなお客様です。「やめた方がいいわよ。リコー?絶対にやめた方がいい」と。「セールスは誰?田村均?もう100パーセントやめた方がいい!」とバシバシ言います。これは1人が10人に言うそうです。
この調査をしていた頃はインターネットのない頃です。今だったら大変です。1人が何人に言うか分かりません。T芝事件なんてありました。T芝事件、ほとんど隠語になっていませんね。インターネットで何百万人でしょう。Silent customerは危ないのです。どこまで言うか分からない。

この黙って去っていった人は何らかの不満を持ったから去っていくわけですが、タープ社が調べた結果は、「リコーさん、不満ですよ」と言ってくださった内容と100パーセント一緒だというのです。今、分かり易く言っています。「ほぼ」100パーセントと言っているのですが、何が「ほぼ」か分からないので100パーセント一致と言っているのです。ほとんど一緒だそうです。
そうすると文句を言ってくださった方、さっき6対4と言ったわけでしょう。間違いなく氷山の一角だということでしょう。私の先輩が「氷山の一角だ」と言ったけれど、「なるほど合っていた、あの人の言うことはもうちょっとちゃんと聴けばよかった」と思います。でもあの人は酒癖が悪かったから、絶対正しいことは言わない人だと思っていたのです。 
そして言ってくださった、顕在化したクレームを持ったお客様がいらっしゃいます。言われたら必ず対応するでしょう。対応したことに対して、当然不満を持つか満足したかというのがあります。
運悪くまた不満を持ってしまった。あり得るでしょう。「リコーさん、私これが不満よ。」「そうですか、運が悪かったですね。」「何よ、その言い方!」これで2回不満です。そのお客様は2度と買わないのです。これはもう当たり前でしょう。5年なんか調査しなくても素人でも分かります。

今度その対応に満足した場合、再び買いますか? 多分買うだろうと思っていたのですが、「間違いなく買う」が50%。さらに「買う」が82%。同じ「買う」にしてもパーセンテージで32%も違う。それはなぜだろう。そして改めて調べたら、82%の方の特徴は、クレームに対して迅速に対応してくれた、というスピード感をもって満足したときに82%になるというのです。ですから先輩が「クレームは迅速に対応しろ」というのは、5年間の実績に裏付けられているということです。

マルコム・ボルドリッチ賞にしても日本経営品質賞にしても、会社のお客様の声がどれだけ入り易くなっているかということを聞いているカテゴリーがあります。カテゴリーの3.2に「顧客との長期的信頼関係の構築」というところがあり、そのいちばん頭で、お客様が会社にアクセスしたい、何かが言いたいときにどれだけの手段でお客様が何か言う窓口を持っていますかということを聞いています。それはお客様の声で会社がどんどん良くなるということを大前提にしているからです。だからそういう窓口をたくさん持っているかということを聞いてくるのです。
それはどうしてそんなことを言っているかというと、さっきタープ社で調べた、頑張ったとしても全ての人が満足できることではないからです。だから不満を持たれた方に対しては窓口をちゃんとオープンにし、お客様が何かを言い易くする環境をとっている会社はうまくいきますよと言っているのです。お客様の声が入り安い会社にすると、なくてはならない会社に近づいていくという話です。

経営品質協議会の、素晴らしい会社になるための健康診断の道具としてアセスメント基準書というのがあります。そのような背景があって、そういうことがアセスメント基準書に問いかけられているのです。
みなさん、アセスメント基準書を勉強されているのでしょう? 「俺はアセスメント基準書の1.1は何か知っている」と自慢し合う人がいますが、あれはあまり頭が良くありません。
単語をたくさん知っているからといって、うまく英会話ができるという状態にはならないのですから・・・。「英会話」と言っているわけですから、相手が何を言っているかということが分かり、自分が伝えたい内容がないと英会話というのは成立しません。伝えたい内容がないとどうなるかというと、「日本はどうだと思う?」と日本のことばかり言っているのです。「富士山、見たか?」とか「芸者はどうだ?」とか・・・。いるか、今頃そんなもんと・・・。でも話題がないからそんなことばかり話すのです。それで「Good morning!」とか言って意味のない会話をする人がいるではないですか。あれはだめです。何か伝えたいものがあって初めて会話になるのです。

だからマルコム・ボルドリッチ賞も日本経営品質賞も、どうしてこんなことをアセスメント基準書で言っているのかということを理解しないと、「なくてはならない会社になるために」というところにこないのです。
すごいのになると、アセスメント基準書に書いてあるからこうやっているというのです。アセスメント基準書に「死ね」と書いてあったら死ぬのかということです。
ですから勉強するときには、「何のためにやっているのか」ということを、時代背景から何から合わせて勉強された方がいいです。

最初にダッチロールする理由というのは、お客様第一主義とか、会社にとってこれがいちばん大事なのだということがあるがゆえに、改めてお客様を大事にしましょうと言われたときに、自分はやっていて、やっていないのは他の人なのだというマインドになってしまうのです。「今度のテーマは俺には要らない。なぜなら俺は前からやっているからだ。やっていないのはあいつだぜ。」会社全体がそうなっていると、誰も真面目に取り組まないということです。

1993年にCS担当になった時に、サンプリングで会社の中で軽いアンケートをとりました。「あなたのセクションはお客様のことを大事にしてやっているセクションだと思いますか?」5がいちばん良いという5段階評価でやりました。ついでに聞きました。「あなたの関係する特定な部門を想定してください。あなたから見てその部門はお客様のことを大事にしてやっていると思いますか?」
「あなたのセクションはお客様のことを大事にしてやっているセクションだと思いますか?」これはやはり5?4です。見事に同じような回答になってくるのです。自分の所は4なのです。本当は5をつけたいのだと思うのですが、謙譲の美徳で4なのです。そして「関係する所は?」というと2。本当は1をつけたいのですよ。でもこれは武士の情けだといって2。2をつけられた所は自分のところを4と言っているのです。それで相手のことを2と言っているのですから・・・。そうするとおかしいでしょう。人から見たら、うちの会社はどこもお客様のことを大事にしたセクションはないということなのです。そんなことはないのです。みんな頑張って大事にしているのです、ではどうしてそんな結果になるのかというと、さっき言った話なのです。

お客様を大事にしましょう。私どもの会社には「お役立ち」という言葉があります。ところがあなたの仕事にとって、お客様は誰で、どんなことをするとお役立ちになって、お客様に喜ばれたことになるのか、ということを会社として決めていないので、それぞれが自分のセクション、自分の考えでこれをやったらお役に立つのだと決めているからです。自分の価値判断で相手を見ているから全然違うわけです。だから強くならないのです。自分たちの商品から見たときに、会社にとって何と何をすると役に立つことになるのかということを会社として決めないと、CS経営まで入ってこないということです。

これがカテゴリーでいうと「リーダーシップの発揮」の所に書いてあるのです。

会社として大事にしていることを明らかにしてください。
そのことがきちんと展開できるようにするために、社員にちゃんと伝えてください。
その社員がきちんと理解できたかどうか確認してください。
そしてそのことが本当に展開されているかをどんな指標で見るか決めてください。
そしてそのことがうまくいっているかどうかを反省してください。
うまくいっているかどうかというのは、お客様の満足と業績にどれだけ貢献があるのかを分析してください。
そして違っていたら直してください。

これをちゃんとやっている会社は、なくてはならない会社に近づいてきますということなのです。リーダーシップ、会社として何を考えるかというのは相当大事なのです。

この前、もう聴かれた方がいらっしゃったらごめんなさい。分かり易い話なのでいつもこの実例を出しているのです。会社として何を大事にするかということを決めたとしても、それがうまくいっているかどうかを測る指標が間違っていると、成果がなかなか出にくい場合があるという話をしたいのです。いつもここでニューヨークの犯罪の話をさせてもらっています。
アメリカでマルコム・ボルドリッチ賞の受賞企業が、自分たちはこのように頑張って受賞したということを発表する会があります。これはクエスト・フォー・エクセレンスといいます。私はマルコム・ボルドリッチ賞という勉強をし始めた頃、何としてもオリジナルのマルコム・ボルドリッチ賞を見たいということで、その視察団に入ったのです。日本から行ったのが13人でした。ものすごく気合が入っていて、自分たちで「平成の遣唐使」なんて言っていました。要は向こうの素晴らしいノウハウを日本に持ってきて知らせる遣唐使だと頑張っていたのです。
頑張っているのでものすごく勉強熱心な視察団です。外国に行ったら普通、観光、遊びがあるではないですか。全くないのです。「遣唐使が遊んでいる場合ではない、何言っているんだ」ということで、ホテルから受賞した企業の所に行き、サンドイッチみたいなものを食べながらいろいろ聴いて、くたびれ果ててホテルに帰ってくるでしょう。ホテルに帰ってきてからまたそこで反省会、勉強会です。忘れないうちにまとめなきゃとか言って・・・。そして終わるのが夜の10時ぐらい。そして「また明日6時、頑張ろう」と言って別れるのです。
普通はそこで「一杯、飲みに行くか」という話になるのですが、ニューヨークは危ないので外に出るなという話です。しかしエンパイヤステートビルがすぐ傍にあるのです。ゴリラもあそこに登ったようだ。俺も肉眼で見たみたいと思うではないですか。だから私は夜1人ですっと抜けたのです。
そして「エンパイヤステートビル、すごいな」と思いながら帰ってきました。ブロックを曲がって自分のホテルに帰ろうと思ったら添乗員がウロウロしているのです。私を探しているのです。そして私の姿を見るなり「来い、来い」と言うわけです。何か貰えるのかな、これから酒でも飲みに行くのかなと思ってターッと行ったら、「やはりあなたでしたね。あれだけ出るなと言ったではないですか。こんな危険な時に、まして夜、どうして1人で出るのですか!」とこっぴどく怒られました。
「全然問題なかったじゃないか。こうやって事故もなく帰って来たじゃないか」と言うと、「今日だからよかったんだ」と言うのです。「どうして今日だからだ?」と言うと「ニューヨークは40何年ぶりの大寒波で、襲う奴が寒くて家にいたので、あなたは大丈夫だった。」それぐらい危険だというのです。すごい所に来てしまったなと思いました。それから私は反省してホテルのラウンジで酒を飲んで外に出ないことにしました。
それから何年か経ち、今から3年ぐらい前にニューヨークに行きました。全然問題ありません。夜中です。ロックフェラービルのすごいクリスマスツリーの所を家族連れが歩いているは、若いカップルは歩いているは、女の人も1人で歩いているのです。全然安全になってしまったではないですか。「何なんだ、これは?」と言うと、「ニューヨークの市長が変わった」と言うのです。市長が変わるとこんなに良くなるのか。そうではないのです。前の市長だって犯罪をなくせという指令を出していたのです。

ここが大事です。
どの会社だってお客様の満足を高めながら利益を上げて、社員が元気で、利益の使い方も含めて世の中から尊敬される会社になりたいではないですか。ニューヨークの市長と一緒です。犯罪をなくせというのと全く同じです。
ところが前の市長は警察、要するに部下にどういう指示を出したかというと、「悪い奴を捕まえろ」という指示を出したのです。「絶対に悪い奴を捕まえろ。2度と犯罪を起こさないように悪い奴を捕まえろ。」悪い奴というのは元々逃げたい奴ですから、捕まりたくない奴です。それを捕まえろというわけですから、見つけるのが大変というか、方法論としては見つけて捕まえる以外に手はないわけです。だからなかなか犯罪はなくならないのです。

だから「お客様は大事だ」と言っても、ただそれだけではなかなかお客様が大事だと思ってくれないような活動がずっと展開されるということです。

それで次の市長は何をやったかというと、「悪い奴を捕まえるのもそうだが、その前に犯罪の発生率を抑えてくれ」と言って、犯罪の発生率を警察の管理項目にしたのです。犯罪の発生率だと、現場の方は多少工夫する余地が出てくるのです。
というのはニューヨークが全部危険だというわけではないのです。安全なブロックもあるわけです。ニューヨーク市警察の隣りはやはり安全でしょう。安全な場所だってあるわけです。そして24時間全部危険ということもないでしょう。昼間は安全な場所だってあるわけです。そして24時間間違いなく危険な場所もあるらしいのです。
犯罪の発生率なので過去発生したものを調べると、ここは1日ずっと危ないので1日中おまわりさんを配置、ここは時間によってシフト、というように犯罪が発生しづらい環境を現場が作ったのです。そうしたら犯罪がどんどんなくなってきたというわけです。

これは大事でしょう?
何を大事にするか。安全な街にしたい。これは誰もが考えます。
しかし自分たちが何を大事にしたらそれがうまくいくかということの指標をちゃんとするということです。

それではニューヨークの犯罪者が「もう俺は悪いことはしない」とマインドチェンジができたのかというと、そんなことはないのです。犯罪が犯しづらい、ここはやりづらいというので、悪い奴は今フロリダに行って犯罪を犯しているらしいです。でもニューヨークの市長はそれでも勝ちでしょう? そういうことです。

ですから「なくてはならない会社になるために お客様の声で化学反応を起こす」には、

自分たちの商品は何か。
それはお客様から見てどういう商品特性があるのか。
何と何と何をやったらば、我々はお客様の立場に立つことになるのか。

ということを仮説を立てて検証し、どんどん直していく会社にする。そうしたら良くなるような気がしませんか? そういうことをマルコム・ボルドリッチ賞も日本経営品質賞も言っているということです。

私の時計で40分まで休憩します。40分になったら私1人でも始めていますので、是非集まってきていただきたいと思います。それではまた40分にここで再開ということです。


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 みなさん、戻ってこられてホッとしました。1人でやっていたら寂しいですものね。
 「なくてはならない会社になるために」ということでいろいろなポイントはあるのですが、分かり易く5つお話ししたいと思います。アルファベットでいうとA、B、C、D、Eですから覚え易いと思います。何かあったらここに立ち戻ると大体整理がつきます。


Awareness(アウェアネス)

「A」というのは英語で言うとAwareness(アウェアネス)です。これは「気づき」です。
この気づきというのは、自分たちが提供している製品、サービスが良いと思っているのだけれど、ひょっとしたら悪いかもしれないというのを誰から気付かせてもらえますかということです。

ですからお客様の声、要するに自分たちは良いと思っていたのだけれど、そうではないということをお客様と接点をたくさん持ち、気づくメカニズムを会社の中で持っている。
それからよそと比べることにより、自分たちが良いと思っているやり方よりもっと上手にやっている所があるかもしれない。それがあったということで気づくということです。
これは基本的には比べるのです。比べることによって気づきが生まれる。
対前年比と比べるというのは比べたことになりません。これは自分たちの中で比べているだけです。
外と比べるのです。代表的なのはお客様、それからライバル、それから業界を超えてもっと別なことをやっている所と比べる。
比べると気づきが生まれるのです。
個人が気づくのではなく、会社全体が気づくようなメカニズム、制度、仕組みを会社の中に持っているといいです。

代表的なのが「お客様相談室」です。フリーダイヤルというのは実はこのためにやっているのですが、日本に入ってきたときはクレーム処理係で、そこで全部クレームを終らせる、スイーパーみたいな機能になってしまうのです。そうではなくて、そこに入ってきたものに宝の山があるということで、それがなぜ起きたのだろうということをみんなで考え、制度、仕組みに反映させる。再発防止という方向に持っていくために、実はお客様相談室というのはあるのです。
そういう気づきを生む。比べる。比べることによって強制的ではなく、自らやるという自主性が生まれるのです。
やらなければいけないという自主性です。これは全社員が自主的にやるということです。強制ではないのです。

強制というのはこういう三角形のピラミッドで、トップが言って下まできちんとやる。これは効率を追求します。効率はこちらでいいのですが、これは自主性が生まれません。やれと言われるからやっているということです。
そうではなく、「逆さまのピラミッド」というのがあります。お客様の声がどんどん入ることによって何が効果があるかということが分かり、そして効果があることが明確になったことにより、あとは効率を追求する。こういう逆さまのピラミッドみたいな、第一線のお客様の声がどんどん入ってくるような仕組みを持っている会社はうまくいくと言われています。
この「逆さまのピラミッド」というのがサービス経済化で初めて出てきたというので、カール・アルブレヒトという人が「逆さまのピラミッド」と言ったのです。これは効果のあることを確認し、あとは効率良くやりましょうということで、念のために効果のあることをもう1度確認する必要があるということです。
これを強調するためにいつもくだらないシャレを言っているのです。効果というのを「ツボを押さえる」と言います。効率良くやるということを「コツがある」と言います。ツボが先でコツが後です。そうでしょう? ひっくり返るとどうなるか。コツツボ(骨壷)となってだめですね・・・。

比べることによって自主的な活動が生まれます。もうちょっと頑張れそうだなとか、社員が元気になるのです。基本的には社員が元気な会社が伸びていくというわけです。だからよくCSよりもES、Employee Satisfactionだとかいろいろなことを言います。車の両輪だということです。
その車はどんな車かというと、大八車の両輪ではないのです。大八車って分かりますか? リヤカーです。あれは直径が同じだから真っ直ぐ行くのです。片方が小さい車だったらクルクル回ってしまうでしょう。だから車の両輪といっても、自転車の両輪だと思った方がいいです。径が小さくても、自転車だったら前の車輪が大きかろうが後ろが小さかろうが真っ直ぐ行くではないですか

よくCSが先か、ESが先かと言います。ESというのはEmployee Satisfactionと言いますが、Employ と言っているのは日本だけです。アメリカだとAssociate、「仲間」というのです。社員を仲間と言っています。
Associate Satisfactionが先がお客様の満足が先か。社員が満足できなくて、どうしてお客様に満足ができるのか。それはどちらでもいいのです。

でも私が考えているのは、社員がちゃんと満足したからといって、必ずお客様に満足がいくかというと分からないということです。
というのは満足に関しては衛生要因と満足度要因というのがあり。給料が高かったら満足するかといったら、そんなことはないでしょう。給料が高いのは一時だけの満足です。あとは当たり前になってしまうでしょう。4月に給料が上がりました。ありがとうとずっと12月までありがたがって働いている人はいないでしょう。大概3日。足りないなとまたすぐ戻ります。そういうのを衛生要因というのです。満足度要因というのは仕事のやりがいとか、任されているとか、認知されているとか、そういうことで頑張るわけです。

ということはお客様が満足するような仕事をちゃんとしている会社であれば、自分は良い会社に勤めていると思います。どんなに利益が出ても、どんどん詐欺をしているような会社にいて胸を張れるかといったら張れません。
ですから満足度要因というのは仕事のやりがいなどに強いので、やはりお客様の満足の方が先かなと実は私は思っているのですが、これはどちらでも構いません。でもいずれにしても自主性が生まれるということです。これが生まれる会社はうまくいっているという話です。

比べると元気が出る、自らなんとかしようというのは私の体験でもあります。私は比べなかったら背は高いのです。159.9cmもあるのですから・・・。4人家族ではノッポと言われているのです。ですが先だってオランダに出張に行きましたらびっくりしました。やはり僕は小さいというのが改めて分かりました。
ホテルに入って歯を磨く時、歯を磨くのだから洗面台の鏡に歯だけ映っていればいいというものではありません。やはり胸の辺りから映らないと、歯を磨くのも何か不安なのです。晒し首みたいになって磨いているのは何か変です。それぐらい鏡の位置が高いのです。どうしたのかなと思って現地の方に聞いたら、あちらは身長が高いのです。男性の方が高いのですが、低いといわれている女性でも平均1m80cmだそうです。私より20cm大きいと全ての部品が上です。ですからベッドから下りるときにも、ついたかな、スッですから・・・。ちょっとカクッときそうです。
私は小さいというのに初めて気が付きました。というのは私は歴史的に小さいですから、ちょっとぐらい比べてもびっくりしないのです。今日だって比べたら大きい人はいっぱいいると思います。でもそんなことではびっくりしないのです。歴史的に僕は小さいのですから・・・。小学校もいちばん前、中学校もいちばん前、高校もいちばん前。全体朝礼で「前にならえ」といったときに手を上げたことがないのです。ですから今さら小さいなんて分かっていないのです。自分で認識していないのです。

でも会社というのもそういうものです。長年ずっとこのやり方をやっていたのだから、俺のやり方が悪いとか良いとか認識していないということです。それにほぼ近いのです。
ところが強烈な所に行くと、やはり俺は小さいなと思いました。だって街へ出て行ったら林の中を歩いているようなものです。紳士服を買いに行ったら、子供用に行けと言うのです。「冗談じゃない。アップリケのついた物を買えるか、ばかやろう。俺は皮ジャンを買いに来たんだ。」でも皮ジャンがだぶだぶですから・・・。安くしておくっていったって、そんなものは要りません。
そうして私はどうするかというと、改めて小さいなと思うわけです。映る鏡の姿を見て、己の醜さに改めてゾッとするわけです。あっ、腹が出た・・・と思います。昔、私の腹筋はピシッと割れていてチョコレートのような腹筋だったのですが、今ではみんなヨレヨレになってしまっています。やはり、よし、もう1度あれに戻ろうと思います。
だから自分で、自ら深夜通販です。4つも買っています。ブルブルブルッとやったりボッコンボッコンとか、今はゴロゴロです。これがいちばん効きます。余談ですが、いろいろやってみたのですが、あれは既に腹筋がついている人を呼んできて使わせているのではないかという気はします。私の努力の足りなさを棚に上げるのも何なのですが・・・。
でもこれは人から言われたのでは買わなかったと思います。久しぶりに会って、「お前、小さいね。」「当たり前だ、俺は歴史的に小さいんだ。」「お前、腹が出ちゃってるね。何とかした方がいいんじゃない?」「ばかやろう、中年の魅力だ。これで痩せてみろ、地下鉄の駅で風圧で飛んじゃうよ」とか言って努力はしないと思います。
でも自ら気が付くとそんなことまでするということです。これは個人の話です。会社はもっともっとちゃんとやらなければだめです。会社が大事にしていることはこれだ。このことが相手に伝わっているか、伝わっていないか。それによってどうなのか。こういうことです。

ここで注意したいのは、気づくためにやるアンケート調査、満足度調査というのがあります。
自分たちがやっていることが良いのかアンケートをとるとか、満足度調査をするというのがあるではないですか。
これは注意した方がいいのです。
何を注意するかというと、自分たちが努力をして頑張っていることだけに集中して聞くのです。自分たちが努力していること、大事にしていることを聞くのです。
そうしないと結果的に何をやっていいのか分からないのです。

要は最終的にはこういうマトリックスができないとだめなのです。こちらが期待、こちらが実現度です。そしてこちらが高い、こちらが低い。「私たちはこういうことで頑張っていますが、それはあなたにとって期待されていることですか?」「うん、期待は高いよ。」「実現度はどうですか?」「うん、そこそこいっているよ。」これは○です。

「私たちはこういうことに対して頑張っているのですが、それに対して期待はいかがですか?」「そんなに頑張らなくてもいいよね。」「実現度は?」「うん、あんまり頑張っていないのだろう、いいね。」期待が低いところに実現度が低いというのはもう問題ないでしょう。

やばいのはこことここです。「私たちはこういうことを頑張っているのですが、期待は高いですか?」「高い、高い。」「実現は?」「低い、低い。」これはだめです。ここは強烈に頑張らなければいけません。

「私たちはこういうことを頑張っているのですが、期待は高いですか?」「そんなの当たり前じゃないの。」「実現度は?」「高いよね。」これはちょっと△です。無駄なことをやりすぎているかもしれません。
ですがここを急にやめるのは危ないのです。当たり前過ぎて期待はしていない。しかしこいつをやめたら途端に不満になるというのがあるでしょう。当たり前品質。鳴らないラジオ。「デザインがいいでしょう。でも鳴らないのです。」「ふざけるな、持って帰れ」ということでしょう。健康になろうと頑張って飲んだ牛乳で病気になった。ふざけるなという話になります。そういう極端な話ではなくても、この辺というのはたくさんあるのです。ここは徐々になくす。

要はこういうマトリックスが最終的につくれるような満足度調査をしないと、何をやっているか分からないのです。

こういう仕事をしていると、満足度調査用紙を持ってきて「田村さん、これでいいかどうか見てください」と言われるのです。こっちはそんなのは何回もやっているのでお手のものです。「分かりました」と言ってフォント数をみんな同じにして、固有名詞を全部消し、質問を全部ぐちゃぐちゃにして、4つ持っているのでよそのものと並べて、「あなたの持ってきたのはどれ?」とやると当てられないのです。「どれだったっけ?」と言うのです。そんなことではだめだということです。

自分たちが大事にしているということを聞いていないということです。
自分たちが大事にしているということを、まずお客様にお伝えするわけです。これが顧客啓蒙です。
何も気づかないで、「私たちはこれをやっていますが、これに対して意見をください」と言ったら、あの満足度調査というのはそもそも気の良い人が答えてくれるのです。それもその時の気分です。同じ人でも午前と午後では全然違う場合があるのです。だからこれを大事にしているということを伝えた上でやるのです。ここでお客さんに分かってもらう。「そんなことを頑張っていたのか」ということの上で明確にするということです。

JR東日本から研修をやってくださいと頼まれました。これからサービス産業に入るので民間の厳しさを教えてくださいということで、CSをやりましょうということになったのです。「どんなクレームがあるのですか? どんな所に行くのですか?」と聞いたら、駅のレストランや駅の売店、要するにキヨスクのような商売をするのだそうです。ところがお客様から評判が悪い。それを何とか直すのにCSが要るのだと言われたのです。
 「ところがどんな意見があるのですか?」と聞くと、「朝から仏頂面をしている。せっかく物を買ったのに、ありがとうも言わない。気分が悪い」というような意見がたくさんあるらしいのです。全員がそういうわけではないのでしょうが、文句を言って上がってきた意見にそういうものが多かったというわけです。それを何とか直したい。こうきたわけです。
そこで私は聞いたのです。「分かりました。ところで、キヨスクの方は1人の人に何分ぐらい対応できるのですか? 30秒ぐらいですか?」「そんなにできません。」
ラッシュアワーの時は1人10秒ぐらいだそうです。10秒で挨拶できますか? 10秒でニコッと笑えますか? 10秒で目を見つめて潤めますか? 潤めないのです。
お客様に何を伝えるか。顧客啓蒙です。キヨスクの脇に看板を張った方がいい。「我々は10秒以内にお客様の欲しい物を正しく渡し、お釣りも間違えないように、次の電車にはさまらないでちゃんと乗せることに命をかけています」という看板を張ったらどうですか。そうすると挨拶しないぐらいではお客様は文句を言いません。「そうか、あいつら10秒でやっているのか。すごいな。」「お!新聞を投げてよこした。やったぜ。」「お釣りも間違っていない。完璧!」と言うかもしれません。
そして向こうから電車に乗りながら「新聞!」と110円ポーンと渡し、「何?」「日経!」ピューッと投げてよこした。スパーンと乗った。もしそれができたらもう曲芸状態です。大拍手でしょう。

何をやっているかということが分かれば、デパート並みのサービスなんか要求しないということです。

そういうふうに自分たちが何を頑張っているかということをまずちゃんと社内でも整理できないうちに、いろいろなことを聞いてもアウトだということです。
大事にしていることに対して、お客様がこういうふうに教えてくだされば直しようもあるわけです。
よく直せないことまで聞いてしまうことがあるでしょう。「何でもご意見ください」と。「金を貸してくれ」といわれたらどうするのだというわけです。
いろいろな方法でお客様のニーズを確認するというやり方があるので、満足度調査も調査用紙一枚で何でも聞こうなんて、そういう簡単なことで何でもやろうとしないことです。
用途用途があるということです。
いずれにしても、気付き、Awarenessというのが大事です。


Bench marking(ベンチマーキング)

次は「B」、Bench marking(ベンチマーキング)です。
Bench markという言葉と Bench markingと2通りあります。

Bench markというのは測量用語です。目標値とか水準という意味です。ですからメーカーの実験室でテストをするときのBench markは何かというと、目標水準、値です。だから進行形のingはついていません。

このBench markingというのは、そういう値に対してやるためのプロセスの改善のことを言います。
be + ing、進行形というやつです。これは多くはビジネスプロセスというのが頭につきます。仕事のやり方の素晴らしいところを真似するのです。これはアメリカではなくてはならない会社になるための、とても大事な手法だと言われています。

これがどうして大事かというと、競争に勝つためには3要素があります。
品質が良いこと
コストが安いこと
処理スピードが速いこと
この3つです。言ってみれば速い、うまい、安いです。どこかの牛丼屋さんのようです。良い物を速く安く作るのです。そうすると競争に勝つというのです。ばかなことを言うな、当たり前だろう。

どうやったらそれができるのですかと言ったら、このベンチマーキングです。人がやっているうまいやり方を真似する。真似をするので、初めてやるより品質が高いでしょう。失敗しないからコストが安いでしょう。なぞってやるのでサイクルタイム、処理スピードが速いでしょう。競争の3要素を同時実現できるということがベンチマーキングです。

もうちょっとイメージを膨らませましょうか。「特命リサーチ2000X」という番組があります。「プロジェクトX」ではありません。日本テレビでやっている、「プロジェクトX」より前からやっている番組があるのです。今もやっています。
その中でサウスウエスト航空が特集されたことがありました。2日前ぐらいの日経新聞の朝刊を見ると、サウスウエスト航空というのはアメリカでは国内でトップになった航空会社です。この飛行機会社がなぜ素晴らしい業績をあげ続けているかというと、安い料金で、正確に飛行機の便数をたくさん飛ばし、便利な会社だということで彼らは人気が高いのです。
たまたま日本テレビで「特命リサーチ」の企画をやっている人が、私が書いた本を読んだのです。そして電話がかかってきて、「あなたの書いた本をテレビ番組にしたいのだけれど、相談にのってください」ということでした。私はもう億万長者への道に行けると思いました。サラリーマンなんてやっている場合ではない。よし。すぐスケジュールの段取りをつけて会いました。がすぐ諦めました。
1時間番組だと思ったから何とか期待を持ったのですが、1時間に2テーマやるというのです。もうそれで30分でしょう。おまけに民放ですからコマーシャルが入るというので20数分だというのです。それに1冊の本は無理だと諦めました。
でもせっかくだからベンチマーキングということを世の中に問うた方がいいということで、サウスウエスト航空を紹介したのです。僕は別にハーブ・ケレハーさんという社長と知り合いではありません。たまたまサウスウエスト航空というところがすごいというのを新聞や雑誌で読んで知っているだけなのです。それを彼らに知らせたのです。しかしそこはプロです。いろいろなところのつてを使い、向こうで取材をして帰ってきました。素晴らしい番組になりました。

その中にサウスウエスト航空が業績をあげている脅威の秘密というのがあるのです。いくつもあるのですが、よそが2万円ぐらいの旅費を取っているときに、8千円ぐらいの格安の値段で航空運賃を設定できている。それがなぜかというのが1つあるのです。


それは飛行機の回転率が良いのです。飛行機の回転率が良いというのはどこが良いかというと、飛行場に止まっている時間が短いということです。A地点から飛行場に着きました。お客様を降ろします。荷物を降ろします。次の目的地に向かってお客様を乗せます。荷物を乗せます。その間に整備をします。掃除をします。いろいろな作業があります。最後にバランスをとってOKといって飛んで行くのです。ここに止まっている間はお客様からお金を取れません。この時間をどんどん短くすればするほど、飛行機1機の働きぶりがよくなるでしょう。これを短くしようとしたのです。ここは短いのです。だから彼らは安い投資コストで回転率をあげているというわけです。
ここを短くしようとしてベンチマーキングをしようということでライバルと比べたのです。ライバルでいちばん短いところは60分だったのです。その時のサウスウエスト航空は何分かというと45分です。もう15分も短いので、同業では自分たちがいちばん素晴らしいやり方をしているわけです。もう改善の余地がないでしょう。と思います。同業では一番なのだから・・・。
でも利益の面からみると具合が悪いのです。サウスウエスト航空というのはどういう所をメインにやっているか。ハブアンドスポークといって、フェデックスという所が物流の標準を作っているのですが、ハブアンドスポークというのは自転車の車輪だと思ってください。ここに中心があります。ここにスポークが出ています。そうすると荷物があるとどこの荷物でも中心のハブに持ってきて、そこからまた仕分けして振り分けていくのです。これが物流の標準なのです。飛行機も人間を物流するわけですから同じです。大概はこうなっています。そうすると何が具合が悪いかというと、一旦こっちに行ってこう行かなければならないので、ここからここに行く人がすごく具合が悪いでしょう。
サウスウエスト航空はこういう所を自分の商圏、エリアにしているのです。ですから1回の飛行時間が短いのです。1時間10分とか1時間半ぐらいなのです。1時間10分飛んで45分ここにかかっている。他の航空会社の60分というのは4時間ぐらい飛んで60分です。効率からみるとサウスウエストは悪いわけです。
これを何とかもっと縮めたいと思うのですが、飛行機会社ではベストのやり方でもうやりようがない。これより速くやったら事故に通じるかもしれない。事故が起きたら死んでしまう。信用がなくなり。会社が潰れる。さあ、どっちだということになるわけです。それでもう二進も三進もいかなくなってベンチマーキングです。
乗り物で、整備が必要で、その整備不良で事故があったらほとんど死んでしまう。そんな業種はないだろうかと調べまくるわけです。そして持ってきたわけです。これは俺たちよりすごいというわけで、一生懸命真似したのです。
そうしたら今現在、15分でやっているのです。人の真似をしたら、さらに30分短くなったわけです。その30分短くなった分というのは、飛行機でいうと35機分だそうです。飛行機は自動車よりも1台の値段が高いです。35機分も浮いたら、えらく金額が安くなるということです。
それではどこをベンチマーキングしたのかというと、インディー500のスピードレースのコックピットです。F1ではありません。F1はルールがあり、何人よってたかってもいいのですが、インディーの方は4、5人と限定されているので、企業にはそちらの方が向いているというのでやったそうです。そうしたら15分。今、15分ターンと言っています。すごいです。これで35機分。


このようなことです。業界を超えて、自分たちの大事なプロセスでもっと上手にやっているところを見つけて真似をする。こういうやり方をどんどん繰り返していくということです。これがベンチマーキングです。


Cross Functional Team(クロスファンクショナル・チーム)

「C」はCross Functional Team(クロスファンクショナル・チーム)です。Cross ですから「交わる」でしょう。Functionというのは機能ですから、何かをやるときにはいろいろなセクションの人が集まってものを決めろということです。

会社の中で何かを決めると、今までは決める人とやる人と分かれています。
先ほどの典型的なピラミッドだと、決める人、執行部とやる人がよく分かれるでしょう。方針でも、方針を策定する人と実行する人は違うでしょう。だから思いがちゃんと伝わらない場合が多いのです。「誰だ、こんなことを決めた奴は?」なんてよく言います。
セクション、セクションによってそれぞれの価値観があるので、何かをやるときにはみんな集まって決めないとうまくいかないという話です。みんな集まってやると、決めたときみんなが理解しているのです。
そしてできればこのCross Functional Teamにお客様が入るのがいちばん良いのです。可能な限りそのようにやった方がいい。
要するに、会社というのは規模が大きくなればなるほどセクションが増えるでしょう。元々1人で独立して始めた時は総務も営業も何もないのです。みんな1人でやっているのです。しかし少し仕事量が増えてくると部を分けるではないですか。部を分けると、その部に入った人はその会社に入ったのではなく、その部に入るわけです。その部の伝統や習慣で頑張るというわけです。その部の価値観があります。だから何かを決めるときに、全体のことを考えず、その部とその部でぶつかり合うわけです。

例えば在庫1つとってもそうでしょう。経理からみたら、いつ損として落とさなければならないものに変わるのだから、経理部はなるべく現金を持っていたいのです。だからなるべく在庫は少なくしろというわけです。でも営業の方はチャンスをなくしたくないので、なるべく多く持ちたいわけです。同じ会社でありながら在庫ということに関して、多い方が良い、少ない方が良い、そこで議論がかみ合わないのです。

そのときに大事なのは経営理念です。経営戦略です。何をもって我々は頑張るか。
そういうところでCross Functionするとうまくいくというわけです。

ノードストロームというデパートがあります。今もまだ人気は高いらしいのですが、私が最近行った時に経営のやり方が少し変わり、同族が全部シアトルの本社に集まったのです。ベッティ・サンダースという副社長までやった人が今コンサルをやっているのですが、その時にその人がいちばん心配していました。「同族が集まってノードストロームはどうなるか分からない。心配だ、心配だ」と言っていました。これからもずっと素晴らしいデパートでいるかどうか分かりませんが、少なくとも今は良いデパートです。

そのデパートはとにかく品揃えがすごいのです。在庫という意味ではものすごいです。びっくりします。

日本のデパートに私が買いに行くでしょう。私のワイシャツのサイズというのは既製品ではほとんどないのです。首の太さと腕の短さでいくと、既製品では難しいのです。白だとか普通のはあるのですが、オックスフォード織りでボタンダウンでチェックだなんていうと、生意気言うなと言われてしまいます。「大変申し訳ありません。当店では扱っておりません。またのお越しを。」ないから帰れと言われているのです。そうでしょう。日本のデパートというのはすごく良い言葉を使うけれど、あれは「ないから帰れ」と言っていませんか?「あいにく当店では取り扱っておりません。またのお越しを」ってそうでしょう? ないから帰れと言われたのです。


でもシアトルのノードストロームへ行って、首周りと腕の長さを言ったのです。4種類出てきて驚きました。シアトルのアメリカ人はみんな俺みたいな体形かというとそんなことはありません。みんな背は高いし・・・。「素晴らしい品揃えですね」と会長に言ったら、「うちはいつもコンサルタントから、売上げのわりには在庫が多すぎるから減らせと言われています。しかしそれをやったら私どものノードストロームではなくなるから。」
これがコアコンピタンスでしょう。そういう会社は在庫が多いの少ないのと喧嘩になりません。要するに経営理念や会社の強みというところからきますから。それでもすごいです。
百貨店ですから「万貨店」ではありません。足りない物だってあるわけです。そういうときにどうするかです。人の店をどんどん紹介するのです。
私がノードストロームにキルティングのズボンを買いに行ったらキルティングのズボンがない。そうしたらサンフランシスコのメンズショップに電話しているのです。びっくりします。私は英語が分からないので、Waitと言われたのでとにかく犬のように待っていたのです。随分電話をかけているな、仕入れ部門がそんなにあるのかなと思っていたのです。
着いた日、半日しか自由時間がない。ひょっとしてあったらいいなというキルティングのズボンなんて、なくたって問題ないわけです。「Thank you very much」と帰ろうと思ったのだけれど、あまり一生懸命やっているから「どこに電話かけているの?」と聞いたら「お前のズボンを探している」と言われました。「どこに聞いているの?」と聞いたら、日本でいうタウンページを見て、メンズショップにバンバン電話しているのです。胸一杯です。
日本はいくら丁寧なことを言ったってないから帰れというのに、ないから探してくれているのです。「My hart is very full」とか言って・・・、分かりますか?「胸が一杯」ですよ。
そうしたら「これからどちらに行くのか?」と言うので「ワシントンとニューヨークだ。」「あっちは寒いから、ひょっとしたらあるかもしれない」と自分の会社の机にあったメモ用紙に英語を書いてくれたのです。「Kilted pants similar to those are L.L.Bean」と書いてあるわけです。要するにL.L.Beanのアウトドアショップで売っているようなキルティングのズボンですと書いてあるわけです。
そして「これを持って行け」と言うのです。「どうして?」と聞くと「お前の英語は絶対に分からない」と言うのです。すごいことを言いませんか? お客様をつかまえて、「お前、英語できないね」と言っているのですから・・・。そして犬のように「待て」です。これを持って行って運が良ければ買えると言うのです。来たお客様に足りないものを全部渡してしまおうというわけです。
せっかく来たのだからと、私は他のフロアーも見て帰りしなにエスカレーターに足を乗せました。先ほどの女性が私の顔を見るなり、「Hi!」ときました。挨拶、バリバリ。怖いですよ。日本から着いたばかりですから、「Hi!」と言われてもあのテンションにはついていけません。どうしようかなと思って、脇を見たらやはり私なのです。しょうがありません。「はい!」と言いました。その瞬間に、私はあの子から物を買わなければと思いました。
これはCSのすごいところでしょう。化学変化でしょう。自分の欲しい物はなかったのです。しかしその対応の中で「あの子から買わなければならない!」と瞬間思ってしまったのです。
自分の欲しい物ではない物は何かといったら土産でしょう。人の物ですから簡単に決まります。これ、これ、これ、これと。土産なんて物は10日間いたら10日目に買うものでしょう。しかし初日からずっと引っ張って歩いていました。
だからCSというのはすごいことだなと思いました。そういうデパートです。自分の所になかったら探してあげてしまう。これはすごいです。わずかなことですが、こういうことです。


日本橋高島屋は今すごいです。何がすごいって、私は皮肉ったのです。
研修を頼まれて、高島屋の役員と一緒にデパートに入りました。すると総合案内がありました。「あの案内の人は高島屋の中は全部知っていても、高島屋の外のことは知らないでしょう?」と聞きました。すると「そうです。あの子たちは知りません」と偉そうに答えるわけです。だめだなと思ったら、「あっちの二人は知っています」と全然違う制服を着た女性がいるのです。雨に濡れないようにどこどこまで行くとか、どこのコーヒーがおいしいかと聞かれたら教えたり、高島屋の周りのことはみんな知っているのだそうです。
これはすごいでしょう。ノードストロームと同じ考えです。要するに来たお客様が困ったことは全部教えてしまうのです。

この前日曜日まで研修を頼まれてレンタカー屋さんに行きました。すごかったです。
お断り率というのをとっているのです。車がなくて断ってしまうことがあります。「この率をとってどうするのですか」と聞いたら、「増車の参考にする」と言うのです。「そうですか。断るだけですか?」と聞いたら「はい。」と言っていたので、今のを教えました。「ノードストロームはなかったら探してあげてしまうのです。」

要は私が何を言いたかったかというと、せっかくお客様がそこに電話をかけてくれたのでしょうと。自分の所になかったのだから、他のレンタカー屋を紹介したらどうですか。どうせ自分の所にはないのだから、自分の所には利益はないに決まっている。それだったらよそに紹介しても同じではないか。黙っていたって向こうは必要だからよそに電話するのだから・・・。あなたの所に電話して、「あそこに電話すれば何でも揃う」となった方が、お客様から電話がどんどんくるではないですか。「それはいいですね」と言っていましたが、やったらいいですね。

そうでしょう? みんな自分が儲からないことは人にも絶対に知らせないというか、自分の儲けがないことは人に知らせたら損をするという感じなのです。しかしそんなことはないでしょう。だってどうせないのだから、もう損なんてそこでしているのだから、いいじゃないかと思いませんか? 

私はノードストロームオタッキーですから、もう1度行きました。


私は結構ブランド志向で、前から狙っているのはバーバリーです。なぜバーバリーが良いかというと、あのチェックがいかにもバーバリーでしょう。あれはバーバリー以外にないでしょう。ダックスというのがちょっと似ていて困るのですが・・・。
私はコートをバーバリーにしたいのですが、どうも今一歩なのです。あのチェックが裏地にしかついていないので、「俺はバーバリーだぜ」と見せると寒くてしょうがないのです。開けて歩かなければなりません。ところが地下鉄銀座線に乗っていて、襟を立ててコートを着ていた人がいたのです。裏地がバーバリーです。これはあり得る。襟を立てるのは普通だ。よし、バーバリーだと思い、日本のデパートのバーバリーショップに行ったらない。

ノードストロームならあるだろうと思って、「I want a Barberry coat.」またすごい英語で言ったわけです。そうしたら案の定きました。「Wait.」。また犬のように待っていました。
今度はラッピングを終えた人が「Follow me」、「ついて来い」です。ついて行くとノードストロームを出てしまうのです。
おい、どこへ行っちゃうんだ?
そうしたら2ブロックぐらい向こうへ行って、「あそこに行ったらあるかもしれない」と言うのです。
バーバリー専門店です。
要は自分の所でバーバリーを扱っていなかったのです。私が「I want a Barberry coat」なんて言うものだから、こいつ、言っても分からないだろうということで連れて行ってくれたのです。素晴らしいです。

行ったら冬物になっていてありませんでした。結局手に入らなかったのですが、やはりそのようにしてどんどん知らせてくれるのだなということが改めて分かりました。


そういうことです。やはり何か Cross Functionでやりながら、何かをベースにして経営理念などで視点を合わせるのです。部門間でしゃべっていても全然だめです。
会社の中でギャップがある、意見が食い違うということはいっぱいあるでしょう。
それは階層、立場のギャップがあります。
それから部門のギャップというのがあるでしょう。
これは全部社内のギャップです。こんなのを崩すのは簡単らしいです。

小学校のマスゲームで人間ピラミッドというのがあります。あれは先生がピーッとやるとドンと平らになります。組織のピラミッドを文鎮型にするというのは、何も形式ではないのです。意見、会議でも何でも本当にそうなればいいのです。

視点を同じにすればいいのでしょう。
視点が違うから、情報の質と量が違うから意見の違いが出るわけです。
お客様視点と、それで競争に勝てるかという2つの視点でやったら、社長も部下もないでしょう。部門間もないでしょう。そのことでお客様はどうか、視点が一緒になるからバーンと潰れるわけです。

ですからCross Functionalでやって、リーダーは自ら会社は何が大事なのかということを明確にする。何かがあったら必ずそこに立ち戻る。視点を決める。そうするとうまくいくというのがCross Functionalです。


Deployment(ディプロイメント)

 「D」のDeployment(ディプロイメント)というのは「構え」と訳します。展開。
この展開のやり方が大事なのは、年に何回かは必ずお客様視点と競争優位の視点で振り返ることを決めるとか、何かをやるときの段取りです。
段取りをちゃんとしろというのです。
それから役員会でお客様の問題点を討議するような場面を作るとか・・・。

課題が出たら、その課題はとにかくどこどこに言いさえすればいいという課題にするとか、構えにするとか、そのようなことを決めるのです。それがないとだめなのです。
そういう構えを作らずに、お客様の問題を解決しましょうと言ってもだめです。お客様の問題に気がついたら、最初にどこどこにすぐ持ってきてくれということを決めておかなければだめなのです。

よくあるでしょう。会社の中でこういうことを決めておかないとどうなるか。
「こういうことが問題だと思います」と提案した元気の良い社員がいます。「気がついた奴がいちばん関心が高いのだ。お前が解決策まで考えてこい」ともう1回振られるのです。そして一生懸命考えて持っていくと、実はそれは前から問題だと分かっていて、どこに持っていっていいか分からず上司も困っていたことだったのです。諦めてくれればいいのに、解決策まで持ってきてしまった。まいったなと一緒になって困って、どこに持っていこうと。
もう2度とその人はそういう問題解決をしなくなります。

熱いタオルを持って行ったら、熱いタオルをまた戻されたという感じです。場末の床屋に行ったようなものです。「タオルを」と言ったら、床屋が火傷しそうだ、熱いというのでお客の顔に投げた。危なくてしょうがない。もう2度とそういうことはしませんということです。
そういうときには、ちゃんと受け皿を設けるとか、そういうものを用意するとか、構えが必要です。
これがDeploymentです。
先程言った、お客様の声を聞くためにはどんな仕組みにするかということをちゃんとやるということです。


Empowerment(エンパワーメント)

そして5つ目は「E」、Empowerment(エンパワーメント)。
em- powerですから、powerを上げる、強化するということです。

誰にパワーを強化するのかというと従業員です。
第一線の社員、お客様と接点を持つ社員に権限を委譲する、自由裁量の幅を渡す。

これは先程言ったタープ社のクレームと一緒です。第一線の人がお客様がお困りになったとか相談を受けたときに、「分かりました」とたちどころにやっていい権限をきちんと渡すということです。

これは奥が深い話なのですが、限定してやると大丈夫なのはまずクレームです。
クレームというのは先程のグッドマンの法則というかタープ社がやったように、大体嫌なものというのはみんな共通して嫌だと言っているのです。
困るものはみんなが同じように困っているのです。

であれば、言ってくださったお客様の声を全員が共有し、会社として誰でもここまでやれるということを決めておく。
そしてそういうことが起きたら、たちどころに対応できると決めておいてあげろというのです。

これを決めておかないと大変なことになるのです。
「えっ? それは私の権限ではないので、ちょっと上司に相談します。」
上司もびっくりしてしまい、「まいったな。ちょっと部長に相談するよ。」
部長も「おい、おい。役員会に・・・。」
役員会では「なんでこんなのを今まで放っておいたんだ。すぐこうしろ!」「はい、分かりました。」
さすが役員会、スピードが速い。
冗談ではない。お客様からすると、最初から何日経っているのだということです。

ですからあらかじめ、こういうことが起きたらこういうことをしようと決めている会社は良くなると言っているのです。だからそこだけでもやったらEmpowermentは良くなるということです。

Empowermentというのは誰がやることかといったら、トップが「お前ら、ここまでやっていいのだよ」と権限を明確にしてあげるという意味ではトップの仕事なのです。

このEmpowermentというのをやっている会社は社員が元気になりますということです。


こういうことでA、B、C、D、Eと1つひとつ、全部できたかなとやっていくと、お客様からみて、なくてはならない会社になりそうだということです。
なくてはならない会社の最後のパターンがいちばん難しいのです。
お客様からみたときに、お前の会社は便利だとかいうことです。

同業の方がいらっしゃると思うのであまり堂々と言えないのですが、私は関係がないので言ってしまいます。それでは3番目の「顧客インテマシー」の会社で典型的なところはどこですかというと、プラスさんが始めた「アスクル」という会社がそうでしょう。

あそこで買った物がよそより飛び抜けて良い物というのはないでしょう。値段も特に安いわけでもないのでしょう。あそこで買ったボールペンは全然インクが減らず、百万年も書けるということはないのです。
どこで買っても同じなのです。
にも関わらず、社内でやっていたのに名前がつき、わずかな間に店頭公開までいってしまった。あっと言う間に150万口座できてしまった。150万というのはすごいです。

何でもない商品を扱っているのでしょう。しかしお客様が明確です。
30人未満、もしくは10人未満の、特に10人未満の事業所の女性の社員です。その女性の社員は何か足りないなということが分かったとしても、電話がかかってくるかもしれない、お客様が来るかもしれないのでその事務所から出られないのです。
だからあなたの代わりに私が使い走りになりますというコンセプトでしょう。
何でも私に言ってください。「ぱしり」をやりますということでしょう。

その代わり今日頼んでください。頑張って明日持ってきます。
それで「アスクル」でしょう。
物流の体制が整ったら今日持ってこようというので、「キョウクル」というのも同時に商標登録しているのです。「アスクル」「キョウクル」、「スグクル」「モウキタ」となっていくわけです。

あれは特別な物は何もない。でもお客様からみて、あそこは便利だということです。
それが「顧客インテマシー」です。

ですから少なくてもライバルがいる商品を扱っていたら、その「顧客インテマシー」というのは間違いなく必要だということです。
プロダクトイノベーターの会社でも、最低レベルの「顧客インテマシー」は要るということです。
ローコストエクセレントオペレーショナルの会社でも、最低レベルの「顧客インテマシー」は要るわけです。
ましてその前2つではない所は、「顧客インテマシー」がなかったら間違いなく勝ち残れるわけがないということです。

だから自分たちは改めて、誰がお客様で、そのお客様は何を期待されていて、どうしているのかということを明確にしなければいけないのです。


サービスについて

そしてサービスというのがあります。
顧客インテマシーというとどういうことになるかというと、サービスの提供が人間を介在してやることが多くなるということです。
というのはサービスを分解した人がいます。東海大学の先生です。学問をやっている方というのはものすごく分かり易く分類してくれます。サービスを4つに分けます。どうやって分けるのかなと思いました。
まず「犠牲的サービス」です。そして「業務的サービス」。この業務的サービスというのは、みなさんの会社でカタログに載っているとか、料金がいただける、要するにちゃんとした製品のことです。その上に「態度的サービス」。その上に「精神的サービス」。この4段階があるというのです。

工業化社会の時は、「業務的サービス」までは勝負だったというのです。要するによそよりもこんなに良い製品です。機能、製品、サービスそのものの良し悪しで決まったというわけです。

ところがどんどんライバルが増えてくる。
明らかにライバルよりも劣った機能、性能を持っている商品をやっている会社は潰れます。
だからどんどんとライバルを超えるような競争をするわけです。
ですからお客様からみると、競争が激しくなればなるほどここの差はないということになります。

本当は供給側からみたらとんでもありません。いっぱいあるのです。我々、成熟した「業務的サービス」をやっている複写機業界などは、製品そのものでも相当違いはあるのです。
例えば「リコーさん、ゼロックスさんのこの商品との違いを言ってごらんなさい」と言われたら、顎なんて外れるぐらいしゃべります。3時間でも4時間でもいけます。でもお客様は「でも両方とも写るんでしょう?」と言います。ガクッときます。写るよ、それは・・・。お客様にとっては同じなのです。

すごいポイントです。
同じと言われるものに対して、これを提供するために供給側は全てのコストをかけているということです。
全てのコストをかけておきながら、お客様からみたら「同じででしょう?」といわれるのです。

それでは何でお客様は選ぶのですかというと、「あそこは安心だ」とか「あそこにかけると間違いない」とか、「態度的サービス」、「精神的サービス」なのです。これは人が介在するものが多いのです。

ところが会社の中で、この「業務的サービス」を正しく提供するための仕組みプロセスは十分確立しているのですが、人に絡んだプロセスはないのです。
ですからこんなに全てのコストをかけておきながら、選ぶお客様が大事にしている、社員1人ひとりの「態度的サービス」や正確性などを確実に提供するプロセスを会社の中に持っていない会社が多いということです。

それをどうやって作り上げるかということです。
このプロセスを早く確立している会社はうまくいくということです。
このプロセスを確立させるためにはどうしたらいいかというと、先程から申し上げているように、社員はお客様の声には敏感になることです。
上司の声には敏感でなくてもよいのです。上司と部下との関係はいずれ別れる人ということになっていますから・・・。特に規模が大きくなってくれば3年周期で変わるのだから、あと2年、あと1年、いなくなった!と赤飯を炊くのです。それで大丈夫なのです。それが3回続くと9年でしょう。俺も運が悪かったかなとやっとそこで自覚するわけです。上と下は別れる人なのです。だからうまい対応をするわけです。

しかしお客様が困っている。それはまずい。これをどう作り上げるかということです。このことに関しては、うまく作り上げている仕組みというのはそんなにないのです。それでマルコム・ボルドリッチさんたちが一生懸命考えたのです。

Awarenessで気づかせるにはどうしたらいいか。Bench markingも一緒です。気づいたところを、どんなやり方をしたら早く直るか。Cross Functional、気づいたこと、会社の大事なことをみんなで認知しながらやっていく。経営に参画させることによって自主性、自立性も出せる。Deployment、彼らがどんどん意見を言えるような場、彼らが困っていることをどんどんやれるような場を作る。そしてお前ら、ここまでやっていいよとEmpowermentをやる。みんなこちらに絡んでくるというわけです。これを真剣に考えている会社はうまくいくということです。そして、この、人が絡んでやる内容というのは従来のやり方とは変わってくるということです。

会社はお客様に「態度的サービス」や「精神的サービス」を提供します。これは人間が介在し、物を作り込むプロセスと違います。
何が大きく違うかというと、提供する製品、サービスの本質が違うのです。
何が違うかというと、まずお客様がいる所でしか提供できないという、提供側と受け側が共に働かないとできないということなのです。

ですから質がどうあれ、私はサービスを提供しているわけです。先程から私は「1人でも始めています」と言っていますが、本当に1人だったら成立しないでしょう。みなさんもここに座っていて、誰もここにいなかったら成立しません。みなさんがいて、私がいてということがサービスの特性なのです。

もう1つの特性は生産と消費が同時なのです。今日も茨城リコーの方がそこにいます。リコーの田村って何をしゃべるか分からないと、ずっと怖い目で私をチェックしているのです。でも全く役に立たないのです。なぜならばしゃべってしまった者勝ちでしょう。慌てて来て口をふさいだって、「俺、もうしゃべっちゃったもんね」で終ってしまうのです。

ということは、従来の物作りのように企画を決めました。それをうまく作りました。うまくいったかどうかチェックをします。金と時間さえかければ、悪い物は出さないと決めて品質管理をちゃんとやれば、悪い物は一切出ていかないのです。

でもサービスに関してだけはそれができないということです。生産と消費が同時なのでチェックが効かないのです。
だから先程から申し上げているように、会社として大事にしているものは何か明確にしなければいけないのです。明確にすれば、社員はそれに従って頑張ればいいのです。

そしてリーダー自らが細かいことまで含めて、自分が行動するときの判断基準を常にオープンにして社員が見るようにするのです。こういうことはやっていいんだなということを社員が自ら分かれば、リーダーがいようがいまいがリーダーのやった動きを見るので、判断のときにそちらへいくわけです。だからリーダシップが大事だと言っているのはそこなのです。人に対するプロセスですから、物と違います。

そうは言っても、会社としてちゃんとやっていくれているかどうか確認したいでしょう。物だったら見れば分かるのです。ところが共同性なので、自分のいない所で提供されているでしょう。すると戻ってきたセールス、社員に確認してもだめだということです。「お前、やってくれたよな?」「はい、やりました」と全員が言います。「いけね、忘れてた・・・」と言えば「ばかやろう」と怒られるのが分かっているので、「完璧!」と言って帰ってきます。それをチェックする方法がないわけです。

よくPDCAと言います。
Plan、Do、Check、Actionです。このCはCheck by customerのCです。Customerにここに入ってもらいましょう。
だから自分たちが大事にしていることがちゃんとできているかということを、定期的にお客様に確認するのです。

商品によっては契約直後にいろいろなトラブルが出ることが十分に分かっていたら、契約直後に伝わることがきちんと伝わっているかどうか、約束事項が忘れられていないかどうかをお客様に確認するのです。約束事項が忘れられていると、必ずトラブルになるのです。

約束事項に関してどういうのがトラブルになるかというと、約束したことをお客様が忘れていて、私ども、リコーも忘れている。これは全然トラブルになりません。約束したことをお客様が忘れていて、リコーが覚えている。これは感激されます。いちばんやばいのは約束したことをお客様が覚えていてリコーが忘れているときです。これが2回、3回続くと、「いつもそうだ!」となるのです。
トラブルというのは複合汚染ですから、1個だけでは絶対に起きません。この些細なことと何かがつながる。何か大きなことがあったらその後に些細なことが起きる。約束を守らない。時間に遅れた。そういうことでトラブルになるわけです。
だから約束どおりに行けたかどうかということをセールスに聞いてもだめだということです。今までの経験則で納入直後にいろいろなトラブルがある。こういうことを知らせておかなければいけない。だからお客様に「こういうことを説明されたでしょうか?」と聞くのです。されてなかったら部下を怒る必要はないのです。一生懸命説明したけれど、お客様がその時に他に関心があったのかもしれないのです。要はお客様が聞いていないということは必ずトラブルになるので、聞いていなかったら「もう1回説明に行って来い」と言うだけですむわけです。

そうするとお客様に確認してもらうので、Plan、Do、Check、ActionのCheckにCustomerが入るというわけです。こういうやり方を商品特性に合わせて随所随所で行い、どこでこういうことを聴くとトラブルにつながらないだろうかということを工夫しながらやっていくと、「態度的サービス」とか「精神的サービス」、要するに「あそこは安心だ」「あそこは確実だ」「あそこに頼むと間違いがない」というようなことが培われてくるというわけです。

これがサービス経済化のPDCAのやり方だということをボルドリッチ賞に教えてもらいましたということです。そして日本版マルコム・ボルドリッチ賞が日本経営品質賞ですから、日本経営品質賞のアセスメント基準書をきちんと勉強すると、全くお金がかからないわけではありません、あのアセスメント基準書というのは3千円かかるわけですが、他に投資が要らないのです。要するに人がどう変わるかですから・・・。
人件費というのは変動費と言いますが固定費です。やる気満々の人の1千万円とやる気のない人の1千万円も1千万円は1千万円なのです。その中身がどう変わるかです。そのためにお客様にどう協力してもらうかがCS経営のポイントだと思います。


Q&A

Q&Aに入りますが、まだ時間があるので今しばらく「いたこ」状態でおります。それではここからQ&Aにいきたいと思います。

【質問】今のお話を聞いていて思ったのですが、サービスの中に4つの段階があり、特に人のプロセス部分で、ちょうど私のところではISO9000の2000年対応などを始めているところなのですが、やはりそういった部分ではカバーできない部分かなと思ったのです。やはり経営品質という枠の中で考えないといけないなと思ったのですが、どうでしょうか? 私もポッと思っただけなのですが・・・。

【田村】
今日も事務局長の方から報告の中でISOの話が若干出ていました。私も会社のこの前の役員会で、張りつけ獄門ぐらいに、壁にベタッとへばりつくぐらいに怒られたのです。私の得意技なのですが、壁にベタッと張りついて「保護色です」と言うと分からなくなると思うのですが・・・。
何を言われたかというと、ISO9000の2000年バージョンとマルコム・ボルドリッチ賞、日本経営品質賞のアセスメント基準、どこが違うのかはっきりさせろ、みんなが混乱するではないかと言われたのです。「お前、プロだろう」と言われたのですが、ISOはプロではなかったのです。
ところが今「プ」ぐらいまでいきました。「ロ」まではまだいっていません。夏休みを全部潰しました。必死になって読み込みました。そして有識者に聞いてやっと分かりました。

ISOをやっても競争に強くならないということです。

なぜ強くならないかというとマチュリティモデル(組織の成熟度)の結果がどのレベルかということは一切問わないのです。

ISOというのはシリーズになっていて、9000というのは用語解説です。9001というのが規定です。適合です。9004というのは指針です。この9004というのをじっと比べていくと、マルコム・ボルドリッチ賞なのです。有識者に聞いたら、9004はアメリカが作ったのです。9001はイギリスが作っているのです。対抗版なのです。そして9001を適合にして9004はこれからという指針にしたのです。

中身を読んでいくと、9004は経営全体のパフォーマンスには役に立ちますと書いてあります。
しかし9001はその限りではないとはっきりと位置付けを明確にしていますから、今ご認識したように、9001では今のような人間的な、こういうところまでは入ってくれないというのは、私の今の理解ではあっていると思います。

ところがこれがずっといくと9004に向かっているので、最終的にはマチュリティモデル、評価モデルというのが出てくるのです。それまで入ってきたら、これはもう一緒だと思っていいと思った方がいいと思います。社内では、「どちらでもかまわない、お前のところでいいやつを使え」と言うのがいちばんいいです。

大きく違うのは、認可制ではありません。自分たちがやっているだけです。

まずいのは9001の外部認定ではないですか。だから外部の認定を受けるためにやっていることに自分たちのプラスアルファを加えた準備をしておく。そして外部からきたときには、こういう考えでここまで見てくださいと渡せば、作業はダブルにならないと思うのです。

これを8月いっぱいまでにまとめて、役員会に答申しなければいけないのです。大変でした。やっとすっきりしてきました。

だからどちらが良い、悪いではないのです。

こういうふうに考えた方がいいです。

日本経営品質賞(JQA)というのは、自分たちが今まで頑張って努力した結果がどのレベルにあるかというのを見るまで。そしてどの領域が強くてどの領域が弱いかを見るまでと思ってください。
そして直そうと思ったら、それは従来のQC手法やKT手法、TPMなど、改善手法で頑張るのです。

そして結果を生むプロセスが見つかったら、それはきちっと守るということでISOで決めるのです。
ISOで維持をして、その結果が世の中レベルと比べてどうだということをJQAで見て、そして改善はQCでやる。こういう使い分けが明確にあると思うのです。

似ているからといってISOとJQAはどう違うのだと比較表を出せとかいうと、これはもう大変なのです。本質が違うものをマトリックス法か何かで比較表を作ると同じになってしまうのです。
本質が違うという意味では猫と犬というのは本質が違うのです。猫と犬との比較表というのを書いてごらんなさい。同じになります。共にペット。全身皮で覆われている。立って歩くことが少ない。尻尾がある。それと一緒ではないですか? でも本質は犬は人につき、猫は家につくと全然違うのです。
だから本質のところの比較をしないとだめなのです。似ているからといって細かくすればするほどみんな同じになってしまいます。
私だって素晴らしい映画俳優と比べたってほぼ一緒です。目が2つある。鼻は1個。部品の配置がちょっと違うというだけです。
回答になりましたか?


【司会】
その他に何かございますでしょうか?

【田村】
質問票を一枚いただいているのですが、これは私にも分からないので困っているのです。でも分からないという回答はないでしょう。まいったなと思っているのです。

【質問】
日頃疑問に思っていますが、なぜ新聞や経済誌では経営品質的視点での記事がないのでしょうか。もしご存知でしたら教えて下さい。

【田村】
これは分かりません。でも日経ビジネスの有訓無訓だとか、特集の中にはこの経営品質的視点の話はたくさんあります。リーダーの視点というのでしょうか、日本経営品質賞の勉強の材料になり、徹底的に使えます。
それから日経新聞でも何でも、時系列にずっと記事を全体で見ていくと、経営品質の視点で見るには良い教材がたくさんあります。
ニーズIRという日経のデータベースと契約します。あれで日産、ゴーンとキーワードを2つ入れると、ダーッと日産とゴーンさんの関係の記事が出てくるのです。あれをずっと時系列で読んでいくと、先ほど言ったA、B、C、D、E、全部やっています。そういう意味で経営視点での記事はあるかないかと言ったら、あると言ったらあるし、ないと言ったらないという感じです。
誰が質問されたか分からないのですが、意図が分からないのでこんな回答で、もうこれ以上追究されると私も困ってしまうので、これでよろしいですね。


【司会】
その他何かございますでしょうか。

【田村】
もしなくて、後で家で思い出したら、協議会のホームページにメールで質問くださると、鬼澤さんが必ず私の所に転送するようになっています。私は必ず返事を出しますから、メールでお願いします。
こういう所というのはあまり質問が出ないのです。こんなこと聞いたら馬鹿じゃないかと思って控えめにするときがあるではないですか。


【質問】
私の会社は6人の会社なのですが、小さい企業が取り組む際に、どのようなところから取り組んでいったらいいか教えていただきたいのですが・・・。

【田村】
大きい企業も小さい企業も、取り組むアプローチというのは全く一緒だと思うのです。それは何をやったらいいかというと、アセスメント基準書の中に、ゼロフェーズで組織プロフィールというのがあるでしょう。あの組織プロフィールをきちんとまとめることです。
それではどんな内容が書いてあるかというと、アセスメントやマルコム・ボルトリッチを全く知らなくても書けないと駄目なことしか書いていないのです。

・ どんな商品を扱っていますか?
・ お客様は誰ですか?
・ そのお客様のニーズはどうだと思っていますか?
・ ライバルと比べて何で勝とうとしていますか?
・ あなたの企業を取り巻く環境をどう認識していますか?

というようなことを全部整理しなさいということが書いてあるのです。それが整理されないとアセスメントができないのです。それをまずきちんと整理する。きちんと書ければあとはお客様に確認しながら、合っているかどうかをやればいいのです。

53カ国か何かで使われたと言っているでしょう。あんな汎用性のあるものというのは万能薬ですから本来効かないのです。万能薬なんてどの病気にも効くわけはないのです。しかしあのアセスメント基準書がどの企業にも使えるというのは、唯一その組織プロフィールというのを書くからなのです。

組織プロフィールというのは自分のために書いているのです。自分のことを書いているのです。そのことがあの8つのカテゴリーがどうですかと見るので、あの組織プロフィールを書くことによって、世界にあるあれだけ普及しているものが自分のものになるのです。
だからアセスメント基準書をいくら勉強しても全く意味がないのです。組織プロフィールを書いた上であれを見ないといけないのです。

ですから今年の2000年バージョンに関しては、2001年のアセスメント基準書は素晴らしい改定がなされたのです。組織プロフィールがカテゴリーのいちばん頭のゼロフェーズになっているのです。あれがいちばん最初だというのは、今回直した中でいちばん価値のある改訂の仕方だと思います。

【司会】
これより田村さんは名古屋に向かわれるそうなので、講演の方はこれで終了させていただきたいと思います。みなさん、拍手をお願いします。
(拍手)
【田村】
今時点で「いたこ」解除ですから・・・。
(笑)(拍手)

【司会】
どうもありがとうございました。
(拍手)

(2001.8.24 水戸サンシャイン常陽)