ビジネスマンのためのCS入門 / 「ビジネスマンのためのCS入門」より ビジネスマンのためのCS入門 ~顧客満足の徹底的追求~ 岡本 正耿 氏 ある範囲でうまくやろうとすることを管理と言います。管理とは例えば生産管理とか販売管理ですが、これはそれぞれの専門分野で効率を高めようとすることです。これはこれで必要なのですが、それだけでは不十分です。どのような成功の絶頂にある事業や製品・サービスでもいつかは時代遅れになり、飽きられてきます。ですから同じことをどれほど巧みに続けていても、それだけでは未来はないのです。 それに対して何を行うのかを決めることを戦略と言います。こちらはどのような分野や領域であったら自社の優位性や競争力を発揮できるのかを模索し、選択します。そして選んだ領域に投資を行うのです。つまり自社の事業として何を行うのかを決めることが戦略なのです。与えられた条件の下で効率追求する“最適化”ではなく条件そのものをいかに転換してしまうかつくりだすという“革新”がこちらの発想です。 短絡的な利益を追求していると、どうしても投資は抑えたくなり、制約条件の中だけで頑張るという視野の狭い「部分最適の思考」に陥ってしまいます。たとえば品質を軽視してでもコストダウンをするという二者択一指向がその例です。そうすると次第にシェアが低下していき、やがては利益が出なくなります。 そこで戦略では、利益という短期的な結果ではなく、その結果にいたるプロセスを見ようとします。プロセスではいろいろな部門と部門が関連しあい、品質やコスト、そして納期といった同時に追求しなければならない要素が関連しあっています。それらが統合されているものがお客様満足(度)です。お客様はいろいろな競争企業同士をきびしく比較して、特定企業を選びます。その際に選択の基準となっている総合評価のことをお客様満足(度)と呼ぶのです。このお客様満足度が向上しているというのはプロセスが改善されていることを意味します。逆ならばプロセスの劣化ですから、数年先には確実に売上高、利益の低下となります。また競争企業よりもお客様満足度が高ければ、競争に勝っているわけであり、これはシェア向上の先行指標になります。逆に競争企業の満足度の方が高くなっていれば、早急に対策を講じなければなりません。 つまりお客様満足は経営そのものの競争力、市場力を評価する根本的な尺度なのです。お客様満足についてこのような考え方はアメリカのマルコム・ボルドリッジ賞の中で強調されました。ボルドリッジ賞は経営における根幹的な要素を相互関連的に自己評価する体系なのですが、この中でCS(カスタマー・サティスファクション=顧客満足度)だけが日本に持ち込まれて話題になってしまいました。ボルドリッジ賞をよく知らない人たちが持ち込んだためか、CSは現場第一線の接客や販売をする人たちの仕事であるかのように極めて狭く受けとられてしまいました。いまだにCSというと、接客要員のエチケットやマナーのように思っている人がいますが、それは根本的な間違いです。CSは企業の競争力を評価する尺度なのです。 そもそも顧客を重視する考え方は以前からマーケティングの世界にありました。マーケティングというのは製品志向、製造志向ではなく、顧客が何を求めているかという顧客志向で事業を組み立てる考え方です。もともとマーケティング部というような部門的な仕事ではなく、企画、設計、研究、技術、製造、販売、物流などの機能を横断して統合していく仕事がマーケティングだったのです。ところが次第にマーケティングは狭く解釈され、販促や広告の仕事というように部門化されていってしまいました。 それからマーケティングはもともと高度成長のころに発達した概念であり、新製品の開発を中心に全体が考えられていました。新製品導入のためのマーケティングですから、どうしても広告や販促が中心になってしまいます。けれども現在では、ほとんどの産業分野で成熟期にあり、新製品を開発するだけではなく旧製品を改善改良する方が中心的な命題となっています。あるいは製品そのものではなく、販売後のアフター・サービスやその他の支援サービスなどが命題となってまいりました。新製品開発を中心として、販促や広告を主務とするマーケティング部門ではこれらの今日的なテーマには対応できません。 こうしたわけで改めて全社的な部門の仕事を交差し統合する概念として顧客満足という考え方が必要となったのです。こういった活動を担う部門としてたとえばCS推進部やお客様サービス部などがありますが、あまり部門をつくると全社的な部門横断をしにくくしてしまう危険性もあり、専門部門の設置については賛否両論です。日本におけるCSはそういう過渡期にあるのです。 そのような背景を十分に認識していただいたほうが、さまざまな事例の意味をより深く洞察していただけると考えました。そこで類書はどちらかと言えば、直接的に顧客満足を紹介しているものが多いのですが、この本ではマーケティングの考え方からはいっていきます。それから次第にマルコム・ボルドリッジ賞や日本経営品質賞などの考え方にそったお客様満足の仕組みへと進んでいきたいと思います。 (「ビジネスマンのためのCS入門」より) ■岡本正耿(おかもとまさあき) (株)マーケティングプロモーションセンター 代表取締役 早稲田大学ビジネススクール、千葉商科大学、神戸芸術工科大学講師。 日本経営品質賞判定委員、JMAマネジメントスクール専任講師 著 書 「メインテイン」「消費者の精神分析」「長男長女の時代」 「マーケティング・プラクティス」「従業員中心戦略」 「勝利と敗北の岐路」(共訳)「人口減少のショック」(共著) 「ビジネスマンのためのCS入門~顧客満足の徹底的研究~ 「顧客満足創発のプロセス~ビジネスマンのためのCS入門 part2~」他
ビジネスマンのためのCS入門 / 「ビジネスマンのためのCS入門」より ビジネスマンのためのCS入門 ~顧客満足の徹底的追求~ 岡本 正耿 氏 ある範囲でうまくやろうとすることを管理と言います。管理とは例えば生産管理とか販売管理ですが、これはそれぞれの専門分野で効率を高めようとすることです。これはこれで必要なのですが、それだけでは不十分です。どのような成功の絶頂にある事業や製品・サービスでもいつかは時代遅れになり、飽きられてきます。ですから同じことをどれほど巧みに続けていても、それだけでは未来はないのです。 それに対して何を行うのかを決めることを戦略と言います。こちらはどのような分野や領域であったら自社の優位性や競争力を発揮できるのかを模索し、選択します。そして選んだ領域に投資を行うのです。つまり自社の事業として何を行うのかを決めることが戦略なのです。与えられた条件の下で効率追求する“最適化”ではなく条件そのものをいかに転換してしまうかつくりだすという“革新”がこちらの発想です。 短絡的な利益を追求していると、どうしても投資は抑えたくなり、制約条件の中だけで頑張るという視野の狭い「部分最適の思考」に陥ってしまいます。たとえば品質を軽視してでもコストダウンをするという二者択一指向がその例です。そうすると次第にシェアが低下していき、やがては利益が出なくなります。 そこで戦略では、利益という短期的な結果ではなく、その結果にいたるプロセスを見ようとします。プロセスではいろいろな部門と部門が関連しあい、品質やコスト、そして納期といった同時に追求しなければならない要素が関連しあっています。それらが統合されているものがお客様満足(度)です。お客様はいろいろな競争企業同士をきびしく比較して、特定企業を選びます。その際に選択の基準となっている総合評価のことをお客様満足(度)と呼ぶのです。このお客様満足度が向上しているというのはプロセスが改善されていることを意味します。逆ならばプロセスの劣化ですから、数年先には確実に売上高、利益の低下となります。また競争企業よりもお客様満足度が高ければ、競争に勝っているわけであり、これはシェア向上の先行指標になります。逆に競争企業の満足度の方が高くなっていれば、早急に対策を講じなければなりません。 つまりお客様満足は経営そのものの競争力、市場力を評価する根本的な尺度なのです。お客様満足についてこのような考え方はアメリカのマルコム・ボルドリッジ賞の中で強調されました。ボルドリッジ賞は経営における根幹的な要素を相互関連的に自己評価する体系なのですが、この中でCS(カスタマー・サティスファクション=顧客満足度)だけが日本に持ち込まれて話題になってしまいました。ボルドリッジ賞をよく知らない人たちが持ち込んだためか、CSは現場第一線の接客や販売をする人たちの仕事であるかのように極めて狭く受けとられてしまいました。いまだにCSというと、接客要員のエチケットやマナーのように思っている人がいますが、それは根本的な間違いです。CSは企業の競争力を評価する尺度なのです。 そもそも顧客を重視する考え方は以前からマーケティングの世界にありました。マーケティングというのは製品志向、製造志向ではなく、顧客が何を求めているかという顧客志向で事業を組み立てる考え方です。もともとマーケティング部というような部門的な仕事ではなく、企画、設計、研究、技術、製造、販売、物流などの機能を横断して統合していく仕事がマーケティングだったのです。ところが次第にマーケティングは狭く解釈され、販促や広告の仕事というように部門化されていってしまいました。 それからマーケティングはもともと高度成長のころに発達した概念であり、新製品の開発を中心に全体が考えられていました。新製品導入のためのマーケティングですから、どうしても広告や販促が中心になってしまいます。けれども現在では、ほとんどの産業分野で成熟期にあり、新製品を開発するだけではなく旧製品を改善改良する方が中心的な命題となっています。あるいは製品そのものではなく、販売後のアフター・サービスやその他の支援サービスなどが命題となってまいりました。新製品開発を中心として、販促や広告を主務とするマーケティング部門ではこれらの今日的なテーマには対応できません。 こうしたわけで改めて全社的な部門の仕事を交差し統合する概念として顧客満足という考え方が必要となったのです。こういった活動を担う部門としてたとえばCS推進部やお客様サービス部などがありますが、あまり部門をつくると全社的な部門横断をしにくくしてしまう危険性もあり、専門部門の設置については賛否両論です。日本におけるCSはそういう過渡期にあるのです。 そのような背景を十分に認識していただいたほうが、さまざまな事例の意味をより深く洞察していただけると考えました。そこで類書はどちらかと言えば、直接的に顧客満足を紹介しているものが多いのですが、この本ではマーケティングの考え方からはいっていきます。それから次第にマルコム・ボルドリッジ賞や日本経営品質賞などの考え方にそったお客様満足の仕組みへと進んでいきたいと思います。 (「ビジネスマンのためのCS入門」より) ■岡本正耿(おかもとまさあき) (株)マーケティングプロモーションセンター 代表取締役 早稲田大学ビジネススクール、千葉商科大学、神戸芸術工科大学講師。 日本経営品質賞判定委員、JMAマネジメントスクール専任講師 著 書 「メインテイン」「消費者の精神分析」「長男長女の時代」 「マーケティング・プラクティス」「従業員中心戦略」 「勝利と敗北の岐路」(共訳)「人口減少のショック」(共著) 「ビジネスマンのためのCS入門~顧客満足の徹底的研究~ 「顧客満足創発のプロセス~ビジネスマンのためのCS入門 part2~」他