お客様に喜ばれる経営実現の鍵 / 2000年6月(設立記念講演) お客様に喜ばれる経営実現の鍵 大久保 寛司 氏 (人と経営研究所 代表) 皆様、こんにちは。只今ご紹介たまわりました大久保でございます。茨城県経営品質協議会設立おめでとうございます。本当に心からお慶び申し上げます。また、このような記念の場にお呼びいただいたことを、心から感謝申し上げます。 今、代表幹事の鬼澤さんの顔をずっと拝見していまして、最初お会いしたころから、いろいろ走馬灯のようにめぐるものがございました。たしか東京だったと思いますが、「大久保さん、茨城でもやりたいんです。どうしたらいいでしょうか。県全体を良くしたいんです!」というお話をいただいたことがありました。「そう難しいことではない。やればいいんですよ。」という話をしました。「やっていく上で、実は茨城には生産性本部もなければ、何もないんです。」ということだったので、「素晴らしいじゃないですか。全部自分で作れるんだ。」、そして「何が必要ですか?」と言われたときに、「必要なのは、組織でも基盤でもない。あなたのその情熱だ! その情熱がある限り、何かをなすことは必ずできる。」ということを申し上げました。私もその真摯な情熱に打たれまして、基本的には、彼の要望には無条件で受け入れると僕自身決意しました。 その時は、まさにお一人でした。県で一人でした。だけど、最初は何事も一人です。一人から全てがスタートするのです。周りがどうだこうだと、そんな他人のことを言っているようではできない。まず、自ら動く。人は知識や素晴らしい情報で人を動かすことはできません。人が動くのは何かといえば、実は情熱です。パッション(Passion)。この情熱が人を集めて、必ず大きな流れを作り出す。これは歴史を見るまでもなく、この世の一つの基本的な定理というか、一つの真理です。もちろん最初は一人だったのが、鬼澤さんの周りにたくさんの人が集まってこられて、先程壇上に上がられた幹事のみなさんを拝見していて、それを感じました。 そしてまさにこのJQA(日本経営品質賞)の流れは全国いたるところにあり、どんどん大きな流れになっていますが、さっき申し上げた、生産性本部や事務局がない、県の支援がない、もう何にもなくて設立した全国で初めてのケースなのです。これはやはり素晴らしいと思います。そして代表幹事は全国でいちばん若い。まだ30代です。ですからいちばん期待できる。 もっとも、他のところへ行くと、同じような話を別の形でやっているのかもしれないのですが・・・(笑)。やはりここは楽しくなります。一つの「気」というものが流れています。 今日は、どういう話をしようか。大体考えてもあまり出てこないので、僕はいつも直前に考えるか、話しながら考えるのですが、事前に運営委員の小松崎さんとお話ししていて、「みなさん、ほとんど去年の8月のテープをご覧になった方たちばかりです。だから同じ冗談は言わないようにしてください。」と言われて、これは困ったと。冗談のネタは4つぐらいしかなくて、それをもう使いきっているということなのです。同じ冗談が出るかもしれませんが、ここはひとつ、話し手の気持ちを盛り上げるということで、どっと笑っていただきたいとお願いして、本題に入っていきたいと思います。 <時代の激変> 先般、東北地方をぐるぐる廻っていました。タクシーの運転手さんの話というのは参考になります。下手な何とかのアナリストなんて人よりも、ましてや国の発表よりもはるかに信頼性が高いです。運転手さんと雑談していたら、面白かったです。基本料金80円時代から、タクシーの運転手をしておられるという方でした。分かりますか? 80円時代からタクシーの運転手をやっていたということは、そのころ2、3年で家が建ったという時代です。ものすごく給料が良かったのです。その人は家が建っているかというと、借金だけだったようで、建っていなかったようですが。その方が何とおっしゃっていたか。なるほどと思ったのは、「お客さん、私は中学もろくに出ていなくて、学問もない。だからよく分かりませんが、いろんな景気の上げ下げ、谷間を経験してきましたが、今回のこの景気の低迷だけは、全く違いますね。」と言ったのです。「日本は全く違う方向に進むんじゃないですか。」タクシーの運転手さんがそう言ったのです。私自身、そういう話をさせていただいていましたが、まさか運転手の方から出るとは思いませんでした。「そうですか、そうですか。それでどういうことなんですか。」ひたすら聞き続けました。大変面白かったです。 今、ある意味では、明治維新と戦後の変革が一緒くたに来たような時代です。あのころと何が違うか。大きな違いは、あのときは目に見える形で分かったのです。すなわち、目の前にある建物が燃えつきて、焦土と化してしまったのです。だから、日本全国が全然違う時代になるということが、ある意味では分かるわけです。ところが、今回の変革が非常に認識がむずかしいのは、建物がそのまま残っているのです。うっかりすると、うっかりしなくてもそうなのですが、経営においても、老骸というと失礼なのですが、上の方がそのまま残っている。国の偉い人もそのまま残っている。これで変革するというのは至難の業なのですが、それをやっていかなければいけない。明治維新も戦後も、ある意味でその前に権力の座にあった人たちというのは一掃されましたから、非常に改革がやりやすかったのです。今回は全部そのままですから、いちばん難しい。それでやれるのか。しかしやっていかなければいけないのです。 この間、まだ20代の方ですが、ベンチャーの会社を3つぐらい経営している、バリバリですごい方とお話していて、なるほどと思いました。何とおっしゃったかというと、「大久保さん、今は百年、二百年に一回のビッグチャンスの時代です。」そうおっしゃっていました。本当にそうだなと私自身も思っていましたが、実際に心底そう思いました。何かを実際にやっている人に言われると説得力があります。百年、二百年に一回のビジネスチャンスというのはどういうことかいいますと、百年、二百年に一回の大変革の時代であるということなのです。 この変革期にどういうふうに物事を考え、進めていくのか。ある経営者にお会いしましたら、「大久保さん、もう風向きが逆風できついです。」 そしてある方にお会いしたら、「うちにとって風向きがいいんですよ。」 なるほどとその瞬間、風向きは同じだと理解しました。帆のとり方をどちらに向けるかにすぎない。ある人にとっては右に吹き、ある人にとっては左に吹くなんてことはありえない。全部同じなんだ。そうすると、いわゆる経営の舵取りをどうしていくかに尽きるな、ということを痛感いたしました。 <存在し続けるための鍵> 今日も経営トップの方が多数おみえだと伺いました。経営者の多くの方は、大変悩んでおられます。私に言わせれば、何も悩む必要は全くない。軸足をどこに置いていいか、分からなくなっているのです。すごく簡単です。お客様に置けばいいのです。市場に置けばいいのです。これで全てが見えてきます。だったらなぜ悩むんだ。その軸足が定まっていない。頭でしかわかっていない。頭はお客様に軸を置きながら、実は手足がそちらに動いていないというのが、ほとんどのような気がいたします。 座標軸が変わったという話を昨年の夏にしたと思います。まさに提供する側と受ける側でたった一つです。企業とお客様という観点で何が変わったかというと、主導権が全部右側(受ける側)に移動したという何ものでもない。これに尽きるのです。今日の演題の「お客様に喜ばれる経営実現の鍵」とは何か。最初に結論を申し上げます。どうやったら喜ばれるか。喜ばれることをすることなのです。これはきわめて当たり前ですが、全く現実のこととなると、当たり前ではありません。喜ばれないことを、たくさんの企業がやっています。うっかりすると無視している。もしくは、反発を買いながらビジネスをやっている企業の何と多いことか。 そういう観点で考えますと、今はもうビジネスチャンスだらけです。もう金の露天掘り、こんな感じです。ただし金塊が大きすぎて掘り出せないという感じはありますが・・・。ほとんどの方は全部企業、提供する側に軸足を置いているのです。すなわち「どうやって売るか」です。どうやって売るかということから、たった一つです。「どうやってご満足していただけるか」という視点に移しただけで、実は知恵というのは、いくらでも出てきます。みんな、どうやって売るかばかりなのです。どうやって満足していただこうかと全員が考えたら、大変な激烈な競争の世界になります。でも99.9パーセントの企業は、どうやって売ろうかと考えているから、私に言わせれば、全ての業種、業態がチャンスだらけなのです。すごく簡単です。ちょっと軸足を変えればいいんです。 前回おじゃまさせていただいた時に、いくつかその事例を紹介したと思います。軸足を変えることによって、いくらでも企業というのは伸ばし、かつ発展することができる。まさに百年、二百年に一回の機会だ。危機の「機」、機会の「機」、crisisの「c」、chanceの「c」とこういう感じです。だから変革をチャンスとして捉えた時には、もう素晴らしい時代です。その素晴らしい時代とみるか、「えらい時代になった。これはどうするか。生きていけるか。」と考えるか、これは自由です。どちらにどう考えようと自由です。ただ一つ言えることは、えらいことになったというところからは、素晴らしいアイディアは出ないことだけは、多分確かなことだと思います。 企業組織というのは、やはり生き物であると思います。前回もダーウィンの話をさせていただきました。どう変化対応するかなのだ。マンモスは死んだけれど、ゴキブリは生き残った。「ゴキブリを見て学べ。変化対応極致の生き物だぞ。スリッパですぐ叩かないように。」ということを前回お願いしたと思いますが、まさに生命体というのは、環境変化に対応していかなければならないのです。 固定と安定があると、固定というのはその組織が崩壊していくのです。固定と安定は違うのです。これは生命体というもので考えれば、すごく分かりやすいです。細胞の新陳代謝が行われなくなったら、どうなりますか? 肉体は朽ちて滅びていきます。それと同じなのです。変化にどんどん対応していかなければいけない。すなわち、どうやってその変化対応能力をつけていくか。これが鍵なわけです。 今、時代は全く変わりつつあるというのに、全く従来と同じ会社の経営のしくみでやっている。考えられないです。これは固定です。つまるところは、変化対応ができていないのですから、その企業はなくなっていくでしょう。大事なのは、その変化の方向を読み誤ってはいけません。外はすごく寒くなっているのに、暑いと思って裸で飛び出したら、それこそ凍って死んでしまうわけです。だからといって、暑いところを毛皮を着て飛び出したってしょうがない。どういうふうに変化しているかを、正しく認識しなければいけません。 この変化の一番の基本は、もうこれに尽きるのです。お客様の視点、どうやって満足を届けるか、これに全てがかかっています。「存在し続けるには、どうしたらいいか。企業というのは、そもそも目的は何なんだ。仕事、組織は何のためにやっていますか。」目的はただ一つです。それは、「お客様や市場に対して価値を提供すること」です。価値というのは何ですか。全てのビジネスの究極は何ですか。価値というのは満足です。全部満足なのです。だから企業のミッション、存在理由というのは、満足を生み出し、提供することが仕事の目的である。極めて当たり前のことです。そして、企業の存在基盤は何でしょうか。人でしょうか。技術でしょうか。設備でしょうか。ノウハウでしょうか。もちろん、それらは大事です。でも素晴らしい設備があり、素晴らしい技術があり、素晴らしい人材が揃っていても、無人の孤島でビジネスができますか? できません。企業のいちばんの基盤は、これまた極めて単純であります。「お客様」です。これを忘れている企業が多いのです。 お客様という存在があって、企業が成り立つ。そして成り立ち続けるためには、そのお客様に対して満足を提供しつづけること。これ以外にないのです。満足を提供し続けること。単発ではだめです。間が存在できなくなります。そして大事なことは、今日来られている方は、マルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)なり、経営品質賞の審査基準を学んでおられる方が多いと思います。まさにそのような満足を提供し続けることができる、経営としての仕組み、プロセスを持っているかどうかによる、ということです。これが鍵であるわけです。 満足というのは、誰が判断するべきものでしょうか。これまた非常に明解です。お客様です。使う側です。受けた側です。提供する側が勝手に判断してはだめです。これを売っておいて、「満足したでしょう。満足していない? それはあんたがおかしいんだよ。」なんて言っている企業がいっぱいあります。無意識にそれをやっています。どうしたら、満足しているかどうか分かるでしょうか。それは聞いてみないと分からないのです。前回もちょっと申し上げましたが、聞いても分からない、というと訳が分からなくなりますが、聞かなければ分からないのですが、聞いても分からないのです。その辺については、また別の機会にゆっくりお話します。存在しつづけるための鍵はただ一つ、喜んでいただけることです。 企業内において、組織と人に対していろんな評価基準をお持ちでしょう。これは面白いです。某有名超一流会社の指導依頼をいただいて出向いた時のことです。そこの企業は、巷では、お客様の満足を追及するということで、もちろん社是、社訓もそうなっていますし、それをやっているであろうということで有名な企業でした。どういう観点で組織と人が評価されているか、一つずつ評価基準をみていきました。全てどうやって売ったか、だけです。プロダクトアウトです。100パーセント、プロダクトアウトでした。見事なものでした。どういう観点で皆さんは評価されているか、どういう観点で部下、組織を評価しているか、リストアップしてもらいました。全てどう売ったか、どれだけ売ったかだけです。「お客様の視点は何もありませんね。社是、社訓は嘘ですね。」とこういうことです。 例えば、ある化粧品会社があります。その化粧品会社は、いろんな百貨店にお店があるのですが、どこに行っても、ものすごく売れている。そこで百貨店のCS部長さんがそこに聞きにいったのです。「おたく、なぜ売れるのですか?」これ、すごくいい質問です。なぜ売れるのですかと聞いたら、「売らないからでしょうね。」と言ったのです。禅問答みたいですが、お店の人に対しての指示というか、評価基準はただ一つだそうです。化粧品だから店員さんが売りますが、いくら売ったかではないのです。いくつ売ったかでもないのです。「何度同じお客様に来ていただけるか」、これだけだそうです。これを管理基準にしているのです。 これは全然変わってきます。もう一度来てもらうことを考えなければ、強引にでも押し込んで、似合いもしない色でも「似合いますよ。」と言って売ったら、いくらでも売れます。そして次来ますか。つけて歩いたら、周りの人に「似合っていないわよ。」と馬鹿にされて、これでもうおしまいです。もう一度来ていただけるようにするとなったら、全く思考形態が変わってしまうのです。やることが変わるのです。そういうふうにやっている企業がどれぐらいあるでしょうか。もう一度来ていただける。それも、もう一度来ていただいて買うのではないのです。もう一度来ていただけるかどうかの、来店率を基準にしていますということなのです。そして、そこはものすごい業績を今も上げ続けています。ずっと二桁成長です。なるほどな、と思いました。 すごく簡単です。もう一度来ていただけるかどうかを追求するといったら、ただ一つ。「どうやったら、喜んでいただけるか?」店員さんは、それしか考えなくなります。結果として、業績がものすごく上がっている。これは全く分かりやすい話です。ですからこれも、まさに存在しつづけるための鍵は何かといったら、「どうやってお客様に喜んでいただくか。」これに尽きるのです。 <お客様・市場の理解> そのためには、お客様を理解しなければいけない。お客様、市場の変化、要望、期待というのを理解しなければいけません。お客様や市場の変化、要望、期待をアンテナをはってつかみ取れというシンボルを、ちょっとつたない絵ですが書きました。それをどこまで本当にできているか。すなわち、アンテナがありますか、ということです。どのくらいお客様の要望、期待をつかんでおられますか。そして、ここで一つ申し上げたいのは、99パーセントの企業と人は分かっているつもりなんです。 この間も、アドバイスをさせていただいている、超大手のトップの管理者を数十人集めての1.5日のアイディアセッションというのをやりました。法人相手だったものですから、「みなさんは、お客様の要望というのはどうですか?」と言うと、「私どもは四六時中行っています。しょっちゅう聞いています。もうお客様の要望やクレームは、全部理解しています。」「わかりました。では、リストアップしてみてください。」リストアップしてもらいました。私は、事前に裏で全部情報を集めておきました。「どんなことがこの会社に対してご不満で、どんなことをやってほしいですか。」その方たちは、一流と言われている人たちです。そしてしょっちゅうお客様に会って、しょっちゅうお話をしています。ダーッと書きました。私はさりげなく、こちら側に書きました。「実はこれは私が調べてきた内容です。」どれひとつ一致していません。何ひとつ一致していなかったのです。見事でした。彼らはぐうの音も出なかったです。よろしいですか。みんな分かっているつもりなのです。 大体、ほとんど聞かないです。聞いているというと、せいぜいクレームを言っているのを聞かされているだけです。これは「聞く」ではなくて「聞かされる」です。自らお客様のことを理解するために、お客様の要望やご不満を聞くために、どれだけ時間をかけていますか。いちばんいいのは、何か知っていますか? 例えば法人相手でも、雑談ではだめなのです。 具体的に申し上げれば、こういうふうにしたらいいのです。「今日は一切売り込みしません。お客様の要望や普段のご不満について、ひたすら伺うために来ました。」もっと理想を言えば、事前に手紙を出しておいて、「時間をとって、今回こういう形でおじゃまさせていただきます。忌憚のないご意見をください。」と言ったら、経営トップあるいは経営者は、いろんな人に声を集めさせておいて、フィードバックしてくれます。実際にこれをやっている企業があります。全く情報の質が違ってきます。だから、普段話し合っていながら、意外と理解できていないのだということです。これに気がつかないとだめなのです。 マーケット、お客様の声というのは、いろんな形で入ってきます。これをどう統合するかということなのです。つまりどういうことかといいますと、直接相談センターもあれば、営業マンが聞くこともあれば、経営トップツートップで聞くこともあれば、巷の噂でうちの奥さんが聞いてきたと、お客様のいろんな情報が入ってきます。さて、これを統合して、いわゆるインテグレーションした形で物事を判断しているか。体、生命体として考えると、手足で感知したいろいろな情報が脳に伝わっていますか?ということです。お客様や現場の困っていることや不満が経営トップに伝わっていますか? 99パーセントの企業は伝わっていません。「いや、伝わっています。」多分、違って伝わっています。すなわち、神経系統が何かおかしなつながりになっているということです。これがすごく多いのです。 ですから経営組織体として、本当にお客様、市場を理解しているかどうか。これは非常に厳しいです。そして、いろんな要望や期待が集まって、冒頭に申し上げた、軸をお客様に置くことです。この軸というのは、判断基準です。ですから何かアイディアを出したり、もめたり、討議したり、いろんなことで何か分からなくなったときに、たった一つのセリフで判断すればいいのです。「お客様にとって、どれがいちばんご満足いただけるのか。」この言葉を出していますか? ほとんど多くは、「どれが一番売れるか」です。全部プロダクトアウトでしょう。1から10までみんなプロダクトアウトでやっているのです。ちょっとお客様の視点で考えたら、まさにお客様に喜ばれる経営そのものが、無限に発展していく道でもあります。これはそんなに難しいことではないんです。 <手段と目的> 「手段と目的」というのが次に書いてありますが、お客様と企業というのは全く違います。何が違うかというと、お客様が購入されるのは全て手段であって、目的ではないのです。だから全ての商品のサービスを購入されるのは、その購入した後に、何かの満足を得たいというために購入されます。そして、そこに焦点をあてている企業が、本当にお客様の立場に立って経営しているのです。 前回も雛人形の話をしました。今まで売ることばかり考えていたのが、お客様は買うのが目的ではない。雛人形を飾って喜びたいのだ。だったら、どうするか。0120でいつでも相談にお応えします。病院も用意しました、怪我もお治ししましょう。お預かりします。埋葬させていただきます。いろんなサービスをさせていただきます。すなわち、購入された後に、サービスメニューをたくさん出していっているでしょう。多くの企業は、売った瞬間、ひどいケースは契約した途端逃げる。こういうのがあります。電話がかかってくると、営業マンが居留守を使う。こういうのは、全然だめです。 どれだけお客様の立場に立っているかというのは、実は売った後に、購入された後に、契約された後に、どれだけいろいろな仕組みが充実しているかというのが、一つのポイントです。多くの企業は売るまで、契約するまでに、徹底的に時間、仕組み、情熱を費やします。売った後は「ほっとけ。どうせ売れないだろう。」「どうせ売れないから、次の所へ行け。」という発想です。 <立場の理解> 前にお話ししたかもしれません。私事ですが、ばかだなと思いますが、9万円弱のステレオを3セット買いまして、各部屋にセットしました。保証期間は12ヶ月でしたが、全部が13ヶ月目に壊れました。見事でした。CD部分がおかしくなって、11ヶ月ぐらいでカタカタと変な音がしていたのです。でもちゃんと鳴るから、まあいいやと思っていたら、見事13ヶ月目でみんな動かなくなりました。あたかも、そういうふうに作ってあるのではないかというぐらいでした。メーカーは名誉のために申し上げませんが、結構一流ブランドでした。それでCS担当にお話したら、「じゃあ、換えましょう。」と言っていただけるかなと、淡い期待を抱いたのですが、「あ、だめです。13ヶ月ですね。うちは12ヶ月保証です。」「あ、そうですね、はい。」9万円弱のもので、1台1万4千円ずつとられて修理しました。 その時に学びました。11ヶ月ぐらいからおかしかったのです。ということは、保証期間12ヶ月の商品やサービスを提供している人は、こうしたらいい。10ヶ月か、11ヶ月頃、「その後いかがでしょうか。順調でしょうか。ご不便ございませんか?」と手紙やハガキ1本出せないか。こういうふうに言うと、「大久保さん、なんで寝た子を起こすのですか。余計な経費がかかるじゃないですか。」 ほら、みんな提供側の論理。全然お客様の立場に立っていないでしょう。ちょっとした話題でも、全部売る側の立場。どこまでいってもそれに尽きるのです。分かっていない。11ヶ月目に、ご不便はございませんか?この話を聞かれて、福井キャノンの玉木さんはすぐに実践されました。「その後いかがでしょうか。ご不便ございませんでしょうか。」返信用のハガキをつけたアンケートシートです。 これはどうなると思いますか。よしんば何かあったら直す。でも、そこでリレーションシップが構築されていくのです。それ以上に何もなかったとしたら、どうなりますか? もっと素晴らしい信頼というバリュー、価値を得ることができるのです。多くの企業は、信頼というものをどんどん削っていきながらビジネスしていると思いませんか? そして社是社訓では、お客様第一主義と書いてある。これは無理です。 ですから本当にお客様の視点に立ったら、いくらでもやれることがあります。お客様の立場、すなわち、その下に書いてある「立場の理解」。 前回申し上げたように、立っている場所というのは希望を表します。電車に乗る前と乗った後、「乗る前はどんどん奥につめろ。」ところが乗った瞬間どう思うか。「なんでいつまで押しているんだ、電車が発車しないだろう」となります。大体、ドアとドアの間、電車の真中というのは空いているのです。ギューッとつめます。その時、「なんでもっとつめないんだ。」これは乗る前です。乗った後ずっと押していると、「発車しないだろうが、もうあきらめろよ。」と、乗った瞬間、気持ちが変わります。電車に乗っているか、乗っていないかの差。そのうち立っている場所によって希望がころっと変わるのです。お客様の立場と企業の立場というのも大事ですが、立っている場所というのは希望が変わってしまうのです。 マネージメントでもいえます。上司の立場と部下の立場。経営者の立場と社員の立場。全部違います。ですから、立場というのは希望を表わすわけです。「ここはひとつ俺の立場を分かって、大人の対応をしてくれよ。」と無茶苦茶ファジーな話なのですが、これは何を言っているか。平たく解釈すれば、「俺の願望を理解して、そのようにやってくれ。」と言っているだけです。ところがビジネスの世界で「俺の願望をかなえてくれ」と言えませんから、「ここはひとつ俺の立場を理解して、大人の対応をしてくれ。」要は俺の願望をかなえて、お前の願望は捨ててくれと言っているわけです。でも、そうは言えませんから、そういうセリフになります。すなわち立場というのは、そういう要望、期待を表している。だから「お客様の立場に立って仕事をしなさい。」というのはどういうことかというと、「お客様の希望、要望を十分理解した上で、仕事をしていきなさい。」ということです。ほとんどそのように解釈されていませんが、そういうことになります。 本当は、この見出しだけで1、2時間ずつやりたいのです。でもそれは許されていませんので・・・。本当はこれ1つずつで、毎月おじゃまできたらいいのです。いや、だからといって、毎月来ると言っているわけではないのですが・・・。私事ですが、来年3月まですでにスケジュールがうまっています。パンパン状態です。ですからちょっと不可能ですが・・・。 <人材の育成> 今日の表題に戻りますが、「お客様に喜ばれる経営実現の鍵」は、今言ったように軸足をお客様に移すと同時に、やはり人なのです。やはり人が全てです。私は、「ヒト・カネ・情報」というのは、正しいと思っていません。同列に置くべきではないし、人を資源としてみるのは賛成ではありません。人は人だ。資源じゃない。道具じゃない。道具と見るところからは、本当の人材育成はないのではないかと思います。 すなわち例えば機械だったら、1生み出すものを5つ買えば、5生み出すことはできます。1力のある人を5人集めたら5になるかというと、なりません。3になったり、2になったり、1になったり、マイナスになったり、プラス10になったりします。なぜか。人だからです。ですから人というのは、やはり同列で置くべきではない。一言だけ結論から申し上げますと、人材育成の鍵というのは何か。トップ、もしくは上司が部下に対して、どれだけその人を大切に思っているか、大切にしているか。多分これが鍵だろうと思います。すなわち基本的な人に対する考え方です。 私が日本IBMを退社して、「人と経営研究所」という名前を付けたのは、人は人それぞれ、自らを経営していかなければいけないだろう。それと同時に、所詮経営というのは人に行き着くだろう。自分の考えとして、そのように行き着いたのです。ですから、人と経営のあるべき姿というのを追求し、いろいろと世に問うてみたい。そういうことでそのような名称を作りました。 大切にするということは、別に相手を甘やかすということではありません。相手の人間性を重んじることであって、簡単に申し上げれば、人として見るということだろうと思います。そしてやはり、人に対しては価値を生み出す仕事をしていただきたい。つまらない仕事をさせてはいけない。同時に人材育成で忘れてはいけないことは、人は人を育てることはできません。よく「俺はあいつを育てた。」ということを言う人がいます。自惚れです。人は自ら伸びる以外にありません。植物の種を蒔き、育てるあの状況と全く同じです。伸ばすなんていうことはできません。もし伸ばしたらどうなりますか? つぶします。花のつぼみがやっとできたと思って、早く咲けと花びらを強引に開く人がいます。どうなりますか? つぼみは咲く前に散ってしまいます。そして散ったところで何と言うか。「お前はちっとも咲かないな。」これはたとえ話だと分かりやすいのですが、自分がやっていると見えません。 何ができるのか。ただ一つです。伸びるための環境条件を作っていくこと以外にありません。すなわち、タイミングよく肥料を、水を、日光を与える。環境条件を作ること。もしくは何か困っているときに、ちょっとしたヒントを与える。「彼がすごく育つために、1つぐらいヒントを与えられたんだよね。」これは正しいかもしれません。しかし「俺はあいつを育てた。」というのは、自惚れです。よくそう言う方がいらっしゃいます。私からみると、お笑いです。人は人を育てることなんかできません。 私も7人の子供を持って、これはまさに家内が育てているかもしれない。もしくは、まさに育つ環境を作っているのだろうと思います。育てるということの難しさ、それと同時に喜び。去年だけで子育て講演会を夫婦で40回ぐらいやっています。日本の教育と家庭のことを考えると、私としてはここに力を入れざるを得ないのです。これは全く奉仕活動になります。多分、今年ももっとやっていくことになるだろうと思っています。先程、司会の方にご紹介いただきましたが、妻の『育て育てられの記』(明日香出版)、もしくは私の『ビジネスマンがもう一度「父親」も戻るための91のヒント』(明日香出版)、これは子育ての本ですが、子育てと人材育成は全く同じです。人を育てるということにおいて、コツ、見方、考え方は全く同じです。ですからそういう意味では、あの本は人材育成の書と置き換えていただいても、間違いはないと思います。下手に普通の企業における人材育成というような本を読むより、はるかに何かヒントを得ることができるかもしれません。 <コミュニケーション> 前も申し上げたように、講演というのはもうあまりやりたくなくなっているのです。なぜかというと、目からウロコが落ちましたといっても、大体、後日確認をすると、落ちたウロコがついていますから、成果につながらないのです。私は儲けるためにやっているのではなくて、お役に立ちたい、素晴らしくなっていただきたい、そちらが目的なのです。そちらの方につながらないのだとすると、これは自分の命の無駄遣いだという感じを持ちました。 実はいくつかの企業と契約させていただきまして、毎月1回おじゃまする。いろんな所に行って、ものすごくよく分かったのは、どこの組織でもいかにコミュニケーションが悪いかということです。 経営者の方、今からビックリすることを申し上げます。売上げを3割、簡単に上げることができます。コミュニケーションを良くすることです。これはもう、実績をたくさん持ちました。実は売上げが倍になった所もあるのですが、倍だと言うとあまりにも眉唾すぎるので、倍になったというのは言わないようにして・・・。だけど言っていますね。言っていますが、最近3割は固いと思っています。5割なんかぞろぞろいます。すなわち社員、上下左右のコミュニケーションを良くするということが、ものすごく経営を活性化し、お客様に満足を届けられるような経営を実現していくことになるのです。ところが多くの人は、コミュニケーションを良くして、売上げを上げようなんて考えていません。どうやって売上げ促進のプログラムを作るんだ、どうやって説得するんだ、どうやってやるんだ、こればかりです。みんなプロダクトアウトです。ちょっと待ってください。ちょっと社内のコミュニケーションを良くしてみてください。上がります。本当に上がります。 いろんな経営者の方にお会いして、なるほどなと思ったのは、経営者の方とお会いして話すのと、担当レベル、一般社員の方と話すのと、無茶苦茶なギャップです。要は、「うちの社員は、問題意識はないし、本当にやる気がない。」ところが社員の方に伺ってみると、問題意識はあり、改善案は持っている。何のことはない。トップが全部押さえつけているだけです。グーッと押さえながら、「何も芽が出ない」と言っています。だから私がおじゃまして「この手をちょっとはずしてみてください。」と言うと、2種類あります。ハッとして手をはずす人と、はずしたくないという人とあるのです。ここがなかなか難しいのです。はずしたくないという場合は、「どうぞお好きに。」と言うことにしています。これはもう個人の自由ですから、制限することはできません。 今、コミュニケーション診断シートというのを作りまして、いろいろな所でやっています。ギャップの大きさといったら・・・。ある企業で、経営者層に対して15項目質問させてもらいました。できているか、できていないか、5段階評価。要は仕事の意義、目的をちゃんと説明しているとか、大事なことは何回も繰り返し伝えているとか、威張らないようにしているとか、いろんな項目がありました。すると、経営者層の平均点が4.3だったのです。次長、課長、リーダークラスは、経営者がそれをできているかを評価してもらいました。見事でした。次長クラスで3.3、課長クラスで3.1、リーダークラスで2.1です。すごいギャップ。いちばん大きなギャップが出たのが、さっきの例で申し上げたところなのです。仕事の意義、目的を明確に説明している。経営者5。リーダークラス1。このギャップは何ですか。 すごいです。 一部上場の大手で、どなたでもご存知の企業のCS経営会議で、「CSの大前提はESだ。まず社員の満足です。どういうことで困り、どういうことで悩み、どう理解されているかを、今回調査させていただきました。それを今からフィードバックします」と役員一人ずつに見せました。「はい、ご感想を」とやりました。いろいろアドバイスさせてもらいましたが、それでは終わらないです。「みなさんは、これから社員とのコミュニケーションを良くするために、社員の満足を上げるために、何をしたいと思いますか?」一人一人に言ってもらいました。言ってもらったときに、普通はほうっておきますが、私はほうっておかないのです。必ずやっていただくのです。どういう格好でやらせるか。オープンがいいのです。どうしたか。事務局の人に全部インプットしてもらいます。社長にも、コミットメント、決意表明してもらいました。「みなさん、ありがとうございました。では、これをウェブ・インターネットで全社員に公開いたします。」こういうことでやりました。これは本当のコミュニケーションです。 社員の中でも、大きな組織でも、いろいろアンケートをやっています。その後、人事や広報が忘れたころに円グラフを出して、ちょっとしたコメントをつけて・・・。そんなスピード感覚では話になりません。第一、熱意が伝わってこないでしょう。どういう格好にしたか。社長自ら、反省の弁を述べていただきました。「よってもって、私はこれをする。以下、各役員は下記のように決意した。」と決意項目を全部オープンです。これをやらないといけません。それだけではないのです。来月おじゃまして、どこまでやりましたかと私がチェックする予定になっています。これをやっていかないとだめなのです。結局みんな何がダメかというと、やらない、継続しないからだめなのです。それだけの話なのです。ここのところがポイントです。 この間、コミュニケーションを良くするというのを、こういうふうに勘違いしている人がいらっしゃいました。「俺はしょっちゅう部下と飲んでいる。」と言うのです。ノミ(飲み)ニケーションとコミュニケーションは違うのです。飲んでいるからといって、本当に本音を全部言っているかというと、飲みながらも部下というのは微妙にコントロールしているものなのです。自分が部下のとき、そうだったでしょう。ついうっかり本音を言ったらどうなりますか? 左遷されたでしょう。それをお忘れですか、ということなのです。この間もそれをお話したら、その経営者の方はノミ(飲み)ニケーションオンリーで、これがコミュニケーションだと思っていらっしゃったのです。社員の3割は飲まないのですから、その方たちとは全くコミュニケーションゼロです。ですから、ノミニケーションとコミュニケーションは違います。このコミュニケーション談義も1、2時間やると面白いのです。 本当にコミュニケーションを良くしていくと、会社の中が変わります。本当に変わるのです。ですから是非、今日来られている方で経営者の方、経営者でなくても1つの部門を預かっていられる方、「部門の中でどうやってコミュニケーションを良くするか。」これを徹底的に考えて、そこに焦点をあわせて努力するだけで、どうやって売上げを上げようと考えるよりも、はるかに上がるのですから、嘘か本当かお試しください。もしうまくいっても、私は一切リターンを求めません。そのかわりうまくいかなくても、何の責任もとりませんので・・・。責任はとりようがないですから、これは無理です。 <「8つの基準」の価値> やっと今日の本題に入ります。その「8つの基準の価値」ということです。これは時間の関係で、こっちの本『経営の質を高める8つの基準』(かんき出版)をもう一度読んでいただくしかないかなという気がします。 今朝、上野から来ましたが、上野の売店で「これとこれ、ください。」恥ずかしながら、まだ自分の身についていないのですが、買ったときでも、笑顔で相手の目を見て「ありがとうございます。」と言うように努力しているのです。私が「ありがとうございます。」と言ったら、店員の方は横向いていました。それから、袋から1つ落ちたので拾い上げて袋に入れようと思ったら、「それ、お店のです。」と言ってムッとされました。「あんた盗んでいくのか?」という雰囲気です。その時に思いました。きっとこの人は、この表情が自分で分かっていないのだ。もし分かっていたらきっと出来ないはずだと思いました。 誰しも、不愉快な顔をしようとしてやっている方は少ないと思うのです。中には例外でいらっしゃるかもしれない。しかし、普通は不愉快な表情をして、不愉快なことを周りにまきちらしている人でも、客観的に自分が見えていないだけです。例えば、どなたでもご経験されていると思いますが、自分の声というのをテープレコーダーで最初に聞かれた時、衝撃を受けませんでしたか? 「これは俺の声じゃない。俺はもっといい。」違いますか? みんなそうです。私も愕然としました。いちばん愕然としたのは、ビデオ。そのビデオも、後ろから撮ったのを見た時に「エッ? 俺はこんなみっともない格好で歩いているのか? これは外を歩けないぞ。」でも歩かなければいけないと諦めました。すなわち、全く自分が見えていないということです。人も企業も全く見えていないのです。企業も何をやっているのか見えない。 8つの基準というのは、もうちょっと説明したかったのですが・・・。要は、8つというのは、まずお客様を明確にして、そして商品、サービス、合致するものを作っていくそのプロセスがあり、必要な情報があり、それに従事する人があり、もともとリーダーが、船で言えば、あっちの方へ行くぞと指示する。などいろんな要素がある。経営の要素というのは、いろいろあります。それをある意味では、8つに整理したのです。だから何を申し上げたいかと言うと、従来は経営の本といったときに、マネージメントシステムやリーダーシップだけだとか、CSだけだとか、プロセスの改善、人材の育成とか、特化したものはいっぱいあります。それ全部のつながりを、生命体として捉えたものというのはないのです。だから、この8つの基準が優れているというのは、このつながり具合が見事なのです。 8つの基準を使うというのはどういうことかというと、自分を、企業体組織を鏡に映すようなものなのです。それをお客様の視点で、より高い価値を生み出すように、経営の仕組みができているだろうか。ある意味では、レントゲンでパシャッと自分の体を撮るような感じになるのです。ひとつ申し上げておくと、忘れてはならないことは、道具、ツールであるということなのです。手段と目的を間違えないでいただきたい。使うのは手段であって、目的ではない。ところが、それを使うことが目的になってしまうケースがあります。道具というのは、使い方を間違えると自分を切ってしまいます。火でも、包丁でもそうです。そういうものがあって上手に使うことによって、美味しい料理ができるかもしれない。もし間違ったら、自分の身を切ってしまい、怪我します。道具というのは、そういうものなのです。かつ切れる道具ほど、そうなります。ですからあくまでも道具なのです。使い方なのです。 8つの基準は機械みたいなものです。どうぞお使いください。僕もよく知りませんが、例えばレントゲンの機械をイメージしてもいいと思います。写す技術というものがあります。それから写した後で、どうその状況を分析し判断するかという、分析、判断能力というのが必要になります。だから道具の使い方と同時に、使った後で、どういうふうにそれをうまく活用できるか、ということがポイントになるわけです。ここのところは、また後でQ&Aのところでご質問いただければ、深掘りしてお話しさせていただきたいと思います。 この中で、アセッサーコースに出られている方もたくさんいらっしゃると思います。資格のある人に一つだけ申し上げたいのは、言ってみればレントゲンの機械を扱える資格をある程度取りました、という話です。レントゲンを撮った後が大事なのですが、アセッサーというのは、写す技術はまだないです。やっと何とかスイッチを入れられる程度だと思います。結果分析、判断能力で大事なのは、体全体の骨格やバランス、つながり具合を見ていくことであって、毛細血管にこだわることではないということです。これを忘れてしまうのです。 昨日も審査基準研究会でさんざん申し上げたのは、「ともかく形を学んで、形を越えてください。8つの基準を詳細に学んだ上で、その8つの基準を捨てて、越えてください。その時に、本当に正しい診断ができます。」ということなのです。お茶の世界でも、茶杓だ、ふくさだ、順番がどうで、確か3回半だったか、いや2回か、あっちかこっちかというのを左脳でやりながらやっても、全然美しくないでしょう。でもまずはマスターしなければいけない。しかしマスターした後は、この次にあれをこれをというのを全部捨ててスムーズにやったときに、美しい世界が出てきます。初心者がやっているとぎこちない。でも本当に名人と言われている人は、流れるように美を感じます。あれです。あそこまでいくためには、やはり形を学んで形を捨てなければいけない。 いちばん大事なのは、全体のつながり具合。お客さんからの意見があった。これはちゃんとプロセスに反映しているのか。人の育成に反映しているのか。リーダーシップの欠如があったから、そっちに反映させるのか。このつながり具合を常に見ていくことです。さっき申し上げたように、現場とお客様の声がちゃんと脳に伝わっているのか。全然伝わっていない。それこそ「ノー(脳)」です。全然面白くないですけれども・・・。脳に現場の情報がちゃんと伝わっていますか。企業はほとんど伝わっていないでしょう。伝わっていないどころか、何か変わって伝わっていってしまう。神経系統が麻痺しているのではなくて、意図的に違う情報を伝える仕組みになっているとか、こういうのがいっぱいあります。それで経営ができますか。これは無理です。 <社内アセスメントのすすめ> 「社内アセスメントのすすめ」ということですが、要は、これは自分で使うものなのです。教えてもらうものではありません。いちばん大事なのは、自らの「気付き」です。教えられても人はやらないですから、やはり自ら気付くことが大事です。「気付き」が全てです。何に気付くかは、気付く側の能力いかんの何ものでもないです。前回申し上げましたように、私の話が素晴らしいと思える方は、聞いた方が素晴らしいのです。ですから、素晴らしくないと思う方は、言いにくいのですが、やはり聞き手なのです。聞き手が素晴らしければ、すなわち、読み手が素晴らしければ、どれだけでも、何かのエッセンスをつかむことができるし、そのセンサーがちょっと錆びていると、うまくいかないということです。 社内アセスメントをやるとどんな価値があるか。これについては大変恐縮ですが、多分読まれた方が多いと思いますが、この『経営の質を高める8つの基準』の201ページに書いてありますので、説明は割愛させていただきます。 実践、継続を実現する鍵は何か。これはQ&Aの後でやらせていただきます。 のんびりやっていたので・・・。あとは質疑応答ということで。これでは質問が出ないかもしれませんが、どんな質問でも結構です。JQAに関しても、今まで学んできたことでも、どんなことでも結構ですから、ご質問いただければと思います。とりあえず休憩させていただきたいと思います。ありがとうございました。 (休憩) (質問票を)数十枚いただきました。これはちょっと答えられないというか、たまらないというか、感動に震えているわけです。ちょっと、時間内にどこまでお答えできるかわかりません。本当は、ツーウェイですっとやりたかったのです。その方が臨場感がありますので・・・。ボルドリッジの発表会や、経営品質賞報告会もそうです。直接会場の方に立っていただいて質問を受ける方が、読み上げるより、それこそコミュニケーションになるのです。ですが、それをやっていると全然だめなので、ちょっと申し訳ないのですが、一方的に読み上げます。分からないのは「分かりません」と答えますし、こうやったらどうだというのも含めて、次々にお答えしていきたいと思います。 コミュニケーションに力を入れたせいか、コミュニケーションについて、随分ご質問いただきました。 質問:トップや幹部を含め、人材が伸びていくための環境の具体策。(大久保:これはコミュニケーションじゃないな。) 質問:当社においても、コミュニケーションがよくないという言葉が出るのですが、(大久保:もっとも、うちはコミュニケーションがいいなんていうところはないです。) 具体例を何か1つでもお願いします。 質問:コミュニケーションにはいろいろな方法があると思いますが、これだけはやってはいけないこととか、これだけは絶対やるべきというようなことがあったら、教えてください。 その他コミュニケーションで随分いただいたので、ちょっとご紹介します。 まず先に、「トップや幹部を含め、人材が伸びていくための環境の具体策」ということですが、やはり伸びるということは、さっきお話しした植物の話に近いのです。人の伸びていく環境の1つは、やはり失敗を認めることです。「自主性、創造性を発揮しろ」と言って、「一切失敗するな」というのは不可能なのです。簡単に言うと、減点主義というのは人を伸ばさない仕組みです。官の仕組みをみてください。あれは人の能力をつんでいく仕組みでしょう。簡単に申し上げれば、あれの逆をやればいいということです。「稟議制度というのは何かというと、結局最初のアイディアをつぶしていく仕組みだ」と言った人もいます。だから、減点主義から失敗を認める加点主義にもっていくということ。それから植物もそうですが、暗い所では育たないのです。だから、明るいということも大事ではないかと思います。それ以外にもたくさんありますが、とりあえずこの1つ2つだけご紹介しておきます。 「コミュニケーションをどうやったらいいか。もう少し具体的に教えてくれ」ということですが、これはたった1つであります。マネージメントの方は、徹底的に聴くことです。これに限る。ほとんどしゃべっています。もう、信じられないくらいしゃべっています。ちょっと今からチェックしてみましょうか。会議で、もしくは部下と一対一でしゃべるときに、自分の方が多くしゃべってしまっているか、部下の言うことをよく聞いているか。半分以上聞いているか、半分以上しゃべっているか、ちょっと挙手をお願いします。半分以上聞いているという方、ちょっと挙手をお願いします。 半分以上しゃべっちゃっているなという方。 こんなものです。ですから、ほとんどしゃべっているのです。しゃべっている間は、育てていることにならないし、コミュニケーションではないのです。それは伝達なのです。コミュニケーションというのは双方向で行われる。 一方的にしゃべり出すと、相手はどうなるかというと「ああ、また始まった。」ただし、顔はうなずいています。聞いています。聞いているふりをしながら、別のことを考えています。ただひとつ、「早く終わらないかな」と思いながら聞くという経験は、どなたもお持ちでしょう。ですから、大事なことは聞くことなのです。クリアーに言えることは、「あなたがしゃべっている間は、相手から情報は入りません。」ということなのです。もちろん、身振り手振りの情報は入ります。しかし、言葉での情報というのは入らないということです。ですから、それでコミュニケーションというものはできない。 コミュニケーションが下手ということで、言った、言わないということがよくあります。これは言った方は言って、聞いていない方は聞いていないのです。これはよくあるのです。どういうことかというと、上の空で聞くということがあります。それから、聞いていてもよく分からない。このとき大事なのは何か。伝える側にとって、コミュニケーションをするというのはどういうことかというと、一所懸命言っているときに、言っている相手に対して「あ、こいつ別のことを考えているな。」とか、分かっていないことを見抜く。そして、「ちょっと待て。俺の言ったことを言ってみろ。」「今、何て言った? 分かっていないだろう。」こういうふうに言いながら確認して、ちゃんと進めていくことなのです。ところが、多くはコミュニケーションと称しながら、分かる、分からないに関係なく一方的に伝えるだけ。それで「言った。」最後は「分かったか。」 分からないと言うと、また最初からやられてしまうから、相手は分かったと言うに決まっているのです。全然話にならないでしょう。そして翌日になったら、言ったとおりにやらない。「お前、昨日分かったと言ったじゃないか。」分かったわけではないのです。「分かった。」と言っただけなのです。 男性の方が多いですが、家に帰って、奥さんいろいろぐちゃぐちゃ言われると、何と言いますか? 「分かった、分かった。」と言うでしょう。あれは何にも分かっていないのです。「うるさい、黙れ。」と言っているだけ。しかしそういうことを言うと、夫婦の仲がおかしくなってしまうので、ここはひとつ分かったで通そうということで、「分かった、分かった。」でも本心は何ですか? 「もう言うな。」でしょう。それを自分で家で味わいながら、どうして逆の立場で、会社で同じ事をやるのですか? これは認識力が低いのです。これはだめです。 ですから、相手の反応と状況を見ながら伝達していかなければいけない。実は、これだけでやれば4時間でも5時間でも話ができるのです。本当はやりたいのです。コミュニケーションはものすごく大事なのです。だから、言っていることが本当に伝わっているかどうかを、さっきギャップ分析しましたでしょう。ほとんど確認しないのです。上は確認していると言っても、下の方は確認されていない。コミュニケーションギャップです。 それから「言った、言わない」でいちばん多いのは、すごく簡単で当たり前の話ですが、人は興味があること以外、頭に入らないのです。だから、この本に書いてあるように社長が、「徹底する。いいか、3つだけ覚えておけ。」と言っても、後日社長の3つの話を覚えているかというと、3つという数しか、覚えていない。中身は誰も覚えていない。覚えていたのは何かというと、どうでもいい最後の冗談だけは全員が覚えていた。これは本当の話です。そんなものなのです。なぜか? 経営トップの思いと、部下の思いとは違うからです。経営トップが大事だと言っても、部下にとって大事でなかったら、誰も聞かないのです。でも、聞いたふりをします。もしくは、聞いたつもりになります。でも、聞いていないのです。 要は、いろんなことでコミュニケーションの重要さというのを理解しながら、いちばん簡単なのは、相手の立場に立って、相手の心情を理解しながらしゃべることです。一生懸命大事なことをしゃべったとしても、相手が別に不安や心配事があったら、聞けますか? 聞けないでしょう。だからそういう意味では、本当にコミュニケーションできるというのは、相手の立場に立って、相手がどんな心情で自分の話を聞いているか。状況や相手の立場での認識ができれば、本当のコミュニケーションができるということです。 前にもお話したかもしれませんが、結婚式で挨拶が下手だと心配する必要はありません。結婚式の挨拶などは、基本的に周り人は誰も聞いていないし、期待もしていない。大事なことは、短く簡潔にやるということなのです。いちばん最悪は乾杯の音頭で長い人。これは大体、偉い人がやります。「それではみなさん、持ちましたでしょうか。」長々とやる。たまりません。周りは止めろという合図を送るのですが、それが理解できない。何か。自分の言いたいことを言うだけ。分かりますか? これは肩書きがあっても、人間として熟していない。未熟と言うと言い過ぎですが、まあそういうことなのです。人としてのレベルが低いのです。ただし、左脳の一部が優れていたから、たまたま肩書きが上がったというだけです。そんなものです。 本当に理解するということは、相手を理解する能力、本当はそこからコミュニケーションというものが始まるということです。だから、コミュニケーションを良くするというのは、実はどういうふうにやっていかなくてはいけないか。自分自身の人間力を高めていかなければいけない。人になる。人と経営だ、という話です。 次にいきます。たくさんあるのです。 質問:CS、ESといわれていますが、全くその通りだと思います。ただ、弊社のトップは次のように言います。「お客様が満足しているのを見て、初めて自分が満足する。そういう社員であってほしい。」つまり、ESはCSではないという固い考えで、ES調査をすべきだと提言しても、全く受け入れてもらえません。「そんなことに金をかけてどうするんだ? 社員の不満ばかり出してきて、どうするんだ。ばか者!」という論理です。大久保さんなら、こういうトップにどのようにESの大切さを伝えますか? 簡単です。15分あったら説得できます。「あなたは売上げを上げたいですか?」ここから入ります。そして「30パーセントぐらい上げたいと思いませんか?」と言います。「ここはひとつ、騙されたと思ってやってみてください。」ということです。 あともう1つは、経営トップが裸にならないとだめです。それから、社員の生の声を聞きたくない人は、本当は社長をやってはいけないのです。だから、私は大会社、中小含めていろんな所で平然と言いました。「あなた、社長を辞めるべきです。それが会社にとっての、最大の貢献です。」とよく言ってきました。心底そう思うからです。 この間も、ある会社で「うちは赤字で何ともならん。十何人の会社なのだけれど・・・。」といろいろ話していくと、その社長はたいした事をやっていないのです。それで「給料は誰が一番高いですか? あなたじゃないですか。」 「そうだ。」 「あなたが辞めたら、ひょっとしてあなたの会社、黒字になりませんか?」 「なる。」と言うのです。「ということは、黒字にするのはすごく簡単です。あなたが辞めることです。」と言ったら、「あんた、よく言うね」と言うので、「いや、黒字にする方法を教えてくれと言ったから、私は言っただけです。」 「よく言うね。しかし、まあ、正しいな。」 「辞めますかと言っても、辞めないでしょう。」 「辞めない。」 「だから赤字のままなのですよ。」こういう話です。 やり方はいっぱいあるのです。基本的に会社を良くしたいのだったら、経営トップというのは、社員のことを真面目に聞くという度量がなかったらだめです。所詮経営なんていうのは、経営者の、もしくは各部門の部門長の、人間の器以上にはならないのですから・・・。当然のことでしょう。それを社員の声を聞きたくないなんて…。「ああ、そうですか。あなた、自分の会社をつぶしたいのですね。どうぞお好きなように。」という話です。 ただし、どのセリフを使うかは、相手の反応を見ながら決めていきます。人を説得するというのは、ワンパターンではないのです。例えば人を育てるというのもそうですが、徹底的に誉めなさいとよく言いますが、すっと誉めたらいい気になる奴もいる。だからといって、「俺は叱って叱ってやってきて、ちゃんと成果を上げている。」 実はそれはほんの一部で、もうまわりで10人ぐらい倒れているというのもあります。それでも一人を見て、「俺はここまで成功した。」これは大間違い。何か。相手によって、状況によって全部違う。でしょう。公の場で責めていいか? 公の場で責めたら、さらに力を入れて頑張るタイプだったらそうしたらいい。まさに相手の性格を見抜かなければいけないのです。 人と場所と時によって、アドバイスの仕方というのは実は全く変わるのです。多くの方はワンパターン。教科書もワンパターンで、こうすべきです、ああすべきです。例えば組織でも、コントロールスパンというのは何人ぐらいである。全く愚かなことです。なぜか。マネージメントと部下の方のクオリティによって、全然違うじゃないですか。バカとバカだったら、1人だってコントロールできないです。それを10人が理想だ。極めて愚か。机上の論。だから大学の先生は、経営をやったら何もできないわけです。机上の論だからです。そしてできなかったら何と言うか。「あんたらがおかしい。」と現実を責めます。全然話になりません。もしも両方クオリティが高かったら、10人でも100人でも1人でマネージメントができるかもしれません。すなわち、ワンパターンじゃないのです。全て物事というのは、状況に応じて、ケースバイケースで、どんな人でどんな環境かで変わってくるのです。だから、そういうのを認識する力がないとだめなのです。 人を育てるのだってそうです。ここはひとつ、叱った方が良いというときには、叱らなければいけないのです。でも基本的には、8対2か9対1の割合で誉めておいた方が、人は伸びます。これは社長でもそうです。社長というのは、あまり誉められないのです。部下で面と向かって誉める人はいません。私は誉めてきました。「北城さん、あなたは社長として立派です。しかし大変ですね。社長は奴隷みたいなものですね。社長なんて、なるものではありませんね。」そう言ったら、相手も「本当にそうだよ、大久保さん。」というような、信じられないような会話をよくやってきました。誉められたら、嬉しそうにします。だからといって、私が誉めても、ごますりで誉めたのではないのです。立派だなと思うから誉めたのです。そして誉めた後で「ところで、」と言うと、「今日の本題は何ですか?」と向こうも分かっています。1つ誉めて、3つぐらいアドバイスというか、叱咤激励をさせてもらってきました。 経営トップでも、やはり誉められたいでのす。誉められたいという言葉でいえば、人というのは生まれた時から変わりませんね。60才になっても、70才になっても、80才になっても、認められたいのです。誉められたいのです。違いますか?「俺を無視した!」要するに認められたいだけです。串焼きで有名な社長さんの本を読んで、なるほど、面白いなと思ったのは、ともかく男性のお客さんは全て、「社長!」と呼ぶことにしたそうです。結構お客様から反発があった。そして女性は何と呼んだか。60才、70才の人でも全部「お嬢さん」と呼んだ。これは全然反発がなかったそうです。どういうことかというと、いくつになっても変わらないということです。女性と男性の本質も変わらないだろうし、いろんな肩書きがつこうが、経験を積もうが、人も変わらないです。違いますか? だったらそこの本質を理解していったとき、どんな局面でどう対応していったらいいかが分かっていきます。 ということは、結論から申し上げれば、実は一朝一夕で自由に対応できるようにはなりません。私はいろんな所にアドバイザー契約として行くのですが、私の対応というのは、全く手ぶらでぶらぶらっと行くだけです。そして話を聞きながら、相手の考えを引き出しながら、その場で判断していく。事前のシナリオというのは、常にゼロです。何もありません。でも、信じられない奇跡的なコミュニケーションと、改善提案というのが出てきます。やはりそれは、社員みんなには能力がある、それに蓋をしているのを取ればよいということです。 簡単に申し上げれば、私が本音のコミュニケーションをしていただく、いちばんのセリフは何か。「建前はやめて、本音でやりましょう。」と言うだけです。それだけです。それでやっているときに、建前の人がいると「建前ですね。やめましょうよ。」と明るく言います。この間、ある大手の会社の役員会でアドバイスしたときは、「初めて役員会で本音で討議された」と言われました。「ともかく、今日、みなさんは経営を良くしたい、会社を良くしたいという人たちだと思います。そうでない人は、是非この会社を辞めてください。」全く私にそのようなことを言う資格はないのですが・・・。「もし、良くしたいのだったら、本音で思っていることを言い合いましょう。」 ただし日本人というのは、意見が違うと、人間性をなじるところまでいってしまうのです。だから、討議の場で言い合ってこそ、初めて新しいアイディアが出るのだけれども、言い合って意見が違うとどうなるか。扉を出て行った後で、「大体、あいつはけしからん。許せないんだよな。」と相手の人間性をなじる。論理と人間性とは違うのですが、一体化してしまう特徴がある。これからは、経営を行っていくうえではこの発想はだめです。分離、独立しなければいけません。 だから私はそこで冒頭申し上げたのです。「今日もみなさん本音でやってもらいます。どんどん討議してもらいましょう。反対意見が出てこないようだったら、会議とはいえません。どんどん反対意見を言ってください。ただし、この部屋から一歩出たら、絶対に相手のことをグダグダ言わないでください。会社をどうしてもつぶしたいという人は、どんどん言ってください。ただし会社を辞めてください。」こういうオープニングでやったら、何十年で初めての本音の会議がなされたと言っていました。これはすごかったです。 鍵はたった一つ。私がただ「本音でやりましょう。」と言っただけです。会社を良くしたいですね。素晴らしい仕事をみんなにしていただきたいでしょう。そこのベクトルはみんな変わらないでしょう。それを確認して進めていっただけなのです。 次です。 質問:「お客様に喜ばれる経営」という場合、お客様には2通りあると思います。クレームの多い方とファンへの対応。このポイントを教えてください。 これは書いている人の気持ちが良く分かりますね。クレームの多い方とファン。完全に二極分化して、クレームの多い方については、どういう回答がくるかと楽しみにしている雰囲気があります。 クレームが多いということで、これはクレームをどちらかと言えば、否定的にとっていると思うのです。もちろん、いわゆるクレーマーというのが存在することは事実です。これはこれで、ひとつのきちんとした対応をとるべきです。ただし、クレームにもいろんな種類があります。大事なことは、現実はクレームから多くの学びがあり、素晴らしい商品やサービスがたくさん出ているというのが事実なのです。ただし、クレーマーは別です。あれはクレームを言うことに喜びを感じている人たちです。それに乗る必要はないです。 何を申し上げたいかというと、いろいろ種類がありますが、クレームはまずは聞くということ。そして、「またクレームだ。」とはねつけるのではなく、まず聞いた上で、やはり違うなと思えば、のしをつけてお返しするかどうかはともかくとして、まずは聞くという姿勢が大事です。 そして、理不尽なことを言っているが、よく考えたら本当に理不尽なんだろうか? うちに問題はないんだろうか? このときいちばん大事な判断基準は何かというと、素直な心で見るということなのです。「素」もとの心です。素直な真っ直ぐな、もとの心でみていく。そうすると何が正しくて、何が間違っているかというのは、そんなにずれません。ですから、素直な心でみるということで対応されたらいいと思います。 それからファンに対しての対応。こう申し上げたい。「いつまでもファンである保証はありません。安心はしないでください。」 より満足を届けるためにどうしたらいいかをやはり工夫し続けていただきたい。 クレームの多い人とファンの人と両方集めて、一緒になって商品開発、サービス開発したら、素晴らしいものができる可能性があります。 今日はナレッジ・マネージメントの話はしませんでしたが、企業がいちばん活用すべきは、もちろん社内のナレッジ。もうひとつ大事なポイントというのは、お客様の知恵を活用することでしょう。そこに無限の宝物があるわけで、そのお客様の知恵を活用するという観点に立つと、クレームの方もファンの方に対しても、やはり姿勢が違ってくるのではないかなという感じがします。 質問:トップとボトムのギャップを埋めるための手法について、もう少しコメントください。ちなみに私は中間管理者で、トップ、ボトムの間でいろんな意味でギャップが生じているのに気付いているつもりです。 これはなかなか繊細な方です。「気付いています」ではなくて、「気付いているつもりでいます」という。多分多くの方は、ほとんど気付いているのです。 どうやったらギャップを認識させることができるか。さっきの例がそうなのです。ギャップがあるということは、実際に調査してもらうとすぐ出てきます。それを口で言ってもだめです。 それからもう1つ。質問していただいた方が、トップに向かって、「○○さん、あなたと部下の間にはギャップがあるのです。全然だめです。」と言ったら、「そうか。明日から来なくていい。」と言われる可能性がありますから、いちばんいいのは、第三者をからませることなのです。やはり第三者をうまく使うことです。第三者に頼るのではない。コンサルタントを期待してはいけません。こっちがシナリオを作って、第三者、コンサルタントにこっちが言わせるぐらいの知恵がないとだめです。コンサルタントが何かいいアイディアを持ってきて、それをやったら儲かる。だったら、そんな人はコンサルタントをやっていません。自分でやります。絶対当たるという予想屋さんがいます。「じゃあ、あんた買っているのか?」と言ったら、誰も買ってなんかいません。そうでしょう。それと変わらないじゃないですか。ですから大事なのは自分の判断であり、自分の知恵であります。そっちに重点を置いたほうがいいです。 あともう1つは、アンケート調査もそうですが、直接コミュニケーションをさせるのが一番いい。直接話す。ただしこのときに、上の方に度量や勇気がないとだめです。もしそういう場をセットできたとしたら、経営トップに対して、こういうふうに言ってください。「申し訳ないですが、今日はひたすら黙って、聞きつづけてください。」 ほとんど禅寺に入った修行だと思ってくださいというぐらいの感じです。これは経営トップの方には難しいのです。多くは、1つ言うと10ぐらい言い返します。実は言い返しても、何の解決にもならないのです。大事なのは、さっき申し上げたように聴くことです。 上の方に度量がない場合は、コミュニケーションができるか? 結論から言うと、もうだめでしょう。その前に会社を変えることを自ら考えるとか、そういうダイナミックな発想がこれからは必要になるかもしれません。 自分で爆弾を抱えて当たる方法もあります。そうしたら意外と、飛び散って1つの宝が出てくるかもしれない。そのときに大事なのは、今日の鬼澤さんではないですが、やはり情熱と私利私欲を捨てた思い、「志」が鍵でしょう。自分をよくしたい、よく見せたい、評価されたいというのでやっても、人は動かないでしょう。やはりひとつの高い志を持ってやるということで、多分初めてできるのだろうと思います。 私自身はいろいろな企業に行って、トップと現場の社員との間での第三者になりまして、コミュニケーションの場を作って、そこに参加させてもらったりしています。トップがカッとなって言いそうになると、第三者だと「はい、我慢して!」と言えますから、第三者がいるとすごく楽です。これが会社の人が言えるか?「一応、私が取り仕切ります。はい、我慢して。」と言うと「うるさい!」と言われてしまいます。これは難しいです。 直接コミュニケーションする。アンケートみたいな形でやる。もしくは第三者を入れる。こういったふうに考えるといいかもしれません。 質問:末端の作業者(全然お客様との接触、接点のない人)が、自ら作業の中で価値を見出すためにはどうすればよいか。お話の中で、それは上司が与えるものだとありました。お客様ではなくて、どの部分を対象にすればよいのでしょうか。 結論から言うと、一番良いのは直接に近い形をとる。もしくは、直接なのです。だから例えば、否定的でも肯定的でも、お客様から何か反応や意見があったら、現場の作業員に伝えていますか? ほとんどの企業は伝えていないです。それからもう1つは、現場で作業している人に一番良いのは、作っている商品そのものを使っているところを見ていただくことなのです。これはある企業でやっています。年に1回、現場作業員が日本全国を手分けしてまわって、実際にお客様を訪問して、使っているところのご意見を伺いに行く。素晴らしいです。そういったところに、時間とお金をかけてほしいと思います。普通はそんなことをやるより、売り込まなければと思うでしょう。これが急がば回れなのです。現場の作業員の方たちが、「ここでお客様はこういうふうに使っているのか。」というのが分かったら、物への作り方の情熱や思いが変わってくるのです。それをただ、「お前らは言われたとおりに作れ。」 私に言わせれば、これは人としての扱いではないのです。やはり人なのです。ですから、その人たちも自分の価値を高めたいし、価値ある仕事をしたいと思っているでしょう。そして自分たちの生み出したものが、どこまで価値を生み出しているかどうか、やはり直接見ていただくのが一番良いのです。 この前も面白かったです。ある企業に行って、営業側と作る側といろいろ討議してもらいました。作る側の取締役が、「私たちは、なかなかお客様の声を聞くことができないのです。どうしたらいいでしょう?」と真剣に言うのです。「そんな悩まないでください。聞きに行ったらどうですか?」 すごく単純です。要は聞きに行きたくないのです。「聞きに行ったらどうですか?」 「いや、それはやはり・・・。」 次の言葉が出ないです。本当は「やりたくない」と言いたかったのでしょう。でも、そうは言えませんから・・・。だからすごく簡単で、直接現場を見たり、お客様を見たり、これが一番良いです。そういう場を定期的に作る。そして実際に現場に行ったならば、その評価と声を出してもらって、さらに良くするにはどうしたらいいか。これが自主性、創造性を育むことでしょう。こういうふうにやっていったらいいです。 この前も面白かったのは、新潟に全国でも有名なお煎餅の会社があります。あそこが何をやったかが新聞に出ていました。ともかく、経営幹部全員が売り場に立て。メーカーでありながら、全員売り場に立て。新社長が出した方針です。そうすると立ってみて、物を作っている責任者や現場のマネージメントが初めて分かったそうです。何が分かったと思います? 袋の中にお煎餅がいっぱい入っていますでしょう。大きな煎餅が割れている。そうすると、営業がクレームするのです。「割れない煎餅を作れ。割れていると商品として売れないぞ。」 すると、作る人は何と言うか。「別に割れていようと、味は変わりません。どっちも同じでしょう。」 実際に売り場に立ちました。割れているものは売れない。全く発想が変わった。直接現場に立って、ほんのちょっとやっただけで、もうそれが腹の底に落ちるのです。これを営業がいっぱい言っても、どういうふうに製造側が思うか。「お前らは言ったとおりに、ちっとも売らないじゃないか。お前らのおかげで、すぐ不良在庫ができて、この嘘つき集団め!」なんて作る側は思っているわけです。 だからどうしたらいいか。作る人が自ら現場に出て行って、見て、直接お客様と対話していたら、100の説法より、情報を見せるより早いです。すなわち、直接体感していただくのが一番良い。それをやっておられましたでしょうか? 物作り? あんたらは作ればいいんだ。ひたすら生産性を上げて、コストを下げて作ればいい。それは人に対しての認識が違います。そういう感じがします。ですから、今私が申し上げたようなことをやったら、どうなると思いますか? 必ず逆に、はるかに生産性は上がります。クオリティも上がります。やはり気持ちが入ってきますから・・・。 まだ5分の1も紹介していないという、恐ろしい状況です。 質問:自らの気付きを経営幹部に報告するときに、従業員の立場からすると難しいと思います。(大久保:確かに難しいでしょうね。)セミナーに参加して気付きを得たものと違いの差。(大久保:すなわち経営者は出ていないが、私は出たけどどうしようか。こういう話です。)これをどう埋めるべきか。全員参加の社外研修は難しいです。 すごく簡単です。今日のこの話を聞かせたいのならビデオを撮っておりますので、そのビデオを見ていただければいいです。それでも嫌だと言ったら、こうしてください。「私も一緒に見るから、冒頭の15分だけでもいいから見てくれ。」冒頭の15分を見て、つまらないと切るようだったら、これはもうしょうがないとその方は諦めてください。感性の問題ですから。これは面白いなという感性がなかったら、所詮最後まで見てもだめかもしれない。最初から「1時間見てくれ。」と言うと反発を食らうでしょう。「冒頭15分だけでいいから見てください。私も一緒に見ます。」これをやってみてください。 ちなみに私のビデオは数十種類あります。生産性本部でも相当売っています。売れても全部奉仕でやっていますから、私に身入りはないのですが・・・。そういうビデオをうまく活用する。つまりこれも第三者の力を借りるということです。これをされたらいいんじゃないかと思います。 質問:市場、お客様の理解度を測るためのアンテナは、経営者と社員は同じ尺度から見ると、コスト管理側とのギャップは必ず出てくると思います。中小企業経営者へのアドバイスをお願いします。 コスト管理とお客様の思い。コスト管理というのは、当たり前なのです。人が無尽蔵、予算も無尽蔵。それでCS。そんなのは経営じゃないのです。どうやって効果的に、効率的に、物事を進め、使っていくかという観点で、その中でもさらにお客様の満足を上げていくかということです。 前回来たときに、ヤマト運輸の話をしましたでしょう。「翌朝10時までに届けます。」 「そんなことをやったら、そこに人とトラックが集中して、この会社は赤字になる。とんでもない!」 しかし現実には10時までにお届けするということで、一回でお客様に届く率がはるかに高まって、CSが高まって、そして経費が削減できました。こういう例をご紹介しました。巷には、そういういろいろな例があります。お客様の満足を高めていきながら、さらにコストを下げる。実はこここそが、知恵の使い方というか、出し方、ポイントなのです。だから、「CSというとコストアップだ。それは経営者としては問題があるから、なかなか難しい。」この発想は違うということです。 そしてもう1つは、日々の活動の中で、コスト削減は当然やっていかなければいけないのです。当たり前なのです。それを無理難題だとか言ってはいけません。しかしそういう中で、「常にお客様の視点でさらに満足していただけるために、日々の活動で何かできないか?」こういう思いで日々仕事をするのと、「これはコストがこれだからもうだめだ。」と思うのでは、結果が違ってしまうのです。だから日々の活動の中で、常にお客様の立場を十分に意識しながら、だからと言って全部それに応えられるというわけではありませんが、そういう観点で仕事を進めていくということがいいと思います。 質問:当社は中間流通業です。より安い単価を求められる立場で、低下分をメーカーにシフトする方法が従来の一般的なやり方ですが、これを社内で吸収しようとすると、人の削減に直結し、ESと相反してしまいます。(大久保:難しいところですね。)CSとESを同時に成り立たせる方法はないのでしょうか? また、違う意味でのCS、ESはあるのでしょうか? 経営は遊びではないということです。それで厳しく申し上げれば、組織の中において価値を生まない人は、いてはいけないのです。所詮組織というのは、全部が価値を生む集団にはならない。2割ぐらいはいいのです。でも、3割も4割も価値を生まない人がいてはいけない。そして、価値を生んでいない人をそのまま雇うことを、真のESだとは私は思っていません。何でそう言うかというと、その人が価値ある人生を生きていないからです。だから、価値を生み出すような仕事を与える、仕事の場を与える、環境条件を作っていくということが大事と思います。 削減しても売上げも何も変わらないで、削減した分だけ利益が上乗せされましたといったら、これはどういうことか。結局は、所詮価値を生んでいなかったということです。本来削減するというのはどういうことかというと、それで会社ががたがたになり、売上げが下がるというのが正しいのです。それがなぜ人員削減しても、売上げがそのままかといったら、実はその人たちだけではないかもしれませんが、その人たちが価値を生んでいなかったからです。 例えば、コンサルティング会社だったら、1人1億稼ぐ、10億稼ぐというコンサルタントがいっぱいいます。それなりのレベルになると、年収1億なんて人も随分いるわけです。それを人員削減だと言った途端、ストーンとそのまま売上げが下がる。そうでしょう。そういう意味では、価値を生み出すことをしていないということです。だからその人たちに対して、そのままの状態でESというので満足を高める、雇ってあげる、給料も従来どおり払うのは、正しいことだとは思いません。 これからは、価値を生まない人が1つの企業、組織体に残れる時代ではなくなったのです。これは私がよく申し上げているように、今まで日本は社会主義だったのです。これからは自由主義です。社会主義は、価値を生まない人と組織がたくさん存在できました。しかし、自由主義市場ではそれはもう無理なのです。価値を生まない企業は消滅していく。価値を生まない人も、簡単に言えば、ただ良い会社に入ったというだけで、何もやっていなくても高給を取っている人はどんどん下がります。当然です。そういうふうになっていくのです。 もちろん、一長一短あります。価値を生まない人も同じようにやろうじゃないかというのも、1つの考えです。でも、時代は違う方向に明確に動いている。すなわち、実力、成果主義にどんどん近づいていきますから、やはり価値を生まない人をそのまま置いておくことではなくして、いかに生むように変換するか。経営側や管理者がそういうふうに仕向けるか。環境条件、場を作っていくかということが大事だと思います。 組織にはいろいろありまして、価値を生まないだけならいいですが、生んでいる人の邪魔をする人がいますから、いわばマイナスの価値というやつです。例えば物事を進めるときに、分かったと火をつければすぐに燃えるタイプと、いつまでたっても燃えないタイプがあるのですが、実は燃えているのを消して歩く人もいるわけです。実はこれを信念を持ってやっている人がいます。「あれやっちゃいけないんだよ。」と使命感に基づいてやる。もう無茶苦茶です。これは自分が見えていないのですが。これが間違った使命感、すなわち、時代の変化の流れを読み違えてしまっている。しかし、情熱と行動力はある。最悪です。ただしそういう方が変化されると、いちばん説得力があるのです。 かくいう私も、今でこそ経営品質賞だ、なんだかんだやっていますが、日本IBMにいたきに、マルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)の審査基準を使って社内のアセスメントをやることになったときに体を張っていちばん反対したのが私だったのですから・・・。「社長、そんなことをやってはいけません。会社が悪くなります。わたしは絶対やらせません!」と体を張りましたが、結局張り倒されて通されてしまいました。そしてやってみたら、「なんだ、そんなに勉強になるのか。」というところから、だんだん変化していったのです。 というのは、いろんな何とか賞というのにチャレンジしそうになったことがあったのです。簡単に言うと、社内で厚化粧大会をやりまして、何とか賞にチャレンジするというのは仮装大会みたいなものかという感じを持っていました。遠くから見るとえらい美人だというので、よくそばで見たら、「なんだ男か」と、これが社内で表彰されるわけです。だから、化粧の技術を競ってもしょうがないじゃないか。こういう思いがあって、それと同じ事をやると、私は最初勘違いしてしまいました。それで体を張って反対したのです。 しかし、全世界に米国の業務命令で来てしまって、どうしようもなくなってやったのですが、人生分からないですね。それが何のことはない。日本全国に広める旗振り役の1人になろうとは、誰も思っていなかったです。そして今や、信念の人と言われています。「これは間違いない。無料です。使ってください!」 面白い質問があります。これは短時間では答えにくいですね。 質問:大久保さんは会社をなぜ辞めたのですか? これは語ると長いので、この後に懇親の場があるそうですから、場合によってはその場でお話します。 1年前まで辞めるつもりは全くなかったのです。それから、「随分プレミアムが出たろう。」いいえ、早期退職のプログラムは今ないので、何のプレミアムも出ません。何にもない時に辞めてしまいました。簡単に言うと、時期がそうなったのかなとつい思ってしまった。そして思ってから3日間で結論を出してしまったという、極めていい加減というか・・・。 簡単に言いますと、今、会長になった北城さんという人が社長の時に、ずっと一緒になって会社の変革をしてきました。会長になったというのは、昇進です。アジア・パシフィックの総責任者、もうちょっとしたら、そのまま米国本社のシニアバイスプレジデントになるパスですから、そこに一緒になってサラリーマンとしてついて行けば、こんないいことはない。北城さんからは「一緒にAPに来てくれ。」とも言われました。いろいろ言われたのですが、「時の節目だな。北城さんが代わられたのだったら、辞めるか。」と極めて軽い(?)決断です。 それと勿論、社外でいろんな所から「アドバイスに来てくれないか。」というのが、正直申し上げて、ものすごい数ありました。でも実際、辞めて来てくれないかと言われていても、実際に辞めたら「本当に辞めちゃったの?」というのが世間でよく言われる話です。ですから本当に大丈夫かな?と思いましたら、実は歩止りが150パーセントとか、200パーセントという感じです。ですから今、いろんな所からアドバイスしてくださいとご依頼いただいていますが、全部お断りしています。やはりアドバイスの質を下げたくないものですから・・・。 会社を辞めたのは、北城さんと一緒になってやってきて、その彼が代わられたから。だから、彼も別の会があったのを抜け出して、わざわざ歓送会に来て下さいました。非常に嬉しかったです。「明確に一時代を作ってくれた。」という、素晴らしいスピーチをいただきました。 人というのは、何かそういうタイミングというのがあるのではないか、と思っています。ですから、ひとつの時が来たのかなという感じです。 次の質問、面白いですね。 質問:忙しさは、会社の時代と比較していかがなものでしょうか? 会社の時代の方が、まだ余裕があった感じがしています。1年先まではいきませんでしたが、それでも、サラリーマンの時も半年先ぐらいまではスケジュールがほとんど詰まっていました。今、1年先ぐらいまで詰まるようになってきました。しかしある意味では、忙しくはありません。この間も申し上げたように、忙しいというのと、スケジュールが詰まっているというのは、全く別です。だから忙しくはないですが、スケジュールはちょっと過密になっています。サラリーマンの時代も、週に4、5回ぐらい外で講演をすることがありました。それは本業ではありませんから、事務所に戻ったり、家に戻ったり、夜中までメール処理する。事務所に出たってメール処理ですから、何も変わりません。今だと、鞄の中にモバイルを入れておいてそれでやっている。だから事務所はどこですか?といったら、すごくかっこいい表現をしています。「サイバー空間です。」とか言っています。 私の名刺には、住所と電話番号は書いてありません。あるのはEメールアドレスだけです。サラリーマンをやっているときも、電話での受け答えはやっていなかったです。9割5分、席にいませんから、不可能なのです。メールだったら、絶対に見れるのです。だからこういう手段ができたからこそ、自分みたいな形でのワークができるのかな。だからSOHOでもないです。Small Office Home Officeでもない。動く電車の中であり、飛行機の中であり、それが事務所そのものです。だからサイバー空間であれ、自分の頭脳が事務所そのものだという感じです。ただ、あまり名刺は評判がよくなくて、住所と電話番号が書いてない方って、どういう方が多いかご存知ですか? 国会議員と、総務部門が対応される方なのです。そういう方が大体名前だけなのだそうです。だから「これ、雰囲気よくないぞ。」と随分言われてしまいました。それも古めかしく、縦書き、太い字でビシッとやったら、「ほとんど○○組と同じだぞ。」と言われてしまいました。ちょっと、横書きにしようかなと思っています。ちょっと話がそれましたが・・・。 これは随分と出てきていますね。 質問:より良いコミュニケーションの進め方。 質問:コミュニケーション診断シートのよい点をもう1つ。 これも申し上げました。 もし何なら、鬼澤さんに、1部だけ診断シートをプレゼントいたします。無料です。相当の知恵の結晶です。その質問項目だけで、5回ぐらい改訂しています。これをそのままお使いいただいて結構ですから、うまく使ってみてください。本当はその1つずつに、15分や20分解説を入れたいのですが、それは今日できませんので、鬼澤さんに後でメールで転送しておきますので、欲しい方は彼にメールで依頼する。メールの方が簡単ですから、直接電話で依頼するなんていうのは、やめた方がいいです。この時代にまだメールを使わない、使えないという人がいます。私からすると、電話とFAXは嫌だと言っているのと同じです。使わない手はないです。電話やFAXと同じですから、是非使うようにして下さい。別にコンピューターメーカーにいたから、そういうことを言っているわけではありません。 質問:サラリーマン経営者が、経営品質に取り組む重要性に目覚める有効な方法。いわばきっかけといえるものを示してほしい。 はい。経営品質に取り組む素晴らしい一番のきっかけは、毎年2月にやる、日本経営品質賞の報告会に出ていただくのが、いちばん早いです。会場はものすごい熱気です。これは、参加した人みなさんそうおっしゃいます。その報告会ができる前というのは、あるレベルの人は全員に100万円単位でお金がかかりますが、米国のマルコム・ボルドリッジ賞の報告会に出てもらったわけです。いちばん本当になってやるというのは、やはり熱が伝わらないとだめなのです。情報が伝わってもやらないのです。 この勉強から何が成果で出てくるか。今推測できたと思います。経営品質にいちばん目覚める方法は、そういう報告会に出ていただく。それから、例えばリコーの田村さんや、千葉夷隅ゴルフクラブの加藤さんなど、説得力のある人の話を聞いていただく。あの人たちのビデオも、私のビデオもあります。さっき申し上げたように、そういうものを見ていただく。 いちばんすごいのは、この審査基準書を見てすごいと言っていただけたら、これまたすごいのです。ただ100人の内、99人はおっしゃいません。「これは何なんだ? 日本国の憲法に近いくらい、よくわからないぞ。」というのがほとんどでしょうから、そういう場合には、宣伝になって大変恐縮ですが、この本(『経営の質を高める8つの基準』)を見ていただく。これは分かりやすく書いてあります。これは全部読む必要はありません。「経営トップはパート1の20ページで結構です。」と書いてあります。20ページ読んでパート2まで読まない人は、ちょっと寂しいですが…。パート1だけでいいというのは建前ですから、最低パート2まで読んでほしい。 それから、何人かにご質問いただきました。「大久保さん、今年は改訂版出ないのでしょうか?」 出ません。書く余裕がないということです。もしくは、審査基準書が99年版と2000年版とほとんど変わっていないのです。来年大幅に改訂する可能性があるので、それと、この中のアセスメントの方法より、カテゴリーの解説が4年ぐらい前に書いたので、もっとたくさん入れ込みたいのです。ですからそういう意味で、来年に大改訂版を出したいと思っておりますので、改訂版が出ないからまだ買わないという方、今日買っていってください。これしか今年は出ません。ただ、基本的なねらい目は変わりません。 ある方がこうおっしゃってくださって、嬉しかったです。「この本を何度も読んで、もう手垢で汚れてこの中が黒くなっています。」感動です。本なんていうのは1回読むか、読む前に捨てられることが多いわけです。そこまで読んでいただいている。きっと成果が出てくるでしょう…。 今のは、結構厳しいチェックだったのですが・・・。まあ、ちょっとやめます。成果が出ないと意味がないのです。勉強だけでは意味がないということです。 質問:目先の業務に追われ、CSの考えを継続することをつい忘れることが多いです。(大久保:そんなものでしょう。)システムが出来上がっていないことにつきますが、何か継続するための策はありますか? 策はない。策があるなら、その策を買ってくればいいかというと、そういうものではないです。CSというのは考え方であり、思いであり、やはり熱なのです。だからその思いを持ち続けるというのは、いちばん大事です。それから、「目先の業務に追われ」当然追われます。日々の業務に追われます。だからこそ、このアセスメントということで、今自分のやっていることを経営の視点全部から見てみるというのは、ものすごく価値があるのです。ですからここで申し上げたいのは、策はありませんが、大事だと思っている人が、大事だと大事だと100回でも、200回でも、1000回でも訴え続けるということが大事ではないかと思います。 長い質問もいっぱいありますね。 質問: 顧客満足を重視するために価格競争が激しくなり、生産側の原価が追従していけなくなる可能性があります。このような場合のCSをどう解決、あるいは考えていけばよいのでしょうか? はい。簡単と言うと失礼なのですが、この間もあるところでご質問いただきました。「価格競争の中で、価格破壊で大変です。この中でどうやって経営して、CSだというのでしょうか。」はい、簡単です。まず、価格競争で価格破壊というのは、メーカー側の論理であって、消費者、受け手の論理ではないのです。価格破壊というのは、プロダクトアウトの言葉です。お客様からみたら、単に安くなったというだけの話です。さっき話したように、お客様を層別していかなければいけない。その中で徹底的に安い価格のみがいいとなったら、安い価格で提供できても、利益が出るプロセス、仕組みを作っていく以外にないのです。ごちゃごちゃ言ったってだめなのです。もしくは、価格競争を超えた付加価値を提供できるか。この二者択一です。 「お客さんはともかく値引き要求で大変なのです。その中で私たちは赤字になって倒れてしまいます。」 どうしますか? 値引かれないものを提供するか、値引かれても利益が出るような仕組みを作る。これ以外にないじゃないですか。それは悩むことではない。考えることなのです。 悩んでいる人は、考えていないのです。ご存知ですか? 大脳生理学では、悩むことと考えることは並行処理できないといわれています。ですから、考えている人は悩まないし、悩んでいる人は考えていないのです。会社の中で悩んでいる人というのは、何も考えていないで、仕事しないで給料をもらっている方です。大変ハッピーな方かもしれませんが、そういうのはよくないです。 やはり仕組みを作っていく以外にないのです。それと同時に、お客様を選択して、より高い付加価値を理解していただくようにする。もしくは、理解していただける方にお売りする。お客様が企業を選択する時代ですが、企業もお客様を選択する時代なのです。価格だといったら、価格でやるしかない。 質問:私の会社は、家電製品の製造ですが、(大久保:今日、家電製品の製造といったら、何となく雰囲気的に分かりますね。)お客様との間には、本社、営業、特約店、販売店があります。したがってお客様の声、ニーズを聞くのは、製造の立場から大変難しいと思いますが・・・。 これはさっき答えました。簡単です。作っている人が使っている人の所へ行けばいいのです。全然難しいことはありません。これを言っても、10の内9社はやらないです。「いいことだ、目からウロコだ。」と言います。さっき申し上げたでしょう。ウロコはすぐつくのです。ひどい人になると、会場を出たときにもうウロコがついています。これはしゃべった方としては、大変情けない思いです。何のためにウロコを剥がしたのだろうか。 リコーの田村さんは、「大久保さん、僕は違うと思うな。ウロコというのは、100枚ぐらいあるんですよ。」と言っていましたが・・・。 質問:IT革命、インターネットの普及で、ビジネスそのもの、また組織そのものが急速に変わっていくことを認識しています。(大久保:そのとおりです。全く変わってしまうのです。)お客様との関係も、お客様中心に大きく加速するのではないかと考えています。(大久保:そのとおりです。)こうした新しい技術と組織の変化について、大久保さんのご意見をお聞かせください。 そのとおりです、という話です。これでおしまいということで、次に行きます。まだいっぱいあるもので、すみません。 質問:研究開発部門として、特に留意すべき点やアドバイスはありますか? 研究開発部門は、自分で象牙の塔に入らないでください。それから、常識と従来の教科書を逸脱してください。研究開発部門も、どんどん現場に出ていってください。お互いに知恵を共有化するように、コミュニケーションを良くしてください。いくらでもあります。 質問:お客様に喜ばれる経営を実現していくために、まず的確に要求、要望を把握していかなければいけないと思いますが、(大久保:そのとおりです。)その答えの1つとして、経営陣自らがお客様に直接聞いて歩くことが大切であると、前回おっしゃっていました。(大久保:よく覚えていただきました。)また、IBM時代にそのスキルアップのための研修をしたとおっしゃっていましたが、その例を1つ、2つ教えてください。 さっき言ったコミュニケーションです。言いながら、話を聞きながら、相手が建前か本音か、もっと本質の思いはどこにあるんだというのを把握するようなスキルアップをしていかないと、やはり聞いても分からないです。お客様も建前で言うかもしれませんし・・・。「今日は是非、お聞かせください。」「いやいや、おたくの営業はよくやっていただいていますよ。」なんて言って、実は現場レベルでは殴り合っているというのは、よくある話です。経営トップ同士でやると、そうなってしまいます。ただ、ここに書いてあるように、経営トップ自らが、定期的にいろいろなお客様を訪問する、現場を訪問する。これは是非やっていただきたいです。工場長、研究開発部門の長だって、やっていただきたい。全部がお客様の接点にいくべきなのです。これは大事なメッセージです。 まだたくさんありますが、もう時間がありません。とにかく長くやると絶対満足度は下がるのです。ですから、本当は早めに終わりたかったのですが・・・。 ここだけをちょっとやって終えたいと思います。 今日のこの会も勉強会でしょう。勉強だけでは成果につながらないのです。勉強して知識がつくでしょう。知識もつかないまま終わっているケースもありますが、ほとんどの教育はここ(知識)でおしいまいなのです。世の中の教育は、ほとんど役立っていない。なぜか。知識で成果につながりますか? つながらないです。人は納得しないとだめなのです。それも感動して、納得するといいです。そうするとどうなるか。感動した納得で、初めて実践、行動するのです。こうして初めて成果につながるかといったら、つながらない。何が必要だと思いますか? 継続です。1回だけではだめなのです。そして成果にいくのです。これだけのパーツがある。多くはほとんどここ(知識)でおしまい。だから目からウロコで、またついてしまう。何もやらない。大事なのは、正しいことを正しくやるということです。やるのも、継続してここにフォローのプロセスがいります。レビューの仕組みがいります。そういったことで初めて成果につながるのです。私がよく勉強会で申し上げているのは、「勉強は止めてください。成果につながりません。大事なのは、実践することです。」アセスメントもそうですが、実践することです。やっていくうちに、スキルというのは身についていきます。まず、やっていくことです。お互いに、学びを共有化していただきたいと思います。 残念ですが、時間になりました。終わらせていただきます。ありがとうございました。
お客様に喜ばれる経営実現の鍵 / 2000年6月(設立記念講演) お客様に喜ばれる経営実現の鍵 大久保 寛司 氏 (人と経営研究所 代表) 皆様、こんにちは。只今ご紹介たまわりました大久保でございます。茨城県経営品質協議会設立おめでとうございます。本当に心からお慶び申し上げます。また、このような記念の場にお呼びいただいたことを、心から感謝申し上げます。 今、代表幹事の鬼澤さんの顔をずっと拝見していまして、最初お会いしたころから、いろいろ走馬灯のようにめぐるものがございました。たしか東京だったと思いますが、「大久保さん、茨城でもやりたいんです。どうしたらいいでしょうか。県全体を良くしたいんです!」というお話をいただいたことがありました。「そう難しいことではない。やればいいんですよ。」という話をしました。「やっていく上で、実は茨城には生産性本部もなければ、何もないんです。」ということだったので、「素晴らしいじゃないですか。全部自分で作れるんだ。」、そして「何が必要ですか?」と言われたときに、「必要なのは、組織でも基盤でもない。あなたのその情熱だ! その情熱がある限り、何かをなすことは必ずできる。」ということを申し上げました。私もその真摯な情熱に打たれまして、基本的には、彼の要望には無条件で受け入れると僕自身決意しました。 その時は、まさにお一人でした。県で一人でした。だけど、最初は何事も一人です。一人から全てがスタートするのです。周りがどうだこうだと、そんな他人のことを言っているようではできない。まず、自ら動く。人は知識や素晴らしい情報で人を動かすことはできません。人が動くのは何かといえば、実は情熱です。パッション(Passion)。この情熱が人を集めて、必ず大きな流れを作り出す。これは歴史を見るまでもなく、この世の一つの基本的な定理というか、一つの真理です。もちろん最初は一人だったのが、鬼澤さんの周りにたくさんの人が集まってこられて、先程壇上に上がられた幹事のみなさんを拝見していて、それを感じました。 そしてまさにこのJQA(日本経営品質賞)の流れは全国いたるところにあり、どんどん大きな流れになっていますが、さっき申し上げた、生産性本部や事務局がない、県の支援がない、もう何にもなくて設立した全国で初めてのケースなのです。これはやはり素晴らしいと思います。そして代表幹事は全国でいちばん若い。まだ30代です。ですからいちばん期待できる。 もっとも、他のところへ行くと、同じような話を別の形でやっているのかもしれないのですが・・・(笑)。やはりここは楽しくなります。一つの「気」というものが流れています。 今日は、どういう話をしようか。大体考えてもあまり出てこないので、僕はいつも直前に考えるか、話しながら考えるのですが、事前に運営委員の小松崎さんとお話ししていて、「みなさん、ほとんど去年の8月のテープをご覧になった方たちばかりです。だから同じ冗談は言わないようにしてください。」と言われて、これは困ったと。冗談のネタは4つぐらいしかなくて、それをもう使いきっているということなのです。同じ冗談が出るかもしれませんが、ここはひとつ、話し手の気持ちを盛り上げるということで、どっと笑っていただきたいとお願いして、本題に入っていきたいと思います。 <時代の激変> 先般、東北地方をぐるぐる廻っていました。タクシーの運転手さんの話というのは参考になります。下手な何とかのアナリストなんて人よりも、ましてや国の発表よりもはるかに信頼性が高いです。運転手さんと雑談していたら、面白かったです。基本料金80円時代から、タクシーの運転手をしておられるという方でした。分かりますか? 80円時代からタクシーの運転手をやっていたということは、そのころ2、3年で家が建ったという時代です。ものすごく給料が良かったのです。その人は家が建っているかというと、借金だけだったようで、建っていなかったようですが。その方が何とおっしゃっていたか。なるほどと思ったのは、「お客さん、私は中学もろくに出ていなくて、学問もない。だからよく分かりませんが、いろんな景気の上げ下げ、谷間を経験してきましたが、今回のこの景気の低迷だけは、全く違いますね。」と言ったのです。「日本は全く違う方向に進むんじゃないですか。」タクシーの運転手さんがそう言ったのです。私自身、そういう話をさせていただいていましたが、まさか運転手の方から出るとは思いませんでした。「そうですか、そうですか。それでどういうことなんですか。」ひたすら聞き続けました。大変面白かったです。 今、ある意味では、明治維新と戦後の変革が一緒くたに来たような時代です。あのころと何が違うか。大きな違いは、あのときは目に見える形で分かったのです。すなわち、目の前にある建物が燃えつきて、焦土と化してしまったのです。だから、日本全国が全然違う時代になるということが、ある意味では分かるわけです。ところが、今回の変革が非常に認識がむずかしいのは、建物がそのまま残っているのです。うっかりすると、うっかりしなくてもそうなのですが、経営においても、老骸というと失礼なのですが、上の方がそのまま残っている。国の偉い人もそのまま残っている。これで変革するというのは至難の業なのですが、それをやっていかなければいけない。明治維新も戦後も、ある意味でその前に権力の座にあった人たちというのは一掃されましたから、非常に改革がやりやすかったのです。今回は全部そのままですから、いちばん難しい。それでやれるのか。しかしやっていかなければいけないのです。 この間、まだ20代の方ですが、ベンチャーの会社を3つぐらい経営している、バリバリですごい方とお話していて、なるほどと思いました。何とおっしゃったかというと、「大久保さん、今は百年、二百年に一回のビッグチャンスの時代です。」そうおっしゃっていました。本当にそうだなと私自身も思っていましたが、実際に心底そう思いました。何かを実際にやっている人に言われると説得力があります。百年、二百年に一回のビジネスチャンスというのはどういうことかいいますと、百年、二百年に一回の大変革の時代であるということなのです。 この変革期にどういうふうに物事を考え、進めていくのか。ある経営者にお会いしましたら、「大久保さん、もう風向きが逆風できついです。」 そしてある方にお会いしたら、「うちにとって風向きがいいんですよ。」 なるほどとその瞬間、風向きは同じだと理解しました。帆のとり方をどちらに向けるかにすぎない。ある人にとっては右に吹き、ある人にとっては左に吹くなんてことはありえない。全部同じなんだ。そうすると、いわゆる経営の舵取りをどうしていくかに尽きるな、ということを痛感いたしました。 <存在し続けるための鍵> 今日も経営トップの方が多数おみえだと伺いました。経営者の多くの方は、大変悩んでおられます。私に言わせれば、何も悩む必要は全くない。軸足をどこに置いていいか、分からなくなっているのです。すごく簡単です。お客様に置けばいいのです。市場に置けばいいのです。これで全てが見えてきます。だったらなぜ悩むんだ。その軸足が定まっていない。頭でしかわかっていない。頭はお客様に軸を置きながら、実は手足がそちらに動いていないというのが、ほとんどのような気がいたします。 座標軸が変わったという話を昨年の夏にしたと思います。まさに提供する側と受ける側でたった一つです。企業とお客様という観点で何が変わったかというと、主導権が全部右側(受ける側)に移動したという何ものでもない。これに尽きるのです。今日の演題の「お客様に喜ばれる経営実現の鍵」とは何か。最初に結論を申し上げます。どうやったら喜ばれるか。喜ばれることをすることなのです。これはきわめて当たり前ですが、全く現実のこととなると、当たり前ではありません。喜ばれないことを、たくさんの企業がやっています。うっかりすると無視している。もしくは、反発を買いながらビジネスをやっている企業の何と多いことか。 そういう観点で考えますと、今はもうビジネスチャンスだらけです。もう金の露天掘り、こんな感じです。ただし金塊が大きすぎて掘り出せないという感じはありますが・・・。ほとんどの方は全部企業、提供する側に軸足を置いているのです。すなわち「どうやって売るか」です。どうやって売るかということから、たった一つです。「どうやってご満足していただけるか」という視点に移しただけで、実は知恵というのは、いくらでも出てきます。みんな、どうやって売るかばかりなのです。どうやって満足していただこうかと全員が考えたら、大変な激烈な競争の世界になります。でも99.9パーセントの企業は、どうやって売ろうかと考えているから、私に言わせれば、全ての業種、業態がチャンスだらけなのです。すごく簡単です。ちょっと軸足を変えればいいんです。 前回おじゃまさせていただいた時に、いくつかその事例を紹介したと思います。軸足を変えることによって、いくらでも企業というのは伸ばし、かつ発展することができる。まさに百年、二百年に一回の機会だ。危機の「機」、機会の「機」、crisisの「c」、chanceの「c」とこういう感じです。だから変革をチャンスとして捉えた時には、もう素晴らしい時代です。その素晴らしい時代とみるか、「えらい時代になった。これはどうするか。生きていけるか。」と考えるか、これは自由です。どちらにどう考えようと自由です。ただ一つ言えることは、えらいことになったというところからは、素晴らしいアイディアは出ないことだけは、多分確かなことだと思います。 企業組織というのは、やはり生き物であると思います。前回もダーウィンの話をさせていただきました。どう変化対応するかなのだ。マンモスは死んだけれど、ゴキブリは生き残った。「ゴキブリを見て学べ。変化対応極致の生き物だぞ。スリッパですぐ叩かないように。」ということを前回お願いしたと思いますが、まさに生命体というのは、環境変化に対応していかなければならないのです。 固定と安定があると、固定というのはその組織が崩壊していくのです。固定と安定は違うのです。これは生命体というもので考えれば、すごく分かりやすいです。細胞の新陳代謝が行われなくなったら、どうなりますか? 肉体は朽ちて滅びていきます。それと同じなのです。変化にどんどん対応していかなければいけない。すなわち、どうやってその変化対応能力をつけていくか。これが鍵なわけです。 今、時代は全く変わりつつあるというのに、全く従来と同じ会社の経営のしくみでやっている。考えられないです。これは固定です。つまるところは、変化対応ができていないのですから、その企業はなくなっていくでしょう。大事なのは、その変化の方向を読み誤ってはいけません。外はすごく寒くなっているのに、暑いと思って裸で飛び出したら、それこそ凍って死んでしまうわけです。だからといって、暑いところを毛皮を着て飛び出したってしょうがない。どういうふうに変化しているかを、正しく認識しなければいけません。 この変化の一番の基本は、もうこれに尽きるのです。お客様の視点、どうやって満足を届けるか、これに全てがかかっています。「存在し続けるには、どうしたらいいか。企業というのは、そもそも目的は何なんだ。仕事、組織は何のためにやっていますか。」目的はただ一つです。それは、「お客様や市場に対して価値を提供すること」です。価値というのは何ですか。全てのビジネスの究極は何ですか。価値というのは満足です。全部満足なのです。だから企業のミッション、存在理由というのは、満足を生み出し、提供することが仕事の目的である。極めて当たり前のことです。そして、企業の存在基盤は何でしょうか。人でしょうか。技術でしょうか。設備でしょうか。ノウハウでしょうか。もちろん、それらは大事です。でも素晴らしい設備があり、素晴らしい技術があり、素晴らしい人材が揃っていても、無人の孤島でビジネスができますか? できません。企業のいちばんの基盤は、これまた極めて単純であります。「お客様」です。これを忘れている企業が多いのです。 お客様という存在があって、企業が成り立つ。そして成り立ち続けるためには、そのお客様に対して満足を提供しつづけること。これ以外にないのです。満足を提供し続けること。単発ではだめです。間が存在できなくなります。そして大事なことは、今日来られている方は、マルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)なり、経営品質賞の審査基準を学んでおられる方が多いと思います。まさにそのような満足を提供し続けることができる、経営としての仕組み、プロセスを持っているかどうかによる、ということです。これが鍵であるわけです。 満足というのは、誰が判断するべきものでしょうか。これまた非常に明解です。お客様です。使う側です。受けた側です。提供する側が勝手に判断してはだめです。これを売っておいて、「満足したでしょう。満足していない? それはあんたがおかしいんだよ。」なんて言っている企業がいっぱいあります。無意識にそれをやっています。どうしたら、満足しているかどうか分かるでしょうか。それは聞いてみないと分からないのです。前回もちょっと申し上げましたが、聞いても分からない、というと訳が分からなくなりますが、聞かなければ分からないのですが、聞いても分からないのです。その辺については、また別の機会にゆっくりお話します。存在しつづけるための鍵はただ一つ、喜んでいただけることです。 企業内において、組織と人に対していろんな評価基準をお持ちでしょう。これは面白いです。某有名超一流会社の指導依頼をいただいて出向いた時のことです。そこの企業は、巷では、お客様の満足を追及するということで、もちろん社是、社訓もそうなっていますし、それをやっているであろうということで有名な企業でした。どういう観点で組織と人が評価されているか、一つずつ評価基準をみていきました。全てどうやって売ったか、だけです。プロダクトアウトです。100パーセント、プロダクトアウトでした。見事なものでした。どういう観点で皆さんは評価されているか、どういう観点で部下、組織を評価しているか、リストアップしてもらいました。全てどう売ったか、どれだけ売ったかだけです。「お客様の視点は何もありませんね。社是、社訓は嘘ですね。」とこういうことです。 例えば、ある化粧品会社があります。その化粧品会社は、いろんな百貨店にお店があるのですが、どこに行っても、ものすごく売れている。そこで百貨店のCS部長さんがそこに聞きにいったのです。「おたく、なぜ売れるのですか?」これ、すごくいい質問です。なぜ売れるのですかと聞いたら、「売らないからでしょうね。」と言ったのです。禅問答みたいですが、お店の人に対しての指示というか、評価基準はただ一つだそうです。化粧品だから店員さんが売りますが、いくら売ったかではないのです。いくつ売ったかでもないのです。「何度同じお客様に来ていただけるか」、これだけだそうです。これを管理基準にしているのです。 これは全然変わってきます。もう一度来てもらうことを考えなければ、強引にでも押し込んで、似合いもしない色でも「似合いますよ。」と言って売ったら、いくらでも売れます。そして次来ますか。つけて歩いたら、周りの人に「似合っていないわよ。」と馬鹿にされて、これでもうおしまいです。もう一度来ていただけるようにするとなったら、全く思考形態が変わってしまうのです。やることが変わるのです。そういうふうにやっている企業がどれぐらいあるでしょうか。もう一度来ていただける。それも、もう一度来ていただいて買うのではないのです。もう一度来ていただけるかどうかの、来店率を基準にしていますということなのです。そして、そこはものすごい業績を今も上げ続けています。ずっと二桁成長です。なるほどな、と思いました。 すごく簡単です。もう一度来ていただけるかどうかを追求するといったら、ただ一つ。「どうやったら、喜んでいただけるか?」店員さんは、それしか考えなくなります。結果として、業績がものすごく上がっている。これは全く分かりやすい話です。ですからこれも、まさに存在しつづけるための鍵は何かといったら、「どうやってお客様に喜んでいただくか。」これに尽きるのです。 <お客様・市場の理解> そのためには、お客様を理解しなければいけない。お客様、市場の変化、要望、期待というのを理解しなければいけません。お客様や市場の変化、要望、期待をアンテナをはってつかみ取れというシンボルを、ちょっとつたない絵ですが書きました。それをどこまで本当にできているか。すなわち、アンテナがありますか、ということです。どのくらいお客様の要望、期待をつかんでおられますか。そして、ここで一つ申し上げたいのは、99パーセントの企業と人は分かっているつもりなんです。 この間も、アドバイスをさせていただいている、超大手のトップの管理者を数十人集めての1.5日のアイディアセッションというのをやりました。法人相手だったものですから、「みなさんは、お客様の要望というのはどうですか?」と言うと、「私どもは四六時中行っています。しょっちゅう聞いています。もうお客様の要望やクレームは、全部理解しています。」「わかりました。では、リストアップしてみてください。」リストアップしてもらいました。私は、事前に裏で全部情報を集めておきました。「どんなことがこの会社に対してご不満で、どんなことをやってほしいですか。」その方たちは、一流と言われている人たちです。そしてしょっちゅうお客様に会って、しょっちゅうお話をしています。ダーッと書きました。私はさりげなく、こちら側に書きました。「実はこれは私が調べてきた内容です。」どれひとつ一致していません。何ひとつ一致していなかったのです。見事でした。彼らはぐうの音も出なかったです。よろしいですか。みんな分かっているつもりなのです。 大体、ほとんど聞かないです。聞いているというと、せいぜいクレームを言っているのを聞かされているだけです。これは「聞く」ではなくて「聞かされる」です。自らお客様のことを理解するために、お客様の要望やご不満を聞くために、どれだけ時間をかけていますか。いちばんいいのは、何か知っていますか? 例えば法人相手でも、雑談ではだめなのです。 具体的に申し上げれば、こういうふうにしたらいいのです。「今日は一切売り込みしません。お客様の要望や普段のご不満について、ひたすら伺うために来ました。」もっと理想を言えば、事前に手紙を出しておいて、「時間をとって、今回こういう形でおじゃまさせていただきます。忌憚のないご意見をください。」と言ったら、経営トップあるいは経営者は、いろんな人に声を集めさせておいて、フィードバックしてくれます。実際にこれをやっている企業があります。全く情報の質が違ってきます。だから、普段話し合っていながら、意外と理解できていないのだということです。これに気がつかないとだめなのです。 マーケット、お客様の声というのは、いろんな形で入ってきます。これをどう統合するかということなのです。つまりどういうことかといいますと、直接相談センターもあれば、営業マンが聞くこともあれば、経営トップツートップで聞くこともあれば、巷の噂でうちの奥さんが聞いてきたと、お客様のいろんな情報が入ってきます。さて、これを統合して、いわゆるインテグレーションした形で物事を判断しているか。体、生命体として考えると、手足で感知したいろいろな情報が脳に伝わっていますか?ということです。お客様や現場の困っていることや不満が経営トップに伝わっていますか? 99パーセントの企業は伝わっていません。「いや、伝わっています。」多分、違って伝わっています。すなわち、神経系統が何かおかしなつながりになっているということです。これがすごく多いのです。 ですから経営組織体として、本当にお客様、市場を理解しているかどうか。これは非常に厳しいです。そして、いろんな要望や期待が集まって、冒頭に申し上げた、軸をお客様に置くことです。この軸というのは、判断基準です。ですから何かアイディアを出したり、もめたり、討議したり、いろんなことで何か分からなくなったときに、たった一つのセリフで判断すればいいのです。「お客様にとって、どれがいちばんご満足いただけるのか。」この言葉を出していますか? ほとんど多くは、「どれが一番売れるか」です。全部プロダクトアウトでしょう。1から10までみんなプロダクトアウトでやっているのです。ちょっとお客様の視点で考えたら、まさにお客様に喜ばれる経営そのものが、無限に発展していく道でもあります。これはそんなに難しいことではないんです。 <手段と目的> 「手段と目的」というのが次に書いてありますが、お客様と企業というのは全く違います。何が違うかというと、お客様が購入されるのは全て手段であって、目的ではないのです。だから全ての商品のサービスを購入されるのは、その購入した後に、何かの満足を得たいというために購入されます。そして、そこに焦点をあてている企業が、本当にお客様の立場に立って経営しているのです。 前回も雛人形の話をしました。今まで売ることばかり考えていたのが、お客様は買うのが目的ではない。雛人形を飾って喜びたいのだ。だったら、どうするか。0120でいつでも相談にお応えします。病院も用意しました、怪我もお治ししましょう。お預かりします。埋葬させていただきます。いろんなサービスをさせていただきます。すなわち、購入された後に、サービスメニューをたくさん出していっているでしょう。多くの企業は、売った瞬間、ひどいケースは契約した途端逃げる。こういうのがあります。電話がかかってくると、営業マンが居留守を使う。こういうのは、全然だめです。 どれだけお客様の立場に立っているかというのは、実は売った後に、購入された後に、契約された後に、どれだけいろいろな仕組みが充実しているかというのが、一つのポイントです。多くの企業は売るまで、契約するまでに、徹底的に時間、仕組み、情熱を費やします。売った後は「ほっとけ。どうせ売れないだろう。」「どうせ売れないから、次の所へ行け。」という発想です。 <立場の理解> 前にお話ししたかもしれません。私事ですが、ばかだなと思いますが、9万円弱のステレオを3セット買いまして、各部屋にセットしました。保証期間は12ヶ月でしたが、全部が13ヶ月目に壊れました。見事でした。CD部分がおかしくなって、11ヶ月ぐらいでカタカタと変な音がしていたのです。でもちゃんと鳴るから、まあいいやと思っていたら、見事13ヶ月目でみんな動かなくなりました。あたかも、そういうふうに作ってあるのではないかというぐらいでした。メーカーは名誉のために申し上げませんが、結構一流ブランドでした。それでCS担当にお話したら、「じゃあ、換えましょう。」と言っていただけるかなと、淡い期待を抱いたのですが、「あ、だめです。13ヶ月ですね。うちは12ヶ月保証です。」「あ、そうですね、はい。」9万円弱のもので、1台1万4千円ずつとられて修理しました。 その時に学びました。11ヶ月ぐらいからおかしかったのです。ということは、保証期間12ヶ月の商品やサービスを提供している人は、こうしたらいい。10ヶ月か、11ヶ月頃、「その後いかがでしょうか。順調でしょうか。ご不便ございませんか?」と手紙やハガキ1本出せないか。こういうふうに言うと、「大久保さん、なんで寝た子を起こすのですか。余計な経費がかかるじゃないですか。」 ほら、みんな提供側の論理。全然お客様の立場に立っていないでしょう。ちょっとした話題でも、全部売る側の立場。どこまでいってもそれに尽きるのです。分かっていない。11ヶ月目に、ご不便はございませんか?この話を聞かれて、福井キャノンの玉木さんはすぐに実践されました。「その後いかがでしょうか。ご不便ございませんでしょうか。」返信用のハガキをつけたアンケートシートです。 これはどうなると思いますか。よしんば何かあったら直す。でも、そこでリレーションシップが構築されていくのです。それ以上に何もなかったとしたら、どうなりますか? もっと素晴らしい信頼というバリュー、価値を得ることができるのです。多くの企業は、信頼というものをどんどん削っていきながらビジネスしていると思いませんか? そして社是社訓では、お客様第一主義と書いてある。これは無理です。 ですから本当にお客様の視点に立ったら、いくらでもやれることがあります。お客様の立場、すなわち、その下に書いてある「立場の理解」。 前回申し上げたように、立っている場所というのは希望を表します。電車に乗る前と乗った後、「乗る前はどんどん奥につめろ。」ところが乗った瞬間どう思うか。「なんでいつまで押しているんだ、電車が発車しないだろう」となります。大体、ドアとドアの間、電車の真中というのは空いているのです。ギューッとつめます。その時、「なんでもっとつめないんだ。」これは乗る前です。乗った後ずっと押していると、「発車しないだろうが、もうあきらめろよ。」と、乗った瞬間、気持ちが変わります。電車に乗っているか、乗っていないかの差。そのうち立っている場所によって希望がころっと変わるのです。お客様の立場と企業の立場というのも大事ですが、立っている場所というのは希望が変わってしまうのです。 マネージメントでもいえます。上司の立場と部下の立場。経営者の立場と社員の立場。全部違います。ですから、立場というのは希望を表わすわけです。「ここはひとつ俺の立場を分かって、大人の対応をしてくれよ。」と無茶苦茶ファジーな話なのですが、これは何を言っているか。平たく解釈すれば、「俺の願望を理解して、そのようにやってくれ。」と言っているだけです。ところがビジネスの世界で「俺の願望をかなえてくれ」と言えませんから、「ここはひとつ俺の立場を理解して、大人の対応をしてくれ。」要は俺の願望をかなえて、お前の願望は捨ててくれと言っているわけです。でも、そうは言えませんから、そういうセリフになります。すなわち立場というのは、そういう要望、期待を表している。だから「お客様の立場に立って仕事をしなさい。」というのはどういうことかというと、「お客様の希望、要望を十分理解した上で、仕事をしていきなさい。」ということです。ほとんどそのように解釈されていませんが、そういうことになります。 本当は、この見出しだけで1、2時間ずつやりたいのです。でもそれは許されていませんので・・・。本当はこれ1つずつで、毎月おじゃまできたらいいのです。いや、だからといって、毎月来ると言っているわけではないのですが・・・。私事ですが、来年3月まですでにスケジュールがうまっています。パンパン状態です。ですからちょっと不可能ですが・・・。 <人材の育成> 今日の表題に戻りますが、「お客様に喜ばれる経営実現の鍵」は、今言ったように軸足をお客様に移すと同時に、やはり人なのです。やはり人が全てです。私は、「ヒト・カネ・情報」というのは、正しいと思っていません。同列に置くべきではないし、人を資源としてみるのは賛成ではありません。人は人だ。資源じゃない。道具じゃない。道具と見るところからは、本当の人材育成はないのではないかと思います。 すなわち例えば機械だったら、1生み出すものを5つ買えば、5生み出すことはできます。1力のある人を5人集めたら5になるかというと、なりません。3になったり、2になったり、1になったり、マイナスになったり、プラス10になったりします。なぜか。人だからです。ですから人というのは、やはり同列で置くべきではない。一言だけ結論から申し上げますと、人材育成の鍵というのは何か。トップ、もしくは上司が部下に対して、どれだけその人を大切に思っているか、大切にしているか。多分これが鍵だろうと思います。すなわち基本的な人に対する考え方です。 私が日本IBMを退社して、「人と経営研究所」という名前を付けたのは、人は人それぞれ、自らを経営していかなければいけないだろう。それと同時に、所詮経営というのは人に行き着くだろう。自分の考えとして、そのように行き着いたのです。ですから、人と経営のあるべき姿というのを追求し、いろいろと世に問うてみたい。そういうことでそのような名称を作りました。 大切にするということは、別に相手を甘やかすということではありません。相手の人間性を重んじることであって、簡単に申し上げれば、人として見るということだろうと思います。そしてやはり、人に対しては価値を生み出す仕事をしていただきたい。つまらない仕事をさせてはいけない。同時に人材育成で忘れてはいけないことは、人は人を育てることはできません。よく「俺はあいつを育てた。」ということを言う人がいます。自惚れです。人は自ら伸びる以外にありません。植物の種を蒔き、育てるあの状況と全く同じです。伸ばすなんていうことはできません。もし伸ばしたらどうなりますか? つぶします。花のつぼみがやっとできたと思って、早く咲けと花びらを強引に開く人がいます。どうなりますか? つぼみは咲く前に散ってしまいます。そして散ったところで何と言うか。「お前はちっとも咲かないな。」これはたとえ話だと分かりやすいのですが、自分がやっていると見えません。 何ができるのか。ただ一つです。伸びるための環境条件を作っていくこと以外にありません。すなわち、タイミングよく肥料を、水を、日光を与える。環境条件を作ること。もしくは何か困っているときに、ちょっとしたヒントを与える。「彼がすごく育つために、1つぐらいヒントを与えられたんだよね。」これは正しいかもしれません。しかし「俺はあいつを育てた。」というのは、自惚れです。よくそう言う方がいらっしゃいます。私からみると、お笑いです。人は人を育てることなんかできません。 私も7人の子供を持って、これはまさに家内が育てているかもしれない。もしくは、まさに育つ環境を作っているのだろうと思います。育てるということの難しさ、それと同時に喜び。去年だけで子育て講演会を夫婦で40回ぐらいやっています。日本の教育と家庭のことを考えると、私としてはここに力を入れざるを得ないのです。これは全く奉仕活動になります。多分、今年ももっとやっていくことになるだろうと思っています。先程、司会の方にご紹介いただきましたが、妻の『育て育てられの記』(明日香出版)、もしくは私の『ビジネスマンがもう一度「父親」も戻るための91のヒント』(明日香出版)、これは子育ての本ですが、子育てと人材育成は全く同じです。人を育てるということにおいて、コツ、見方、考え方は全く同じです。ですからそういう意味では、あの本は人材育成の書と置き換えていただいても、間違いはないと思います。下手に普通の企業における人材育成というような本を読むより、はるかに何かヒントを得ることができるかもしれません。 <コミュニケーション> 前も申し上げたように、講演というのはもうあまりやりたくなくなっているのです。なぜかというと、目からウロコが落ちましたといっても、大体、後日確認をすると、落ちたウロコがついていますから、成果につながらないのです。私は儲けるためにやっているのではなくて、お役に立ちたい、素晴らしくなっていただきたい、そちらが目的なのです。そちらの方につながらないのだとすると、これは自分の命の無駄遣いだという感じを持ちました。 実はいくつかの企業と契約させていただきまして、毎月1回おじゃまする。いろんな所に行って、ものすごくよく分かったのは、どこの組織でもいかにコミュニケーションが悪いかということです。 経営者の方、今からビックリすることを申し上げます。売上げを3割、簡単に上げることができます。コミュニケーションを良くすることです。これはもう、実績をたくさん持ちました。実は売上げが倍になった所もあるのですが、倍だと言うとあまりにも眉唾すぎるので、倍になったというのは言わないようにして・・・。だけど言っていますね。言っていますが、最近3割は固いと思っています。5割なんかぞろぞろいます。すなわち社員、上下左右のコミュニケーションを良くするということが、ものすごく経営を活性化し、お客様に満足を届けられるような経営を実現していくことになるのです。ところが多くの人は、コミュニケーションを良くして、売上げを上げようなんて考えていません。どうやって売上げ促進のプログラムを作るんだ、どうやって説得するんだ、どうやってやるんだ、こればかりです。みんなプロダクトアウトです。ちょっと待ってください。ちょっと社内のコミュニケーションを良くしてみてください。上がります。本当に上がります。 いろんな経営者の方にお会いして、なるほどなと思ったのは、経営者の方とお会いして話すのと、担当レベル、一般社員の方と話すのと、無茶苦茶なギャップです。要は、「うちの社員は、問題意識はないし、本当にやる気がない。」ところが社員の方に伺ってみると、問題意識はあり、改善案は持っている。何のことはない。トップが全部押さえつけているだけです。グーッと押さえながら、「何も芽が出ない」と言っています。だから私がおじゃまして「この手をちょっとはずしてみてください。」と言うと、2種類あります。ハッとして手をはずす人と、はずしたくないという人とあるのです。ここがなかなか難しいのです。はずしたくないという場合は、「どうぞお好きに。」と言うことにしています。これはもう個人の自由ですから、制限することはできません。 今、コミュニケーション診断シートというのを作りまして、いろいろな所でやっています。ギャップの大きさといったら・・・。ある企業で、経営者層に対して15項目質問させてもらいました。できているか、できていないか、5段階評価。要は仕事の意義、目的をちゃんと説明しているとか、大事なことは何回も繰り返し伝えているとか、威張らないようにしているとか、いろんな項目がありました。すると、経営者層の平均点が4.3だったのです。次長、課長、リーダークラスは、経営者がそれをできているかを評価してもらいました。見事でした。次長クラスで3.3、課長クラスで3.1、リーダークラスで2.1です。すごいギャップ。いちばん大きなギャップが出たのが、さっきの例で申し上げたところなのです。仕事の意義、目的を明確に説明している。経営者5。リーダークラス1。このギャップは何ですか。 すごいです。 一部上場の大手で、どなたでもご存知の企業のCS経営会議で、「CSの大前提はESだ。まず社員の満足です。どういうことで困り、どういうことで悩み、どう理解されているかを、今回調査させていただきました。それを今からフィードバックします」と役員一人ずつに見せました。「はい、ご感想を」とやりました。いろいろアドバイスさせてもらいましたが、それでは終わらないです。「みなさんは、これから社員とのコミュニケーションを良くするために、社員の満足を上げるために、何をしたいと思いますか?」一人一人に言ってもらいました。言ってもらったときに、普通はほうっておきますが、私はほうっておかないのです。必ずやっていただくのです。どういう格好でやらせるか。オープンがいいのです。どうしたか。事務局の人に全部インプットしてもらいます。社長にも、コミットメント、決意表明してもらいました。「みなさん、ありがとうございました。では、これをウェブ・インターネットで全社員に公開いたします。」こういうことでやりました。これは本当のコミュニケーションです。 社員の中でも、大きな組織でも、いろいろアンケートをやっています。その後、人事や広報が忘れたころに円グラフを出して、ちょっとしたコメントをつけて・・・。そんなスピード感覚では話になりません。第一、熱意が伝わってこないでしょう。どういう格好にしたか。社長自ら、反省の弁を述べていただきました。「よってもって、私はこれをする。以下、各役員は下記のように決意した。」と決意項目を全部オープンです。これをやらないといけません。それだけではないのです。来月おじゃまして、どこまでやりましたかと私がチェックする予定になっています。これをやっていかないとだめなのです。結局みんな何がダメかというと、やらない、継続しないからだめなのです。それだけの話なのです。ここのところがポイントです。 この間、コミュニケーションを良くするというのを、こういうふうに勘違いしている人がいらっしゃいました。「俺はしょっちゅう部下と飲んでいる。」と言うのです。ノミ(飲み)ニケーションとコミュニケーションは違うのです。飲んでいるからといって、本当に本音を全部言っているかというと、飲みながらも部下というのは微妙にコントロールしているものなのです。自分が部下のとき、そうだったでしょう。ついうっかり本音を言ったらどうなりますか? 左遷されたでしょう。それをお忘れですか、ということなのです。この間もそれをお話したら、その経営者の方はノミ(飲み)ニケーションオンリーで、これがコミュニケーションだと思っていらっしゃったのです。社員の3割は飲まないのですから、その方たちとは全くコミュニケーションゼロです。ですから、ノミニケーションとコミュニケーションは違います。このコミュニケーション談義も1、2時間やると面白いのです。 本当にコミュニケーションを良くしていくと、会社の中が変わります。本当に変わるのです。ですから是非、今日来られている方で経営者の方、経営者でなくても1つの部門を預かっていられる方、「部門の中でどうやってコミュニケーションを良くするか。」これを徹底的に考えて、そこに焦点をあわせて努力するだけで、どうやって売上げを上げようと考えるよりも、はるかに上がるのですから、嘘か本当かお試しください。もしうまくいっても、私は一切リターンを求めません。そのかわりうまくいかなくても、何の責任もとりませんので・・・。責任はとりようがないですから、これは無理です。 <「8つの基準」の価値> やっと今日の本題に入ります。その「8つの基準の価値」ということです。これは時間の関係で、こっちの本『経営の質を高める8つの基準』(かんき出版)をもう一度読んでいただくしかないかなという気がします。 今朝、上野から来ましたが、上野の売店で「これとこれ、ください。」恥ずかしながら、まだ自分の身についていないのですが、買ったときでも、笑顔で相手の目を見て「ありがとうございます。」と言うように努力しているのです。私が「ありがとうございます。」と言ったら、店員の方は横向いていました。それから、袋から1つ落ちたので拾い上げて袋に入れようと思ったら、「それ、お店のです。」と言ってムッとされました。「あんた盗んでいくのか?」という雰囲気です。その時に思いました。きっとこの人は、この表情が自分で分かっていないのだ。もし分かっていたらきっと出来ないはずだと思いました。 誰しも、不愉快な顔をしようとしてやっている方は少ないと思うのです。中には例外でいらっしゃるかもしれない。しかし、普通は不愉快な表情をして、不愉快なことを周りにまきちらしている人でも、客観的に自分が見えていないだけです。例えば、どなたでもご経験されていると思いますが、自分の声というのをテープレコーダーで最初に聞かれた時、衝撃を受けませんでしたか? 「これは俺の声じゃない。俺はもっといい。」違いますか? みんなそうです。私も愕然としました。いちばん愕然としたのは、ビデオ。そのビデオも、後ろから撮ったのを見た時に「エッ? 俺はこんなみっともない格好で歩いているのか? これは外を歩けないぞ。」でも歩かなければいけないと諦めました。すなわち、全く自分が見えていないということです。人も企業も全く見えていないのです。企業も何をやっているのか見えない。 8つの基準というのは、もうちょっと説明したかったのですが・・・。要は、8つというのは、まずお客様を明確にして、そして商品、サービス、合致するものを作っていくそのプロセスがあり、必要な情報があり、それに従事する人があり、もともとリーダーが、船で言えば、あっちの方へ行くぞと指示する。などいろんな要素がある。経営の要素というのは、いろいろあります。それをある意味では、8つに整理したのです。だから何を申し上げたいかと言うと、従来は経営の本といったときに、マネージメントシステムやリーダーシップだけだとか、CSだけだとか、プロセスの改善、人材の育成とか、特化したものはいっぱいあります。それ全部のつながりを、生命体として捉えたものというのはないのです。だから、この8つの基準が優れているというのは、このつながり具合が見事なのです。 8つの基準を使うというのはどういうことかというと、自分を、企業体組織を鏡に映すようなものなのです。それをお客様の視点で、より高い価値を生み出すように、経営の仕組みができているだろうか。ある意味では、レントゲンでパシャッと自分の体を撮るような感じになるのです。ひとつ申し上げておくと、忘れてはならないことは、道具、ツールであるということなのです。手段と目的を間違えないでいただきたい。使うのは手段であって、目的ではない。ところが、それを使うことが目的になってしまうケースがあります。道具というのは、使い方を間違えると自分を切ってしまいます。火でも、包丁でもそうです。そういうものがあって上手に使うことによって、美味しい料理ができるかもしれない。もし間違ったら、自分の身を切ってしまい、怪我します。道具というのは、そういうものなのです。かつ切れる道具ほど、そうなります。ですからあくまでも道具なのです。使い方なのです。 8つの基準は機械みたいなものです。どうぞお使いください。僕もよく知りませんが、例えばレントゲンの機械をイメージしてもいいと思います。写す技術というものがあります。それから写した後で、どうその状況を分析し判断するかという、分析、判断能力というのが必要になります。だから道具の使い方と同時に、使った後で、どういうふうにそれをうまく活用できるか、ということがポイントになるわけです。ここのところは、また後でQ&Aのところでご質問いただければ、深掘りしてお話しさせていただきたいと思います。 この中で、アセッサーコースに出られている方もたくさんいらっしゃると思います。資格のある人に一つだけ申し上げたいのは、言ってみればレントゲンの機械を扱える資格をある程度取りました、という話です。レントゲンを撮った後が大事なのですが、アセッサーというのは、写す技術はまだないです。やっと何とかスイッチを入れられる程度だと思います。結果分析、判断能力で大事なのは、体全体の骨格やバランス、つながり具合を見ていくことであって、毛細血管にこだわることではないということです。これを忘れてしまうのです。 昨日も審査基準研究会でさんざん申し上げたのは、「ともかく形を学んで、形を越えてください。8つの基準を詳細に学んだ上で、その8つの基準を捨てて、越えてください。その時に、本当に正しい診断ができます。」ということなのです。お茶の世界でも、茶杓だ、ふくさだ、順番がどうで、確か3回半だったか、いや2回か、あっちかこっちかというのを左脳でやりながらやっても、全然美しくないでしょう。でもまずはマスターしなければいけない。しかしマスターした後は、この次にあれをこれをというのを全部捨ててスムーズにやったときに、美しい世界が出てきます。初心者がやっているとぎこちない。でも本当に名人と言われている人は、流れるように美を感じます。あれです。あそこまでいくためには、やはり形を学んで形を捨てなければいけない。 いちばん大事なのは、全体のつながり具合。お客さんからの意見があった。これはちゃんとプロセスに反映しているのか。人の育成に反映しているのか。リーダーシップの欠如があったから、そっちに反映させるのか。このつながり具合を常に見ていくことです。さっき申し上げたように、現場とお客様の声がちゃんと脳に伝わっているのか。全然伝わっていない。それこそ「ノー(脳)」です。全然面白くないですけれども・・・。脳に現場の情報がちゃんと伝わっていますか。企業はほとんど伝わっていないでしょう。伝わっていないどころか、何か変わって伝わっていってしまう。神経系統が麻痺しているのではなくて、意図的に違う情報を伝える仕組みになっているとか、こういうのがいっぱいあります。それで経営ができますか。これは無理です。 <社内アセスメントのすすめ> 「社内アセスメントのすすめ」ということですが、要は、これは自分で使うものなのです。教えてもらうものではありません。いちばん大事なのは、自らの「気付き」です。教えられても人はやらないですから、やはり自ら気付くことが大事です。「気付き」が全てです。何に気付くかは、気付く側の能力いかんの何ものでもないです。前回申し上げましたように、私の話が素晴らしいと思える方は、聞いた方が素晴らしいのです。ですから、素晴らしくないと思う方は、言いにくいのですが、やはり聞き手なのです。聞き手が素晴らしければ、すなわち、読み手が素晴らしければ、どれだけでも、何かのエッセンスをつかむことができるし、そのセンサーがちょっと錆びていると、うまくいかないということです。 社内アセスメントをやるとどんな価値があるか。これについては大変恐縮ですが、多分読まれた方が多いと思いますが、この『経営の質を高める8つの基準』の201ページに書いてありますので、説明は割愛させていただきます。 実践、継続を実現する鍵は何か。これはQ&Aの後でやらせていただきます。 のんびりやっていたので・・・。あとは質疑応答ということで。これでは質問が出ないかもしれませんが、どんな質問でも結構です。JQAに関しても、今まで学んできたことでも、どんなことでも結構ですから、ご質問いただければと思います。とりあえず休憩させていただきたいと思います。ありがとうございました。 (休憩) (質問票を)数十枚いただきました。これはちょっと答えられないというか、たまらないというか、感動に震えているわけです。ちょっと、時間内にどこまでお答えできるかわかりません。本当は、ツーウェイですっとやりたかったのです。その方が臨場感がありますので・・・。ボルドリッジの発表会や、経営品質賞報告会もそうです。直接会場の方に立っていただいて質問を受ける方が、読み上げるより、それこそコミュニケーションになるのです。ですが、それをやっていると全然だめなので、ちょっと申し訳ないのですが、一方的に読み上げます。分からないのは「分かりません」と答えますし、こうやったらどうだというのも含めて、次々にお答えしていきたいと思います。 コミュニケーションに力を入れたせいか、コミュニケーションについて、随分ご質問いただきました。 質問:トップや幹部を含め、人材が伸びていくための環境の具体策。(大久保:これはコミュニケーションじゃないな。) 質問:当社においても、コミュニケーションがよくないという言葉が出るのですが、(大久保:もっとも、うちはコミュニケーションがいいなんていうところはないです。) 具体例を何か1つでもお願いします。 質問:コミュニケーションにはいろいろな方法があると思いますが、これだけはやってはいけないこととか、これだけは絶対やるべきというようなことがあったら、教えてください。 その他コミュニケーションで随分いただいたので、ちょっとご紹介します。 まず先に、「トップや幹部を含め、人材が伸びていくための環境の具体策」ということですが、やはり伸びるということは、さっきお話しした植物の話に近いのです。人の伸びていく環境の1つは、やはり失敗を認めることです。「自主性、創造性を発揮しろ」と言って、「一切失敗するな」というのは不可能なのです。簡単に言うと、減点主義というのは人を伸ばさない仕組みです。官の仕組みをみてください。あれは人の能力をつんでいく仕組みでしょう。簡単に申し上げれば、あれの逆をやればいいということです。「稟議制度というのは何かというと、結局最初のアイディアをつぶしていく仕組みだ」と言った人もいます。だから、減点主義から失敗を認める加点主義にもっていくということ。それから植物もそうですが、暗い所では育たないのです。だから、明るいということも大事ではないかと思います。それ以外にもたくさんありますが、とりあえずこの1つ2つだけご紹介しておきます。 「コミュニケーションをどうやったらいいか。もう少し具体的に教えてくれ」ということですが、これはたった1つであります。マネージメントの方は、徹底的に聴くことです。これに限る。ほとんどしゃべっています。もう、信じられないくらいしゃべっています。ちょっと今からチェックしてみましょうか。会議で、もしくは部下と一対一でしゃべるときに、自分の方が多くしゃべってしまっているか、部下の言うことをよく聞いているか。半分以上聞いているか、半分以上しゃべっているか、ちょっと挙手をお願いします。半分以上聞いているという方、ちょっと挙手をお願いします。 半分以上しゃべっちゃっているなという方。 こんなものです。ですから、ほとんどしゃべっているのです。しゃべっている間は、育てていることにならないし、コミュニケーションではないのです。それは伝達なのです。コミュニケーションというのは双方向で行われる。 一方的にしゃべり出すと、相手はどうなるかというと「ああ、また始まった。」ただし、顔はうなずいています。聞いています。聞いているふりをしながら、別のことを考えています。ただひとつ、「早く終わらないかな」と思いながら聞くという経験は、どなたもお持ちでしょう。ですから、大事なことは聞くことなのです。クリアーに言えることは、「あなたがしゃべっている間は、相手から情報は入りません。」ということなのです。もちろん、身振り手振りの情報は入ります。しかし、言葉での情報というのは入らないということです。ですから、それでコミュニケーションというものはできない。 コミュニケーションが下手ということで、言った、言わないということがよくあります。これは言った方は言って、聞いていない方は聞いていないのです。これはよくあるのです。どういうことかというと、上の空で聞くということがあります。それから、聞いていてもよく分からない。このとき大事なのは何か。伝える側にとって、コミュニケーションをするというのはどういうことかというと、一所懸命言っているときに、言っている相手に対して「あ、こいつ別のことを考えているな。」とか、分かっていないことを見抜く。そして、「ちょっと待て。俺の言ったことを言ってみろ。」「今、何て言った? 分かっていないだろう。」こういうふうに言いながら確認して、ちゃんと進めていくことなのです。ところが、多くはコミュニケーションと称しながら、分かる、分からないに関係なく一方的に伝えるだけ。それで「言った。」最後は「分かったか。」 分からないと言うと、また最初からやられてしまうから、相手は分かったと言うに決まっているのです。全然話にならないでしょう。そして翌日になったら、言ったとおりにやらない。「お前、昨日分かったと言ったじゃないか。」分かったわけではないのです。「分かった。」と言っただけなのです。 男性の方が多いですが、家に帰って、奥さんいろいろぐちゃぐちゃ言われると、何と言いますか? 「分かった、分かった。」と言うでしょう。あれは何にも分かっていないのです。「うるさい、黙れ。」と言っているだけ。しかしそういうことを言うと、夫婦の仲がおかしくなってしまうので、ここはひとつ分かったで通そうということで、「分かった、分かった。」でも本心は何ですか? 「もう言うな。」でしょう。それを自分で家で味わいながら、どうして逆の立場で、会社で同じ事をやるのですか? これは認識力が低いのです。これはだめです。 ですから、相手の反応と状況を見ながら伝達していかなければいけない。実は、これだけでやれば4時間でも5時間でも話ができるのです。本当はやりたいのです。コミュニケーションはものすごく大事なのです。だから、言っていることが本当に伝わっているかどうかを、さっきギャップ分析しましたでしょう。ほとんど確認しないのです。上は確認していると言っても、下の方は確認されていない。コミュニケーションギャップです。 それから「言った、言わない」でいちばん多いのは、すごく簡単で当たり前の話ですが、人は興味があること以外、頭に入らないのです。だから、この本に書いてあるように社長が、「徹底する。いいか、3つだけ覚えておけ。」と言っても、後日社長の3つの話を覚えているかというと、3つという数しか、覚えていない。中身は誰も覚えていない。覚えていたのは何かというと、どうでもいい最後の冗談だけは全員が覚えていた。これは本当の話です。そんなものなのです。なぜか? 経営トップの思いと、部下の思いとは違うからです。経営トップが大事だと言っても、部下にとって大事でなかったら、誰も聞かないのです。でも、聞いたふりをします。もしくは、聞いたつもりになります。でも、聞いていないのです。 要は、いろんなことでコミュニケーションの重要さというのを理解しながら、いちばん簡単なのは、相手の立場に立って、相手の心情を理解しながらしゃべることです。一生懸命大事なことをしゃべったとしても、相手が別に不安や心配事があったら、聞けますか? 聞けないでしょう。だからそういう意味では、本当にコミュニケーションできるというのは、相手の立場に立って、相手がどんな心情で自分の話を聞いているか。状況や相手の立場での認識ができれば、本当のコミュニケーションができるということです。 前にもお話したかもしれませんが、結婚式で挨拶が下手だと心配する必要はありません。結婚式の挨拶などは、基本的に周り人は誰も聞いていないし、期待もしていない。大事なことは、短く簡潔にやるということなのです。いちばん最悪は乾杯の音頭で長い人。これは大体、偉い人がやります。「それではみなさん、持ちましたでしょうか。」長々とやる。たまりません。周りは止めろという合図を送るのですが、それが理解できない。何か。自分の言いたいことを言うだけ。分かりますか? これは肩書きがあっても、人間として熟していない。未熟と言うと言い過ぎですが、まあそういうことなのです。人としてのレベルが低いのです。ただし、左脳の一部が優れていたから、たまたま肩書きが上がったというだけです。そんなものです。 本当に理解するということは、相手を理解する能力、本当はそこからコミュニケーションというものが始まるということです。だから、コミュニケーションを良くするというのは、実はどういうふうにやっていかなくてはいけないか。自分自身の人間力を高めていかなければいけない。人になる。人と経営だ、という話です。 次にいきます。たくさんあるのです。 質問:CS、ESといわれていますが、全くその通りだと思います。ただ、弊社のトップは次のように言います。「お客様が満足しているのを見て、初めて自分が満足する。そういう社員であってほしい。」つまり、ESはCSではないという固い考えで、ES調査をすべきだと提言しても、全く受け入れてもらえません。「そんなことに金をかけてどうするんだ? 社員の不満ばかり出してきて、どうするんだ。ばか者!」という論理です。大久保さんなら、こういうトップにどのようにESの大切さを伝えますか? 簡単です。15分あったら説得できます。「あなたは売上げを上げたいですか?」ここから入ります。そして「30パーセントぐらい上げたいと思いませんか?」と言います。「ここはひとつ、騙されたと思ってやってみてください。」ということです。 あともう1つは、経営トップが裸にならないとだめです。それから、社員の生の声を聞きたくない人は、本当は社長をやってはいけないのです。だから、私は大会社、中小含めていろんな所で平然と言いました。「あなた、社長を辞めるべきです。それが会社にとっての、最大の貢献です。」とよく言ってきました。心底そう思うからです。 この間も、ある会社で「うちは赤字で何ともならん。十何人の会社なのだけれど・・・。」といろいろ話していくと、その社長はたいした事をやっていないのです。それで「給料は誰が一番高いですか? あなたじゃないですか。」 「そうだ。」 「あなたが辞めたら、ひょっとしてあなたの会社、黒字になりませんか?」 「なる。」と言うのです。「ということは、黒字にするのはすごく簡単です。あなたが辞めることです。」と言ったら、「あんた、よく言うね」と言うので、「いや、黒字にする方法を教えてくれと言ったから、私は言っただけです。」 「よく言うね。しかし、まあ、正しいな。」 「辞めますかと言っても、辞めないでしょう。」 「辞めない。」 「だから赤字のままなのですよ。」こういう話です。 やり方はいっぱいあるのです。基本的に会社を良くしたいのだったら、経営トップというのは、社員のことを真面目に聞くという度量がなかったらだめです。所詮経営なんていうのは、経営者の、もしくは各部門の部門長の、人間の器以上にはならないのですから・・・。当然のことでしょう。それを社員の声を聞きたくないなんて…。「ああ、そうですか。あなた、自分の会社をつぶしたいのですね。どうぞお好きなように。」という話です。 ただし、どのセリフを使うかは、相手の反応を見ながら決めていきます。人を説得するというのは、ワンパターンではないのです。例えば人を育てるというのもそうですが、徹底的に誉めなさいとよく言いますが、すっと誉めたらいい気になる奴もいる。だからといって、「俺は叱って叱ってやってきて、ちゃんと成果を上げている。」 実はそれはほんの一部で、もうまわりで10人ぐらい倒れているというのもあります。それでも一人を見て、「俺はここまで成功した。」これは大間違い。何か。相手によって、状況によって全部違う。でしょう。公の場で責めていいか? 公の場で責めたら、さらに力を入れて頑張るタイプだったらそうしたらいい。まさに相手の性格を見抜かなければいけないのです。 人と場所と時によって、アドバイスの仕方というのは実は全く変わるのです。多くの方はワンパターン。教科書もワンパターンで、こうすべきです、ああすべきです。例えば組織でも、コントロールスパンというのは何人ぐらいである。全く愚かなことです。なぜか。マネージメントと部下の方のクオリティによって、全然違うじゃないですか。バカとバカだったら、1人だってコントロールできないです。それを10人が理想だ。極めて愚か。机上の論。だから大学の先生は、経営をやったら何もできないわけです。机上の論だからです。そしてできなかったら何と言うか。「あんたらがおかしい。」と現実を責めます。全然話になりません。もしも両方クオリティが高かったら、10人でも100人でも1人でマネージメントができるかもしれません。すなわち、ワンパターンじゃないのです。全て物事というのは、状況に応じて、ケースバイケースで、どんな人でどんな環境かで変わってくるのです。だから、そういうのを認識する力がないとだめなのです。 人を育てるのだってそうです。ここはひとつ、叱った方が良いというときには、叱らなければいけないのです。でも基本的には、8対2か9対1の割合で誉めておいた方が、人は伸びます。これは社長でもそうです。社長というのは、あまり誉められないのです。部下で面と向かって誉める人はいません。私は誉めてきました。「北城さん、あなたは社長として立派です。しかし大変ですね。社長は奴隷みたいなものですね。社長なんて、なるものではありませんね。」そう言ったら、相手も「本当にそうだよ、大久保さん。」というような、信じられないような会話をよくやってきました。誉められたら、嬉しそうにします。だからといって、私が誉めても、ごますりで誉めたのではないのです。立派だなと思うから誉めたのです。そして誉めた後で「ところで、」と言うと、「今日の本題は何ですか?」と向こうも分かっています。1つ誉めて、3つぐらいアドバイスというか、叱咤激励をさせてもらってきました。 経営トップでも、やはり誉められたいでのす。誉められたいという言葉でいえば、人というのは生まれた時から変わりませんね。60才になっても、70才になっても、80才になっても、認められたいのです。誉められたいのです。違いますか?「俺を無視した!」要するに認められたいだけです。串焼きで有名な社長さんの本を読んで、なるほど、面白いなと思ったのは、ともかく男性のお客さんは全て、「社長!」と呼ぶことにしたそうです。結構お客様から反発があった。そして女性は何と呼んだか。60才、70才の人でも全部「お嬢さん」と呼んだ。これは全然反発がなかったそうです。どういうことかというと、いくつになっても変わらないということです。女性と男性の本質も変わらないだろうし、いろんな肩書きがつこうが、経験を積もうが、人も変わらないです。違いますか? だったらそこの本質を理解していったとき、どんな局面でどう対応していったらいいかが分かっていきます。 ということは、結論から申し上げれば、実は一朝一夕で自由に対応できるようにはなりません。私はいろんな所にアドバイザー契約として行くのですが、私の対応というのは、全く手ぶらでぶらぶらっと行くだけです。そして話を聞きながら、相手の考えを引き出しながら、その場で判断していく。事前のシナリオというのは、常にゼロです。何もありません。でも、信じられない奇跡的なコミュニケーションと、改善提案というのが出てきます。やはりそれは、社員みんなには能力がある、それに蓋をしているのを取ればよいということです。 簡単に申し上げれば、私が本音のコミュニケーションをしていただく、いちばんのセリフは何か。「建前はやめて、本音でやりましょう。」と言うだけです。それだけです。それでやっているときに、建前の人がいると「建前ですね。やめましょうよ。」と明るく言います。この間、ある大手の会社の役員会でアドバイスしたときは、「初めて役員会で本音で討議された」と言われました。「ともかく、今日、みなさんは経営を良くしたい、会社を良くしたいという人たちだと思います。そうでない人は、是非この会社を辞めてください。」全く私にそのようなことを言う資格はないのですが・・・。「もし、良くしたいのだったら、本音で思っていることを言い合いましょう。」 ただし日本人というのは、意見が違うと、人間性をなじるところまでいってしまうのです。だから、討議の場で言い合ってこそ、初めて新しいアイディアが出るのだけれども、言い合って意見が違うとどうなるか。扉を出て行った後で、「大体、あいつはけしからん。許せないんだよな。」と相手の人間性をなじる。論理と人間性とは違うのですが、一体化してしまう特徴がある。これからは、経営を行っていくうえではこの発想はだめです。分離、独立しなければいけません。 だから私はそこで冒頭申し上げたのです。「今日もみなさん本音でやってもらいます。どんどん討議してもらいましょう。反対意見が出てこないようだったら、会議とはいえません。どんどん反対意見を言ってください。ただし、この部屋から一歩出たら、絶対に相手のことをグダグダ言わないでください。会社をどうしてもつぶしたいという人は、どんどん言ってください。ただし会社を辞めてください。」こういうオープニングでやったら、何十年で初めての本音の会議がなされたと言っていました。これはすごかったです。 鍵はたった一つ。私がただ「本音でやりましょう。」と言っただけです。会社を良くしたいですね。素晴らしい仕事をみんなにしていただきたいでしょう。そこのベクトルはみんな変わらないでしょう。それを確認して進めていっただけなのです。 次です。 質問:「お客様に喜ばれる経営」という場合、お客様には2通りあると思います。クレームの多い方とファンへの対応。このポイントを教えてください。 これは書いている人の気持ちが良く分かりますね。クレームの多い方とファン。完全に二極分化して、クレームの多い方については、どういう回答がくるかと楽しみにしている雰囲気があります。 クレームが多いということで、これはクレームをどちらかと言えば、否定的にとっていると思うのです。もちろん、いわゆるクレーマーというのが存在することは事実です。これはこれで、ひとつのきちんとした対応をとるべきです。ただし、クレームにもいろんな種類があります。大事なことは、現実はクレームから多くの学びがあり、素晴らしい商品やサービスがたくさん出ているというのが事実なのです。ただし、クレーマーは別です。あれはクレームを言うことに喜びを感じている人たちです。それに乗る必要はないです。 何を申し上げたいかというと、いろいろ種類がありますが、クレームはまずは聞くということ。そして、「またクレームだ。」とはねつけるのではなく、まず聞いた上で、やはり違うなと思えば、のしをつけてお返しするかどうかはともかくとして、まずは聞くという姿勢が大事です。 そして、理不尽なことを言っているが、よく考えたら本当に理不尽なんだろうか? うちに問題はないんだろうか? このときいちばん大事な判断基準は何かというと、素直な心で見るということなのです。「素」もとの心です。素直な真っ直ぐな、もとの心でみていく。そうすると何が正しくて、何が間違っているかというのは、そんなにずれません。ですから、素直な心でみるということで対応されたらいいと思います。 それからファンに対しての対応。こう申し上げたい。「いつまでもファンである保証はありません。安心はしないでください。」 より満足を届けるためにどうしたらいいかをやはり工夫し続けていただきたい。 クレームの多い人とファンの人と両方集めて、一緒になって商品開発、サービス開発したら、素晴らしいものができる可能性があります。 今日はナレッジ・マネージメントの話はしませんでしたが、企業がいちばん活用すべきは、もちろん社内のナレッジ。もうひとつ大事なポイントというのは、お客様の知恵を活用することでしょう。そこに無限の宝物があるわけで、そのお客様の知恵を活用するという観点に立つと、クレームの方もファンの方に対しても、やはり姿勢が違ってくるのではないかなという感じがします。 質問:トップとボトムのギャップを埋めるための手法について、もう少しコメントください。ちなみに私は中間管理者で、トップ、ボトムの間でいろんな意味でギャップが生じているのに気付いているつもりです。 これはなかなか繊細な方です。「気付いています」ではなくて、「気付いているつもりでいます」という。多分多くの方は、ほとんど気付いているのです。 どうやったらギャップを認識させることができるか。さっきの例がそうなのです。ギャップがあるということは、実際に調査してもらうとすぐ出てきます。それを口で言ってもだめです。 それからもう1つ。質問していただいた方が、トップに向かって、「○○さん、あなたと部下の間にはギャップがあるのです。全然だめです。」と言ったら、「そうか。明日から来なくていい。」と言われる可能性がありますから、いちばんいいのは、第三者をからませることなのです。やはり第三者をうまく使うことです。第三者に頼るのではない。コンサルタントを期待してはいけません。こっちがシナリオを作って、第三者、コンサルタントにこっちが言わせるぐらいの知恵がないとだめです。コンサルタントが何かいいアイディアを持ってきて、それをやったら儲かる。だったら、そんな人はコンサルタントをやっていません。自分でやります。絶対当たるという予想屋さんがいます。「じゃあ、あんた買っているのか?」と言ったら、誰も買ってなんかいません。そうでしょう。それと変わらないじゃないですか。ですから大事なのは自分の判断であり、自分の知恵であります。そっちに重点を置いたほうがいいです。 あともう1つは、アンケート調査もそうですが、直接コミュニケーションをさせるのが一番いい。直接話す。ただしこのときに、上の方に度量や勇気がないとだめです。もしそういう場をセットできたとしたら、経営トップに対して、こういうふうに言ってください。「申し訳ないですが、今日はひたすら黙って、聞きつづけてください。」 ほとんど禅寺に入った修行だと思ってくださいというぐらいの感じです。これは経営トップの方には難しいのです。多くは、1つ言うと10ぐらい言い返します。実は言い返しても、何の解決にもならないのです。大事なのは、さっき申し上げたように聴くことです。 上の方に度量がない場合は、コミュニケーションができるか? 結論から言うと、もうだめでしょう。その前に会社を変えることを自ら考えるとか、そういうダイナミックな発想がこれからは必要になるかもしれません。 自分で爆弾を抱えて当たる方法もあります。そうしたら意外と、飛び散って1つの宝が出てくるかもしれない。そのときに大事なのは、今日の鬼澤さんではないですが、やはり情熱と私利私欲を捨てた思い、「志」が鍵でしょう。自分をよくしたい、よく見せたい、評価されたいというのでやっても、人は動かないでしょう。やはりひとつの高い志を持ってやるということで、多分初めてできるのだろうと思います。 私自身はいろいろな企業に行って、トップと現場の社員との間での第三者になりまして、コミュニケーションの場を作って、そこに参加させてもらったりしています。トップがカッとなって言いそうになると、第三者だと「はい、我慢して!」と言えますから、第三者がいるとすごく楽です。これが会社の人が言えるか?「一応、私が取り仕切ります。はい、我慢して。」と言うと「うるさい!」と言われてしまいます。これは難しいです。 直接コミュニケーションする。アンケートみたいな形でやる。もしくは第三者を入れる。こういったふうに考えるといいかもしれません。 質問:末端の作業者(全然お客様との接触、接点のない人)が、自ら作業の中で価値を見出すためにはどうすればよいか。お話の中で、それは上司が与えるものだとありました。お客様ではなくて、どの部分を対象にすればよいのでしょうか。 結論から言うと、一番良いのは直接に近い形をとる。もしくは、直接なのです。だから例えば、否定的でも肯定的でも、お客様から何か反応や意見があったら、現場の作業員に伝えていますか? ほとんどの企業は伝えていないです。それからもう1つは、現場で作業している人に一番良いのは、作っている商品そのものを使っているところを見ていただくことなのです。これはある企業でやっています。年に1回、現場作業員が日本全国を手分けしてまわって、実際にお客様を訪問して、使っているところのご意見を伺いに行く。素晴らしいです。そういったところに、時間とお金をかけてほしいと思います。普通はそんなことをやるより、売り込まなければと思うでしょう。これが急がば回れなのです。現場の作業員の方たちが、「ここでお客様はこういうふうに使っているのか。」というのが分かったら、物への作り方の情熱や思いが変わってくるのです。それをただ、「お前らは言われたとおりに作れ。」 私に言わせれば、これは人としての扱いではないのです。やはり人なのです。ですから、その人たちも自分の価値を高めたいし、価値ある仕事をしたいと思っているでしょう。そして自分たちの生み出したものが、どこまで価値を生み出しているかどうか、やはり直接見ていただくのが一番良いのです。 この前も面白かったです。ある企業に行って、営業側と作る側といろいろ討議してもらいました。作る側の取締役が、「私たちは、なかなかお客様の声を聞くことができないのです。どうしたらいいでしょう?」と真剣に言うのです。「そんな悩まないでください。聞きに行ったらどうですか?」 すごく単純です。要は聞きに行きたくないのです。「聞きに行ったらどうですか?」 「いや、それはやはり・・・。」 次の言葉が出ないです。本当は「やりたくない」と言いたかったのでしょう。でも、そうは言えませんから・・・。だからすごく簡単で、直接現場を見たり、お客様を見たり、これが一番良いです。そういう場を定期的に作る。そして実際に現場に行ったならば、その評価と声を出してもらって、さらに良くするにはどうしたらいいか。これが自主性、創造性を育むことでしょう。こういうふうにやっていったらいいです。 この前も面白かったのは、新潟に全国でも有名なお煎餅の会社があります。あそこが何をやったかが新聞に出ていました。ともかく、経営幹部全員が売り場に立て。メーカーでありながら、全員売り場に立て。新社長が出した方針です。そうすると立ってみて、物を作っている責任者や現場のマネージメントが初めて分かったそうです。何が分かったと思います? 袋の中にお煎餅がいっぱい入っていますでしょう。大きな煎餅が割れている。そうすると、営業がクレームするのです。「割れない煎餅を作れ。割れていると商品として売れないぞ。」 すると、作る人は何と言うか。「別に割れていようと、味は変わりません。どっちも同じでしょう。」 実際に売り場に立ちました。割れているものは売れない。全く発想が変わった。直接現場に立って、ほんのちょっとやっただけで、もうそれが腹の底に落ちるのです。これを営業がいっぱい言っても、どういうふうに製造側が思うか。「お前らは言ったとおりに、ちっとも売らないじゃないか。お前らのおかげで、すぐ不良在庫ができて、この嘘つき集団め!」なんて作る側は思っているわけです。 だからどうしたらいいか。作る人が自ら現場に出て行って、見て、直接お客様と対話していたら、100の説法より、情報を見せるより早いです。すなわち、直接体感していただくのが一番良い。それをやっておられましたでしょうか? 物作り? あんたらは作ればいいんだ。ひたすら生産性を上げて、コストを下げて作ればいい。それは人に対しての認識が違います。そういう感じがします。ですから、今私が申し上げたようなことをやったら、どうなると思いますか? 必ず逆に、はるかに生産性は上がります。クオリティも上がります。やはり気持ちが入ってきますから・・・。 まだ5分の1も紹介していないという、恐ろしい状況です。 質問:自らの気付きを経営幹部に報告するときに、従業員の立場からすると難しいと思います。(大久保:確かに難しいでしょうね。)セミナーに参加して気付きを得たものと違いの差。(大久保:すなわち経営者は出ていないが、私は出たけどどうしようか。こういう話です。)これをどう埋めるべきか。全員参加の社外研修は難しいです。 すごく簡単です。今日のこの話を聞かせたいのならビデオを撮っておりますので、そのビデオを見ていただければいいです。それでも嫌だと言ったら、こうしてください。「私も一緒に見るから、冒頭の15分だけでもいいから見てくれ。」冒頭の15分を見て、つまらないと切るようだったら、これはもうしょうがないとその方は諦めてください。感性の問題ですから。これは面白いなという感性がなかったら、所詮最後まで見てもだめかもしれない。最初から「1時間見てくれ。」と言うと反発を食らうでしょう。「冒頭15分だけでいいから見てください。私も一緒に見ます。」これをやってみてください。 ちなみに私のビデオは数十種類あります。生産性本部でも相当売っています。売れても全部奉仕でやっていますから、私に身入りはないのですが・・・。そういうビデオをうまく活用する。つまりこれも第三者の力を借りるということです。これをされたらいいんじゃないかと思います。 質問:市場、お客様の理解度を測るためのアンテナは、経営者と社員は同じ尺度から見ると、コスト管理側とのギャップは必ず出てくると思います。中小企業経営者へのアドバイスをお願いします。 コスト管理とお客様の思い。コスト管理というのは、当たり前なのです。人が無尽蔵、予算も無尽蔵。それでCS。そんなのは経営じゃないのです。どうやって効果的に、効率的に、物事を進め、使っていくかという観点で、その中でもさらにお客様の満足を上げていくかということです。 前回来たときに、ヤマト運輸の話をしましたでしょう。「翌朝10時までに届けます。」 「そんなことをやったら、そこに人とトラックが集中して、この会社は赤字になる。とんでもない!」 しかし現実には10時までにお届けするということで、一回でお客様に届く率がはるかに高まって、CSが高まって、そして経費が削減できました。こういう例をご紹介しました。巷には、そういういろいろな例があります。お客様の満足を高めていきながら、さらにコストを下げる。実はこここそが、知恵の使い方というか、出し方、ポイントなのです。だから、「CSというとコストアップだ。それは経営者としては問題があるから、なかなか難しい。」この発想は違うということです。 そしてもう1つは、日々の活動の中で、コスト削減は当然やっていかなければいけないのです。当たり前なのです。それを無理難題だとか言ってはいけません。しかしそういう中で、「常にお客様の視点でさらに満足していただけるために、日々の活動で何かできないか?」こういう思いで日々仕事をするのと、「これはコストがこれだからもうだめだ。」と思うのでは、結果が違ってしまうのです。だから日々の活動の中で、常にお客様の立場を十分に意識しながら、だからと言って全部それに応えられるというわけではありませんが、そういう観点で仕事を進めていくということがいいと思います。 質問:当社は中間流通業です。より安い単価を求められる立場で、低下分をメーカーにシフトする方法が従来の一般的なやり方ですが、これを社内で吸収しようとすると、人の削減に直結し、ESと相反してしまいます。(大久保:難しいところですね。)CSとESを同時に成り立たせる方法はないのでしょうか? また、違う意味でのCS、ESはあるのでしょうか? 経営は遊びではないということです。それで厳しく申し上げれば、組織の中において価値を生まない人は、いてはいけないのです。所詮組織というのは、全部が価値を生む集団にはならない。2割ぐらいはいいのです。でも、3割も4割も価値を生まない人がいてはいけない。そして、価値を生んでいない人をそのまま雇うことを、真のESだとは私は思っていません。何でそう言うかというと、その人が価値ある人生を生きていないからです。だから、価値を生み出すような仕事を与える、仕事の場を与える、環境条件を作っていくということが大事と思います。 削減しても売上げも何も変わらないで、削減した分だけ利益が上乗せされましたといったら、これはどういうことか。結局は、所詮価値を生んでいなかったということです。本来削減するというのはどういうことかというと、それで会社ががたがたになり、売上げが下がるというのが正しいのです。それがなぜ人員削減しても、売上げがそのままかといったら、実はその人たちだけではないかもしれませんが、その人たちが価値を生んでいなかったからです。 例えば、コンサルティング会社だったら、1人1億稼ぐ、10億稼ぐというコンサルタントがいっぱいいます。それなりのレベルになると、年収1億なんて人も随分いるわけです。それを人員削減だと言った途端、ストーンとそのまま売上げが下がる。そうでしょう。そういう意味では、価値を生み出すことをしていないということです。だからその人たちに対して、そのままの状態でESというので満足を高める、雇ってあげる、給料も従来どおり払うのは、正しいことだとは思いません。 これからは、価値を生まない人が1つの企業、組織体に残れる時代ではなくなったのです。これは私がよく申し上げているように、今まで日本は社会主義だったのです。これからは自由主義です。社会主義は、価値を生まない人と組織がたくさん存在できました。しかし、自由主義市場ではそれはもう無理なのです。価値を生まない企業は消滅していく。価値を生まない人も、簡単に言えば、ただ良い会社に入ったというだけで、何もやっていなくても高給を取っている人はどんどん下がります。当然です。そういうふうになっていくのです。 もちろん、一長一短あります。価値を生まない人も同じようにやろうじゃないかというのも、1つの考えです。でも、時代は違う方向に明確に動いている。すなわち、実力、成果主義にどんどん近づいていきますから、やはり価値を生まない人をそのまま置いておくことではなくして、いかに生むように変換するか。経営側や管理者がそういうふうに仕向けるか。環境条件、場を作っていくかということが大事だと思います。 組織にはいろいろありまして、価値を生まないだけならいいですが、生んでいる人の邪魔をする人がいますから、いわばマイナスの価値というやつです。例えば物事を進めるときに、分かったと火をつければすぐに燃えるタイプと、いつまでたっても燃えないタイプがあるのですが、実は燃えているのを消して歩く人もいるわけです。実はこれを信念を持ってやっている人がいます。「あれやっちゃいけないんだよ。」と使命感に基づいてやる。もう無茶苦茶です。これは自分が見えていないのですが。これが間違った使命感、すなわち、時代の変化の流れを読み違えてしまっている。しかし、情熱と行動力はある。最悪です。ただしそういう方が変化されると、いちばん説得力があるのです。 かくいう私も、今でこそ経営品質賞だ、なんだかんだやっていますが、日本IBMにいたきに、マルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)の審査基準を使って社内のアセスメントをやることになったときに体を張っていちばん反対したのが私だったのですから・・・。「社長、そんなことをやってはいけません。会社が悪くなります。わたしは絶対やらせません!」と体を張りましたが、結局張り倒されて通されてしまいました。そしてやってみたら、「なんだ、そんなに勉強になるのか。」というところから、だんだん変化していったのです。 というのは、いろんな何とか賞というのにチャレンジしそうになったことがあったのです。簡単に言うと、社内で厚化粧大会をやりまして、何とか賞にチャレンジするというのは仮装大会みたいなものかという感じを持っていました。遠くから見るとえらい美人だというので、よくそばで見たら、「なんだ男か」と、これが社内で表彰されるわけです。だから、化粧の技術を競ってもしょうがないじゃないか。こういう思いがあって、それと同じ事をやると、私は最初勘違いしてしまいました。それで体を張って反対したのです。 しかし、全世界に米国の業務命令で来てしまって、どうしようもなくなってやったのですが、人生分からないですね。それが何のことはない。日本全国に広める旗振り役の1人になろうとは、誰も思っていなかったです。そして今や、信念の人と言われています。「これは間違いない。無料です。使ってください!」 面白い質問があります。これは短時間では答えにくいですね。 質問:大久保さんは会社をなぜ辞めたのですか? これは語ると長いので、この後に懇親の場があるそうですから、場合によってはその場でお話します。 1年前まで辞めるつもりは全くなかったのです。それから、「随分プレミアムが出たろう。」いいえ、早期退職のプログラムは今ないので、何のプレミアムも出ません。何にもない時に辞めてしまいました。簡単に言うと、時期がそうなったのかなとつい思ってしまった。そして思ってから3日間で結論を出してしまったという、極めていい加減というか・・・。 簡単に言いますと、今、会長になった北城さんという人が社長の時に、ずっと一緒になって会社の変革をしてきました。会長になったというのは、昇進です。アジア・パシフィックの総責任者、もうちょっとしたら、そのまま米国本社のシニアバイスプレジデントになるパスですから、そこに一緒になってサラリーマンとしてついて行けば、こんないいことはない。北城さんからは「一緒にAPに来てくれ。」とも言われました。いろいろ言われたのですが、「時の節目だな。北城さんが代わられたのだったら、辞めるか。」と極めて軽い(?)決断です。 それと勿論、社外でいろんな所から「アドバイスに来てくれないか。」というのが、正直申し上げて、ものすごい数ありました。でも実際、辞めて来てくれないかと言われていても、実際に辞めたら「本当に辞めちゃったの?」というのが世間でよく言われる話です。ですから本当に大丈夫かな?と思いましたら、実は歩止りが150パーセントとか、200パーセントという感じです。ですから今、いろんな所からアドバイスしてくださいとご依頼いただいていますが、全部お断りしています。やはりアドバイスの質を下げたくないものですから・・・。 会社を辞めたのは、北城さんと一緒になってやってきて、その彼が代わられたから。だから、彼も別の会があったのを抜け出して、わざわざ歓送会に来て下さいました。非常に嬉しかったです。「明確に一時代を作ってくれた。」という、素晴らしいスピーチをいただきました。 人というのは、何かそういうタイミングというのがあるのではないか、と思っています。ですから、ひとつの時が来たのかなという感じです。 次の質問、面白いですね。 質問:忙しさは、会社の時代と比較していかがなものでしょうか? 会社の時代の方が、まだ余裕があった感じがしています。1年先まではいきませんでしたが、それでも、サラリーマンの時も半年先ぐらいまではスケジュールがほとんど詰まっていました。今、1年先ぐらいまで詰まるようになってきました。しかしある意味では、忙しくはありません。この間も申し上げたように、忙しいというのと、スケジュールが詰まっているというのは、全く別です。だから忙しくはないですが、スケジュールはちょっと過密になっています。サラリーマンの時代も、週に4、5回ぐらい外で講演をすることがありました。それは本業ではありませんから、事務所に戻ったり、家に戻ったり、夜中までメール処理する。事務所に出たってメール処理ですから、何も変わりません。今だと、鞄の中にモバイルを入れておいてそれでやっている。だから事務所はどこですか?といったら、すごくかっこいい表現をしています。「サイバー空間です。」とか言っています。 私の名刺には、住所と電話番号は書いてありません。あるのはEメールアドレスだけです。サラリーマンをやっているときも、電話での受け答えはやっていなかったです。9割5分、席にいませんから、不可能なのです。メールだったら、絶対に見れるのです。だからこういう手段ができたからこそ、自分みたいな形でのワークができるのかな。だからSOHOでもないです。Small Office Home Officeでもない。動く電車の中であり、飛行機の中であり、それが事務所そのものです。だからサイバー空間であれ、自分の頭脳が事務所そのものだという感じです。ただ、あまり名刺は評判がよくなくて、住所と電話番号が書いてない方って、どういう方が多いかご存知ですか? 国会議員と、総務部門が対応される方なのです。そういう方が大体名前だけなのだそうです。だから「これ、雰囲気よくないぞ。」と随分言われてしまいました。それも古めかしく、縦書き、太い字でビシッとやったら、「ほとんど○○組と同じだぞ。」と言われてしまいました。ちょっと、横書きにしようかなと思っています。ちょっと話がそれましたが・・・。 これは随分と出てきていますね。 質問:より良いコミュニケーションの進め方。 質問:コミュニケーション診断シートのよい点をもう1つ。 これも申し上げました。 もし何なら、鬼澤さんに、1部だけ診断シートをプレゼントいたします。無料です。相当の知恵の結晶です。その質問項目だけで、5回ぐらい改訂しています。これをそのままお使いいただいて結構ですから、うまく使ってみてください。本当はその1つずつに、15分や20分解説を入れたいのですが、それは今日できませんので、鬼澤さんに後でメールで転送しておきますので、欲しい方は彼にメールで依頼する。メールの方が簡単ですから、直接電話で依頼するなんていうのは、やめた方がいいです。この時代にまだメールを使わない、使えないという人がいます。私からすると、電話とFAXは嫌だと言っているのと同じです。使わない手はないです。電話やFAXと同じですから、是非使うようにして下さい。別にコンピューターメーカーにいたから、そういうことを言っているわけではありません。 質問:サラリーマン経営者が、経営品質に取り組む重要性に目覚める有効な方法。いわばきっかけといえるものを示してほしい。 はい。経営品質に取り組む素晴らしい一番のきっかけは、毎年2月にやる、日本経営品質賞の報告会に出ていただくのが、いちばん早いです。会場はものすごい熱気です。これは、参加した人みなさんそうおっしゃいます。その報告会ができる前というのは、あるレベルの人は全員に100万円単位でお金がかかりますが、米国のマルコム・ボルドリッジ賞の報告会に出てもらったわけです。いちばん本当になってやるというのは、やはり熱が伝わらないとだめなのです。情報が伝わってもやらないのです。 この勉強から何が成果で出てくるか。今推測できたと思います。経営品質にいちばん目覚める方法は、そういう報告会に出ていただく。それから、例えばリコーの田村さんや、千葉夷隅ゴルフクラブの加藤さんなど、説得力のある人の話を聞いていただく。あの人たちのビデオも、私のビデオもあります。さっき申し上げたように、そういうものを見ていただく。 いちばんすごいのは、この審査基準書を見てすごいと言っていただけたら、これまたすごいのです。ただ100人の内、99人はおっしゃいません。「これは何なんだ? 日本国の憲法に近いくらい、よくわからないぞ。」というのがほとんどでしょうから、そういう場合には、宣伝になって大変恐縮ですが、この本(『経営の質を高める8つの基準』)を見ていただく。これは分かりやすく書いてあります。これは全部読む必要はありません。「経営トップはパート1の20ページで結構です。」と書いてあります。20ページ読んでパート2まで読まない人は、ちょっと寂しいですが…。パート1だけでいいというのは建前ですから、最低パート2まで読んでほしい。 それから、何人かにご質問いただきました。「大久保さん、今年は改訂版出ないのでしょうか?」 出ません。書く余裕がないということです。もしくは、審査基準書が99年版と2000年版とほとんど変わっていないのです。来年大幅に改訂する可能性があるので、それと、この中のアセスメントの方法より、カテゴリーの解説が4年ぐらい前に書いたので、もっとたくさん入れ込みたいのです。ですからそういう意味で、来年に大改訂版を出したいと思っておりますので、改訂版が出ないからまだ買わないという方、今日買っていってください。これしか今年は出ません。ただ、基本的なねらい目は変わりません。 ある方がこうおっしゃってくださって、嬉しかったです。「この本を何度も読んで、もう手垢で汚れてこの中が黒くなっています。」感動です。本なんていうのは1回読むか、読む前に捨てられることが多いわけです。そこまで読んでいただいている。きっと成果が出てくるでしょう…。 今のは、結構厳しいチェックだったのですが・・・。まあ、ちょっとやめます。成果が出ないと意味がないのです。勉強だけでは意味がないということです。 質問:目先の業務に追われ、CSの考えを継続することをつい忘れることが多いです。(大久保:そんなものでしょう。)システムが出来上がっていないことにつきますが、何か継続するための策はありますか? 策はない。策があるなら、その策を買ってくればいいかというと、そういうものではないです。CSというのは考え方であり、思いであり、やはり熱なのです。だからその思いを持ち続けるというのは、いちばん大事です。それから、「目先の業務に追われ」当然追われます。日々の業務に追われます。だからこそ、このアセスメントということで、今自分のやっていることを経営の視点全部から見てみるというのは、ものすごく価値があるのです。ですからここで申し上げたいのは、策はありませんが、大事だと思っている人が、大事だと大事だと100回でも、200回でも、1000回でも訴え続けるということが大事ではないかと思います。 長い質問もいっぱいありますね。 質問: 顧客満足を重視するために価格競争が激しくなり、生産側の原価が追従していけなくなる可能性があります。このような場合のCSをどう解決、あるいは考えていけばよいのでしょうか? はい。簡単と言うと失礼なのですが、この間もあるところでご質問いただきました。「価格競争の中で、価格破壊で大変です。この中でどうやって経営して、CSだというのでしょうか。」はい、簡単です。まず、価格競争で価格破壊というのは、メーカー側の論理であって、消費者、受け手の論理ではないのです。価格破壊というのは、プロダクトアウトの言葉です。お客様からみたら、単に安くなったというだけの話です。さっき話したように、お客様を層別していかなければいけない。その中で徹底的に安い価格のみがいいとなったら、安い価格で提供できても、利益が出るプロセス、仕組みを作っていく以外にないのです。ごちゃごちゃ言ったってだめなのです。もしくは、価格競争を超えた付加価値を提供できるか。この二者択一です。 「お客さんはともかく値引き要求で大変なのです。その中で私たちは赤字になって倒れてしまいます。」 どうしますか? 値引かれないものを提供するか、値引かれても利益が出るような仕組みを作る。これ以外にないじゃないですか。それは悩むことではない。考えることなのです。 悩んでいる人は、考えていないのです。ご存知ですか? 大脳生理学では、悩むことと考えることは並行処理できないといわれています。ですから、考えている人は悩まないし、悩んでいる人は考えていないのです。会社の中で悩んでいる人というのは、何も考えていないで、仕事しないで給料をもらっている方です。大変ハッピーな方かもしれませんが、そういうのはよくないです。 やはり仕組みを作っていく以外にないのです。それと同時に、お客様を選択して、より高い付加価値を理解していただくようにする。もしくは、理解していただける方にお売りする。お客様が企業を選択する時代ですが、企業もお客様を選択する時代なのです。価格だといったら、価格でやるしかない。 質問:私の会社は、家電製品の製造ですが、(大久保:今日、家電製品の製造といったら、何となく雰囲気的に分かりますね。)お客様との間には、本社、営業、特約店、販売店があります。したがってお客様の声、ニーズを聞くのは、製造の立場から大変難しいと思いますが・・・。 これはさっき答えました。簡単です。作っている人が使っている人の所へ行けばいいのです。全然難しいことはありません。これを言っても、10の内9社はやらないです。「いいことだ、目からウロコだ。」と言います。さっき申し上げたでしょう。ウロコはすぐつくのです。ひどい人になると、会場を出たときにもうウロコがついています。これはしゃべった方としては、大変情けない思いです。何のためにウロコを剥がしたのだろうか。 リコーの田村さんは、「大久保さん、僕は違うと思うな。ウロコというのは、100枚ぐらいあるんですよ。」と言っていましたが・・・。 質問:IT革命、インターネットの普及で、ビジネスそのもの、また組織そのものが急速に変わっていくことを認識しています。(大久保:そのとおりです。全く変わってしまうのです。)お客様との関係も、お客様中心に大きく加速するのではないかと考えています。(大久保:そのとおりです。)こうした新しい技術と組織の変化について、大久保さんのご意見をお聞かせください。 そのとおりです、という話です。これでおしまいということで、次に行きます。まだいっぱいあるもので、すみません。 質問:研究開発部門として、特に留意すべき点やアドバイスはありますか? 研究開発部門は、自分で象牙の塔に入らないでください。それから、常識と従来の教科書を逸脱してください。研究開発部門も、どんどん現場に出ていってください。お互いに知恵を共有化するように、コミュニケーションを良くしてください。いくらでもあります。 質問:お客様に喜ばれる経営を実現していくために、まず的確に要求、要望を把握していかなければいけないと思いますが、(大久保:そのとおりです。)その答えの1つとして、経営陣自らがお客様に直接聞いて歩くことが大切であると、前回おっしゃっていました。(大久保:よく覚えていただきました。)また、IBM時代にそのスキルアップのための研修をしたとおっしゃっていましたが、その例を1つ、2つ教えてください。 さっき言ったコミュニケーションです。言いながら、話を聞きながら、相手が建前か本音か、もっと本質の思いはどこにあるんだというのを把握するようなスキルアップをしていかないと、やはり聞いても分からないです。お客様も建前で言うかもしれませんし・・・。「今日は是非、お聞かせください。」「いやいや、おたくの営業はよくやっていただいていますよ。」なんて言って、実は現場レベルでは殴り合っているというのは、よくある話です。経営トップ同士でやると、そうなってしまいます。ただ、ここに書いてあるように、経営トップ自らが、定期的にいろいろなお客様を訪問する、現場を訪問する。これは是非やっていただきたいです。工場長、研究開発部門の長だって、やっていただきたい。全部がお客様の接点にいくべきなのです。これは大事なメッセージです。 まだたくさんありますが、もう時間がありません。とにかく長くやると絶対満足度は下がるのです。ですから、本当は早めに終わりたかったのですが・・・。 ここだけをちょっとやって終えたいと思います。 今日のこの会も勉強会でしょう。勉強だけでは成果につながらないのです。勉強して知識がつくでしょう。知識もつかないまま終わっているケースもありますが、ほとんどの教育はここ(知識)でおしいまいなのです。世の中の教育は、ほとんど役立っていない。なぜか。知識で成果につながりますか? つながらないです。人は納得しないとだめなのです。それも感動して、納得するといいです。そうするとどうなるか。感動した納得で、初めて実践、行動するのです。こうして初めて成果につながるかといったら、つながらない。何が必要だと思いますか? 継続です。1回だけではだめなのです。そして成果にいくのです。これだけのパーツがある。多くはほとんどここ(知識)でおしまい。だから目からウロコで、またついてしまう。何もやらない。大事なのは、正しいことを正しくやるということです。やるのも、継続してここにフォローのプロセスがいります。レビューの仕組みがいります。そういったことで初めて成果につながるのです。私がよく勉強会で申し上げているのは、「勉強は止めてください。成果につながりません。大事なのは、実践することです。」アセスメントもそうですが、実践することです。やっていくうちに、スキルというのは身についていきます。まず、やっていくことです。お互いに、学びを共有化していただきたいと思います。 残念ですが、時間になりました。終わらせていただきます。ありがとうございました。