組織力を高める鍵 ~コミュニケーション~ / 2003年6月(設立3周年記念講演会) 組織力を高める鍵 ~コミュニケーション~ 大久保 寛司 氏 みなさん、こんにちは。今日は5時までお時間をいただきました。質疑応答含めて5時までということでお話をさせていただきます。 何を話そうかなということで茨城では毎回迷うわけですが、いつも申し上げていますが、大事なのは講演が役立つかどうかというのは聴く方の能力です。これは本当にそうなのです。 この間も私の友人が、ある会社で50人ぐらいを対象に2日間のセミナーをやりました。なんと49人の方が感動のメッセージを書き連ねていました。僕も感想を拝見しました。大袈裟に言うと人生観まで変わりましたというようなコメントが多数ありありました。CSとESを軸にしたセミナーだったのですが、その中で1人こういう人がいました。「全部無駄であった」という感想の方です。49人が感動しても、全部無駄であったという見方もあるんだなということです。 ですから聴く方の能力だということです。そこに気付いていただきたい。ここに気付かないとまた次に進めないわけです。 今日は「組織力を高める鍵」ということで、結論から言えば実はもう演題に書いてありますように、コミュニケーションそのものが最高の鍵なのです。このことをこれからゆっくり深くご紹介していきたいと思います。 ☆激動する変化の流れを観る とにもかくにもここに集まっておられる方はまず企業を良くしたい、間違ってもうちの企業を破滅させたいという方はいらっしゃらないと思います。どうしたら良くなるかということをお考えの方、もしくはそういう問題意識をお持ちの方が多いと思います。やはり組織が生きていく、企業が生きていくというのは変化対応です。ですから変化にどう対応していくか、このことが重要になります。 今、世の中激変しております。例えば一昔前は中央省庁の官僚の方というのは尊敬の眼で見られていたと思います。日本は官僚が優れているからここまで来たのだと。今何と言われているか。「彼らが諸悪の根源だ」という具合に言われるぐらいになってきたわけです。 大きな銀行というのはもう安定の象徴でした。最近どうでしょうか? どんな大きな銀行がガタッと傾いても、「あっ、そう?」ぐらいの感じであまり驚かない可能性が高いわけです。不安だということで、最近は銀行から預金を引き出して銀行を何に使っているかというと、金庫代わりに、金庫として使っている人が結構増えてきたというわけでしょう。信じられません。それを見ていた銀行員が、「そんな所に入れるんだったらうちに預けてください」と言ったら、「おたくに担保はあるのか?」銀行の方がそのように言われる時代なわけです。そうすると思わず返答ができなかった行員という・・・。この方は大変正直な方だと思います。 保険でもそうです。第一生命さんが日本経営品質賞を受賞されましたが、社長がおっしゃっていました。昔は保険を売るのは簡単だった。「お宅のだんなが死んだらどうするんだ。困るでしょう? はい、ハンコを押してください。」30秒で話が済んだそうです。今はそうはいかない。長く生きてしまうことによっていかに苦労がたくさんあるかという話をしていかなければいけない。「だから保険に入らなきゃいけないんだ」という説明がものすごく難しいと言っていました。「死んだらどうするの?」というのから、これからは「生きちゃうんですよ、どうしますか?」と。そして最後に何と言われるかというと、「確かに長生きするというのは分かったけれど、おたくの会社は生きていけるのか?」と言われてしまう。そうするとまた自信を持って大丈夫ですと言えないわけです。 ご承知のように今の状態では大きな保険会社もガクッとなってもおかしくない。激変しているわけです。全く世の中の有り様が根底から変わり出しているわけです。 その中でどうなっていくのか。世の中というのは常に変化しているわけです。変化していないということはあり得ないわけです。激変しているとしたら、その激変を超えて自ら変化していかなければいけないわけです。 変化にもいくつかの対応があると思います。いちばん理想は変化を創り出す、リードするというのがベストです。2番目はその変化に何とかついていくということです。3番目は後ろからちょっと突き放されちゃうかな、置いてけぼりを食ってしまう。多分この最後の方というのは組織として生きていけなくなるんじゃないかなと思います。 変化ということではもう1回目からずっと申し上げていますが、いちばん大きな変化というのは何かというと、全てのビジネスにおいて供給側、売る側から買い手の側、受け手の側に主導権が移った、これが基本なわけです。ですから全ての商品、サービスに関しての主導権は受け手にあるんだということです。簡単に言えばお客様です。ですから全ての根底をお客様から考えて見ていかなければいけません。お客様本位、これはまさに経営品質賞の基本の考え方の一つ、中核にあるものです。まずお客様があってビジネスというのは成り立つわけですから、全てお客様から見ていく。これがポイントです。 実はこれ一つを本当にやり切ったら随分変わります。いろいろ拝見していますと、いまだに「お客様の方から見れていないな、やはり自分たちの立場で物事を考えてしまうんだな」ということを折に触れて痛感します。 この間もある企業にお邪魔させていただきました。ある商品を設置した所をその後訪問して聞いてみたのです。そうしたらいろいろ不具合があったので、戻ってきて技術の担当者を呼んで「不具合があるぞ」と。すると「それは前任の誰それさんが担当の時の商品ですね。」これがまず第一声です。それから2番目は「今はもうその商品は直っていますので全然心配はありません。」3番目に何と言ったかというと「元々設置の仕方が良くないんじゃないですかね?」聞いて愕然としましたと。お客様の視点は全くない!全部自分たちの視点だということを言っていました。 ちょっと古い話ですが、ある家電メーカーが米国で商品を売り出した時にどんどん戻ってきてしまう。不良品として戻る。あまりに戻ってしまうのですが、実は工場で検査すると別に不良品ではない。しょうがないから購入されたお客様の後をついていってじっと見ていたら、取り扱い説明書を見ながら器具を設置するわけですが、その取り扱い説明書がよく分からないわけです。そうするとパタッと閉じて返品となるわけです。 これは不良品でしょうか、良品でしょうかということです。研究所、開発・製造部の方は「壊れていないのですから良品です」と。これは研究・開発・生産の部門の立場です。お客様の立場から見ると、設置できませんからこれは不良品になります。いくら本体が良くても不良品です。そういう発想を持てるかどうかなのです。実は企業はいまだに良品ですと言っている人が多いのです。いまだに企業の立場で見ています。全部お客様の立場で見なければいけないのです。買うのは目的ではなくて手段です。設置して楽しみたい、それが設置できないとなったらそれは不良品です。目的が達成できないのですから。 こんな話でしたらいっぱいありますが、何を申し上げたかったかと言うと、いまだにお客様の視点に立てていないなと。だからこそ私からすればビジネスチャンスだなと思います。なぜか?お客様の視点に立ったらいくらでも満足を提供できますから、発展することは可能だということです。 みなさんご存知ですかね。この間、日経ビジネスにも出ていましたが、群馬県太田市の清水市長という方はすごい方です。マスコミによく出てこられるのでご覧になった方も多いかもしれません。2日間その方とご一緒する機会がありました。すごかったです。 この間3期目の当選をされたばかりですが、最初に市長に当選した時、第一声がすごいです。1300人の職員を何年か以内に1000人にすると。それからじーっと職員を見ていたら、ろくに有給休暇をとっていない。みんな長期有給休暇をとれと。それから市役所はサービス業だから土日を全部開けろ。人を減らす、休め、土日は開けろと。すごいです。2月28日の日経の一面に出ました。「群馬県の太田市、全庁土日オープン。」住民票だけ出すのをどこかのスーパーの中で一部オープンというのはあるわけです。全庁オープンというのは日本で初めてです。土日全部オープンにしています。職員は減りました。もちろんクビにはできませんから退職の補充を少なくするという格好です。現実にこのようなことを行政の世界で実現された人がいるのです。 この方の話を伺っていて感動の連続でした。簡単に申し上げれば、21世紀の自治を実現されている方です。自治、これは何か。自治というのは本来「自ら治める」です。ところが日本は戦後どうなったかというと全部お上頼りになりました。ですから何か地元で不具合があると、役所は、国は、県は、と言います。全部自分以外のところに投げます。江戸時代は自らで全部治めていたわけです。群馬県の太田市というのはまさにこれをやっています。住民が主体でやっているのです。 この市長さんがすごいのは、お話を伺っていて最初分からなかったのですが、「うちのお客さんは・・・」と実は「市民」という言葉を使われないのです。「お客さん」という言葉しか使われませんでした。 例えば評判の悪い第3セクターがあります。日本で全部集めたらいくら不良債権があるか分からないという第3セクター。最近作った3つの第3セクターは全部黒字です。「なぜ黒字なのですか?」と聞いたら、市長の清水さんの返答が素晴らしいです。「黒字になるようにやっていますから」と。聞いていても全然参考にならないのですが・・・。 880戸の太陽光発電の住宅団地というのを作っています。これももともとは県が従来型の一戸建てをやろうとしたのですが、売れそうにないというので市で引き取ってくれと、どうも開発予定の土地を投げ出したらしいのです。 880戸の一戸建て住宅団地、今はどうなっていると思いますか? 作るそばから売れて作るのが間に合わない。市長は何と言われたか、「太田市はバブルの再来です」。こう表現するぐらいです。購入の待ち行列ができているのだそうです。 「なぜ一戸建て住宅がそんなに売れるんですか?」と聞いたら、「それは簡単ですよ。お客さんの欲しいものを作っていますから。」そういう簡単な表現なのです。「お客さんの欲しいものはどういうものか事前に調査しまして、そして作っているのですから売れるのは当たり前です」と。そして事実売れているのです。 もうやることなすこと聞いているとすごいです。そして全部お客さん、お客さんです。もういちばん際立ったのは、いくつかあるのですが、あそこは月曜日になると、12時から1時半まで市の職員が全部市内を手分けしてゴミ拾いをしています。これは強制でやったら労働基準法違反になると思いますが、全部自主です。なぜ市役所の職員が全部自分たちでゴミ拾いするのか。 ちなみにあそこは市のいろいろな施設、トイレ掃除、全部自分たちでやっています。全部自分たちなのです。なぜするようになったかというのは、市長が当選された時、初日、というかずっとプレジデントが迎えに来るらしいのです。そういうのは嫌だと言うと「ルールだから乗ってください。困ります」と秘書課長に言われて、しょうがないから初日だけ乗ったよと。ただし誰も見えないようにというので、早朝行ったそうです。2日目からは全部歩いて登庁したそうです。「ついでにゴミ袋を持ってゴミを拾いながら歩いて毎日登庁したんだよ」と言っていました。そうすると町になんとゴミの多いことか。 群馬県の太田市というのは飲み屋街が多くて、ゴミがむちゃくちゃ多いのです。ゴミが多いとカラスが多くなります。カラスって分かりますね? あの黒いやつです。あれは結構怖いでしょう。私も一回だけ戦ったことがありますが、結構恐怖心でした。こう来ますからね。覚えていますしね。そしてゴミの量とカラスの量と比例するわけです。 市長はこうおっしゃっていました。「大久保さん、今度朝歩いてください。ゴミ袋一つもありませんよ」というのです。「太田市は朝4時に収集します。朝4時はさすがにカラスも来れません。ですからいなくなりました。」そういうことをやっている人です。 お話を伺っていてすごいなと思うと同時に、冒頭講演される時、「うちは職員が優秀なものですから、私は何もしていません」と言うのです。この「何もしていない」というのはどういうことだか分かりますでしょうか? いろいろな企業に行ってよく分かりました。「私はたいしたことしていない」と言う人は大体すごいことをしている人です。「私がいなきゃいけない」と言う人はほとんどいない方がいいということです。これは9割方当たります。もう9割5分ぐらいかもしれません。本当にそうなのです。 だからいろいろな組織、企業にお邪魔して、「大久保さん、僕はたいしたことやっていないんですよ」と言う人に限って部下からも評判がいいし、なくてはならぬ人です。「私がいないとうちの組織は回りません。」その人が病気で倒れると組織はすごく活性化するのです。これは事実なのです。もちろん、「私はたいしたことない」と、本当にたいしたことありませんねという方もいらっしゃいますから、これは何とも言えないところです。それから「私がいなきゃだめだ」と言う人。確かにそういう人も例外的にいます。と言うと全部自分を例外にしてしまうのです。それで「あいつはいなくていいですよね」と指します。3本指が内側に向いているのを忘れて指が外を向くのです。なかなか気付かないですね、本当に気付かない。 去年もお話ししたかもしれませんが、いろいろな会社の役員会でちょっと辛口で「おたくの役員はなっていませんね」と言って後で文句を言われたことは一度もありません。個々の役員の方にお会いしていると感謝されます。「よく言ってくださった。うちの役員、本当にだめだろう?」「いや、あなたも役員じゃないの?」とここらへんまで出そうになりますが、本人は自分以外を指して言います。そんなものです。 事実、一緒に来られた市長室の補佐の方が、雰囲気がやり手ビジネスマンという感じです。超一流のやり手ビジネスマンの雰囲気。何と言ったと思いますか?「毎日仕事が楽しくて仕方ありません」と言うのです。今民間企業に行った時、そういうふうに言っていただける方は少ないのです。「毎日どうですか?」「はい、苦しいです。いつどうなるか分かりません」と言う人が多い中で、毎日楽しくて仕方ありませんと。 「なぜですか?」「はい、新しいことにチャレンジしていますから。」役所ですよ。あの前例主義の世界で、「新しいことに日々チャレンジしているのでものすごくやりがいがあります。それを実現しているのは市長のリーダーシップです」と言っているのです。市長のことを自慢気に語ってくれたのはすごかったです。 でも清水市長は、「私は何もしていない。」何もしていないと言っても、現実には率先垂範でゴミを拾ったり、自分たちのサービスの検証もちゃんとやっておられます。月曜日の朝に市庁舎の一階にテーブルを出しまして呼び込みをやるのです。お客さんの呼び込み。「寄ってらっしゃい。」お客さんって市民の方ですよ。まあ、座れと。座ると自分でお茶を入れるのです。お茶を入れて飲みながら、「最近のうちのサービスはどうですかね?」こうやって検証している方です。そうするといろいろな不具合というのが分かるわけです。 極めつけは「七人の侍」でした。それはどういうのかというと、「我が市役所にも何ともならんのが7人いました」と言うのです。それはどういう人かというと、窓口に置くと住民からクレームが来る。「なんであんな人がいるんですか?」それでバックヤードに置くでしょう。バックヤードに置くと、その人を一人入れるだけで周りが全部やる気がなくなるというのです。すごいパワーのある人ですよね。だから今日の演題の反対、組織力を低める、なくす力がある。これが7人いたそうです。「七人の侍」と言っていましたが・・・。「七人の侍」と言ってピンとくる人は多分ご高齢の方かもしれませんが・・・。 それでどうしたと思いますか? すごいですね。税収取り立てチームですって。ニコニコしながら滞納者の所へ行く必要がないのです。「なんで納めないんですか?」と言えばいい。すごいと思いました。 役所の勤務時間は8時45分から5時半。何と言ったと思いますか? 「市長、相手はいません。税収が上がりません。」その時の市長の言葉に僕は感動しました。こう言ったのだそうです。「あのね」とこうなのです。「あのね、お客さんのいない所でビジネスはできないんだよ」と言ったのだそうです。これは本当の話です。お客さんのいない所でビジネスはできないんだよ。「じゃあどうすればいいんですか?」「お客さんのいる時に商談を進めなければだめだよ。」だからこの方たちの働くのは、土日と夜です。それでは普通の昼間は? 休んでいなさいと。予算は5百億です。去年の上がり、「上がり」と言っていましたね、税収増1億5千万円。利益です。プロフィットです。 すなわちいるだけでマイナスの人が1億5千万円の利益を上げたのです。ダブルで効いているのです。これが人を活かすということだなと思いました。ですから「7人どうしようもない人がいました」と言いながら、市長の話の着地は「誰一人どうしようもない人間はいませんでした。全員が有能でした」とこういう話になってしまうのです。 毎月いきいきしているそうです。「市長、先月の上がり」と言って報告されるそうです。その時市長は何と言うか。「そうか、すごいな」と言っているだけだと。それでいくらでも働いてくれる。 滞納者も二種類あるそうです。市営住宅の家賃などを納められない人と、遊ぶ金はいっぱい使っても納めないという人。これの方が多いのだそうです。そういう人はやはりちゃんと回収しなければいけないということです。こういうことをおっしゃっていました。 市長になられてから公民館改革もすごかったです。公民館に行ったら、公民館の館長が新聞を読んで椅子にドーンとそっくり返っているのですって。住民の方、市長に言わせればお客さんが来られているのに「なぜあの館長は挨拶しないのかね?」と若い職員に聞いたら、「あの人は元校長先生だったんです」と。「何の関係があるんだね?」「いや、だからそういうことなんです。」市長に言わせれば、お客様が来られているのに挨拶できない人間はサービス業に従事する資格はないと。いろいろ調べたら、公民館の館長は全部校長先生の上がりのポストだったんですって。翌年全員ご退任いただいたそうです。資格がないということで。 実はものすごい改革をやっています。ここはバランスシート、貸借対照表を全国で初めてオープンにした市です。企業で言えば、損益計算書を出すと1億5千万円の利益、すなわち税収増分がプラスだと言っていました。それくらい感覚を持っておられます。 その方がいちばん基本でおっしゃっているのはただ一つなのです。「お客さんの視点で物事を見ることなんだよ」。「ゴミ拾いも、もしプレジデントで通っていたら、あれだけゴミがたくさんあるというのが私には分からなかった。やはり大久保さん、現場を歩かなければだめだね」とか、もうともかく市長の話とは思えないでしょう。 2日間ご一緒させていただく機会がありまして、ものすごく勉強になりました。軸がぶれていません。そして市の職員の方とのコミュニケーションをとるのが実にお上手です。ものすごくよくお話をされている方でした。 今申し上げましたように、ちょっとまた戻りますが、全部お客さんの側から見ましょうよと、これが基本ですよということです。 最近本当に変わってきたなと思うのは、行政はもとよりこの間は県警からも呼び出しがありました。家内に言ったら「何したの?」「いやいや、講演依頼だ。」「早くそう言ってよ」と言われ、ちょっと疑われたのかなと思いましたが・・・。県警からまで講演依頼がありました。県警でCSというとどうなっちゃうのかなと。捕まえないことだとは言えないですからね、もちろんそういう話ではないわけですが。 実は警察の方も2年前に全国的に結構不祥事がありました。警察全体で考えた解決策がすごいです。部下ともっとコミュニケーションをとるべきだとなったのだそうです。そして警察というのは軍隊の小さいようなものでしょう。相似型みたいなものでしょう。上意下達でウワッという組織です。ある面ではそのようにやってもらわなければ困るわけですが、これではだめだと。どうなったと思いますか? もっと部下の話を聞くべきだということになったのだそうです。そして対話をしていこう。コミュニケーションをしなければ、コミュニケーションが重要だというように変わり出したのです。 ☆勝ち残るための2つの資産 実は二つ目「勝ち残るための2つの資産」ということで、これは去年もお話ししたと思いますが、やはり企業は生き残っていくためには二つの資産があります。一つ目は「お客様からの信頼、安心、ご満足」これが資産です。それから二つ目は「従業員のやる気」この二つが資産です。 この二つの資産、アナリストと世に言われる人たちは見ているでしょうか? 実はこれは数値化しにくいわけです。でも多分僕から見たらいちばん重要じゃないかなと思います。例えば今、産業再生機構、あれは企業再生機構だと思いますが、ありますよね。あれを見るときにいろいろな数字だけでいいんだろうか。そこにいる人たちが本当にどれだけやる気があるのかとか、お客様から信頼されている企業なのかとか、そういうものの方がはるかに重要じゃないのかなと。その観点でものを見ていくというのは必要だと思います。 この二つの資産をみなさんの企業では増やしていますか、減らしていますか? 元々測定していないとだめですが、実は多くの企業はこの二つの資産を減らし続けながらビジネスを行っているという所が大変多いのです。すなわちこの二つの資産の重要性ということに対しての認識が極めて薄いと言わざるを得ない。そんな感じがいたします。 ご承知のように最近は企業の信頼とか安心とかを損ねた瞬間、企業そのものが消える時代になりました。これはもういろいろな例をご紹介するまでもないと思います。そういうことです。それからもう一つは従業員のやる気であるということです。 その二つの資産を作ってく時に大事なのは、実は言葉自身が大事なのですが、「組織能力」というふうに書いています。もしくは「組織力」、組織において組織力が大事なのです。 個人商店は別です。しかし法人化して、少なくとも何人かの方が一緒に仕事をしているときに大事なのは組織全体の力です。組織全体の力、組織力が重要になります。そうです。これが最高に、出力最大になった時に成果最大になっていきます。その中の個人の個がどんなに能力があったとしても、組織力全体としてパワーアップしないと業績には結びついてきません。 ☆コミュニケーションは図れているか どうやったら組織力が高まっていくのか。それは多分いろいろなものがあろうかと思いますが、そのうちのいちばん重要なのが実はコミュニケーションになります。 一言で申し上げれば、縦横斜め、上下左右、とにかくコミュニケーションがとれていません。上司のことを部下は分かっていない。部下のことを上司は分かっていない。トップは現場を知らない、現場はトップを知らない。企業はお客様を知らない。実はもう知らない同士が寄ってたかって仕事をしている感じです。 組織力向上の秘訣は、いかに組織の中において対話を行っていくかということに尽きると思っています。対話、話すことです。要はお互いに分かり合っている、チームワークがとれているというのは組織力です。 実はおととい、こちらにも来られたと思いますがトヨタビスタ高知の横田さんと一緒に福井の方でお話をさせていただきました。みなさんもビデオをご覧になったかもしれませんが、インターンシップで学生がちょっと入ってきます。その時に感想を聞いたら、「ここはものすごく連携プレーがいいですね、チームワークがいいですね」と言うわけです。 チームワーク、これは鍵です。すなわちお互いに協力し合える。だから個々人の能力があったとしても、お互いに協力し合うか、最悪お互いに足を引っ張り合うかで全然変わってしまうわけです。その一つにするためにいちばん大事なのはコミュニケーションですということなのです。 例えばマネージメントの方であれば、部下とどれだけ本当にコミュニケーションがとれているか。いろいろなケースを見て分かったのですが、これがもう誤解だらけです。「俺はあそこまで言ったんだからあいつらは分かっているはずだ。分かっていなかったら許せない。」そんなことを言ったって、分かっていなければしょうがないわけです。 例えば先程二つの資産のうち一つの資産で従業員のやる気、これが資産であると。究極はここにいくと思います。人のやる気です。これが企業にとって最大のものだと思いますが、それでは上司と部下の間でやる気を引き出すようなコミュニケーションができているか。これができていないですね。どういうのができているかというと、やる気をなくすコミュニケーションというのが多いです。 ですから部下がやる気が出る究極は上司がいないという、簡単に言うとこれに尽きてしまうのです。これに尽きるのです。ここでピーンとくる人はきます。でも大体「そうか、俺がいない方がいいんだな」とは思わない。自分を相手に置き換え、「そうだよな、上がいないといいよな」とやっぱり指が外に向いてしまいます。難しいです。 いちばん最近の例で面白かったのは、やはりある役員会にお邪魔して、「どうやったら従業員一人ひとりにやる気が出るかみんなで考えてください。」僕は別に提言も何もしないで、みんなで討議してくださいと調整させてもらうだけです。それでやはりみなさん考えたみたいです。 そこの役員の方と部下の方と私と3人で、昼間レストランで食事をとる機会がありました。「○○さん、どういうご決意をされたのですか?」「もう私は朝から晩まで怒鳴っていました。全く間違っていました。部下のやる気が出ないようにしていたのと同じでした。」「そうですか、それでどうされたんですか?」「ですから私は組織に戻ったら主要な幹部を集めて、『今まで怒鳴りすぎた。俺はこれから怒鳴らないようにする』とみんなの前で宣言した」と言うのです。 立派です。一部上場企業の方で役員にまでなられた方が、「すまん。俺は間違っていた。これからは怒らないようにするぞ」と言ったそうです。思わず私も「素晴らしいですね」と言います。 その方は前にいた部下に、「な、俺は最近怒っていないだろう?」と言ったら、その前の部下が「そうですかね?」と言ったのです。そうしたら間髪入れずに「怒っていないだろうが!!」とやっていました。間髪入れずにです。見事でした。私は横にいましたが、「すみません、今怒鳴ったように見えましたが・・・。」と言ったら「確かに怒鳴りましたね」と。 多分その人は朝から晩まで事務所の中で怒鳴っています。公衆の面前で、第三者がすぐ横にいながら怒鳴っているのですから。そして「な、俺は怒鳴っていないよな」と。この認識。 実は人はほとんどこれだということなのです。これは去年もご紹介したかもしれませんが、あるグローバルカンパニーのエグゼクティブを集めて合宿のセッションをさせてもらった時、「何がいちばん大事ですか?」と言ったら、「やはり部下の仕事への情熱です。うちの部下は情熱がありません。燃えるような情熱が欲しいと思って彼らが燃えるように私は努力しているのですが、なかなか燃えません」と言うわけです。それで私、「あなたが消してるってことはないんでしょうか?」と言ったら「そんなことはありません。」いろいろ聞いていると、どうみても違うんじゃないかと思うのですが、本人は燃やしているというわけです。 休み時間になって事務局の方が私の所へ来られて、「大久保さん、あの人がいないと僕ら燃えるんですけどね」と言うわけです。「どういうことですか?」と聞いたら、「いや、やる気を持って何かやろうとするといつも水をかけられます」。 ですからその人が一生懸命やっているというのは、部下が燃えると傍まで行って水を一生懸命かけて、消えたところで「なぜ燃えないんだ?」とやっているのです。漫画化するとこれです。でも本人は一生懸命なのです。だからさっき言ったとおり、このケースというのは上司がいないのがベストという最たるものでしょう。いなければ、放っておけば、消さなければ燃えるのです。その方が一生懸命やっているというのはただ一つ、消すように努力しているのです。こんな話ばかりです。 これも去年お話ししたかもしれませんが、みんなで誉めようと思って決めたわけです。15人役員がいて、放っておくとやりませんから後日お邪魔して、「みなさん、部下をどれだけ誉められましたか?」と。すごいですね、15人いてどれぐらいの人が誉められると思いますか? 少ないですね。「よし、良いところを誉めるぞ」という決意で現場に行って何をしていたかというと怒鳴っていたといいますから。やはり悪いところはすぐ目に付いてしまうわけです。 そのうちの一人、こういう方がいました。「みんなで誉めようと決めたので私は部下を誉めましたが、誉めすぎというのは良くないんじゃないでしょうか?」どうですか、みなさん、どう思われますか? 私は間髪入れずにお答えしました。「おっしゃるとおりです。誉めすぎはいけません。ただしあなたが誉めすぎるということはまずあり得ないと思います、、、。」言ったらムーッとされました。 休み時間になって部下が寄って来て言いました。「あの人の誉めるところを誰一人見たことがありません。」すなわち周りから見たら全く誉めていない人が、本人は誉めすぎたら部下がいい気になったと言うのです。どう思われますか? これは全部実際に直接体験させてもらったケースばかりです。他にもいっぱいあります。 ☆自分の思いを正確に伝えるコツ どうしてこうなってしまうのか。たった一つ、目が自分についているから人は見えないのです。自分の目は他人しか見えません。目ん玉がビューッと出てこういうふうになっていれば自分を見えるかもしれない。そうでしょう? ここについている以上、自分はおのれだけ見えないのです。 そして共通しているのは、おのれは正しいことをしていると間違ったことを確実にしているということです。悪いことをしている、間違っていると思って水をかけているのではないのです。正しいと思っているのです。すなわちみな正しいと思いながら極めて間違ったことをしているということなのです。これでは何ともなりません。 私自身もいくつか経験ありますが、みなさんもおありだと思います。最初にテープレコーダーに声を録音して聞かれた時、多くの方は「私の声は違う」と言います。ではあなたの声は?」と言うと「もっといい」と言います。横から見るとそのまま聞こえるよということです。 私なんかビデオが多分140、150本あると思います。みなさんはビデオでこうやって自分の後ろ姿で映したのってご覧になったことがないでしょう。鏡だと正面しか見えないでしょう。最初に自分の後ろ姿をビデオで見た時は衝撃が走りました。純日本系の足と胴の比率の武田鉄也さんという方がいらっしゃいますよね。どちらかと言えば立派な日本系だと思いますが、まさか同じだとは思いませんでした。それで最初ビデオを見た時、「ビデオっていうのは上下が縮まって足が小さく見えるな」と言ったら、「そのまま映っているよ」と言われてガクッとした覚えがあるわけです。よく考えたら相似形で同じ比率で縮まるわけですから、別に足だけ短く映るわけではないのです。胴も短く映りますから当たり前です。 すなわち人というのは他人が見える実体以上にはるかにおのれを高く評価しているということなのです。これは企業も同じです。全くそうなのです。 ですからどうしたらいいかというと、これはやはり一つは相手からの評価を得て、自分がどんな姿をしているのかというコメントをもらわないとだめだというのが究極です。自分で自分を評価している以上は決して正しい評価というのはできません。 例えば言った、言わないもそうです。「私はここまで言ったんだから、伝えたから。」 ところが相手から見たらまるで伝わっていないということがいっぱいあります。 例えばさっき申し上げた、相手の視点で見る、お客様の視点で見るということを追求していくと、例えばマネージメントの方、大事なことは「正しいことを言うことが正しいことではない」のです。「伝えた相手に正しく行動してもらうのが正しいこと」です。そうですね。すなわち正しいことを言うのは、それは仕事ではなく手段であって、正しい行動をしてもらい、正しい成果を出してもらうことが仕事なわけです。ところが多くのマネージメントの方というのは、「私は正しいことを言っている。やらない彼らが悪い。」それは違う、やらせるのがあなたの仕事でしょうということです。 ともかく自分の思いを正確に伝えられる人というのは少ないです。実はこれはやはりコミュニケーションがとれていないということになります。コミュニケーションというのは意思疎通、お互いに分かり合うということだと思います。このギャップというのは本当にすごいです。 自分で話しながら笑ってしまうのですが、この間ある中小企業で専務さんがお客様とお話をしていた時に事務員が通りかかったので、「コーヒー二つ」とこう(指二本でVサイン)やったのです。そうすると事務員の方がニコッと笑って、どうしたと思いますか? ダブルピースで返した。これは本当の話ですって。場合によってはその女性は多分深読みしたのですね。商談がうまくいったんですねと思ったのですね。ところが頼んだ方はコーヒー2個なのです。こう返されてどうしていいか分からなくなったと。こうですから。そしてその女性は事務室に戻って、「私、専務にピースされちゃった」と言って喜んでいたという・・・。コミュニケーションというのは難しいです。 この間も、娘を隣に乗せてドライブをしていたら前にすごい大きな家がありました。その前に素晴らしい木立があって、「見てみろ、すごいな」と言ったら娘が何と言ったかというと、「本当にすごい。随分太った犬ね」と全然違う所を見ているのです。確かに家の下に犬がいた。あっちと、あっちまで同じ。でも見ている所は違う。これはよくあるんじゃないかなと。 お互いに「あっち」、「そうよね。」あっちで家と木立を見、片や下の犬を見て、「なんて太っているの」と言っているわけです。それでお互いに「すごいね」と言っているわけです。これがコミュニケーションギャップということなのです。 ☆相手の思いを正確に理解するコツ ですから組織の中において、コミュニケーションギャップを埋める、組織力を高めていく。これはどうしたらいいか。これはもうお互いに話し合う、対話しかないと思います。対話というとちょっと語弊がありまして、対話というのは双方向で話し合うことなのですが、結論から申し上げれば組織上、上の人は聴くことに徹するとお考えいただいたら結構だと思います。 今回この本(「自分が変われば組織が変わる」かんき出版)にそのような事例をいっぱい書かせていただいたのですが、どうやったら自分の言いたいことが伝わるのかの最良の策は言わないで言わせることなのです。これがベストです。そのためにはこっち側が言っていてもだめです。もうずっと何回言ってもだめなのです。相手は聞きません。だから例えば1時間のミーティングだったら、冒頭10分だけ自分がしゃべったら残り50分は双方向でやるとか、そういうことが大事なのです。 この間またある会社の社長ですごい方がいらっしゃいました。休みの日に役員会を開くのです。役員会が9時から始まって終わりの時間が分からないのです。終わりの時間はその社長が疲れて語るのが終わった時が終わりだと。だから体調が良いと長くなってしまうという・・・。「今日は体調は良いのか?」と聞き、「良い」と言うとどうしようという、そういうのがありました。 その方がちょっと反省されました。すごいでしょう、朝9時から5時、6時までしゃべるというから、エネルギー量としてはすごいと思いますが、「冒頭1分ぐらいにしたらどうですか」と言ったら本当に短くされました。それでしゃべって「どうですか、1分で終わったでしょう」と9分しゃべっています。ですから1時間というとその人は9時間しゃべるということになります。 ただし、いつも1日しゃべっていた人が9分しかしゃべらなかったので翌日体調を崩されました。慣れないことをされたもので、なかなか難しいなと思いました。 これがやはり意識のギャップなのです。自分は1分しかしゃべっていないのに、相手からみると10分。これもコミュニケーションがとれていません。 お互いに分かり合うといったとき、今申し上げたようにともかく聴きに徹する、これをされたらいいです。もう一つ申し上げると、上司が部下の話を聴くようになると、すごいことを申し上げます、業績が上がります。小さい声で言います。業績が上がります。本当かというと本当です。そうするとこういう人がいます。「そのとおりやったけど上がらなかった。」それはやり方が悪いんですとしか言いようがありません。 この間も本当にある企業でありました。ちょっと表現は難しいのですが、どちらかと言うと活躍度の低い人です。そういう人たちだけ集めた組織を作ったのです。元々期待はしていません。もちろん目標は与えたのですが、どうせできないので8割ぐらいやってくれればいいというところでやったのです。そういう方たちの集団です。 そこのトップについた人はどうしたか。その会社の社風、従来の慣習からするとその部長クラスがその集団の第一線の社員と話をすることというのは全くなかった企業です。大袈裟に言うと、第一線の社員からすると部長でさえ雲の上の存在だった所です。ところがその方は話を聴くことが大事なんだなというので、第一線まで行って一所懸命話を聴かれたそうです。 結果、実は先週聞いたのです。驚きました。80%しか期待していない目標値に対して105%やったそうです。なんでですかと聞いたら、「いや、話を聴いてあげたら彼らはどんどんやる気を出してきました」と言うのです。 これなのです。多くの方は「やる気を出せ」というのです。「やる気を出せ」と言うあなたがいるからやる気が出ないんだというのが分からないわけです。「やる気を出せ」と言って出たら苦労しません。いちばん最悪は「燃えろ」とか「やる気を出せ」、「最近気合入っていないぞ。」これで「ウッス!」なんて言ってうまくいくはずがないのです。 ある企業でこんな例もありました。「大久保さん、うちはちゃんと対話しています。」「どういう対話ですか?」「今月目標は達成できるだろうな?」「必ずいきます。」そして月末になると「なぜいかなかった?」「すみません。」これをもって対話というと言うのです。全然対話になっていないなと思いました。対話というのは相手のことを理解するということです。これに徹したら企業というのは、組織というのはものすごい活性化します。 こういう話をいろいろな所でさせてもらった結果、実はいろいろな企業で「大久保さん、聴くことが大事だというので、現場に行って『今日は聴きに徹するぞ』と言ったら誰もしゃべらない。どうしたらいいでしょうか?」「それは相手がしゃべるまで待てみては」と言ったのですが、難しいと言っていました。あの沈黙が何とも言えないのでついしゃべってしまう。結局9割自分がしゃべっていたというわけです。 こういう方は簡単です。適切に質問することです。質問すること。最近「質問力」という本があるでしょう。あれを何冊か読まれたらいいです。すごく良いことが書いてあります。やはり適切に質問することによって相手の意見を引き出すように持っていくというのが聴き出す秘訣です。 日本人に限らず人はそうなのですが、例えばプレゼンテーション能力というので説明するためのトレーニングというのがあります。ものを読むトレーニング、書くトレーニングもあるでしょう。たった一つやっていないのが聴くトレーニングなのです。話し方教室というのはありますが、聴き方教室というのはありません。 実は聴く方がはるかに相手のことを理解し、相手をやる気にすることができるんだということ。もうこれだけ今日分かっていただいたらいいです。 ☆聴き出す能力を磨くには そして組織として協力し合わないといけないのですが、協力するということが組織力を高めます。協力するというのはどういうことかというと、多分国語辞典をひかれたことはないと思います。「同じ目標に向かって」なのです。同じ目標に向かって力を合わせる。 そうすると、「みんな協力してやれ」と言ったとき、まず同じ目標がないとだめです。それから力を合わせるというのは、これは物理的な力ではありません。何だと思います? 心の向きでしょう? そうですよね。心の向きを合わせる。それでは心の向きを合わせるにはどうしたらいいか。これはやはり話し合わなければだめなんだということです。 冒頭申し上げたように、時代が変わってお客様の方が主導権をとりました。お客様の視点でビジネスをやっていこうとすると、第一線の判断、意思決定というのはものすごく大事になります。そうですね。中央集権で「いいからやれ」という形では現場で本当の応対というのはできません。 そうすると何が要求されるかというと、これはもう今根底から変わり出しています。従来のマネージメントというのはこういうのが多かったと思うのです。命令と管理が基本のマネジメントスタイルです。命令・管理というのは受身になります。しかし今の時代要求されているのは自主なのです。 それではマネージメントの方は何をやるのかといったら「部下を支援すること」です。支援することなのです。では自主で動けるようにするにはどうしたらいいかというと、実は対話が必要です。対話を通して共感が生まれます。なるほど、そういうことか。それで初めて自主・自立になってここの動いていくところを上の人は支援することが仕事なのです。 この仕組みを導入している企業というのは強いです。最悪は「いいから考えずに黙ってやれ。」これは全然だめです。受身の集団になってしまいますから。 強制でやるとどういうことかというとこういうことなのです。強制でやりますと、例えばボスがいて、部下に「やれ!」とやります。そうするとやれと言っている間は動くのです。でも受身ですから、自ら動いていませんから、この押しをやめるとピタッと止まります。それからもう一つ、障害物が出てきたときに、考えていませんから、ひたすら言われた通り真っ直ぐにいこうとしますから、これを乗り越える知恵が出てこない。 ところがここで対話が行われる。そもそも何のためにやるのか。どういうためか。意義はどういうことなんだ。自分たちは何を目指そうとしているのか。そのためにやるんだという何のためにというのが分かった時に自分で動くことができます。まさに自主です。そうすると上からの指示が無くなっても自分で動けるわけです。もう一つは障害物が出てきても自分で考えますから、これを乗り越えることが可能になる。 ですからこれからはこの対話・共感・自主・支援の形が理想です。そうすると大事なのは命令、強制、管理ではなくて、マネージメントが要求される重要な能力というのは対話力なんだということになります。対話する力です。「いいからやれ」というのは対話力ゼロです。ここが大切なポイントです。 そしてコミュニケーションと言ったとき、実は企業変革している人の共通項目はコミュニケーションの達人が多いということです。例えば伊藤忠をV字回復させた丹羽さん。ゴーンさんもそうかもしれません。古くは上杉鷹山もそうかもしれないのですが、実はああいう方たちに共通しているのは、必ず直接対話というのをやっています。そして自分たちの思いを分かってもらう。 ゴーンさんもそうです、丹羽さんもそうですが、まずは徹底して聴く側にまわっているのです。そして彼らが何をどう考えているのか。ここがポイントで、人は何をしたかをつい見てしまうのです。そうではなくて、何をしたかの前に何をどう考えるという思いがあるでしょう。そこのところを理解しないと本質的な改善にいかないわけです。そこを本当に理解しようとしたらどうしたらいいかというと、実はやはり対話しかないのです。対話です。ですから徹底して対話していただきたいと思います。。 そして対話するときに大事なのは肩書きを外すということです。対話コミュニケーションというのは対等でなければいけません。役職というのは何かというと役割と責任であって、人として偉いとか偉くないというのは全く関係ありません。役割ですから、よろしいですね。今日来られている方はそんな方いらっしゃらないと思いますが、肩書きというのは役割と責任を表すわけです。そして本当に対話するにはそれを外さないとだめです。対等の高さに立たないと本当の対話というのはできないわけです。となるとどうなるかというと、本当に対話できるようになるにはやはり肩書きの上の人がやはり肩書きを外してかかるということをしなきゃだめですよということです。ただし何かを討議したときに、意思決定と最後の責任は上の人がとらなければいけません。 肩書きというのはアドバルーンだということが最近分かりました。例えば私も課長になったと課長のアドバルーンがつくと、フーッと浮く人が出てくるのです。なぜ浮くか分かるでしょう? 空だからです。空だから浮いてしまうわけです。ところが課長のアドバルーンでは浮かなくても、部長のアドバルーンが付いた途端フーッと浮く人がいるのです。これも軽いからです。そしてそのうちパーンと割れるのです。そうするとドーンと落ちる。そういう人をいっぱい見ませんか? あんなもので浮いてはいけませんね。 話は変わりますが、この間まで知事をしておられた北川さんとか、地域から日本を変えていこうという岩手の増田さんとかそうですし、鳥取の片山さんとか千葉の堂本さんとか、みなさん共通しているのは全員が同じ目線で話をされるということです。誰一人、「お前は大久保っていうのか」、と下向きの目で見たりされません。全員が同じ目線です。そして全員がオープンでフランクです。鳥取の片山さんも和歌山の木村さんも、千葉の堂本さんもみんなそうです。全く対等に話します。「私は偉い」という感じが全くありません。 それから共通していたのはみなさん明るかったです。明るい方ばっかりです。暗い人はコミュニケーションがなかなかとれません。人は暗い人の所に寄って行きたくありませんから。ましてすぐ怒鳴る人、嫌ですね。ですからそういう意味では、コミュニケーションをとれるようになるには、基本の一つは明るくなるということも大事かもしれません。 それから部下から意見を引き出すときに大事なことを申し上げます。それはつまらない意見が出てもうなずいて聴くことです。ちょっと意見が出た瞬間、「バカだな、お前は。」そう言った瞬間周りは何を思うか。何も言わない方が得だと思うのです。 私から見ると、ともかくさせたい方向にしないように努力している人ばかりなのです。だからどうしたらいいかと言うと、ふんふんふんと聴くのです。「なるほど」と。正しいとは全然言っていないでしょう。「なるほど、なるほど」と言って聴いていくことが大事です。そうすると良い意見というのは必ず出てきます。 ☆質の高い対話から期待できること これは私自身も体験したことがあるのですが、経営者ばかりを集めて、ある方がセミナーをされたときに、参加者に対して質問をされたのです。私から見てもこの方は経営者かな本当に、と思うようなどうしようもない返答しかしないわけです。そうするとリードされる方はまた別の質問をするのです。そうすると返答するでしょう。その返答を書くのです。また別の質問をする。返答が来る。そのうちにすごいメッセージがパーンと出たのです。その瞬間、そのリードされていた方が「ああ、そうですか。あなたはこれがおっしゃりたかったんですね」と言われたとき、背筋が震えました。この人は最初から知っていたのに、自ら語らずあくまで相手に言わせている。 この「言わせる」というのが大事です。なぜ大事か分かりますか? 相手のものだからです。教えたらこっちのものになってしまうでしょう。教えないで自分で考えさせることが大事。人材育成の基本は自ら考えさせることなのです。これを徹底してやったのがトヨタビスタ高知の横田さんです。ともかく方針はといったら「教えないことです」と。 この間、プロ野球のコーチを長年やってこられて、また大学に戻って教職員の資格をとって高校の教師になられたという方がNHKの朝の番組に出ておられました。「コーチの極意は何ですか?」と聞かれたら一言、「教えないことです」と言っているのです。「じゃあどうするんですか?」「引き出すことです。相手に気付かせることです。」 世の中はほとんど教えるばかり。教える、教えるの連続では自ら考えるようにならないのです。教えるというのはどちらかというとこっちから向こうへの一方向になります。そうではなく、対話、コミュニケーションというのは相手側からの矢印を太くすることです。だから自分が受け側に回れるかどうかです。これがポイントなのです。 そのためにはやはり話をしながら表情を見るということも大事かもしれません。一方的に、相手が聴いていなくてもずっとしゃべる人がいるでしょう。そして最後に「分かったか?」と聞くと慌てて「はい、分かりました」と。分かっているわけがありません。でも一方的にしゃべる。これは相手への認識力というのが弱いと思います。 それから常日頃から、人から意見が言い出しやすいような雰囲気や条件を一人ひとりが作ることです。例えばマネージメントの方で部下をお持ちの方、常日頃部下から嫌な情報がどれだけ入るか、嫌なことをどれだけ言われているか、それはやはり言い易さと関係があります。もちろん言われ続けているのもだめですが、ある程度はやはり自分にとって苦いことをどんどん言ってもらえる、これはすごく大事だと思います。 そのためにはやはり相手の発言を否定しないことです。なるほど、なるほどと聴いていく。だから否定しないことです。ただしなるほど、と言っても顔が否定していたらだめです。顔はひきつって「うん、もっと言え」と言うけれど、顔は言うなとメッセージしているとこっちの方が力が強いですから・・・。だから心底そういうふうに持っていけるかどうかということがものすごく大事です。 いろいろな企業にお邪魔して、「みなさん、みなさんの組織で上下左右、組織横断的に質の高い対話というのができたらどんなことが期待できますか?」と聞いたらどんなコメントがくると思いますか? やる気が出るでしょう。一体感が出ます。目標達成意欲が湧きます。アイディアも出るでしょう。ともかく仕事が楽しくなります。いろいろなことを言ってくれます。すなわち質の高い対話がなされたらこんなに素晴らしいことが出てきますとみなさん異口同音におっしゃるのです。「そうですよね。ところで、質の高い対話、これに心掛けてこられましたか?」全然やっていないです。一方的です。 ですから組織のマネージメントの方、一つの提案は対話の場を設けることです。これをされるだけで組織というのはものすごく活性化するんですよということをご理解いただきたい。ただしその場を設けてもなかなかうまくいかないことがあるでしょうから、そのためには細かい考慮点というのをこの本にいっぱい書かせていただきましたので、これをうまく使っていただければいいかなと思います。。 ☆会議も大事なコミュニケーションの場 それから会議というのも大事なコミュニケーションの場です。日本の会議というのは会議ではないわけです。あれは一方向ですから、会して議してはいない。ですから一方向会、もしくは上司ご高説拝聴会と言った方がいいわけで、一言で言えば早く終わってほしい、こうなるわけです。 会議の場も、先程申し上げたように会して議するようにするのだったらば、みなが対等で自由に本音で意見を言えるように持っていくことです。本音で意見を言えるようにするには、とまたいっぱい話をしなければいけないのですが、一つの提案は会議のルールを決めて、必ず本音で語りましょうと言うだけでも随分違ってきます。 私自身がいろいろな企業にお邪魔させていただいて、役員会で冒頭必ず言うのが「今日はひとつ本音でお願いします」とか「完結にお願いします」とかルールを決めて宣言して進めるということです。 それからもう一つは書きながらやっていくということ。これがものすごくいいです。アイディアだけでボンボン出し合うと、ちょっと時間が経つと忘れてしまいます。ですから書きながら進める。 それから進行役を決めておいた方がいいです。そうじゃないと10人いたら2人ぐらいしかしゃべらないというのがあるじゃないですか。残り8人はといったら休憩モードに入るわけです。あれは意味がありません。ですから常に全員が語れるように持っていく。 とにかく一つ言えるのは、会議というのを本当に会議の場にするということです。これがものすごく重要です。会して議する。そのためには組織の中でやるときには、いちばん組織の長がリード役になって意見を引き出すということです。 私が推奨しているのは、基本的には異なる意見をどんどんお互いに出しましょうということをやっています。それから組織横断的にまたがってお互いに言い合いましょうということもやっています。 例えば役所では、お互いの組織にまたがっていろいろな苦情、提言は口を挟まないというのが不文律としてあるわけですが、私自身はいろいろな県にお邪魔させていただいて、ある県にも実は定期的にお邪魔させてもらって、部長さんたち6人ぐらいと知事と7、8人でずっと対話集会をやるというのを広げています。これは何十人もやってしまうと対話にならないので、6、7人までで限定しています。私の進め方のルールは、役所の場合は2年ぐらいで変わられますから、お互いに部長さんたちというのはいろいろな役割をそれぞれご存知なのです。自分がやっていたとき、もっとこうすればよかったとか、今だったらこうしたらいいというアイディアがあるはずです。お互いにどんどん言い合ってくださいということを言っています。 現実にどうなっているかというと、ある県でやっている時もこんなに意見が出るかというぐらいお互いにどんどん意見が出るのです。これはやはりリード役なのです。誰それさんがしゃべったら、誰それさんに対して「ご意見ありませんか?」「提言ありませんか?」「ご質問ありませんか?」とどんどんぶつけていくのです。これをやるとものすごくいいです。 これは一つは、日本の場合はやはり第三者がいるとやりやすいみたいです。例えばちょっと前の話ですが、ある企業でこちら側に営業の責任者がずらっと並び、こちら側に開発・製造部門の責任者が並んで1日のセミナーをやったことがあります。この営業部門の方たちに「みなさん、毎日お客さんの声をお聴きですね? お客さんの声を開発側にぶつけていますか?」と言うと、「毎日のようにぶつけています」と言うのです。「みなさん、聴かれていますか?」と開発側に聞くと、目の前で「聴いていません」と言うのです。「あれ? 聴いていないんですか? 聴いていないと言っていますよ。」「いや、言っています。」「言っているそうですよ。」「いや、聴いていません」とこうです。 そのうち開発部門の人が何と言ったか。「実は聴いているんですけど、営業はいいかげんなんです。」「あいつら」と言っていました。「あいつらの言うとおりにやったら会社は潰れます。だから言うことを聴かないことが大事なんです」と言ったのです。すごい本音です。目の前に営業の方がいますので、「みなさん、いいかげんなのですか?」と僕は言ったわけです。「本音でお答えください。」と言ったら「実はいいかげんです」と言うわけです。すごい会社ですよね。私は横から「ということはむちゃくちゃいいかげんな会社ですね」と言ったら「そうですね」と。後ろで社長が見ていてカーッとなっていました。ところがそこで初めて本音の対話ができたのです。 実はその後、その企業は業績を伸ばしていきます。すなわち全部お互いに建前で聴き合わないでやっていたのです。そして責任のなすり合いをしていた。対話をするようになったらどうなったと思いますか? 業績が向上していくのです。 普通業績を向上させようとすると、販売促進プログラムを作れとか、あれやれ、これやれと言うじゃないですか。しかしコミュニケーションを良くする方がはるかに上がるのです。その重要性を認識してください。 だって組織の中が一つになって、皆が同じ方向に向かって努力し合うようになったら良くなるに決まっているじゃないですか。ところがそのいちばん基本を横に置いておいて、なんで売上げが上がらないんだとやっているのがほとんどです。なんでもっと良いものが作れないんだと。 ☆コミュニケーションが生み出す価値 組織の中においてもっと基本がありますよ。それは一人ひとりの気持ちを一つに束ねることなのです。束ねるというのは強制ではありません。同じ方向を向くようにすること。そのためには徹底して対話しかないです。 同じ方向を向くというのは別の言葉で言うと価値観を一つにするということなのです。価値観というのは何が大事かということでしょう? 経営品質の世界で言えば、やはりお客様を軸にして物事を見ていきましょうと。ですから企業でCSを本当に実現していこうとしたら、一人ひとりがその軸を持たなければいけません。 例えばこういうホテル業であれば、ホテル業というのは接点でのそこでの対応と判断が全てになってしまうわけです。お客さんというのは、難しいのは満足の一つではなくて満足の束を要求されます。だからどこかで不満があったら、それでそのいちばん不満のところで焦点が合ってしまうわけです。CSというのはなかなか難しいです。 ちょっと話が飛びますが、だいぶ前ですが私の知人が銀行に電話しました。ATMがだいぶ有料化になってきたじゃないですか。「自動機で出すときには最近土曜とか日曜は有料なんですかね? ちょっと教えてください」と言った時の銀行の応対が素晴らしかったのです。「紙が張ってありますから読んでください」と言いました。知人は一言何と言ったか。「全部解約してください」と。 結果的にはしませんでしたが、よしんばこれを解約したとします。銀行側はなぜ解約されたか分からないのです。これがCSの厳しいところなのです。なぜ解約されたか分からないのです。でもその接点の一言がそこまでインパクトを与えるわけです。 それを解決するにはどうしたらいいかというとたった一つで、一人ひとりがお客様の視点に立って物事を考えて行動できるようにしていくしかないのです。だから経営品質で言うところのお客様本位の経営を実現していこうとしたときに、人という観点で見たら何になるかというとたった一つ、一人ひとりが本当にお客様の視点で見れるようになる、その軸を持つしかないのです。その価値観の軸を持つようにするには、その軸を持ってもらうように対話を重ねていくしかないんだということです。 そして多くの企業はその価値観の軸を共有化するために全く時間を割いていない。別の時間を割いています。「なぜ行かないんだ。」「もっと何とかならないのか。」すなわちいちばん重要なところが欠落しているのです。 これをまたいろいろなセミナーでやると、必ず言われるのが「大久保さん、コミュニケーションと対話が大事だというのはよく分かるんですけどね、ただ毎日いろいろノルマがありましてね、目の前の課題がありましてね・・・。大事だというのは分かるんですけども、コミュニケーションに時間を割くというのがなかなかできないんですよね」と大体言われます。これについての返答はただ一つ、「はい、人と組織はいちばん重要なことに時間を割きます。大事だと言っているけれど目の前の仕事が大事で、コミュニケーションの方が優先順位が低いということをあなたは言っているだけです。もし本当にコミュニケーションが重要だというなら、時間をとるべきでしょう。」 そうしたらこの間こういうのがありました。「大久保さん、コミュニケーションに時間をとると、その時間生産できませんよ。販売できませんよ。それから時間外にやると時間外手当も出さなきゃいけませんよ。どうしたもんでしょうか?」とある経営者から言われました。簡単です。「あなたはそれだけコミュニケーションを軽んじているというだけの話です。もし時間外にやるのだったら手当を出せばいいでしょう。そして対話集会をやったらいいでしょう。なぜやらないんですか? 重要だと思っていないんでしょ? それだけの話です。」 すなわち重要だ、重要だと言いながら、認識が薄いとそういう格好になります。どうしたらいいか。簡単です。具体的にスケジュールを決めて、対話をしていくということをきっちり予定に入れてしまうことです。これ、騙されたと思ってやってみてください。対話の場を持つというのは一つの投資です。貴重な時間を投入することですから投資なのです。投資対効果を見たときに、他のプログラムを考えるよりも私から見たらはるかに効果が上がるというのが実体験として申し上げられます。ですから徹底して対話を行っていく。これをされたらいいです。 意外と若い人に良いアイディアというのがいっぱい出てきます。この間、ある大きな会社のセミナー、何とか大会というのに呼ばれて、オープニングに社長が「実はある若手集団がある商品を作ってくれた。とてもじゃないけどこんなのは売れると思えない。しかしどうしてもやりたいというのでめくら判をついた。そうしたら大ヒットした」と言うのです。 ここに何が学べるかということです。上は目を開けないで判を押した方がいいというのが結論ですかね? これは半分本音で申し上げたのですが、上が余計なことを言うから若い人のアイディアがつぶされてしまうわけでしょう? 上の方は基本的に古い方ですから。米国ではあっても、日本の場合はいちばん新しい方は普通トップにきません。その方は過去の成功体験をお持ちです。というのは失敗の連続では社長にはなりませんから、必ず成功しているのです。その成功がいちばん邪魔するわけでしょう? だったらこの人はどう判断したらいいかはただ一つ、常にめくら判を押すというのがベストな選択だということです。そして現実にそのめくら判を押した商品がヒットしているということです。 これはみなさんの所ですごく参考になりませんか? もっともケースバイケースで本当にだめなケースもありますから、それについて責任をとれと言われてもちょっと難しいですが・・・。 ただ、下の方というか若い方の意見を採り上げていくというのはものすごく大事だなというのをその時に学びました。そしてそれを真摯に話し合っていくコミュニケーション、これに尽きるなという感じがしております。 みなさんの所でもどうですか? 例えば柴田昌治さんたちが提唱しておられているオフサイトミーティング、聞かれたことのある方も多いと思いますが、あれも一つのコミュニケーションです。やはりお互いに分かり合う。 もう一つ申し上げたいのは、コミュニケーションが良くなると、絶対にその組織というか仕事場が楽しくなります。仕事が楽しめるというのはきつくて苦しいから楽しめないということはないのです。きつくて苦しくても職場内のコミュニケーションが良いと仕事は楽しくなります。少々やわで生ぬるい仕事でも、コミュニケーションが悪かったらその職場はものすごく苦しいです。だからやはり基本は組織の活性化。組織力を高めるためにはコミュニケーションなんだ。そしてその基本というのは上の人が徹底的に聞き手側に回って、相手を理解してあげることなんだ。これだけをちょっとご理解いただけたらいいんじゃないかなと思います。 ここまでご説明しても、細かいところでみなさんの方からいろいろご質問があろうかと思いますので、今から15分休憩をとりまして、その後みなさんからのご質問にお答えするという形でさらに深めていきたいと思います。 それでは一方的な話はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 ☆質疑応答 それでは残りの時間は双方向で。もし紙が全部終われば、会場から直接手を挙げてご質問いただければと思います。 一つは二人の方からいただきました。質問の仕方について具体的に教えてほしいと。これはこれ自身がなかなか難しい質問ですね。 具体的にということであれば、例えばリッツ・カールトン大阪というのはみなさんご存知だと思います。CSで非常に高い、有名なホテルです。あそこには行動指針、クレドというのは20項目あります。それを徹底するためにどうやっているかというと、唱和しないで、今日はベーシックの何番です。それについてあなたはどんな考えをお持ちですか? どんなことをされてきましたか? 何をしますか? すごい具体的な質問なのです。例えば行動指針なんていうとただ唱えるだけなんていうのがいっぱいあります。これではやはり徹底できません。 それと同時に常に質問しています。それから何か失敗したときにも質問するのはすごく大事です。その時にカッとなって「なぜこんなヘマをしたんだ!」と言っているのは、なぜしたんだと聞いているようですがただ怒っているだけです。そのときにはやはり冷静に、なぜこうなっちゃったのかなと一緒に考えるような精神構造というのですかね。 もう一つ言えば、例えば失敗したときにどうしてそうなったのかを考えるときにいちばんのベースは共感することなのです。すなわち相手が失敗して苦しんでいるわけですから、その苦しみを共に感じられるような状況になった上で、しかしどうしてこうなったのかな、もっと良い方法はなかったのかな、なぜなっちゃったのかなと、こういうふうに持っていくことなのです。ところが失敗した相手にはえてしてカッとなって、「なぜやったんだ!」と、ついでに「俺の立場どうしてくれる!」なんて言う人もいるわけです。 事実僕もサラリーマンだったのですが、ある時、何か一つちょっと達成できなかった時に本部長室に呼ばれて、机を叩いて「俺の立場をどうしてくれるんだ!」と言われた時、なんていうボスだと思いました。部下を支援するのが上司だと思っていましたから、そうしたら叩かれました。これもう徹底的にやる気をなくさせるケースだと思います。 だから何か困ったとき、行き詰まったとき、失敗したときに、「そうか。実は俺も若い時いろいろあってさ。大変だよな」と共に感じる。そうすると冷静になります。あ、感じてくれている。でもどうしてなっちゃったのかな。事前に手を打つことはできなかったのかな。 このとき大事なことは先輩として最初から結論を教えないことです。そうすると考えるプロセスがなくなってしまうのです。実は結論とやり方を教えた方が早いのです。効率は良いのです。でも人が育たないから、ちょっと長い目で見てこれは効果が低いのです。やはり人が育つというのがいちばんベストなのです。そのためには考えさせるということをやらなきゃいけないです。 ですから質問したときに掘り下げて質問する。なぜ? どうしてそうなっちゃったのかな? なぜ? トヨタでは有名な「なぜ、なぜ、なぜ」というのがあります。それを上手にしていくことです。ただなぜ、なぜ、なぜを言えばいいのか。「なぜだ? なぜだ? なぜだ?」これは絶対に共感力がないでしょう。「三回言ったよな、俺はな、もういいだろう、そろそろ。」全然分かっていないのです。そうではありません。なぜだろうな? どうしてだろうな? もう一つ言いますと、本当に適切に質問するには、結論を申し上げましょうか。自分自身の質問力を高めるしかないのです。それは相手の状況を読む、相手の心理状況を読む、事柄を見る。実は総合的判断で質問が出てくるはずなのです。 だからハウツーでこうやればいいよというのはあるようでない。最後大変な回答になってしまいましたが、あるようでないんだということです。どうしたらいいのか。質問することが大事だということで質問するトレーニングというものを積んでみてください。それを意図的に持っていくように努力してみてください。そういう努力をしていくとだんだんできるようになるんじゃないかなという気がいたしますということです。 それから2番目のご質問で、「聞き役に回り、意見を聞いた相手に何と言って自分の考えを伝えたらいいでしょうか? 『あなたの言っていることは分かりました。私の考えはこうです』というような伝え方ではうまく伝わらないと思っています。うまい伝え方を教えていただければ・・・。」 これもハウツーではないでしょうね。うまく伝えられるようになるしかないような気がします。 一つは、やはり相手への理解というか共感です。それがあると人は話を聴いてくれます。例えばお客様ともそうですが、クレームを言われたとき、無理難題のクレームというのはいっぱいあるわけです。あの時いちばん大事なのは徹底して聴き切るということでしょう。30分、1時間やっている間にだんだん冷静になるわけです。もっとも人によっては自分の声でさらに興奮する人もいますから、これはなかなか難しいと言えば難しいのですが、それでも3時間、5時間怒り続けることはできません。人というのは必ず鎮火します。 その冷静になったところで、「そうですか、ご迷惑をおかけしましたね。ところで実は私どもではこういうふうになっておりまして・・・。」と言うと違うでしょう。いちばん良くないのは「ああ、あなたの言っていることは無理なんです。うちはこういうふうになっているんです。このとおりやっていますから、私どもとしては手落ちにならないんです。」共感度ゼロです。これは説得力もゼロです。だからそういう意味では、「言っていることは分かりました」と言うときに、理性で分かるのではなく心で分かるということが大事なのかなという感じがします。 そのときに大事なことは、分かるということと良い悪いでそれを良しとして認めるというのは別です。この区分けをすることなのです。「分かりました。あなたはそういうお考えなんですね」という分かりましたなのです。だから納得しましたということではないわけです。でもそういうふうに考える気持ちを理解するというところの深さが、今度自分の方が言うときに説得力になっていくのではないかなという感じがいたします。 それからカウンタークレームで、相手の言ったことに対して全く真っ向から違うことを言うときには、言い方とか言葉遣い、表情というのがやはり大事です。やはりそこらへんの工夫というのは要ると思います。そういう工夫もなしに言いたいことを言うというのではやはり伝わりません。 大事なのは、言いたいことを言うのが目的だったら言えばいいのです。普通は違います。言ったことを理解してほしい、納得してほしい、その上で行動してほしいというのが大体究極のはずです。そうすると実は言わないでも相手がそっちの方に行動してくれたらいいわけです。そうです。そうするとこれはやはりひたすら聴く能力というのでしょうか、これが大事になってしまうのではないでしょうか。 例えば昔聞いた話ですが、ある方が「自分が悪いのでしょうけど、自分はこんな人生を生きてきて本当にどうしようもないんです」と言ったとき、ある方が「あんた、こういう点とこういう点がなってないからだめなのよ。全部自業自得じゃない。だから今後こうしなさいよ」と言われ続けて、その人は1回もそうしなかったそうです。ところがある方とお会いしたとき、その方はじーっと聴いていて、涙を流して「大変だったのね。」これだけだったそうです。その後どうなったかというと、前の方が言った、ああしなさい、こうしなさいというのを一言も言わないのにその人はそうされた。これが説得力というやつです。 普通は、ああしなさい、こうしなさいを文章にすると正しい。私は正しいことを言っている。やらない相手が悪いんだと普通なるでしょう。これはやはり説得力がないのです。それは相手への共感力です。だから説得力、納得力というのは相手への共感力ということになる。 そうすると相手を理解する力というのはどういうことかというと、自分がこっちにいて、他人というか人がいる。そうすると相手を理解するというのは、自らの心の大きさを拡大していくということです。自分の心のサイズを相手まで持っていくということなのです。自分の心が自分だけのサイズだったら相手は理解できないのです。 例えば小さい子供とはいえ、やはり大人の気持ちを理解する子供がいます。それから代表取締役社長とかいって偉いわりにはまるで周りのことを理解していないという人もいるでしょう。これはやはり人としての心のサイズです。ただしやはり会社の社長になって、業績を上げてとすれば一つの能力とか推進力というのは多分あるのでしょう。でも相手への理解力が薄いという人はいます。 これは前にもお話ししたかもしれませんが、こういう所には多分結婚式場もあろうかと思います。結婚式の乾杯なんていうので、「それでは僭越ながら一言・・・」と言ってその一言がやたら長いという人もいます。持たせたままずっとしゃべる。周りはもうやめろという合図。一切認識しないでひたすらしゃべる。別に結婚式でスピーチを聴きにきているわけではないわけです。でもそれが理解できない。すなわち周りと状況を認識する力がない人、自分の殻に閉じこもっている人というのは理解できない。だからこういう人というのは所詮理解できません。 それではどうしたらいいのというと、自分を大きくするしかないのです。別の言葉で言うと、私はよく使いますが「人間力」というのでしょうか。基本の人間力、これを高めていくしかないかな。それが本当に理解力を高めることになるんじゃないかなと思います。 ちょっと訳の分からない話になってきたので、またちょっと変えますね。 次のご質問は「対話が大切と認識して部下とできるだけ話をするようにしておりますが」まず最初にここがポイントです。「できるだけ」というやつ。この「できるだけ」とか「なるべく」とかいったときに、私はどういうふうに見るかというとこういう言葉を削除して見ます。そして実際それが正しいようです。「私はこのようなことを大切だと思って常日頃心がけております」の「心がけている」と言っていることはほとんどできていないのです。だから「できるだけ」と言ったら、相手から見たらほとんどないに等しいんじゃないかなと反射的に見る。この方がそうだというのではありません。一般論です。あくまでも一般論ですけども・・・。別に今血祭りにあげる必要はないわけです。 ですから「できるだけ話をするようにしています」といったとき、「できるだけ」というのは自分の立場からの自分の判断なのです。相手から見たらできるだけがどうなっているかというと、ゼロに近いかもしれないわけです。と言うか実はほとんどそうなのです。なんでそんなことが言えるかというと、何千もの事例を僕は見てきたからです。「できるだけ」とか、「一生懸命」心がけているというのできているためしはないのです。 「私は部下に常日頃こういうことが大事だと言っていますし、そのように心がけるようにしております。」だから心がけるようにしているといった途端、パッと削除して聴いてしまうのです。そして後で部下に聞くでしょう。「大久保さん、あなたの言うとおりです」と言って外れたためしはありません。 すなわちやろうとしていることとやれていることは実は全く関係ないぐらい乖離があるのです。ということをまず認識してくださいということです。 続きます。「あまり気を遣わなくても会話がはずみ、良好な関係が作れる相手と、話をしている時に何故かストレスを感じ、話がはずまない相手ができてしまいます。」いろいろな人がいますからそれはそうでしょう。「相性と言ってしまえばそれまでですが、後者の人とうまく対話するコツがあればご教授いただきたい。」 嫌な相手と、どうしたらいいですか? 一つは対話しない、と言うとこれは回答じゃないからいけないのでしょうね。しなきゃいけないですね。これは意図的に努力するしかありません。意図的に努力する。それから基本的には相手の良いところを一つでも二つでも見出すように努力するしかないです。その努力の成果が実れば変わるかもしれないし、その努力が足らなかったならば難しいでしょう。 私自身は自分でサラリーマン生活をやっていて、あまりストレスがたまるという人はいませんでした。というか、確かに僕は好き勝手なことを言っていましたから、「お前みたいに好き勝手やれてサラリーマンになれたらいいよな」と専務や常務クラスから言われました。「あなたも好きに言えばいいじゃないか」と言ったら、「俺なんか好き言ってみろ、すぐクビになるぞ」と言われ、「言ってみないと分かりませんよ」とむちゃくちゃ言っていました。しかし普通はなかなかそうはいきません。 多分こういう人というのは価値観がずれているのでしょう。基本的考え方が違うのでしょう。そういう方と話がはずまない場合は、やはり今申し上げたとおりだと思います。やはりどうしてそういうふうに考えるのかなということと、基本的にちょっと難しいけれど相手を好きにならないとやはり話というのははずまないですよね。嫌い同士ではずんでいたらちょっと変なのです。お互いにポンポン外しあっているなんていうのは・・・。だから好きになる努力をしないといけないのかもしれません。 それでは好きになるにはどうしたらいいかといったら、悪いところを見て好きにはなれませんから、やはり良いところを見るしかないのかなという感じがします。 こういうふうに言うと、「大久保さん、実はあの人は良いところがないんです」という言葉がまた出てくるわけです。良いところはあるのです。見えていないだけです。 例えば中小の企業でお邪魔してよくあるのは、経営者がこう言うのです。「大久保さん、うちの社員はまるでやる気がない。彼らは考えてないですよ」と言うわけです。それで私がインタビューさせてもらうでしょう。会社はこういう問題があり、こうやったら良いというアイディアがいっぱい出てくるのです。社長から見たらないと言う。しかし事実はあるのです。それは結局引き出していない、聴いていない。多分少しでも何か提言したときにバーンとはねつけているのです。それで言わない方が得だという状況を作っておいて、彼らは何も言わないと言っているだけです。 さっ申し上げた、どちらかと言えば十分評価されていない人の集団でも、対話をしていくとやる気が出て工夫をし出して結局業績を上げることができた。能力がなかったわけじゃなかった。このケースは出させてなかっただけです。これもやはり認めることによって出てきています。 もう一つは、やはり認める、誉めるということをされたらいいです。相手を認める、誉める。ただし誉めるというのも冗談で言ってはだめです。建前で言うと相手にとって不愉快になります。認める、誉める、理解するというのが原則です。認める、誉める、理解する。これをやると必ず相手というのは「あ、自分は認められたな」ということになりますから、やはり少しでも良いところを見ながら・・・。 あ、そうか、そういうことなんだ。基本はやはり信頼関係を築いていかないとだめでしょう。信頼関係を築くには、相手に対してこういうストロークを打っていくということだと思います。 これを受けに回らないことです。認めてほしい、誉めてほし、理解してほしいとなるとだめです。そうですよね。だから認める側に回る、誉める側に回る、理解する側に回ったときに、多分相手というのは変わってくるのではないでしょうか。そんなような気がいたします。 それから次の質問です。「肩書きを外して対話する具体的な方法を教えてください。」 はい、私がやっているのはこれです。役員とかマネージメントを集めて討議をするときに、必ず「今日のルールを申し上げます。全員対等です」と。そして大きく「対等」と書きます。それをやった企業で、5つの項目を張り出して、それこそ最初に唱和して確認してやっているという所があります。「対話で、本音で、簡潔に、異なる意見をどんどん出して」こういうことです。だからルール化して宣言するということがすごく大事です。 ただし、例えば課長さんが部長さんを集めて「よろしいですか、今日はみなさん肩書きを外して対等です」なんてやったら、部長の方から「何言ってんだ、お前は」となってしまいます。ですからそれは部長に言わせないとだめです。上の方に言わせることです。だから上の方から「対話をしていこう、対等にやっていこう。」 例えば花王さんなんて全部対等でしょう。情報も対等、みんな対等。曰く「アイディアを出すのに上下なんて関係ないでしょう。」全くそのとおりだと思います。さっき申し上げたように、若い人の方が良い意見が出る可能性が高いわけです。 それともう一つ、肩書きを外すいちばんベストは、普段から肩書きで呼ばないというのがベストです。例えば私自身はIBMという会社にいましたから、鬼澤さんも外資系だったからそうかもしれませんが、お互いさん付けで呼ぶのが当たり前です。だから私も肩書きで呼ばれたくありません。講師として出るとどうしても先生と呼ばれますが、「先生と呼ばないでください。『大久保』と必ず名前で呼んでください」ということを申し上げています。これは心底そう思います。ともかく先生と呼ばれるのが好きではありません。 みなさん、考えてみてください。先生と呼ばれる人たちを並べてみてください。憧れの人たちですか? ああなっちゃいけないという人が多いでしょう? そうじゃないですか。僕はそう思っているわけです。 ただし先生と言われても大丈夫な人がいます。それは本当に人間のできた人です。「先生、先生」と呼ばれて、翌日呼び付けで呼ばれても自分の心が微動だにしないぐらいの人間になった時は僕は呼ばれてもいいと思っています。でもそんな人間になれそうにありませんから・・・。 人によってはいるじゃないですか。部屋に入ってくるなり「私の席はどこだ?」自分で好きな所に座れと。「席はどこだ?」って幼稚園の子供かと言いたくなります。いますよね、車がパッと止まったらドアが自動的に開くのが当たり前だと思っている人。自分で開けたらどうだと。これはやはり人間性そのものとして、人として退化していると思います。 だから一つは普段からさん付けでやるというのがベストです。これ、日本は難しいですね。肩書きで呼ぶのが全部いけないんじゃないでしょう? 肩書きで呼んだ方がけじめがついて良い面はあるのです。だから全部否定すべきだとは思いません。しかし今の時代にCSを軸にして経営をやっていく、現場が中心だということになっていったときに、やはり肩書きで呼ばないでさん付けで呼んでいくという方が私自身は良いと思っています。 肩書きで呼ぶとき困るのは、肩書きが変わって、最後にその相手が肩書きがなくなったらどういうふうに呼ぶのかなと。例えば昔聞いたことがあるのです。社長、会長、相談役といるでしょう。みんな相談役と言うわけです。それで僕は言ったわけです。「相談役を外れたら、みなさんどういうふうにお呼びするんですか?」と聞いたら、「ずっと相談役って肩書きがつくんです」と言われたときに、あ、そうかと思いました。実は肩書きがなくならないというわけです。だけどこれはちょっと寂しい話です。 ですから抜本的には普段からお互いにさん付けで呼ぼうと。ちょっと今から挙手をお願いします。うちの会社はお互いさんづけでやっているという方、手を挙げてください。そこら辺、ちょっといますね。肩書きで呼んでいますと。すみません、もう一回やります。どちらかだと思いますので・・・。はい、さん付けだという方? そこら辺、同じ会社の方ですかね? 違うのかな? 肩書き中心です。これはやはり日本の典型ですね。 肩書きで呼ばないようにしていくというのがいちばん良いかもしれませんね。 それから基本において、さっ申し上げたように、対話をするときにはそういうのは関係ないんだということをまず知識として理解することでしょう。対話というのは、コミュニケーションというのは対等でやっていくものなんだということです。これを知識として理解するということが大事だと思います。 それから次の質問。「小さな声で話すようにしています。会議、研修会、全てと言えるほど無視されたり低い評価となります。大声に負けない小声で対応する方法などありましたら・・・。」だから僕、質疑応答って好きなんです。こういう素晴らしいご質問をいただけるというのが・・・。 「大声に負けない小声で対応する方法」、あります。マイクを使ってください。 小さい声が常に負けるということはあり得ません。自分のことを言うのも何ですが、講演を何時間かやるときに、いちばん大事なメッセージをするとき、実は僕は声が小さくなっているそうです。意外と小さい声で。そうするとこう言われたことがあります。よく聞こえないというのです。こうやって真剣に聞かざるを得ないので、つい真剣に聴いてしまうと言っていました。うまいやり方だねと言われましたが、意図的にやっているのではないのです。本当に大事なことを言うときには小声になるのです。だそうです。面白いものです。 ですから小声が常に負けるものではない。あくまで内容です。そうするともっとひどいことになっちゃうな・・・。 それともう一つはやはり自分のメッセージには信念がないとだめだし、ただ確かに声の大きいのが通るというのはあります。この場合、対策としては発声練習するという手もありかもしれません。普段小声の人が突然大声でやったらむちゃくちゃ説得力があるかもしれません。 そういう意味では、声の大きさが勝負だとなったらば発声練習で大きな声を出す練習をする。もしくは携帯マイクを持参する。ですよね? もしくは小声でも絶対に大丈夫だという信念を持って立ち向かうということでしょう。 ただ小声と言っても相手に聞こえないとだめです。そうするとやはり説得力がないですよね。 それともう一つ、明るさというのも一つの説得力になるのです。暗さというのはマイナスの説得力ですが・・・。小声の人ってどちらかと言うと明るい方ではない感じの人が多いです。これはやはり説得力になります。「あいつ真っ暗だよな。常に大声だよな」というのは少ないです。精神錯乱状態かもしれません。そういう意味では明るさというのも説得力です。 それから説得力のいちばん基本は何か、みなさんご存知ですか? 基本的にここに書いた普段からの信頼関係なのです。すなわちお前には言われたくないというのがあるじゃないですか。正しいことを言われたらそのとおり人はうなずくかというとうなずきません。「理由は?」「正しいから」っていっぱいあるわけです。「なぜ嫌なの?」「お前が言ったから。」人間というのはそういうものなのです。そして言った方は「俺は正しいことを言ったのになぜ動かないんだ?」「あなたが言うからよ。」信頼されていないのです。 実はコミュニケーションでは信頼関係を作るというのが基本になってきます。そのためにはどうしたらいいかというと、常日頃他人に対して心配りをすることです、ということになっていくわけです。 それはちょっとした声をかけることであるかもしれません。例えばファミリーレストランとかいろいろなチェーン店なんか、あれは店長産業と言われていますでしょう? この店長が行けば絶対に業績を戻す店長というのがいるわけです。そういう店長の共通項目は何かというと、徹底してコミュニケーションをとるそうです。そのコミュニケーションとは何か。一声かけることだと、こまめに声をかけることだと言っています。「ありがごう」とか「どうした?」「大丈夫?」ちょっとした声をかけ続けることによって、それは何かというとっき書いた自分の存在を認められることになるわけです。「あ、店長は私を認めてくれてる。」 いちばん最悪は、「あ、お前、いたの?」こういうのがいちばん良くないですよね。「え?前からいた? ごめん、知らなかった」って、いくら本音とはいえ、これはちょっとまずいかな。 だから認めるということです。だったらどうしたらいいかと言うと、例えばさっきご紹介した清水市長。1000人の職員で800人を名前で言えるそうです。これはやはりコミュニケーション力だと思いませんか? そうですよね。だからやはり名前でポンと呼ぶのと、「おい、そこの、お前」というのとでは、これまたコミュニケーションに差が出てくることになります。 そうすると一つには、コミュニケーションを良くするには名前を覚えるというのもすごく大事かもしれません。どうしたらいいか。私自身も一つの営業所を預かった時、顔写真を並べ、名前を下に書きました。100人ぐらいいましたから、とにかく1週間以内に早く覚えようというので努力したことがあります。それでも間違うわけですが・・・。それでもそういう努力はしました。名前を覚えていくというのもすごく大事じゃないかなという感じがします。 それから次です。「トップの方針、ビジョンを伝えるのに、どうしても一方的に話をしがちになります。」多分そうでしょう。「方針が社員一人ひとりにどう浸透しているかを測定するためにコミュニケーションをどのように活用すればいいでしょうか? 例えば『今期の方針を言ってみろ!』という質問は最悪だと思いますが・・・。」大変よく認識しておられるなと。「伝わっていないと感じたとき、思いを話しても良いのでしょうか?」なるほどね。 どれだけ浸透しているか測定するために、いちばん良いのはやはり部下の評価してもらうしかありません。例えば重要な方針が五つある。この五つに対してあなたの理解度はどうか、実践度はどうかというのを無記名で書いてもらうしかないです。もうこれしかないと思います。 もう一つはやはりこのように面と向かって相対したときに、「今年の方針というのはどうなっている?」と聞くのも一つのやり方です。これを1回やれば、2度目集めたときに言われるぞというので一生懸命覚えてくるはずです。ですからそういう面では精度というのは高くなると思います。 基本的には相手に無記名でいろいろな形で重要な項目を評価してもらうということをされるのがベストだと思います。私はここまで言っているから伝わっているはずだといっても全然伝わっていないというのが普通ですから、そういう形の仕組みを導入されるというのがいいんじゃないかなと思います。 それからもう一つ徹底させるためには、例えば年度方針が出ると、年度方針が語られるのは大体年度の初めと終わりというのが多いわけです。これではやはり徹底できないわけです。例えば毎月自分の課で会議を開くといったときに、会議の冒頭に今年の年度方針はこうだったよね、この方針に基づいて1ヶ月自分たちはどれだけできたかを考えてみようよと。それからこの方針に基づいてこれから1ヶ月の方針を語り合おうよ。 だから大事なことはやはり何回も引き出してくることです。そしてメッセージしていく。お互いに考える。そういうことがすごく大事だと思います。 これはやっていないですね。大きな会社でもありますが、今年の方針は、というのでどうなっていたのかなと年末になって初めて見て、「良い方針だったな、来年もこれでいくか」とかやるケースもあるわけです。一見良いような悪いような・・・。これもやはり徹底できません。 だから繰り返し、繰り返しやっていくということが一つと、もう一つは、その観点であなたは何をやる、どう考える、何をしてきたかというのを言わせる、発言させる。これが基本です。これが徹底する方法です。 ともかく一方的に言い続けても絶対に徹底しないと思ってください。なぜならば一方的に言う癖がついたら聴く方はただ一つです。基本的には耳をふさぐという能力が身につくだけです。「また始まった」と。考えているのは、「早くやめてほしいな」とか別のことを考えます。もちろん表面はうなずきます。ですがそれはただうなずいているだけで、違うことでうなずいているわけです。だから絶対に一方向はしないという固い決意で臨んでいただくといいと思います。 それから次の方が、字が美しいのですがちょっと小さくて・・・。私も54歳になりまして、最近ちょっと目がきつくなってきまして・・・。「営業として、組織力を高めるために悩んでいます。ヒントをいただければ」と。「100%お客様の発言に耳を傾け、それに対して『提案する』。提案力を高める必要があります。個人の提案力をどうしたら高められるか。」 これは一言では言えません。まずお客様の言っておられることをしっかりと理解する力をつけなければいけません。 これはOJTの方が良いと思います。若い人を一人行かせて、「お客さんが何と言っていたか聞いて来い」では全然違うことを言う可能性があります。ですからベテランの方がついて行った上でお客様にご説明していただいて、なるほどなというところで戻ってきて、その若い人にお客様が何と言われたか書いてごらんと。そうすると多分とんちんかんなことをいっぱい書くと思います。 実はこれは私自身が課長になった時にやった方法です。教えないで、「あなたはどういうふうに聴いた? はい、書いてごらん。それに対してあなたは今後どうしたいと思う?」徹底的に考えさせることをしているのです。 だからそういうやり方が良いです。そうすると実は「こういうふうに言ったでしょう。あれは建前で本音はこうよ」とか、「そんなことは言っていないでしょ」ということがいっぱいあるわけです。 人というのはやり取りしているとき、自分の思いをベースにして相手の話を聴きますから、全然ないと入ってこないし勝手に勘違いしてしまうということはいっぱいあるわけです。言った、言わないもいっぱいありますし、ともかくコミュニケーションがうまくとれない、相手のことを理解しそこなうというのは日常茶飯事なわけです。 それは第三者的に見て解説してあげると非常に分かり易いです。「お客さんはそんなこと言っていないよ。こう言ったんだよ。それに対してはどうしたらいい?」多分そういうOJTをやっていくことが大事です。良くないのは、「とにかく傾聴能力を高めろ。ひたすら聴いて来い」と言ったって、聴けているかどうか分からないわけですからこれは難しいと思います。 だから戻って来て、「そうか、お客さんはこういうふうに言ったんだよ、ああいうふうに言ったんだよ。そこを書いておいてごらん。それで今お客さんの所に行って確認してごらん。『お客さん、こういうことでよろしいのでしょうか?』」 それからもう一つは、お客さんの言わんとされることを理解するには、その聴いた本人が箇条書きにまとめて、最後お客様に確認をとってくればいいです。『お客様、今日おっしゃられたことというのはまとめるとこういうことでよろしいでしょうか?』最初の頃は違っているというので全部消されるかもしれません。 実はこれもやらせました。すごく良い方法です。するとお客様によっては、違うんだよと全部書いてくれる人もいるのです。絶対に確かです。もっとも後日変わることもあります。本人の考えが変わることもあるのですが、こういう文章、紙でのやりとりというのが良いと思います。そういう形でされたらどうかなという感じがします。そのベースというのは、今は聴く能力、正確に聴く能力ということです。 それから聴いているか、聴いていないかを高める方法は、ロールプレイで結構ですからそれをビデオに撮るのです。そして後で見たら分かります。全然とんちんかんな返答をしているというのがよく分かります。 要は第三者の目で見ない限り、自分の姿というのは見えないわけです。だから自分がどう応対しているのか、どういうふうにちゃんと聴けているのかというのを横でビデオに撮っておいたのを後で自分で見るということをされたらいいです。そうするといかに誤解が多いかということが多分分かってくるのではないかと思います。 これも聴く能力、理解する能力を高める一つの具体的方法です。でもあまりやっていないでしょう。いちばん良いのは、実際にお客様の所へ行って録音テープをとって後で聴いてみることです。 人が育つにはこういう投資が要るのです。なかなか皆さんやらないですね。やはり本当に育てるということになかなか時間をかけないですね。そんな感じがします。 それから「営業から戻るとすぐパソコンに向かう。工場とのメールのやりとりなど。ともかくメールを禁止したい気分です。」パソコンなんて作るからいけないのです。と言ったらちょっと言い過ぎですが・・・。「大久保さんのお話のように、会社に戻ったら横の人間とまず会話をするように指導していますが、何か良い方法はありますでしょうか?」 これはなかなか良い質問です。人が動くべき方向に指示しても、提言しても人は動かないのです。ああせい、こうせいと言っても人は動かないものだと思ってください。 どうしたらいいのかはそっちに動くようにもっていくことなのです。「いいから対話しろ。」違うのです。「ちょっとうまいもん買ってきたよ。ちょっとみんな来ない?」って雑談を始めたら対話ができるかもしれない。これが環境条件を作ることです。 「いいか、対話が重要だぞ、対話しろ。」「なぜ対話しないんだ? だめじゃないか! 話聴け!」また自分の言っていることが全然矛盾しているケースがあるでしょう。違いますよね。だから対話の場を作ることです。問題提起をすることかもしれない。場合によっては組織横断的にチームを作って課題を与えることかもしれない。 このとき大事なのは、部下を集めて話をするときなんかも自分で結論を先に言ってはいけません。「このテーマについてみんな自由に討議してくれ。俺はこう思うけどな。」もう全然自由とかないわけです。これは本当の話です。 ある会社で言っていました。「僕は自由に討議させています。」「どうして?」「テーマを言ったら、後でその席を外して彼らに自由に発言させてます。でも冒頭一応自分の意見は言っています。」それで課員に聞いたら、「最初に課長がああ言って、あれがひっくり返ったためしがありませんから。」「どうしてるの?」「雑談してます。」何もやっていないわけです。 これも、自分は正しいことをやっていると思っているわけです。でも結果的に全然違ってしまったことをやっているのです。このぐらいギャップがあるのです。 ですからやはり相手からの評価をもらわなければだめだということです。 鬼澤さん、ちょっと「自分が変れば組織も変る」の本手元にありますか? すごい質問があるのです。「自分は絶対正しいと思っている上司を改心させる方法はあるか。」難しいでしょう、これ。 絶対にやっちゃいけないこと。「あなたは間違っている。改心しろ。」絶対改心しません。「お前こそ改心しろ」と言い返されるだけです。 その方法が書いてあります。121ページです。ない人、ちょっと申し訳ございません。実はこれは去年使ったかもしれませんが、鬼澤さんの所にもソフトコピーがあったと思います。これはコミュニケーション診断表といって、要は例えばここでは5段階評価で自分を評価するのです。「話すより、よく聴いている」、「相手の心情を考えながら話す」、「重要なことは切り返し伝える」、「よくほめ言葉を使う」、「反対意見を受け入れる」、それを1~5段階評価で自ら評価してくださいというものです。 例えば部長さんがいた。そうしたら部長さんがつけると同時に、部下の人に部長さんがどうかというレベルをこれで評価してもらうのです。これをやらない限りだめだし、これをやったらものすごい気付きが出ます。 実はこれを数千やったのです。自分がアドバイザーとして入った企業で、部下から評価をさせていない企業はありません。なぜかと言うと部下のコメントをもらわないと所詮分からないから。見えないのだから分からないのです。 自分は正しいです。私は常に聴いている。5だ。部下が1。こんなのはいっぱいあります。例えば「重要なことは繰り返している。」本人は繰り返しているから5です。部下から見ると2。 もうこんなのはいっぱいあります。例えば「私は人材の育成だけは自信がある。教育ということについては力を入れてきたので5です」と。「大久保さん、ここだけ部下の評価が1でした」という人にも出会ったことがあります。 それから怒る、怒らないというのもあるのですが、「私は怒らない方である。」5。部下から1というのが結構あって、丁寧にコメントまでついている人がいました。例えば10人の部下を持っている人で、6人から「朝から怒鳴らないでほしい」と書かれた人がいました。その上司は何と言ったと思いますか? 「私は怒鳴ったことはありません。」「そうでしょうね。朝一番で重要なことを確認しているんでしょ?」「いや、大久保さん、よくお分かりですね。」「あなた、やはり怒鳴っているんですよ。」これが本人と相手のギャップなのです。 それで経営品質の基本は相手の評価なのです。相手がそう評価したら自分はああだこうだ言ったってしょうがないのです。それであなた怒鳴っているよという人が6人もいるのですから、怒鳴っているのです。本人は怒鳴っていないと言うけど・・・。 先々週もある企業で合宿をやったらありました。センター長が別の所へ転勤になった。最後の歓送会、飲み会になった時に何と言われたか。「本当にあなたは四六時中怒ってばかりいた。」飲んだ席だし、もういなくなりますから言う方も気楽に言ったみたいなのです。相当言われたと。その言われた人は何と言ったと思いますか? 「私はあれほど怒らないように努力したつもりだったんですけど」とおっしゃっていました。部下は全くそう評価していませんでした。そのくらいギャップがあるわけです。 そのギャップはどうしたら分かるか。ただ一つ、部下に書いてもらうしかないのです。これ以外の方法はありません。そしてこれが最良の方策です。そのときに大事なのは手で書いてもらわないようにしてください、追求が始まりますから・・・。いやいや、細かいけれど大事なことなのです。ワープロでハードコピーを渡すようにしてください。それからメールでやり取りしていてはだめですよ、発信が分かっちゃうから。分からないように書くと言っても、書いたときに書いた方というのは相当な決意で書いているのです。 このケースも、どういうふうにフィードバックしたらいいか、どうコメントをもらったらいいかも、3000やったのでその体験に基づいて実は細かいことがさらに書いてありますが、もしこれを実際にされたらこう思ってください。結構否定的な意見を書かれた。おめでとうございます。全くなかったら危ないですよ。 例えば部下の評価が全部5だったとします。最悪です。そんな人間はいません。ただ一つ、それは恐怖政治なのです。だからうっかり4と書いたらば、○の付け方で無記名であってもばれるんじゃないかと・・・。本当なのです。本当の話です。それで書けないのです。5なのです。 ということを5がついた人に言ったことがあります。事務局の人に何と言われたか? 「大久保さん、図星です。彼のマネージメントは恫喝、恐喝です。」「嫌いだ! 何をやっているんだ! ふざけんな!」強烈なプレッシャーマネージメントの人でした。私と相対する時はにこやかです。全然違います。見えないですよ。上司と相対する時もにこやかです。部下に相対する時は鬼になっているわけです。全部5でしたからその評価が見事出ました。 本人は自慢気に言ったのです。「私の平均は4.3なのに、部下の評価が平均で4.8でほとんど5でした。」「いやあ、危ないですな」と僕は言ったのです。「あなた恐怖政治をしているはずだ。本音が書けていない。」それが図星だったのです。 この人はその後努力されました。努力されたらどうなったというと、部下の評価がその後努力したにも関わらずずっと下がり続けたのです。「二回目やったら4.3で、今度3.8になりました。」「素晴らしいですね。やっと部下が本音を書けるようになりましたね」ということなのです。 そんなものなのです。そのくらい本音は書けません。この本の中にも書いたのですが、もし否定的なコメントをたくさんもらったときには喜んでください。それだけ指摘してもらえたのです。ただし全員が1で、否定コメントの連続だったらそれはそれで問題があります。もう即刻マネージメントとして退任すべきですとしか言いようがありません。それはバランスの問題です。だから悪いのがついても悪く思わない方がいいです。 ここで申し上げたいのはただ一つ、ともかく相手に評価してもらわない限り自分の姿は見えないのです。そしてその否定的なコメントを、少々間違っていると思っても一つ素直に謙虚に受け入れて改善していく以外にはない。 これは企業と会社で考えたときも同じです。お客様からコメントをいただいたら、そんなの違うよなという思いがあったとしても、お客様はそうとられたのですから自分で反省するしかないのです。これは経営品質の発想です。やはり相手のご意見を素直に謙虚に受けて自らを改善していく。 だから個人にあてはめた場合には、部下との関係でも、部下のコメントを素直に謙虚に受け入れて自分を改善していく。そうするとどうなるかというと結局自分が成長できるわけです。その方がずっと尊いわけです。そういう形でもっていくとできます。 だから上司を改心させる方法というのはこのコミュニケーション診断シートをうまく使うということです。ただしそういう上司が、「なんで俺が評価されなきゃいけないんだ!」となった場合にはもう諦めてください。これはもう無理だとしか言いようがありません。その場合には身の振り方を考えるというのが一つ対策としてはあるかなといういう感じがします。半分冗談のようですが本気なのです。ただしそのうち変わりますから、その人がずっと上司ということはないでしょう。なんて言って変わらなかったらちょっと困りますけども・・・。 もう一つ言えば、人生というのは運、不運はあるのです。あるのですよ。どうしようもない上司に仕える時があるのです。それはトレーニングです。いや、本当にそうなのです。良い上司とそうでない上司と両方から人は学べるのです。本当です。上司の人は悪い方の役をやらないでくださいよ。でも部下から見て嫌だなと思う上司の方が意外と良いことだってあるのです。 もう時間がないので話せませんが、一つだけ申し上げますとこういう経験があります。IBMに勤めて素晴らしい上司がいました。外に出てお客様に無理難題を言われて疲れて8時、9時に帰ってきた時、その人がいるとホッとする上司です。それは嬉しかったです。戻ってきて悲壮感を漂わせていると、「大久保、どうした?」「こんな無理難題を五つ言われてきました。」「心配するな、俺が何とかする。」この上司に仕えた時は、ともかくいてくれるだけで嬉しかったです。 そうじゃない人もいました。戻って、まだいるの? 「もう一度お客様の所へ行ってきます」とか言って・・・。上司から見ると、お前熱心だなと。違うんですよ、あなたがいるから帰るんですというだけです。これもコミュニケーションギャップです。 ただその素晴らしい上司もちょっと課題がありました。血液型がB型のせいかどうか分かりませんが、翌日になると見事に発言が変わるのです。「俺そんなこと言ったか?」とか言って・・・。でもその時々は真剣ですから。それで「心配するな」と言ってもらい、肩の荷を下ろすことによって実は自分で問題解決ができた。実は五つのうちの一つはちゃんとやってあったのです。これは最高の上司だったかもしれません。やはりそういう上司になっていただきたいですね。 ちょっとあっち行ったりこっち行ったりの話でしたが、もうあと詳細は本を読んでいただくということで今日に出版を間に合わせました。昨日の夕方に印刷が出来上がったのです。ということなので、あとはこちらの方で自習していただくということで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 今回のテキスト:「自分が変れば組織も変る」 かんき出版 大久保 寛司 著
組織力を高める鍵 ~コミュニケーション~ / 2003年6月(設立3周年記念講演会) 組織力を高める鍵 ~コミュニケーション~ 大久保 寛司 氏 みなさん、こんにちは。今日は5時までお時間をいただきました。質疑応答含めて5時までということでお話をさせていただきます。 何を話そうかなということで茨城では毎回迷うわけですが、いつも申し上げていますが、大事なのは講演が役立つかどうかというのは聴く方の能力です。これは本当にそうなのです。 この間も私の友人が、ある会社で50人ぐらいを対象に2日間のセミナーをやりました。なんと49人の方が感動のメッセージを書き連ねていました。僕も感想を拝見しました。大袈裟に言うと人生観まで変わりましたというようなコメントが多数ありありました。CSとESを軸にしたセミナーだったのですが、その中で1人こういう人がいました。「全部無駄であった」という感想の方です。49人が感動しても、全部無駄であったという見方もあるんだなということです。 ですから聴く方の能力だということです。そこに気付いていただきたい。ここに気付かないとまた次に進めないわけです。 今日は「組織力を高める鍵」ということで、結論から言えば実はもう演題に書いてありますように、コミュニケーションそのものが最高の鍵なのです。このことをこれからゆっくり深くご紹介していきたいと思います。 ☆激動する変化の流れを観る とにもかくにもここに集まっておられる方はまず企業を良くしたい、間違ってもうちの企業を破滅させたいという方はいらっしゃらないと思います。どうしたら良くなるかということをお考えの方、もしくはそういう問題意識をお持ちの方が多いと思います。やはり組織が生きていく、企業が生きていくというのは変化対応です。ですから変化にどう対応していくか、このことが重要になります。 今、世の中激変しております。例えば一昔前は中央省庁の官僚の方というのは尊敬の眼で見られていたと思います。日本は官僚が優れているからここまで来たのだと。今何と言われているか。「彼らが諸悪の根源だ」という具合に言われるぐらいになってきたわけです。 大きな銀行というのはもう安定の象徴でした。最近どうでしょうか? どんな大きな銀行がガタッと傾いても、「あっ、そう?」ぐらいの感じであまり驚かない可能性が高いわけです。不安だということで、最近は銀行から預金を引き出して銀行を何に使っているかというと、金庫代わりに、金庫として使っている人が結構増えてきたというわけでしょう。信じられません。それを見ていた銀行員が、「そんな所に入れるんだったらうちに預けてください」と言ったら、「おたくに担保はあるのか?」銀行の方がそのように言われる時代なわけです。そうすると思わず返答ができなかった行員という・・・。この方は大変正直な方だと思います。 保険でもそうです。第一生命さんが日本経営品質賞を受賞されましたが、社長がおっしゃっていました。昔は保険を売るのは簡単だった。「お宅のだんなが死んだらどうするんだ。困るでしょう? はい、ハンコを押してください。」30秒で話が済んだそうです。今はそうはいかない。長く生きてしまうことによっていかに苦労がたくさんあるかという話をしていかなければいけない。「だから保険に入らなきゃいけないんだ」という説明がものすごく難しいと言っていました。「死んだらどうするの?」というのから、これからは「生きちゃうんですよ、どうしますか?」と。そして最後に何と言われるかというと、「確かに長生きするというのは分かったけれど、おたくの会社は生きていけるのか?」と言われてしまう。そうするとまた自信を持って大丈夫ですと言えないわけです。 ご承知のように今の状態では大きな保険会社もガクッとなってもおかしくない。激変しているわけです。全く世の中の有り様が根底から変わり出しているわけです。 その中でどうなっていくのか。世の中というのは常に変化しているわけです。変化していないということはあり得ないわけです。激変しているとしたら、その激変を超えて自ら変化していかなければいけないわけです。 変化にもいくつかの対応があると思います。いちばん理想は変化を創り出す、リードするというのがベストです。2番目はその変化に何とかついていくということです。3番目は後ろからちょっと突き放されちゃうかな、置いてけぼりを食ってしまう。多分この最後の方というのは組織として生きていけなくなるんじゃないかなと思います。 変化ということではもう1回目からずっと申し上げていますが、いちばん大きな変化というのは何かというと、全てのビジネスにおいて供給側、売る側から買い手の側、受け手の側に主導権が移った、これが基本なわけです。ですから全ての商品、サービスに関しての主導権は受け手にあるんだということです。簡単に言えばお客様です。ですから全ての根底をお客様から考えて見ていかなければいけません。お客様本位、これはまさに経営品質賞の基本の考え方の一つ、中核にあるものです。まずお客様があってビジネスというのは成り立つわけですから、全てお客様から見ていく。これがポイントです。 実はこれ一つを本当にやり切ったら随分変わります。いろいろ拝見していますと、いまだに「お客様の方から見れていないな、やはり自分たちの立場で物事を考えてしまうんだな」ということを折に触れて痛感します。 この間もある企業にお邪魔させていただきました。ある商品を設置した所をその後訪問して聞いてみたのです。そうしたらいろいろ不具合があったので、戻ってきて技術の担当者を呼んで「不具合があるぞ」と。すると「それは前任の誰それさんが担当の時の商品ですね。」これがまず第一声です。それから2番目は「今はもうその商品は直っていますので全然心配はありません。」3番目に何と言ったかというと「元々設置の仕方が良くないんじゃないですかね?」聞いて愕然としましたと。お客様の視点は全くない!全部自分たちの視点だということを言っていました。 ちょっと古い話ですが、ある家電メーカーが米国で商品を売り出した時にどんどん戻ってきてしまう。不良品として戻る。あまりに戻ってしまうのですが、実は工場で検査すると別に不良品ではない。しょうがないから購入されたお客様の後をついていってじっと見ていたら、取り扱い説明書を見ながら器具を設置するわけですが、その取り扱い説明書がよく分からないわけです。そうするとパタッと閉じて返品となるわけです。 これは不良品でしょうか、良品でしょうかということです。研究所、開発・製造部の方は「壊れていないのですから良品です」と。これは研究・開発・生産の部門の立場です。お客様の立場から見ると、設置できませんからこれは不良品になります。いくら本体が良くても不良品です。そういう発想を持てるかどうかなのです。実は企業はいまだに良品ですと言っている人が多いのです。いまだに企業の立場で見ています。全部お客様の立場で見なければいけないのです。買うのは目的ではなくて手段です。設置して楽しみたい、それが設置できないとなったらそれは不良品です。目的が達成できないのですから。 こんな話でしたらいっぱいありますが、何を申し上げたかったかと言うと、いまだにお客様の視点に立てていないなと。だからこそ私からすればビジネスチャンスだなと思います。なぜか?お客様の視点に立ったらいくらでも満足を提供できますから、発展することは可能だということです。 みなさんご存知ですかね。この間、日経ビジネスにも出ていましたが、群馬県太田市の清水市長という方はすごい方です。マスコミによく出てこられるのでご覧になった方も多いかもしれません。2日間その方とご一緒する機会がありました。すごかったです。 この間3期目の当選をされたばかりですが、最初に市長に当選した時、第一声がすごいです。1300人の職員を何年か以内に1000人にすると。それからじーっと職員を見ていたら、ろくに有給休暇をとっていない。みんな長期有給休暇をとれと。それから市役所はサービス業だから土日を全部開けろ。人を減らす、休め、土日は開けろと。すごいです。2月28日の日経の一面に出ました。「群馬県の太田市、全庁土日オープン。」住民票だけ出すのをどこかのスーパーの中で一部オープンというのはあるわけです。全庁オープンというのは日本で初めてです。土日全部オープンにしています。職員は減りました。もちろんクビにはできませんから退職の補充を少なくするという格好です。現実にこのようなことを行政の世界で実現された人がいるのです。 この方の話を伺っていて感動の連続でした。簡単に申し上げれば、21世紀の自治を実現されている方です。自治、これは何か。自治というのは本来「自ら治める」です。ところが日本は戦後どうなったかというと全部お上頼りになりました。ですから何か地元で不具合があると、役所は、国は、県は、と言います。全部自分以外のところに投げます。江戸時代は自らで全部治めていたわけです。群馬県の太田市というのはまさにこれをやっています。住民が主体でやっているのです。 この市長さんがすごいのは、お話を伺っていて最初分からなかったのですが、「うちのお客さんは・・・」と実は「市民」という言葉を使われないのです。「お客さん」という言葉しか使われませんでした。 例えば評判の悪い第3セクターがあります。日本で全部集めたらいくら不良債権があるか分からないという第3セクター。最近作った3つの第3セクターは全部黒字です。「なぜ黒字なのですか?」と聞いたら、市長の清水さんの返答が素晴らしいです。「黒字になるようにやっていますから」と。聞いていても全然参考にならないのですが・・・。 880戸の太陽光発電の住宅団地というのを作っています。これももともとは県が従来型の一戸建てをやろうとしたのですが、売れそうにないというので市で引き取ってくれと、どうも開発予定の土地を投げ出したらしいのです。 880戸の一戸建て住宅団地、今はどうなっていると思いますか? 作るそばから売れて作るのが間に合わない。市長は何と言われたか、「太田市はバブルの再来です」。こう表現するぐらいです。購入の待ち行列ができているのだそうです。 「なぜ一戸建て住宅がそんなに売れるんですか?」と聞いたら、「それは簡単ですよ。お客さんの欲しいものを作っていますから。」そういう簡単な表現なのです。「お客さんの欲しいものはどういうものか事前に調査しまして、そして作っているのですから売れるのは当たり前です」と。そして事実売れているのです。 もうやることなすこと聞いているとすごいです。そして全部お客さん、お客さんです。もういちばん際立ったのは、いくつかあるのですが、あそこは月曜日になると、12時から1時半まで市の職員が全部市内を手分けしてゴミ拾いをしています。これは強制でやったら労働基準法違反になると思いますが、全部自主です。なぜ市役所の職員が全部自分たちでゴミ拾いするのか。 ちなみにあそこは市のいろいろな施設、トイレ掃除、全部自分たちでやっています。全部自分たちなのです。なぜするようになったかというのは、市長が当選された時、初日、というかずっとプレジデントが迎えに来るらしいのです。そういうのは嫌だと言うと「ルールだから乗ってください。困ります」と秘書課長に言われて、しょうがないから初日だけ乗ったよと。ただし誰も見えないようにというので、早朝行ったそうです。2日目からは全部歩いて登庁したそうです。「ついでにゴミ袋を持ってゴミを拾いながら歩いて毎日登庁したんだよ」と言っていました。そうすると町になんとゴミの多いことか。 群馬県の太田市というのは飲み屋街が多くて、ゴミがむちゃくちゃ多いのです。ゴミが多いとカラスが多くなります。カラスって分かりますね? あの黒いやつです。あれは結構怖いでしょう。私も一回だけ戦ったことがありますが、結構恐怖心でした。こう来ますからね。覚えていますしね。そしてゴミの量とカラスの量と比例するわけです。 市長はこうおっしゃっていました。「大久保さん、今度朝歩いてください。ゴミ袋一つもありませんよ」というのです。「太田市は朝4時に収集します。朝4時はさすがにカラスも来れません。ですからいなくなりました。」そういうことをやっている人です。 お話を伺っていてすごいなと思うと同時に、冒頭講演される時、「うちは職員が優秀なものですから、私は何もしていません」と言うのです。この「何もしていない」というのはどういうことだか分かりますでしょうか? いろいろな企業に行ってよく分かりました。「私はたいしたことしていない」と言う人は大体すごいことをしている人です。「私がいなきゃいけない」と言う人はほとんどいない方がいいということです。これは9割方当たります。もう9割5分ぐらいかもしれません。本当にそうなのです。 だからいろいろな組織、企業にお邪魔して、「大久保さん、僕はたいしたことやっていないんですよ」と言う人に限って部下からも評判がいいし、なくてはならぬ人です。「私がいないとうちの組織は回りません。」その人が病気で倒れると組織はすごく活性化するのです。これは事実なのです。もちろん、「私はたいしたことない」と、本当にたいしたことありませんねという方もいらっしゃいますから、これは何とも言えないところです。それから「私がいなきゃだめだ」と言う人。確かにそういう人も例外的にいます。と言うと全部自分を例外にしてしまうのです。それで「あいつはいなくていいですよね」と指します。3本指が内側に向いているのを忘れて指が外を向くのです。なかなか気付かないですね、本当に気付かない。 去年もお話ししたかもしれませんが、いろいろな会社の役員会でちょっと辛口で「おたくの役員はなっていませんね」と言って後で文句を言われたことは一度もありません。個々の役員の方にお会いしていると感謝されます。「よく言ってくださった。うちの役員、本当にだめだろう?」「いや、あなたも役員じゃないの?」とここらへんまで出そうになりますが、本人は自分以外を指して言います。そんなものです。 事実、一緒に来られた市長室の補佐の方が、雰囲気がやり手ビジネスマンという感じです。超一流のやり手ビジネスマンの雰囲気。何と言ったと思いますか?「毎日仕事が楽しくて仕方ありません」と言うのです。今民間企業に行った時、そういうふうに言っていただける方は少ないのです。「毎日どうですか?」「はい、苦しいです。いつどうなるか分かりません」と言う人が多い中で、毎日楽しくて仕方ありませんと。 「なぜですか?」「はい、新しいことにチャレンジしていますから。」役所ですよ。あの前例主義の世界で、「新しいことに日々チャレンジしているのでものすごくやりがいがあります。それを実現しているのは市長のリーダーシップです」と言っているのです。市長のことを自慢気に語ってくれたのはすごかったです。 でも清水市長は、「私は何もしていない。」何もしていないと言っても、現実には率先垂範でゴミを拾ったり、自分たちのサービスの検証もちゃんとやっておられます。月曜日の朝に市庁舎の一階にテーブルを出しまして呼び込みをやるのです。お客さんの呼び込み。「寄ってらっしゃい。」お客さんって市民の方ですよ。まあ、座れと。座ると自分でお茶を入れるのです。お茶を入れて飲みながら、「最近のうちのサービスはどうですかね?」こうやって検証している方です。そうするといろいろな不具合というのが分かるわけです。 極めつけは「七人の侍」でした。それはどういうのかというと、「我が市役所にも何ともならんのが7人いました」と言うのです。それはどういう人かというと、窓口に置くと住民からクレームが来る。「なんであんな人がいるんですか?」それでバックヤードに置くでしょう。バックヤードに置くと、その人を一人入れるだけで周りが全部やる気がなくなるというのです。すごいパワーのある人ですよね。だから今日の演題の反対、組織力を低める、なくす力がある。これが7人いたそうです。「七人の侍」と言っていましたが・・・。「七人の侍」と言ってピンとくる人は多分ご高齢の方かもしれませんが・・・。 それでどうしたと思いますか? すごいですね。税収取り立てチームですって。ニコニコしながら滞納者の所へ行く必要がないのです。「なんで納めないんですか?」と言えばいい。すごいと思いました。 役所の勤務時間は8時45分から5時半。何と言ったと思いますか? 「市長、相手はいません。税収が上がりません。」その時の市長の言葉に僕は感動しました。こう言ったのだそうです。「あのね」とこうなのです。「あのね、お客さんのいない所でビジネスはできないんだよ」と言ったのだそうです。これは本当の話です。お客さんのいない所でビジネスはできないんだよ。「じゃあどうすればいいんですか?」「お客さんのいる時に商談を進めなければだめだよ。」だからこの方たちの働くのは、土日と夜です。それでは普通の昼間は? 休んでいなさいと。予算は5百億です。去年の上がり、「上がり」と言っていましたね、税収増1億5千万円。利益です。プロフィットです。 すなわちいるだけでマイナスの人が1億5千万円の利益を上げたのです。ダブルで効いているのです。これが人を活かすということだなと思いました。ですから「7人どうしようもない人がいました」と言いながら、市長の話の着地は「誰一人どうしようもない人間はいませんでした。全員が有能でした」とこういう話になってしまうのです。 毎月いきいきしているそうです。「市長、先月の上がり」と言って報告されるそうです。その時市長は何と言うか。「そうか、すごいな」と言っているだけだと。それでいくらでも働いてくれる。 滞納者も二種類あるそうです。市営住宅の家賃などを納められない人と、遊ぶ金はいっぱい使っても納めないという人。これの方が多いのだそうです。そういう人はやはりちゃんと回収しなければいけないということです。こういうことをおっしゃっていました。 市長になられてから公民館改革もすごかったです。公民館に行ったら、公民館の館長が新聞を読んで椅子にドーンとそっくり返っているのですって。住民の方、市長に言わせればお客さんが来られているのに「なぜあの館長は挨拶しないのかね?」と若い職員に聞いたら、「あの人は元校長先生だったんです」と。「何の関係があるんだね?」「いや、だからそういうことなんです。」市長に言わせれば、お客様が来られているのに挨拶できない人間はサービス業に従事する資格はないと。いろいろ調べたら、公民館の館長は全部校長先生の上がりのポストだったんですって。翌年全員ご退任いただいたそうです。資格がないということで。 実はものすごい改革をやっています。ここはバランスシート、貸借対照表を全国で初めてオープンにした市です。企業で言えば、損益計算書を出すと1億5千万円の利益、すなわち税収増分がプラスだと言っていました。それくらい感覚を持っておられます。 その方がいちばん基本でおっしゃっているのはただ一つなのです。「お客さんの視点で物事を見ることなんだよ」。「ゴミ拾いも、もしプレジデントで通っていたら、あれだけゴミがたくさんあるというのが私には分からなかった。やはり大久保さん、現場を歩かなければだめだね」とか、もうともかく市長の話とは思えないでしょう。 2日間ご一緒させていただく機会がありまして、ものすごく勉強になりました。軸がぶれていません。そして市の職員の方とのコミュニケーションをとるのが実にお上手です。ものすごくよくお話をされている方でした。 今申し上げましたように、ちょっとまた戻りますが、全部お客さんの側から見ましょうよと、これが基本ですよということです。 最近本当に変わってきたなと思うのは、行政はもとよりこの間は県警からも呼び出しがありました。家内に言ったら「何したの?」「いやいや、講演依頼だ。」「早くそう言ってよ」と言われ、ちょっと疑われたのかなと思いましたが・・・。県警からまで講演依頼がありました。県警でCSというとどうなっちゃうのかなと。捕まえないことだとは言えないですからね、もちろんそういう話ではないわけですが。 実は警察の方も2年前に全国的に結構不祥事がありました。警察全体で考えた解決策がすごいです。部下ともっとコミュニケーションをとるべきだとなったのだそうです。そして警察というのは軍隊の小さいようなものでしょう。相似型みたいなものでしょう。上意下達でウワッという組織です。ある面ではそのようにやってもらわなければ困るわけですが、これではだめだと。どうなったと思いますか? もっと部下の話を聞くべきだということになったのだそうです。そして対話をしていこう。コミュニケーションをしなければ、コミュニケーションが重要だというように変わり出したのです。 ☆勝ち残るための2つの資産 実は二つ目「勝ち残るための2つの資産」ということで、これは去年もお話ししたと思いますが、やはり企業は生き残っていくためには二つの資産があります。一つ目は「お客様からの信頼、安心、ご満足」これが資産です。それから二つ目は「従業員のやる気」この二つが資産です。 この二つの資産、アナリストと世に言われる人たちは見ているでしょうか? 実はこれは数値化しにくいわけです。でも多分僕から見たらいちばん重要じゃないかなと思います。例えば今、産業再生機構、あれは企業再生機構だと思いますが、ありますよね。あれを見るときにいろいろな数字だけでいいんだろうか。そこにいる人たちが本当にどれだけやる気があるのかとか、お客様から信頼されている企業なのかとか、そういうものの方がはるかに重要じゃないのかなと。その観点でものを見ていくというのは必要だと思います。 この二つの資産をみなさんの企業では増やしていますか、減らしていますか? 元々測定していないとだめですが、実は多くの企業はこの二つの資産を減らし続けながらビジネスを行っているという所が大変多いのです。すなわちこの二つの資産の重要性ということに対しての認識が極めて薄いと言わざるを得ない。そんな感じがいたします。 ご承知のように最近は企業の信頼とか安心とかを損ねた瞬間、企業そのものが消える時代になりました。これはもういろいろな例をご紹介するまでもないと思います。そういうことです。それからもう一つは従業員のやる気であるということです。 その二つの資産を作ってく時に大事なのは、実は言葉自身が大事なのですが、「組織能力」というふうに書いています。もしくは「組織力」、組織において組織力が大事なのです。 個人商店は別です。しかし法人化して、少なくとも何人かの方が一緒に仕事をしているときに大事なのは組織全体の力です。組織全体の力、組織力が重要になります。そうです。これが最高に、出力最大になった時に成果最大になっていきます。その中の個人の個がどんなに能力があったとしても、組織力全体としてパワーアップしないと業績には結びついてきません。 ☆コミュニケーションは図れているか どうやったら組織力が高まっていくのか。それは多分いろいろなものがあろうかと思いますが、そのうちのいちばん重要なのが実はコミュニケーションになります。 一言で申し上げれば、縦横斜め、上下左右、とにかくコミュニケーションがとれていません。上司のことを部下は分かっていない。部下のことを上司は分かっていない。トップは現場を知らない、現場はトップを知らない。企業はお客様を知らない。実はもう知らない同士が寄ってたかって仕事をしている感じです。 組織力向上の秘訣は、いかに組織の中において対話を行っていくかということに尽きると思っています。対話、話すことです。要はお互いに分かり合っている、チームワークがとれているというのは組織力です。 実はおととい、こちらにも来られたと思いますがトヨタビスタ高知の横田さんと一緒に福井の方でお話をさせていただきました。みなさんもビデオをご覧になったかもしれませんが、インターンシップで学生がちょっと入ってきます。その時に感想を聞いたら、「ここはものすごく連携プレーがいいですね、チームワークがいいですね」と言うわけです。 チームワーク、これは鍵です。すなわちお互いに協力し合える。だから個々人の能力があったとしても、お互いに協力し合うか、最悪お互いに足を引っ張り合うかで全然変わってしまうわけです。その一つにするためにいちばん大事なのはコミュニケーションですということなのです。 例えばマネージメントの方であれば、部下とどれだけ本当にコミュニケーションがとれているか。いろいろなケースを見て分かったのですが、これがもう誤解だらけです。「俺はあそこまで言ったんだからあいつらは分かっているはずだ。分かっていなかったら許せない。」そんなことを言ったって、分かっていなければしょうがないわけです。 例えば先程二つの資産のうち一つの資産で従業員のやる気、これが資産であると。究極はここにいくと思います。人のやる気です。これが企業にとって最大のものだと思いますが、それでは上司と部下の間でやる気を引き出すようなコミュニケーションができているか。これができていないですね。どういうのができているかというと、やる気をなくすコミュニケーションというのが多いです。 ですから部下がやる気が出る究極は上司がいないという、簡単に言うとこれに尽きてしまうのです。これに尽きるのです。ここでピーンとくる人はきます。でも大体「そうか、俺がいない方がいいんだな」とは思わない。自分を相手に置き換え、「そうだよな、上がいないといいよな」とやっぱり指が外に向いてしまいます。難しいです。 いちばん最近の例で面白かったのは、やはりある役員会にお邪魔して、「どうやったら従業員一人ひとりにやる気が出るかみんなで考えてください。」僕は別に提言も何もしないで、みんなで討議してくださいと調整させてもらうだけです。それでやはりみなさん考えたみたいです。 そこの役員の方と部下の方と私と3人で、昼間レストランで食事をとる機会がありました。「○○さん、どういうご決意をされたのですか?」「もう私は朝から晩まで怒鳴っていました。全く間違っていました。部下のやる気が出ないようにしていたのと同じでした。」「そうですか、それでどうされたんですか?」「ですから私は組織に戻ったら主要な幹部を集めて、『今まで怒鳴りすぎた。俺はこれから怒鳴らないようにする』とみんなの前で宣言した」と言うのです。 立派です。一部上場企業の方で役員にまでなられた方が、「すまん。俺は間違っていた。これからは怒らないようにするぞ」と言ったそうです。思わず私も「素晴らしいですね」と言います。 その方は前にいた部下に、「な、俺は最近怒っていないだろう?」と言ったら、その前の部下が「そうですかね?」と言ったのです。そうしたら間髪入れずに「怒っていないだろうが!!」とやっていました。間髪入れずにです。見事でした。私は横にいましたが、「すみません、今怒鳴ったように見えましたが・・・。」と言ったら「確かに怒鳴りましたね」と。 多分その人は朝から晩まで事務所の中で怒鳴っています。公衆の面前で、第三者がすぐ横にいながら怒鳴っているのですから。そして「な、俺は怒鳴っていないよな」と。この認識。 実は人はほとんどこれだということなのです。これは去年もご紹介したかもしれませんが、あるグローバルカンパニーのエグゼクティブを集めて合宿のセッションをさせてもらった時、「何がいちばん大事ですか?」と言ったら、「やはり部下の仕事への情熱です。うちの部下は情熱がありません。燃えるような情熱が欲しいと思って彼らが燃えるように私は努力しているのですが、なかなか燃えません」と言うわけです。それで私、「あなたが消してるってことはないんでしょうか?」と言ったら「そんなことはありません。」いろいろ聞いていると、どうみても違うんじゃないかと思うのですが、本人は燃やしているというわけです。 休み時間になって事務局の方が私の所へ来られて、「大久保さん、あの人がいないと僕ら燃えるんですけどね」と言うわけです。「どういうことですか?」と聞いたら、「いや、やる気を持って何かやろうとするといつも水をかけられます」。 ですからその人が一生懸命やっているというのは、部下が燃えると傍まで行って水を一生懸命かけて、消えたところで「なぜ燃えないんだ?」とやっているのです。漫画化するとこれです。でも本人は一生懸命なのです。だからさっき言ったとおり、このケースというのは上司がいないのがベストという最たるものでしょう。いなければ、放っておけば、消さなければ燃えるのです。その方が一生懸命やっているというのはただ一つ、消すように努力しているのです。こんな話ばかりです。 これも去年お話ししたかもしれませんが、みんなで誉めようと思って決めたわけです。15人役員がいて、放っておくとやりませんから後日お邪魔して、「みなさん、部下をどれだけ誉められましたか?」と。すごいですね、15人いてどれぐらいの人が誉められると思いますか? 少ないですね。「よし、良いところを誉めるぞ」という決意で現場に行って何をしていたかというと怒鳴っていたといいますから。やはり悪いところはすぐ目に付いてしまうわけです。 そのうちの一人、こういう方がいました。「みんなで誉めようと決めたので私は部下を誉めましたが、誉めすぎというのは良くないんじゃないでしょうか?」どうですか、みなさん、どう思われますか? 私は間髪入れずにお答えしました。「おっしゃるとおりです。誉めすぎはいけません。ただしあなたが誉めすぎるということはまずあり得ないと思います、、、。」言ったらムーッとされました。 休み時間になって部下が寄って来て言いました。「あの人の誉めるところを誰一人見たことがありません。」すなわち周りから見たら全く誉めていない人が、本人は誉めすぎたら部下がいい気になったと言うのです。どう思われますか? これは全部実際に直接体験させてもらったケースばかりです。他にもいっぱいあります。 ☆自分の思いを正確に伝えるコツ どうしてこうなってしまうのか。たった一つ、目が自分についているから人は見えないのです。自分の目は他人しか見えません。目ん玉がビューッと出てこういうふうになっていれば自分を見えるかもしれない。そうでしょう? ここについている以上、自分はおのれだけ見えないのです。 そして共通しているのは、おのれは正しいことをしていると間違ったことを確実にしているということです。悪いことをしている、間違っていると思って水をかけているのではないのです。正しいと思っているのです。すなわちみな正しいと思いながら極めて間違ったことをしているということなのです。これでは何ともなりません。 私自身もいくつか経験ありますが、みなさんもおありだと思います。最初にテープレコーダーに声を録音して聞かれた時、多くの方は「私の声は違う」と言います。ではあなたの声は?」と言うと「もっといい」と言います。横から見るとそのまま聞こえるよということです。 私なんかビデオが多分140、150本あると思います。みなさんはビデオでこうやって自分の後ろ姿で映したのってご覧になったことがないでしょう。鏡だと正面しか見えないでしょう。最初に自分の後ろ姿をビデオで見た時は衝撃が走りました。純日本系の足と胴の比率の武田鉄也さんという方がいらっしゃいますよね。どちらかと言えば立派な日本系だと思いますが、まさか同じだとは思いませんでした。それで最初ビデオを見た時、「ビデオっていうのは上下が縮まって足が小さく見えるな」と言ったら、「そのまま映っているよ」と言われてガクッとした覚えがあるわけです。よく考えたら相似形で同じ比率で縮まるわけですから、別に足だけ短く映るわけではないのです。胴も短く映りますから当たり前です。 すなわち人というのは他人が見える実体以上にはるかにおのれを高く評価しているということなのです。これは企業も同じです。全くそうなのです。 ですからどうしたらいいかというと、これはやはり一つは相手からの評価を得て、自分がどんな姿をしているのかというコメントをもらわないとだめだというのが究極です。自分で自分を評価している以上は決して正しい評価というのはできません。 例えば言った、言わないもそうです。「私はここまで言ったんだから、伝えたから。」 ところが相手から見たらまるで伝わっていないということがいっぱいあります。 例えばさっき申し上げた、相手の視点で見る、お客様の視点で見るということを追求していくと、例えばマネージメントの方、大事なことは「正しいことを言うことが正しいことではない」のです。「伝えた相手に正しく行動してもらうのが正しいこと」です。そうですね。すなわち正しいことを言うのは、それは仕事ではなく手段であって、正しい行動をしてもらい、正しい成果を出してもらうことが仕事なわけです。ところが多くのマネージメントの方というのは、「私は正しいことを言っている。やらない彼らが悪い。」それは違う、やらせるのがあなたの仕事でしょうということです。 ともかく自分の思いを正確に伝えられる人というのは少ないです。実はこれはやはりコミュニケーションがとれていないということになります。コミュニケーションというのは意思疎通、お互いに分かり合うということだと思います。このギャップというのは本当にすごいです。 自分で話しながら笑ってしまうのですが、この間ある中小企業で専務さんがお客様とお話をしていた時に事務員が通りかかったので、「コーヒー二つ」とこう(指二本でVサイン)やったのです。そうすると事務員の方がニコッと笑って、どうしたと思いますか? ダブルピースで返した。これは本当の話ですって。場合によってはその女性は多分深読みしたのですね。商談がうまくいったんですねと思ったのですね。ところが頼んだ方はコーヒー2個なのです。こう返されてどうしていいか分からなくなったと。こうですから。そしてその女性は事務室に戻って、「私、専務にピースされちゃった」と言って喜んでいたという・・・。コミュニケーションというのは難しいです。 この間も、娘を隣に乗せてドライブをしていたら前にすごい大きな家がありました。その前に素晴らしい木立があって、「見てみろ、すごいな」と言ったら娘が何と言ったかというと、「本当にすごい。随分太った犬ね」と全然違う所を見ているのです。確かに家の下に犬がいた。あっちと、あっちまで同じ。でも見ている所は違う。これはよくあるんじゃないかなと。 お互いに「あっち」、「そうよね。」あっちで家と木立を見、片や下の犬を見て、「なんて太っているの」と言っているわけです。それでお互いに「すごいね」と言っているわけです。これがコミュニケーションギャップということなのです。 ☆相手の思いを正確に理解するコツ ですから組織の中において、コミュニケーションギャップを埋める、組織力を高めていく。これはどうしたらいいか。これはもうお互いに話し合う、対話しかないと思います。対話というとちょっと語弊がありまして、対話というのは双方向で話し合うことなのですが、結論から申し上げれば組織上、上の人は聴くことに徹するとお考えいただいたら結構だと思います。 今回この本(「自分が変われば組織が変わる」かんき出版)にそのような事例をいっぱい書かせていただいたのですが、どうやったら自分の言いたいことが伝わるのかの最良の策は言わないで言わせることなのです。これがベストです。そのためにはこっち側が言っていてもだめです。もうずっと何回言ってもだめなのです。相手は聞きません。だから例えば1時間のミーティングだったら、冒頭10分だけ自分がしゃべったら残り50分は双方向でやるとか、そういうことが大事なのです。 この間またある会社の社長ですごい方がいらっしゃいました。休みの日に役員会を開くのです。役員会が9時から始まって終わりの時間が分からないのです。終わりの時間はその社長が疲れて語るのが終わった時が終わりだと。だから体調が良いと長くなってしまうという・・・。「今日は体調は良いのか?」と聞き、「良い」と言うとどうしようという、そういうのがありました。 その方がちょっと反省されました。すごいでしょう、朝9時から5時、6時までしゃべるというから、エネルギー量としてはすごいと思いますが、「冒頭1分ぐらいにしたらどうですか」と言ったら本当に短くされました。それでしゃべって「どうですか、1分で終わったでしょう」と9分しゃべっています。ですから1時間というとその人は9時間しゃべるということになります。 ただし、いつも1日しゃべっていた人が9分しかしゃべらなかったので翌日体調を崩されました。慣れないことをされたもので、なかなか難しいなと思いました。 これがやはり意識のギャップなのです。自分は1分しかしゃべっていないのに、相手からみると10分。これもコミュニケーションがとれていません。 お互いに分かり合うといったとき、今申し上げたようにともかく聴きに徹する、これをされたらいいです。もう一つ申し上げると、上司が部下の話を聴くようになると、すごいことを申し上げます、業績が上がります。小さい声で言います。業績が上がります。本当かというと本当です。そうするとこういう人がいます。「そのとおりやったけど上がらなかった。」それはやり方が悪いんですとしか言いようがありません。 この間も本当にある企業でありました。ちょっと表現は難しいのですが、どちらかと言うと活躍度の低い人です。そういう人たちだけ集めた組織を作ったのです。元々期待はしていません。もちろん目標は与えたのですが、どうせできないので8割ぐらいやってくれればいいというところでやったのです。そういう方たちの集団です。 そこのトップについた人はどうしたか。その会社の社風、従来の慣習からするとその部長クラスがその集団の第一線の社員と話をすることというのは全くなかった企業です。大袈裟に言うと、第一線の社員からすると部長でさえ雲の上の存在だった所です。ところがその方は話を聴くことが大事なんだなというので、第一線まで行って一所懸命話を聴かれたそうです。 結果、実は先週聞いたのです。驚きました。80%しか期待していない目標値に対して105%やったそうです。なんでですかと聞いたら、「いや、話を聴いてあげたら彼らはどんどんやる気を出してきました」と言うのです。 これなのです。多くの方は「やる気を出せ」というのです。「やる気を出せ」と言うあなたがいるからやる気が出ないんだというのが分からないわけです。「やる気を出せ」と言って出たら苦労しません。いちばん最悪は「燃えろ」とか「やる気を出せ」、「最近気合入っていないぞ。」これで「ウッス!」なんて言ってうまくいくはずがないのです。 ある企業でこんな例もありました。「大久保さん、うちはちゃんと対話しています。」「どういう対話ですか?」「今月目標は達成できるだろうな?」「必ずいきます。」そして月末になると「なぜいかなかった?」「すみません。」これをもって対話というと言うのです。全然対話になっていないなと思いました。対話というのは相手のことを理解するということです。これに徹したら企業というのは、組織というのはものすごい活性化します。 こういう話をいろいろな所でさせてもらった結果、実はいろいろな企業で「大久保さん、聴くことが大事だというので、現場に行って『今日は聴きに徹するぞ』と言ったら誰もしゃべらない。どうしたらいいでしょうか?」「それは相手がしゃべるまで待てみては」と言ったのですが、難しいと言っていました。あの沈黙が何とも言えないのでついしゃべってしまう。結局9割自分がしゃべっていたというわけです。 こういう方は簡単です。適切に質問することです。質問すること。最近「質問力」という本があるでしょう。あれを何冊か読まれたらいいです。すごく良いことが書いてあります。やはり適切に質問することによって相手の意見を引き出すように持っていくというのが聴き出す秘訣です。 日本人に限らず人はそうなのですが、例えばプレゼンテーション能力というので説明するためのトレーニングというのがあります。ものを読むトレーニング、書くトレーニングもあるでしょう。たった一つやっていないのが聴くトレーニングなのです。話し方教室というのはありますが、聴き方教室というのはありません。 実は聴く方がはるかに相手のことを理解し、相手をやる気にすることができるんだということ。もうこれだけ今日分かっていただいたらいいです。 ☆聴き出す能力を磨くには そして組織として協力し合わないといけないのですが、協力するということが組織力を高めます。協力するというのはどういうことかというと、多分国語辞典をひかれたことはないと思います。「同じ目標に向かって」なのです。同じ目標に向かって力を合わせる。 そうすると、「みんな協力してやれ」と言ったとき、まず同じ目標がないとだめです。それから力を合わせるというのは、これは物理的な力ではありません。何だと思います? 心の向きでしょう? そうですよね。心の向きを合わせる。それでは心の向きを合わせるにはどうしたらいいか。これはやはり話し合わなければだめなんだということです。 冒頭申し上げたように、時代が変わってお客様の方が主導権をとりました。お客様の視点でビジネスをやっていこうとすると、第一線の判断、意思決定というのはものすごく大事になります。そうですね。中央集権で「いいからやれ」という形では現場で本当の応対というのはできません。 そうすると何が要求されるかというと、これはもう今根底から変わり出しています。従来のマネージメントというのはこういうのが多かったと思うのです。命令と管理が基本のマネジメントスタイルです。命令・管理というのは受身になります。しかし今の時代要求されているのは自主なのです。 それではマネージメントの方は何をやるのかといったら「部下を支援すること」です。支援することなのです。では自主で動けるようにするにはどうしたらいいかというと、実は対話が必要です。対話を通して共感が生まれます。なるほど、そういうことか。それで初めて自主・自立になってここの動いていくところを上の人は支援することが仕事なのです。 この仕組みを導入している企業というのは強いです。最悪は「いいから考えずに黙ってやれ。」これは全然だめです。受身の集団になってしまいますから。 強制でやるとどういうことかというとこういうことなのです。強制でやりますと、例えばボスがいて、部下に「やれ!」とやります。そうするとやれと言っている間は動くのです。でも受身ですから、自ら動いていませんから、この押しをやめるとピタッと止まります。それからもう一つ、障害物が出てきたときに、考えていませんから、ひたすら言われた通り真っ直ぐにいこうとしますから、これを乗り越える知恵が出てこない。 ところがここで対話が行われる。そもそも何のためにやるのか。どういうためか。意義はどういうことなんだ。自分たちは何を目指そうとしているのか。そのためにやるんだという何のためにというのが分かった時に自分で動くことができます。まさに自主です。そうすると上からの指示が無くなっても自分で動けるわけです。もう一つは障害物が出てきても自分で考えますから、これを乗り越えることが可能になる。 ですからこれからはこの対話・共感・自主・支援の形が理想です。そうすると大事なのは命令、強制、管理ではなくて、マネージメントが要求される重要な能力というのは対話力なんだということになります。対話する力です。「いいからやれ」というのは対話力ゼロです。ここが大切なポイントです。 そしてコミュニケーションと言ったとき、実は企業変革している人の共通項目はコミュニケーションの達人が多いということです。例えば伊藤忠をV字回復させた丹羽さん。ゴーンさんもそうかもしれません。古くは上杉鷹山もそうかもしれないのですが、実はああいう方たちに共通しているのは、必ず直接対話というのをやっています。そして自分たちの思いを分かってもらう。 ゴーンさんもそうです、丹羽さんもそうですが、まずは徹底して聴く側にまわっているのです。そして彼らが何をどう考えているのか。ここがポイントで、人は何をしたかをつい見てしまうのです。そうではなくて、何をしたかの前に何をどう考えるという思いがあるでしょう。そこのところを理解しないと本質的な改善にいかないわけです。そこを本当に理解しようとしたらどうしたらいいかというと、実はやはり対話しかないのです。対話です。ですから徹底して対話していただきたいと思います。。 そして対話するときに大事なのは肩書きを外すということです。対話コミュニケーションというのは対等でなければいけません。役職というのは何かというと役割と責任であって、人として偉いとか偉くないというのは全く関係ありません。役割ですから、よろしいですね。今日来られている方はそんな方いらっしゃらないと思いますが、肩書きというのは役割と責任を表すわけです。そして本当に対話するにはそれを外さないとだめです。対等の高さに立たないと本当の対話というのはできないわけです。となるとどうなるかというと、本当に対話できるようになるにはやはり肩書きの上の人がやはり肩書きを外してかかるということをしなきゃだめですよということです。ただし何かを討議したときに、意思決定と最後の責任は上の人がとらなければいけません。 肩書きというのはアドバルーンだということが最近分かりました。例えば私も課長になったと課長のアドバルーンがつくと、フーッと浮く人が出てくるのです。なぜ浮くか分かるでしょう? 空だからです。空だから浮いてしまうわけです。ところが課長のアドバルーンでは浮かなくても、部長のアドバルーンが付いた途端フーッと浮く人がいるのです。これも軽いからです。そしてそのうちパーンと割れるのです。そうするとドーンと落ちる。そういう人をいっぱい見ませんか? あんなもので浮いてはいけませんね。 話は変わりますが、この間まで知事をしておられた北川さんとか、地域から日本を変えていこうという岩手の増田さんとかそうですし、鳥取の片山さんとか千葉の堂本さんとか、みなさん共通しているのは全員が同じ目線で話をされるということです。誰一人、「お前は大久保っていうのか」、と下向きの目で見たりされません。全員が同じ目線です。そして全員がオープンでフランクです。鳥取の片山さんも和歌山の木村さんも、千葉の堂本さんもみんなそうです。全く対等に話します。「私は偉い」という感じが全くありません。 それから共通していたのはみなさん明るかったです。明るい方ばっかりです。暗い人はコミュニケーションがなかなかとれません。人は暗い人の所に寄って行きたくありませんから。ましてすぐ怒鳴る人、嫌ですね。ですからそういう意味では、コミュニケーションをとれるようになるには、基本の一つは明るくなるということも大事かもしれません。 それから部下から意見を引き出すときに大事なことを申し上げます。それはつまらない意見が出てもうなずいて聴くことです。ちょっと意見が出た瞬間、「バカだな、お前は。」そう言った瞬間周りは何を思うか。何も言わない方が得だと思うのです。 私から見ると、ともかくさせたい方向にしないように努力している人ばかりなのです。だからどうしたらいいかと言うと、ふんふんふんと聴くのです。「なるほど」と。正しいとは全然言っていないでしょう。「なるほど、なるほど」と言って聴いていくことが大事です。そうすると良い意見というのは必ず出てきます。 ☆質の高い対話から期待できること これは私自身も体験したことがあるのですが、経営者ばかりを集めて、ある方がセミナーをされたときに、参加者に対して質問をされたのです。私から見てもこの方は経営者かな本当に、と思うようなどうしようもない返答しかしないわけです。そうするとリードされる方はまた別の質問をするのです。そうすると返答するでしょう。その返答を書くのです。また別の質問をする。返答が来る。そのうちにすごいメッセージがパーンと出たのです。その瞬間、そのリードされていた方が「ああ、そうですか。あなたはこれがおっしゃりたかったんですね」と言われたとき、背筋が震えました。この人は最初から知っていたのに、自ら語らずあくまで相手に言わせている。 この「言わせる」というのが大事です。なぜ大事か分かりますか? 相手のものだからです。教えたらこっちのものになってしまうでしょう。教えないで自分で考えさせることが大事。人材育成の基本は自ら考えさせることなのです。これを徹底してやったのがトヨタビスタ高知の横田さんです。ともかく方針はといったら「教えないことです」と。 この間、プロ野球のコーチを長年やってこられて、また大学に戻って教職員の資格をとって高校の教師になられたという方がNHKの朝の番組に出ておられました。「コーチの極意は何ですか?」と聞かれたら一言、「教えないことです」と言っているのです。「じゃあどうするんですか?」「引き出すことです。相手に気付かせることです。」 世の中はほとんど教えるばかり。教える、教えるの連続では自ら考えるようにならないのです。教えるというのはどちらかというとこっちから向こうへの一方向になります。そうではなく、対話、コミュニケーションというのは相手側からの矢印を太くすることです。だから自分が受け側に回れるかどうかです。これがポイントなのです。 そのためにはやはり話をしながら表情を見るということも大事かもしれません。一方的に、相手が聴いていなくてもずっとしゃべる人がいるでしょう。そして最後に「分かったか?」と聞くと慌てて「はい、分かりました」と。分かっているわけがありません。でも一方的にしゃべる。これは相手への認識力というのが弱いと思います。 それから常日頃から、人から意見が言い出しやすいような雰囲気や条件を一人ひとりが作ることです。例えばマネージメントの方で部下をお持ちの方、常日頃部下から嫌な情報がどれだけ入るか、嫌なことをどれだけ言われているか、それはやはり言い易さと関係があります。もちろん言われ続けているのもだめですが、ある程度はやはり自分にとって苦いことをどんどん言ってもらえる、これはすごく大事だと思います。 そのためにはやはり相手の発言を否定しないことです。なるほど、なるほどと聴いていく。だから否定しないことです。ただしなるほど、と言っても顔が否定していたらだめです。顔はひきつって「うん、もっと言え」と言うけれど、顔は言うなとメッセージしているとこっちの方が力が強いですから・・・。だから心底そういうふうに持っていけるかどうかということがものすごく大事です。 いろいろな企業にお邪魔して、「みなさん、みなさんの組織で上下左右、組織横断的に質の高い対話というのができたらどんなことが期待できますか?」と聞いたらどんなコメントがくると思いますか? やる気が出るでしょう。一体感が出ます。目標達成意欲が湧きます。アイディアも出るでしょう。ともかく仕事が楽しくなります。いろいろなことを言ってくれます。すなわち質の高い対話がなされたらこんなに素晴らしいことが出てきますとみなさん異口同音におっしゃるのです。「そうですよね。ところで、質の高い対話、これに心掛けてこられましたか?」全然やっていないです。一方的です。 ですから組織のマネージメントの方、一つの提案は対話の場を設けることです。これをされるだけで組織というのはものすごく活性化するんですよということをご理解いただきたい。ただしその場を設けてもなかなかうまくいかないことがあるでしょうから、そのためには細かい考慮点というのをこの本にいっぱい書かせていただきましたので、これをうまく使っていただければいいかなと思います。。 ☆会議も大事なコミュニケーションの場 それから会議というのも大事なコミュニケーションの場です。日本の会議というのは会議ではないわけです。あれは一方向ですから、会して議してはいない。ですから一方向会、もしくは上司ご高説拝聴会と言った方がいいわけで、一言で言えば早く終わってほしい、こうなるわけです。 会議の場も、先程申し上げたように会して議するようにするのだったらば、みなが対等で自由に本音で意見を言えるように持っていくことです。本音で意見を言えるようにするには、とまたいっぱい話をしなければいけないのですが、一つの提案は会議のルールを決めて、必ず本音で語りましょうと言うだけでも随分違ってきます。 私自身がいろいろな企業にお邪魔させていただいて、役員会で冒頭必ず言うのが「今日はひとつ本音でお願いします」とか「完結にお願いします」とかルールを決めて宣言して進めるということです。 それからもう一つは書きながらやっていくということ。これがものすごくいいです。アイディアだけでボンボン出し合うと、ちょっと時間が経つと忘れてしまいます。ですから書きながら進める。 それから進行役を決めておいた方がいいです。そうじゃないと10人いたら2人ぐらいしかしゃべらないというのがあるじゃないですか。残り8人はといったら休憩モードに入るわけです。あれは意味がありません。ですから常に全員が語れるように持っていく。 とにかく一つ言えるのは、会議というのを本当に会議の場にするということです。これがものすごく重要です。会して議する。そのためには組織の中でやるときには、いちばん組織の長がリード役になって意見を引き出すということです。 私が推奨しているのは、基本的には異なる意見をどんどんお互いに出しましょうということをやっています。それから組織横断的にまたがってお互いに言い合いましょうということもやっています。 例えば役所では、お互いの組織にまたがっていろいろな苦情、提言は口を挟まないというのが不文律としてあるわけですが、私自身はいろいろな県にお邪魔させていただいて、ある県にも実は定期的にお邪魔させてもらって、部長さんたち6人ぐらいと知事と7、8人でずっと対話集会をやるというのを広げています。これは何十人もやってしまうと対話にならないので、6、7人までで限定しています。私の進め方のルールは、役所の場合は2年ぐらいで変わられますから、お互いに部長さんたちというのはいろいろな役割をそれぞれご存知なのです。自分がやっていたとき、もっとこうすればよかったとか、今だったらこうしたらいいというアイディアがあるはずです。お互いにどんどん言い合ってくださいということを言っています。 現実にどうなっているかというと、ある県でやっている時もこんなに意見が出るかというぐらいお互いにどんどん意見が出るのです。これはやはりリード役なのです。誰それさんがしゃべったら、誰それさんに対して「ご意見ありませんか?」「提言ありませんか?」「ご質問ありませんか?」とどんどんぶつけていくのです。これをやるとものすごくいいです。 これは一つは、日本の場合はやはり第三者がいるとやりやすいみたいです。例えばちょっと前の話ですが、ある企業でこちら側に営業の責任者がずらっと並び、こちら側に開発・製造部門の責任者が並んで1日のセミナーをやったことがあります。この営業部門の方たちに「みなさん、毎日お客さんの声をお聴きですね? お客さんの声を開発側にぶつけていますか?」と言うと、「毎日のようにぶつけています」と言うのです。「みなさん、聴かれていますか?」と開発側に聞くと、目の前で「聴いていません」と言うのです。「あれ? 聴いていないんですか? 聴いていないと言っていますよ。」「いや、言っています。」「言っているそうですよ。」「いや、聴いていません」とこうです。 そのうち開発部門の人が何と言ったか。「実は聴いているんですけど、営業はいいかげんなんです。」「あいつら」と言っていました。「あいつらの言うとおりにやったら会社は潰れます。だから言うことを聴かないことが大事なんです」と言ったのです。すごい本音です。目の前に営業の方がいますので、「みなさん、いいかげんなのですか?」と僕は言ったわけです。「本音でお答えください。」と言ったら「実はいいかげんです」と言うわけです。すごい会社ですよね。私は横から「ということはむちゃくちゃいいかげんな会社ですね」と言ったら「そうですね」と。後ろで社長が見ていてカーッとなっていました。ところがそこで初めて本音の対話ができたのです。 実はその後、その企業は業績を伸ばしていきます。すなわち全部お互いに建前で聴き合わないでやっていたのです。そして責任のなすり合いをしていた。対話をするようになったらどうなったと思いますか? 業績が向上していくのです。 普通業績を向上させようとすると、販売促進プログラムを作れとか、あれやれ、これやれと言うじゃないですか。しかしコミュニケーションを良くする方がはるかに上がるのです。その重要性を認識してください。 だって組織の中が一つになって、皆が同じ方向に向かって努力し合うようになったら良くなるに決まっているじゃないですか。ところがそのいちばん基本を横に置いておいて、なんで売上げが上がらないんだとやっているのがほとんどです。なんでもっと良いものが作れないんだと。 ☆コミュニケーションが生み出す価値 組織の中においてもっと基本がありますよ。それは一人ひとりの気持ちを一つに束ねることなのです。束ねるというのは強制ではありません。同じ方向を向くようにすること。そのためには徹底して対話しかないです。 同じ方向を向くというのは別の言葉で言うと価値観を一つにするということなのです。価値観というのは何が大事かということでしょう? 経営品質の世界で言えば、やはりお客様を軸にして物事を見ていきましょうと。ですから企業でCSを本当に実現していこうとしたら、一人ひとりがその軸を持たなければいけません。 例えばこういうホテル業であれば、ホテル業というのは接点でのそこでの対応と判断が全てになってしまうわけです。お客さんというのは、難しいのは満足の一つではなくて満足の束を要求されます。だからどこかで不満があったら、それでそのいちばん不満のところで焦点が合ってしまうわけです。CSというのはなかなか難しいです。 ちょっと話が飛びますが、だいぶ前ですが私の知人が銀行に電話しました。ATMがだいぶ有料化になってきたじゃないですか。「自動機で出すときには最近土曜とか日曜は有料なんですかね? ちょっと教えてください」と言った時の銀行の応対が素晴らしかったのです。「紙が張ってありますから読んでください」と言いました。知人は一言何と言ったか。「全部解約してください」と。 結果的にはしませんでしたが、よしんばこれを解約したとします。銀行側はなぜ解約されたか分からないのです。これがCSの厳しいところなのです。なぜ解約されたか分からないのです。でもその接点の一言がそこまでインパクトを与えるわけです。 それを解決するにはどうしたらいいかというとたった一つで、一人ひとりがお客様の視点に立って物事を考えて行動できるようにしていくしかないのです。だから経営品質で言うところのお客様本位の経営を実現していこうとしたときに、人という観点で見たら何になるかというとたった一つ、一人ひとりが本当にお客様の視点で見れるようになる、その軸を持つしかないのです。その価値観の軸を持つようにするには、その軸を持ってもらうように対話を重ねていくしかないんだということです。 そして多くの企業はその価値観の軸を共有化するために全く時間を割いていない。別の時間を割いています。「なぜ行かないんだ。」「もっと何とかならないのか。」すなわちいちばん重要なところが欠落しているのです。 これをまたいろいろなセミナーでやると、必ず言われるのが「大久保さん、コミュニケーションと対話が大事だというのはよく分かるんですけどね、ただ毎日いろいろノルマがありましてね、目の前の課題がありましてね・・・。大事だというのは分かるんですけども、コミュニケーションに時間を割くというのがなかなかできないんですよね」と大体言われます。これについての返答はただ一つ、「はい、人と組織はいちばん重要なことに時間を割きます。大事だと言っているけれど目の前の仕事が大事で、コミュニケーションの方が優先順位が低いということをあなたは言っているだけです。もし本当にコミュニケーションが重要だというなら、時間をとるべきでしょう。」 そうしたらこの間こういうのがありました。「大久保さん、コミュニケーションに時間をとると、その時間生産できませんよ。販売できませんよ。それから時間外にやると時間外手当も出さなきゃいけませんよ。どうしたもんでしょうか?」とある経営者から言われました。簡単です。「あなたはそれだけコミュニケーションを軽んじているというだけの話です。もし時間外にやるのだったら手当を出せばいいでしょう。そして対話集会をやったらいいでしょう。なぜやらないんですか? 重要だと思っていないんでしょ? それだけの話です。」 すなわち重要だ、重要だと言いながら、認識が薄いとそういう格好になります。どうしたらいいか。簡単です。具体的にスケジュールを決めて、対話をしていくということをきっちり予定に入れてしまうことです。これ、騙されたと思ってやってみてください。対話の場を持つというのは一つの投資です。貴重な時間を投入することですから投資なのです。投資対効果を見たときに、他のプログラムを考えるよりも私から見たらはるかに効果が上がるというのが実体験として申し上げられます。ですから徹底して対話を行っていく。これをされたらいいです。 意外と若い人に良いアイディアというのがいっぱい出てきます。この間、ある大きな会社のセミナー、何とか大会というのに呼ばれて、オープニングに社長が「実はある若手集団がある商品を作ってくれた。とてもじゃないけどこんなのは売れると思えない。しかしどうしてもやりたいというのでめくら判をついた。そうしたら大ヒットした」と言うのです。 ここに何が学べるかということです。上は目を開けないで判を押した方がいいというのが結論ですかね? これは半分本音で申し上げたのですが、上が余計なことを言うから若い人のアイディアがつぶされてしまうわけでしょう? 上の方は基本的に古い方ですから。米国ではあっても、日本の場合はいちばん新しい方は普通トップにきません。その方は過去の成功体験をお持ちです。というのは失敗の連続では社長にはなりませんから、必ず成功しているのです。その成功がいちばん邪魔するわけでしょう? だったらこの人はどう判断したらいいかはただ一つ、常にめくら判を押すというのがベストな選択だということです。そして現実にそのめくら判を押した商品がヒットしているということです。 これはみなさんの所ですごく参考になりませんか? もっともケースバイケースで本当にだめなケースもありますから、それについて責任をとれと言われてもちょっと難しいですが・・・。 ただ、下の方というか若い方の意見を採り上げていくというのはものすごく大事だなというのをその時に学びました。そしてそれを真摯に話し合っていくコミュニケーション、これに尽きるなという感じがしております。 みなさんの所でもどうですか? 例えば柴田昌治さんたちが提唱しておられているオフサイトミーティング、聞かれたことのある方も多いと思いますが、あれも一つのコミュニケーションです。やはりお互いに分かり合う。 もう一つ申し上げたいのは、コミュニケーションが良くなると、絶対にその組織というか仕事場が楽しくなります。仕事が楽しめるというのはきつくて苦しいから楽しめないということはないのです。きつくて苦しくても職場内のコミュニケーションが良いと仕事は楽しくなります。少々やわで生ぬるい仕事でも、コミュニケーションが悪かったらその職場はものすごく苦しいです。だからやはり基本は組織の活性化。組織力を高めるためにはコミュニケーションなんだ。そしてその基本というのは上の人が徹底的に聞き手側に回って、相手を理解してあげることなんだ。これだけをちょっとご理解いただけたらいいんじゃないかなと思います。 ここまでご説明しても、細かいところでみなさんの方からいろいろご質問があろうかと思いますので、今から15分休憩をとりまして、その後みなさんからのご質問にお答えするという形でさらに深めていきたいと思います。 それでは一方的な話はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 ☆質疑応答 それでは残りの時間は双方向で。もし紙が全部終われば、会場から直接手を挙げてご質問いただければと思います。 一つは二人の方からいただきました。質問の仕方について具体的に教えてほしいと。これはこれ自身がなかなか難しい質問ですね。 具体的にということであれば、例えばリッツ・カールトン大阪というのはみなさんご存知だと思います。CSで非常に高い、有名なホテルです。あそこには行動指針、クレドというのは20項目あります。それを徹底するためにどうやっているかというと、唱和しないで、今日はベーシックの何番です。それについてあなたはどんな考えをお持ちですか? どんなことをされてきましたか? 何をしますか? すごい具体的な質問なのです。例えば行動指針なんていうとただ唱えるだけなんていうのがいっぱいあります。これではやはり徹底できません。 それと同時に常に質問しています。それから何か失敗したときにも質問するのはすごく大事です。その時にカッとなって「なぜこんなヘマをしたんだ!」と言っているのは、なぜしたんだと聞いているようですがただ怒っているだけです。そのときにはやはり冷静に、なぜこうなっちゃったのかなと一緒に考えるような精神構造というのですかね。 もう一つ言えば、例えば失敗したときにどうしてそうなったのかを考えるときにいちばんのベースは共感することなのです。すなわち相手が失敗して苦しんでいるわけですから、その苦しみを共に感じられるような状況になった上で、しかしどうしてこうなったのかな、もっと良い方法はなかったのかな、なぜなっちゃったのかなと、こういうふうに持っていくことなのです。ところが失敗した相手にはえてしてカッとなって、「なぜやったんだ!」と、ついでに「俺の立場どうしてくれる!」なんて言う人もいるわけです。 事実僕もサラリーマンだったのですが、ある時、何か一つちょっと達成できなかった時に本部長室に呼ばれて、机を叩いて「俺の立場をどうしてくれるんだ!」と言われた時、なんていうボスだと思いました。部下を支援するのが上司だと思っていましたから、そうしたら叩かれました。これもう徹底的にやる気をなくさせるケースだと思います。 だから何か困ったとき、行き詰まったとき、失敗したときに、「そうか。実は俺も若い時いろいろあってさ。大変だよな」と共に感じる。そうすると冷静になります。あ、感じてくれている。でもどうしてなっちゃったのかな。事前に手を打つことはできなかったのかな。 このとき大事なことは先輩として最初から結論を教えないことです。そうすると考えるプロセスがなくなってしまうのです。実は結論とやり方を教えた方が早いのです。効率は良いのです。でも人が育たないから、ちょっと長い目で見てこれは効果が低いのです。やはり人が育つというのがいちばんベストなのです。そのためには考えさせるということをやらなきゃいけないです。 ですから質問したときに掘り下げて質問する。なぜ? どうしてそうなっちゃったのかな? なぜ? トヨタでは有名な「なぜ、なぜ、なぜ」というのがあります。それを上手にしていくことです。ただなぜ、なぜ、なぜを言えばいいのか。「なぜだ? なぜだ? なぜだ?」これは絶対に共感力がないでしょう。「三回言ったよな、俺はな、もういいだろう、そろそろ。」全然分かっていないのです。そうではありません。なぜだろうな? どうしてだろうな? もう一つ言いますと、本当に適切に質問するには、結論を申し上げましょうか。自分自身の質問力を高めるしかないのです。それは相手の状況を読む、相手の心理状況を読む、事柄を見る。実は総合的判断で質問が出てくるはずなのです。 だからハウツーでこうやればいいよというのはあるようでない。最後大変な回答になってしまいましたが、あるようでないんだということです。どうしたらいいのか。質問することが大事だということで質問するトレーニングというものを積んでみてください。それを意図的に持っていくように努力してみてください。そういう努力をしていくとだんだんできるようになるんじゃないかなという気がいたしますということです。 それから2番目のご質問で、「聞き役に回り、意見を聞いた相手に何と言って自分の考えを伝えたらいいでしょうか? 『あなたの言っていることは分かりました。私の考えはこうです』というような伝え方ではうまく伝わらないと思っています。うまい伝え方を教えていただければ・・・。」 これもハウツーではないでしょうね。うまく伝えられるようになるしかないような気がします。 一つは、やはり相手への理解というか共感です。それがあると人は話を聴いてくれます。例えばお客様ともそうですが、クレームを言われたとき、無理難題のクレームというのはいっぱいあるわけです。あの時いちばん大事なのは徹底して聴き切るということでしょう。30分、1時間やっている間にだんだん冷静になるわけです。もっとも人によっては自分の声でさらに興奮する人もいますから、これはなかなか難しいと言えば難しいのですが、それでも3時間、5時間怒り続けることはできません。人というのは必ず鎮火します。 その冷静になったところで、「そうですか、ご迷惑をおかけしましたね。ところで実は私どもではこういうふうになっておりまして・・・。」と言うと違うでしょう。いちばん良くないのは「ああ、あなたの言っていることは無理なんです。うちはこういうふうになっているんです。このとおりやっていますから、私どもとしては手落ちにならないんです。」共感度ゼロです。これは説得力もゼロです。だからそういう意味では、「言っていることは分かりました」と言うときに、理性で分かるのではなく心で分かるということが大事なのかなという感じがします。 そのときに大事なことは、分かるということと良い悪いでそれを良しとして認めるというのは別です。この区分けをすることなのです。「分かりました。あなたはそういうお考えなんですね」という分かりましたなのです。だから納得しましたということではないわけです。でもそういうふうに考える気持ちを理解するというところの深さが、今度自分の方が言うときに説得力になっていくのではないかなという感じがいたします。 それからカウンタークレームで、相手の言ったことに対して全く真っ向から違うことを言うときには、言い方とか言葉遣い、表情というのがやはり大事です。やはりそこらへんの工夫というのは要ると思います。そういう工夫もなしに言いたいことを言うというのではやはり伝わりません。 大事なのは、言いたいことを言うのが目的だったら言えばいいのです。普通は違います。言ったことを理解してほしい、納得してほしい、その上で行動してほしいというのが大体究極のはずです。そうすると実は言わないでも相手がそっちの方に行動してくれたらいいわけです。そうです。そうするとこれはやはりひたすら聴く能力というのでしょうか、これが大事になってしまうのではないでしょうか。 例えば昔聞いた話ですが、ある方が「自分が悪いのでしょうけど、自分はこんな人生を生きてきて本当にどうしようもないんです」と言ったとき、ある方が「あんた、こういう点とこういう点がなってないからだめなのよ。全部自業自得じゃない。だから今後こうしなさいよ」と言われ続けて、その人は1回もそうしなかったそうです。ところがある方とお会いしたとき、その方はじーっと聴いていて、涙を流して「大変だったのね。」これだけだったそうです。その後どうなったかというと、前の方が言った、ああしなさい、こうしなさいというのを一言も言わないのにその人はそうされた。これが説得力というやつです。 普通は、ああしなさい、こうしなさいを文章にすると正しい。私は正しいことを言っている。やらない相手が悪いんだと普通なるでしょう。これはやはり説得力がないのです。それは相手への共感力です。だから説得力、納得力というのは相手への共感力ということになる。 そうすると相手を理解する力というのはどういうことかというと、自分がこっちにいて、他人というか人がいる。そうすると相手を理解するというのは、自らの心の大きさを拡大していくということです。自分の心のサイズを相手まで持っていくということなのです。自分の心が自分だけのサイズだったら相手は理解できないのです。 例えば小さい子供とはいえ、やはり大人の気持ちを理解する子供がいます。それから代表取締役社長とかいって偉いわりにはまるで周りのことを理解していないという人もいるでしょう。これはやはり人としての心のサイズです。ただしやはり会社の社長になって、業績を上げてとすれば一つの能力とか推進力というのは多分あるのでしょう。でも相手への理解力が薄いという人はいます。 これは前にもお話ししたかもしれませんが、こういう所には多分結婚式場もあろうかと思います。結婚式の乾杯なんていうので、「それでは僭越ながら一言・・・」と言ってその一言がやたら長いという人もいます。持たせたままずっとしゃべる。周りはもうやめろという合図。一切認識しないでひたすらしゃべる。別に結婚式でスピーチを聴きにきているわけではないわけです。でもそれが理解できない。すなわち周りと状況を認識する力がない人、自分の殻に閉じこもっている人というのは理解できない。だからこういう人というのは所詮理解できません。 それではどうしたらいいのというと、自分を大きくするしかないのです。別の言葉で言うと、私はよく使いますが「人間力」というのでしょうか。基本の人間力、これを高めていくしかないかな。それが本当に理解力を高めることになるんじゃないかなと思います。 ちょっと訳の分からない話になってきたので、またちょっと変えますね。 次のご質問は「対話が大切と認識して部下とできるだけ話をするようにしておりますが」まず最初にここがポイントです。「できるだけ」というやつ。この「できるだけ」とか「なるべく」とかいったときに、私はどういうふうに見るかというとこういう言葉を削除して見ます。そして実際それが正しいようです。「私はこのようなことを大切だと思って常日頃心がけております」の「心がけている」と言っていることはほとんどできていないのです。だから「できるだけ」と言ったら、相手から見たらほとんどないに等しいんじゃないかなと反射的に見る。この方がそうだというのではありません。一般論です。あくまでも一般論ですけども・・・。別に今血祭りにあげる必要はないわけです。 ですから「できるだけ話をするようにしています」といったとき、「できるだけ」というのは自分の立場からの自分の判断なのです。相手から見たらできるだけがどうなっているかというと、ゼロに近いかもしれないわけです。と言うか実はほとんどそうなのです。なんでそんなことが言えるかというと、何千もの事例を僕は見てきたからです。「できるだけ」とか、「一生懸命」心がけているというのできているためしはないのです。 「私は部下に常日頃こういうことが大事だと言っていますし、そのように心がけるようにしております。」だから心がけるようにしているといった途端、パッと削除して聴いてしまうのです。そして後で部下に聞くでしょう。「大久保さん、あなたの言うとおりです」と言って外れたためしはありません。 すなわちやろうとしていることとやれていることは実は全く関係ないぐらい乖離があるのです。ということをまず認識してくださいということです。 続きます。「あまり気を遣わなくても会話がはずみ、良好な関係が作れる相手と、話をしている時に何故かストレスを感じ、話がはずまない相手ができてしまいます。」いろいろな人がいますからそれはそうでしょう。「相性と言ってしまえばそれまでですが、後者の人とうまく対話するコツがあればご教授いただきたい。」 嫌な相手と、どうしたらいいですか? 一つは対話しない、と言うとこれは回答じゃないからいけないのでしょうね。しなきゃいけないですね。これは意図的に努力するしかありません。意図的に努力する。それから基本的には相手の良いところを一つでも二つでも見出すように努力するしかないです。その努力の成果が実れば変わるかもしれないし、その努力が足らなかったならば難しいでしょう。 私自身は自分でサラリーマン生活をやっていて、あまりストレスがたまるという人はいませんでした。というか、確かに僕は好き勝手なことを言っていましたから、「お前みたいに好き勝手やれてサラリーマンになれたらいいよな」と専務や常務クラスから言われました。「あなたも好きに言えばいいじゃないか」と言ったら、「俺なんか好き言ってみろ、すぐクビになるぞ」と言われ、「言ってみないと分かりませんよ」とむちゃくちゃ言っていました。しかし普通はなかなかそうはいきません。 多分こういう人というのは価値観がずれているのでしょう。基本的考え方が違うのでしょう。そういう方と話がはずまない場合は、やはり今申し上げたとおりだと思います。やはりどうしてそういうふうに考えるのかなということと、基本的にちょっと難しいけれど相手を好きにならないとやはり話というのははずまないですよね。嫌い同士ではずんでいたらちょっと変なのです。お互いにポンポン外しあっているなんていうのは・・・。だから好きになる努力をしないといけないのかもしれません。 それでは好きになるにはどうしたらいいかといったら、悪いところを見て好きにはなれませんから、やはり良いところを見るしかないのかなという感じがします。 こういうふうに言うと、「大久保さん、実はあの人は良いところがないんです」という言葉がまた出てくるわけです。良いところはあるのです。見えていないだけです。 例えば中小の企業でお邪魔してよくあるのは、経営者がこう言うのです。「大久保さん、うちの社員はまるでやる気がない。彼らは考えてないですよ」と言うわけです。それで私がインタビューさせてもらうでしょう。会社はこういう問題があり、こうやったら良いというアイディアがいっぱい出てくるのです。社長から見たらないと言う。しかし事実はあるのです。それは結局引き出していない、聴いていない。多分少しでも何か提言したときにバーンとはねつけているのです。それで言わない方が得だという状況を作っておいて、彼らは何も言わないと言っているだけです。 さっ申し上げた、どちらかと言えば十分評価されていない人の集団でも、対話をしていくとやる気が出て工夫をし出して結局業績を上げることができた。能力がなかったわけじゃなかった。このケースは出させてなかっただけです。これもやはり認めることによって出てきています。 もう一つは、やはり認める、誉めるということをされたらいいです。相手を認める、誉める。ただし誉めるというのも冗談で言ってはだめです。建前で言うと相手にとって不愉快になります。認める、誉める、理解するというのが原則です。認める、誉める、理解する。これをやると必ず相手というのは「あ、自分は認められたな」ということになりますから、やはり少しでも良いところを見ながら・・・。 あ、そうか、そういうことなんだ。基本はやはり信頼関係を築いていかないとだめでしょう。信頼関係を築くには、相手に対してこういうストロークを打っていくということだと思います。 これを受けに回らないことです。認めてほしい、誉めてほし、理解してほしいとなるとだめです。そうですよね。だから認める側に回る、誉める側に回る、理解する側に回ったときに、多分相手というのは変わってくるのではないでしょうか。そんなような気がいたします。 それから次の質問です。「肩書きを外して対話する具体的な方法を教えてください。」 はい、私がやっているのはこれです。役員とかマネージメントを集めて討議をするときに、必ず「今日のルールを申し上げます。全員対等です」と。そして大きく「対等」と書きます。それをやった企業で、5つの項目を張り出して、それこそ最初に唱和して確認してやっているという所があります。「対話で、本音で、簡潔に、異なる意見をどんどん出して」こういうことです。だからルール化して宣言するということがすごく大事です。 ただし、例えば課長さんが部長さんを集めて「よろしいですか、今日はみなさん肩書きを外して対等です」なんてやったら、部長の方から「何言ってんだ、お前は」となってしまいます。ですからそれは部長に言わせないとだめです。上の方に言わせることです。だから上の方から「対話をしていこう、対等にやっていこう。」 例えば花王さんなんて全部対等でしょう。情報も対等、みんな対等。曰く「アイディアを出すのに上下なんて関係ないでしょう。」全くそのとおりだと思います。さっき申し上げたように、若い人の方が良い意見が出る可能性が高いわけです。 それともう一つ、肩書きを外すいちばんベストは、普段から肩書きで呼ばないというのがベストです。例えば私自身はIBMという会社にいましたから、鬼澤さんも外資系だったからそうかもしれませんが、お互いさん付けで呼ぶのが当たり前です。だから私も肩書きで呼ばれたくありません。講師として出るとどうしても先生と呼ばれますが、「先生と呼ばないでください。『大久保』と必ず名前で呼んでください」ということを申し上げています。これは心底そう思います。ともかく先生と呼ばれるのが好きではありません。 みなさん、考えてみてください。先生と呼ばれる人たちを並べてみてください。憧れの人たちですか? ああなっちゃいけないという人が多いでしょう? そうじゃないですか。僕はそう思っているわけです。 ただし先生と言われても大丈夫な人がいます。それは本当に人間のできた人です。「先生、先生」と呼ばれて、翌日呼び付けで呼ばれても自分の心が微動だにしないぐらいの人間になった時は僕は呼ばれてもいいと思っています。でもそんな人間になれそうにありませんから・・・。 人によってはいるじゃないですか。部屋に入ってくるなり「私の席はどこだ?」自分で好きな所に座れと。「席はどこだ?」って幼稚園の子供かと言いたくなります。いますよね、車がパッと止まったらドアが自動的に開くのが当たり前だと思っている人。自分で開けたらどうだと。これはやはり人間性そのものとして、人として退化していると思います。 だから一つは普段からさん付けでやるというのがベストです。これ、日本は難しいですね。肩書きで呼ぶのが全部いけないんじゃないでしょう? 肩書きで呼んだ方がけじめがついて良い面はあるのです。だから全部否定すべきだとは思いません。しかし今の時代にCSを軸にして経営をやっていく、現場が中心だということになっていったときに、やはり肩書きで呼ばないでさん付けで呼んでいくという方が私自身は良いと思っています。 肩書きで呼ぶとき困るのは、肩書きが変わって、最後にその相手が肩書きがなくなったらどういうふうに呼ぶのかなと。例えば昔聞いたことがあるのです。社長、会長、相談役といるでしょう。みんな相談役と言うわけです。それで僕は言ったわけです。「相談役を外れたら、みなさんどういうふうにお呼びするんですか?」と聞いたら、「ずっと相談役って肩書きがつくんです」と言われたときに、あ、そうかと思いました。実は肩書きがなくならないというわけです。だけどこれはちょっと寂しい話です。 ですから抜本的には普段からお互いにさん付けで呼ぼうと。ちょっと今から挙手をお願いします。うちの会社はお互いさんづけでやっているという方、手を挙げてください。そこら辺、ちょっといますね。肩書きで呼んでいますと。すみません、もう一回やります。どちらかだと思いますので・・・。はい、さん付けだという方? そこら辺、同じ会社の方ですかね? 違うのかな? 肩書き中心です。これはやはり日本の典型ですね。 肩書きで呼ばないようにしていくというのがいちばん良いかもしれませんね。 それから基本において、さっ申し上げたように、対話をするときにはそういうのは関係ないんだということをまず知識として理解することでしょう。対話というのは、コミュニケーションというのは対等でやっていくものなんだということです。これを知識として理解するということが大事だと思います。 それから次の質問。「小さな声で話すようにしています。会議、研修会、全てと言えるほど無視されたり低い評価となります。大声に負けない小声で対応する方法などありましたら・・・。」だから僕、質疑応答って好きなんです。こういう素晴らしいご質問をいただけるというのが・・・。 「大声に負けない小声で対応する方法」、あります。マイクを使ってください。 小さい声が常に負けるということはあり得ません。自分のことを言うのも何ですが、講演を何時間かやるときに、いちばん大事なメッセージをするとき、実は僕は声が小さくなっているそうです。意外と小さい声で。そうするとこう言われたことがあります。よく聞こえないというのです。こうやって真剣に聞かざるを得ないので、つい真剣に聴いてしまうと言っていました。うまいやり方だねと言われましたが、意図的にやっているのではないのです。本当に大事なことを言うときには小声になるのです。だそうです。面白いものです。 ですから小声が常に負けるものではない。あくまで内容です。そうするともっとひどいことになっちゃうな・・・。 それともう一つはやはり自分のメッセージには信念がないとだめだし、ただ確かに声の大きいのが通るというのはあります。この場合、対策としては発声練習するという手もありかもしれません。普段小声の人が突然大声でやったらむちゃくちゃ説得力があるかもしれません。 そういう意味では、声の大きさが勝負だとなったらば発声練習で大きな声を出す練習をする。もしくは携帯マイクを持参する。ですよね? もしくは小声でも絶対に大丈夫だという信念を持って立ち向かうということでしょう。 ただ小声と言っても相手に聞こえないとだめです。そうするとやはり説得力がないですよね。 それともう一つ、明るさというのも一つの説得力になるのです。暗さというのはマイナスの説得力ですが・・・。小声の人ってどちらかと言うと明るい方ではない感じの人が多いです。これはやはり説得力になります。「あいつ真っ暗だよな。常に大声だよな」というのは少ないです。精神錯乱状態かもしれません。そういう意味では明るさというのも説得力です。 それから説得力のいちばん基本は何か、みなさんご存知ですか? 基本的にここに書いた普段からの信頼関係なのです。すなわちお前には言われたくないというのがあるじゃないですか。正しいことを言われたらそのとおり人はうなずくかというとうなずきません。「理由は?」「正しいから」っていっぱいあるわけです。「なぜ嫌なの?」「お前が言ったから。」人間というのはそういうものなのです。そして言った方は「俺は正しいことを言ったのになぜ動かないんだ?」「あなたが言うからよ。」信頼されていないのです。 実はコミュニケーションでは信頼関係を作るというのが基本になってきます。そのためにはどうしたらいいかというと、常日頃他人に対して心配りをすることです、ということになっていくわけです。 それはちょっとした声をかけることであるかもしれません。例えばファミリーレストランとかいろいろなチェーン店なんか、あれは店長産業と言われていますでしょう? この店長が行けば絶対に業績を戻す店長というのがいるわけです。そういう店長の共通項目は何かというと、徹底してコミュニケーションをとるそうです。そのコミュニケーションとは何か。一声かけることだと、こまめに声をかけることだと言っています。「ありがごう」とか「どうした?」「大丈夫?」ちょっとした声をかけ続けることによって、それは何かというとっき書いた自分の存在を認められることになるわけです。「あ、店長は私を認めてくれてる。」 いちばん最悪は、「あ、お前、いたの?」こういうのがいちばん良くないですよね。「え?前からいた? ごめん、知らなかった」って、いくら本音とはいえ、これはちょっとまずいかな。 だから認めるということです。だったらどうしたらいいかと言うと、例えばさっきご紹介した清水市長。1000人の職員で800人を名前で言えるそうです。これはやはりコミュニケーション力だと思いませんか? そうですよね。だからやはり名前でポンと呼ぶのと、「おい、そこの、お前」というのとでは、これまたコミュニケーションに差が出てくることになります。 そうすると一つには、コミュニケーションを良くするには名前を覚えるというのもすごく大事かもしれません。どうしたらいいか。私自身も一つの営業所を預かった時、顔写真を並べ、名前を下に書きました。100人ぐらいいましたから、とにかく1週間以内に早く覚えようというので努力したことがあります。それでも間違うわけですが・・・。それでもそういう努力はしました。名前を覚えていくというのもすごく大事じゃないかなという感じがします。 それから次です。「トップの方針、ビジョンを伝えるのに、どうしても一方的に話をしがちになります。」多分そうでしょう。「方針が社員一人ひとりにどう浸透しているかを測定するためにコミュニケーションをどのように活用すればいいでしょうか? 例えば『今期の方針を言ってみろ!』という質問は最悪だと思いますが・・・。」大変よく認識しておられるなと。「伝わっていないと感じたとき、思いを話しても良いのでしょうか?」なるほどね。 どれだけ浸透しているか測定するために、いちばん良いのはやはり部下の評価してもらうしかありません。例えば重要な方針が五つある。この五つに対してあなたの理解度はどうか、実践度はどうかというのを無記名で書いてもらうしかないです。もうこれしかないと思います。 もう一つはやはりこのように面と向かって相対したときに、「今年の方針というのはどうなっている?」と聞くのも一つのやり方です。これを1回やれば、2度目集めたときに言われるぞというので一生懸命覚えてくるはずです。ですからそういう面では精度というのは高くなると思います。 基本的には相手に無記名でいろいろな形で重要な項目を評価してもらうということをされるのがベストだと思います。私はここまで言っているから伝わっているはずだといっても全然伝わっていないというのが普通ですから、そういう形の仕組みを導入されるというのがいいんじゃないかなと思います。 それからもう一つ徹底させるためには、例えば年度方針が出ると、年度方針が語られるのは大体年度の初めと終わりというのが多いわけです。これではやはり徹底できないわけです。例えば毎月自分の課で会議を開くといったときに、会議の冒頭に今年の年度方針はこうだったよね、この方針に基づいて1ヶ月自分たちはどれだけできたかを考えてみようよと。それからこの方針に基づいてこれから1ヶ月の方針を語り合おうよ。 だから大事なことはやはり何回も引き出してくることです。そしてメッセージしていく。お互いに考える。そういうことがすごく大事だと思います。 これはやっていないですね。大きな会社でもありますが、今年の方針は、というのでどうなっていたのかなと年末になって初めて見て、「良い方針だったな、来年もこれでいくか」とかやるケースもあるわけです。一見良いような悪いような・・・。これもやはり徹底できません。 だから繰り返し、繰り返しやっていくということが一つと、もう一つは、その観点であなたは何をやる、どう考える、何をしてきたかというのを言わせる、発言させる。これが基本です。これが徹底する方法です。 ともかく一方的に言い続けても絶対に徹底しないと思ってください。なぜならば一方的に言う癖がついたら聴く方はただ一つです。基本的には耳をふさぐという能力が身につくだけです。「また始まった」と。考えているのは、「早くやめてほしいな」とか別のことを考えます。もちろん表面はうなずきます。ですがそれはただうなずいているだけで、違うことでうなずいているわけです。だから絶対に一方向はしないという固い決意で臨んでいただくといいと思います。 それから次の方が、字が美しいのですがちょっと小さくて・・・。私も54歳になりまして、最近ちょっと目がきつくなってきまして・・・。「営業として、組織力を高めるために悩んでいます。ヒントをいただければ」と。「100%お客様の発言に耳を傾け、それに対して『提案する』。提案力を高める必要があります。個人の提案力をどうしたら高められるか。」 これは一言では言えません。まずお客様の言っておられることをしっかりと理解する力をつけなければいけません。 これはOJTの方が良いと思います。若い人を一人行かせて、「お客さんが何と言っていたか聞いて来い」では全然違うことを言う可能性があります。ですからベテランの方がついて行った上でお客様にご説明していただいて、なるほどなというところで戻ってきて、その若い人にお客様が何と言われたか書いてごらんと。そうすると多分とんちんかんなことをいっぱい書くと思います。 実はこれは私自身が課長になった時にやった方法です。教えないで、「あなたはどういうふうに聴いた? はい、書いてごらん。それに対してあなたは今後どうしたいと思う?」徹底的に考えさせることをしているのです。 だからそういうやり方が良いです。そうすると実は「こういうふうに言ったでしょう。あれは建前で本音はこうよ」とか、「そんなことは言っていないでしょ」ということがいっぱいあるわけです。 人というのはやり取りしているとき、自分の思いをベースにして相手の話を聴きますから、全然ないと入ってこないし勝手に勘違いしてしまうということはいっぱいあるわけです。言った、言わないもいっぱいありますし、ともかくコミュニケーションがうまくとれない、相手のことを理解しそこなうというのは日常茶飯事なわけです。 それは第三者的に見て解説してあげると非常に分かり易いです。「お客さんはそんなこと言っていないよ。こう言ったんだよ。それに対してはどうしたらいい?」多分そういうOJTをやっていくことが大事です。良くないのは、「とにかく傾聴能力を高めろ。ひたすら聴いて来い」と言ったって、聴けているかどうか分からないわけですからこれは難しいと思います。 だから戻って来て、「そうか、お客さんはこういうふうに言ったんだよ、ああいうふうに言ったんだよ。そこを書いておいてごらん。それで今お客さんの所に行って確認してごらん。『お客さん、こういうことでよろしいのでしょうか?』」 それからもう一つは、お客さんの言わんとされることを理解するには、その聴いた本人が箇条書きにまとめて、最後お客様に確認をとってくればいいです。『お客様、今日おっしゃられたことというのはまとめるとこういうことでよろしいでしょうか?』最初の頃は違っているというので全部消されるかもしれません。 実はこれもやらせました。すごく良い方法です。するとお客様によっては、違うんだよと全部書いてくれる人もいるのです。絶対に確かです。もっとも後日変わることもあります。本人の考えが変わることもあるのですが、こういう文章、紙でのやりとりというのが良いと思います。そういう形でされたらどうかなという感じがします。そのベースというのは、今は聴く能力、正確に聴く能力ということです。 それから聴いているか、聴いていないかを高める方法は、ロールプレイで結構ですからそれをビデオに撮るのです。そして後で見たら分かります。全然とんちんかんな返答をしているというのがよく分かります。 要は第三者の目で見ない限り、自分の姿というのは見えないわけです。だから自分がどう応対しているのか、どういうふうにちゃんと聴けているのかというのを横でビデオに撮っておいたのを後で自分で見るということをされたらいいです。そうするといかに誤解が多いかということが多分分かってくるのではないかと思います。 これも聴く能力、理解する能力を高める一つの具体的方法です。でもあまりやっていないでしょう。いちばん良いのは、実際にお客様の所へ行って録音テープをとって後で聴いてみることです。 人が育つにはこういう投資が要るのです。なかなか皆さんやらないですね。やはり本当に育てるということになかなか時間をかけないですね。そんな感じがします。 それから「営業から戻るとすぐパソコンに向かう。工場とのメールのやりとりなど。ともかくメールを禁止したい気分です。」パソコンなんて作るからいけないのです。と言ったらちょっと言い過ぎですが・・・。「大久保さんのお話のように、会社に戻ったら横の人間とまず会話をするように指導していますが、何か良い方法はありますでしょうか?」 これはなかなか良い質問です。人が動くべき方向に指示しても、提言しても人は動かないのです。ああせい、こうせいと言っても人は動かないものだと思ってください。 どうしたらいいのかはそっちに動くようにもっていくことなのです。「いいから対話しろ。」違うのです。「ちょっとうまいもん買ってきたよ。ちょっとみんな来ない?」って雑談を始めたら対話ができるかもしれない。これが環境条件を作ることです。 「いいか、対話が重要だぞ、対話しろ。」「なぜ対話しないんだ? だめじゃないか! 話聴け!」また自分の言っていることが全然矛盾しているケースがあるでしょう。違いますよね。だから対話の場を作ることです。問題提起をすることかもしれない。場合によっては組織横断的にチームを作って課題を与えることかもしれない。 このとき大事なのは、部下を集めて話をするときなんかも自分で結論を先に言ってはいけません。「このテーマについてみんな自由に討議してくれ。俺はこう思うけどな。」もう全然自由とかないわけです。これは本当の話です。 ある会社で言っていました。「僕は自由に討議させています。」「どうして?」「テーマを言ったら、後でその席を外して彼らに自由に発言させてます。でも冒頭一応自分の意見は言っています。」それで課員に聞いたら、「最初に課長がああ言って、あれがひっくり返ったためしがありませんから。」「どうしてるの?」「雑談してます。」何もやっていないわけです。 これも、自分は正しいことをやっていると思っているわけです。でも結果的に全然違ってしまったことをやっているのです。このぐらいギャップがあるのです。 ですからやはり相手からの評価をもらわなければだめだということです。 鬼澤さん、ちょっと「自分が変れば組織も変る」の本手元にありますか? すごい質問があるのです。「自分は絶対正しいと思っている上司を改心させる方法はあるか。」難しいでしょう、これ。 絶対にやっちゃいけないこと。「あなたは間違っている。改心しろ。」絶対改心しません。「お前こそ改心しろ」と言い返されるだけです。 その方法が書いてあります。121ページです。ない人、ちょっと申し訳ございません。実はこれは去年使ったかもしれませんが、鬼澤さんの所にもソフトコピーがあったと思います。これはコミュニケーション診断表といって、要は例えばここでは5段階評価で自分を評価するのです。「話すより、よく聴いている」、「相手の心情を考えながら話す」、「重要なことは切り返し伝える」、「よくほめ言葉を使う」、「反対意見を受け入れる」、それを1~5段階評価で自ら評価してくださいというものです。 例えば部長さんがいた。そうしたら部長さんがつけると同時に、部下の人に部長さんがどうかというレベルをこれで評価してもらうのです。これをやらない限りだめだし、これをやったらものすごい気付きが出ます。 実はこれを数千やったのです。自分がアドバイザーとして入った企業で、部下から評価をさせていない企業はありません。なぜかと言うと部下のコメントをもらわないと所詮分からないから。見えないのだから分からないのです。 自分は正しいです。私は常に聴いている。5だ。部下が1。こんなのはいっぱいあります。例えば「重要なことは繰り返している。」本人は繰り返しているから5です。部下から見ると2。 もうこんなのはいっぱいあります。例えば「私は人材の育成だけは自信がある。教育ということについては力を入れてきたので5です」と。「大久保さん、ここだけ部下の評価が1でした」という人にも出会ったことがあります。 それから怒る、怒らないというのもあるのですが、「私は怒らない方である。」5。部下から1というのが結構あって、丁寧にコメントまでついている人がいました。例えば10人の部下を持っている人で、6人から「朝から怒鳴らないでほしい」と書かれた人がいました。その上司は何と言ったと思いますか? 「私は怒鳴ったことはありません。」「そうでしょうね。朝一番で重要なことを確認しているんでしょ?」「いや、大久保さん、よくお分かりですね。」「あなた、やはり怒鳴っているんですよ。」これが本人と相手のギャップなのです。 それで経営品質の基本は相手の評価なのです。相手がそう評価したら自分はああだこうだ言ったってしょうがないのです。それであなた怒鳴っているよという人が6人もいるのですから、怒鳴っているのです。本人は怒鳴っていないと言うけど・・・。 先々週もある企業で合宿をやったらありました。センター長が別の所へ転勤になった。最後の歓送会、飲み会になった時に何と言われたか。「本当にあなたは四六時中怒ってばかりいた。」飲んだ席だし、もういなくなりますから言う方も気楽に言ったみたいなのです。相当言われたと。その言われた人は何と言ったと思いますか? 「私はあれほど怒らないように努力したつもりだったんですけど」とおっしゃっていました。部下は全くそう評価していませんでした。そのくらいギャップがあるわけです。 そのギャップはどうしたら分かるか。ただ一つ、部下に書いてもらうしかないのです。これ以外の方法はありません。そしてこれが最良の方策です。そのときに大事なのは手で書いてもらわないようにしてください、追求が始まりますから・・・。いやいや、細かいけれど大事なことなのです。ワープロでハードコピーを渡すようにしてください。それからメールでやり取りしていてはだめですよ、発信が分かっちゃうから。分からないように書くと言っても、書いたときに書いた方というのは相当な決意で書いているのです。 このケースも、どういうふうにフィードバックしたらいいか、どうコメントをもらったらいいかも、3000やったのでその体験に基づいて実は細かいことがさらに書いてありますが、もしこれを実際にされたらこう思ってください。結構否定的な意見を書かれた。おめでとうございます。全くなかったら危ないですよ。 例えば部下の評価が全部5だったとします。最悪です。そんな人間はいません。ただ一つ、それは恐怖政治なのです。だからうっかり4と書いたらば、○の付け方で無記名であってもばれるんじゃないかと・・・。本当なのです。本当の話です。それで書けないのです。5なのです。 ということを5がついた人に言ったことがあります。事務局の人に何と言われたか? 「大久保さん、図星です。彼のマネージメントは恫喝、恐喝です。」「嫌いだ! 何をやっているんだ! ふざけんな!」強烈なプレッシャーマネージメントの人でした。私と相対する時はにこやかです。全然違います。見えないですよ。上司と相対する時もにこやかです。部下に相対する時は鬼になっているわけです。全部5でしたからその評価が見事出ました。 本人は自慢気に言ったのです。「私の平均は4.3なのに、部下の評価が平均で4.8でほとんど5でした。」「いやあ、危ないですな」と僕は言ったのです。「あなた恐怖政治をしているはずだ。本音が書けていない。」それが図星だったのです。 この人はその後努力されました。努力されたらどうなったというと、部下の評価がその後努力したにも関わらずずっと下がり続けたのです。「二回目やったら4.3で、今度3.8になりました。」「素晴らしいですね。やっと部下が本音を書けるようになりましたね」ということなのです。 そんなものなのです。そのくらい本音は書けません。この本の中にも書いたのですが、もし否定的なコメントをたくさんもらったときには喜んでください。それだけ指摘してもらえたのです。ただし全員が1で、否定コメントの連続だったらそれはそれで問題があります。もう即刻マネージメントとして退任すべきですとしか言いようがありません。それはバランスの問題です。だから悪いのがついても悪く思わない方がいいです。 ここで申し上げたいのはただ一つ、ともかく相手に評価してもらわない限り自分の姿は見えないのです。そしてその否定的なコメントを、少々間違っていると思っても一つ素直に謙虚に受け入れて改善していく以外にはない。 これは企業と会社で考えたときも同じです。お客様からコメントをいただいたら、そんなの違うよなという思いがあったとしても、お客様はそうとられたのですから自分で反省するしかないのです。これは経営品質の発想です。やはり相手のご意見を素直に謙虚に受けて自らを改善していく。 だから個人にあてはめた場合には、部下との関係でも、部下のコメントを素直に謙虚に受け入れて自分を改善していく。そうするとどうなるかというと結局自分が成長できるわけです。その方がずっと尊いわけです。そういう形でもっていくとできます。 だから上司を改心させる方法というのはこのコミュニケーション診断シートをうまく使うということです。ただしそういう上司が、「なんで俺が評価されなきゃいけないんだ!」となった場合にはもう諦めてください。これはもう無理だとしか言いようがありません。その場合には身の振り方を考えるというのが一つ対策としてはあるかなといういう感じがします。半分冗談のようですが本気なのです。ただしそのうち変わりますから、その人がずっと上司ということはないでしょう。なんて言って変わらなかったらちょっと困りますけども・・・。 もう一つ言えば、人生というのは運、不運はあるのです。あるのですよ。どうしようもない上司に仕える時があるのです。それはトレーニングです。いや、本当にそうなのです。良い上司とそうでない上司と両方から人は学べるのです。本当です。上司の人は悪い方の役をやらないでくださいよ。でも部下から見て嫌だなと思う上司の方が意外と良いことだってあるのです。 もう時間がないので話せませんが、一つだけ申し上げますとこういう経験があります。IBMに勤めて素晴らしい上司がいました。外に出てお客様に無理難題を言われて疲れて8時、9時に帰ってきた時、その人がいるとホッとする上司です。それは嬉しかったです。戻ってきて悲壮感を漂わせていると、「大久保、どうした?」「こんな無理難題を五つ言われてきました。」「心配するな、俺が何とかする。」この上司に仕えた時は、ともかくいてくれるだけで嬉しかったです。 そうじゃない人もいました。戻って、まだいるの? 「もう一度お客様の所へ行ってきます」とか言って・・・。上司から見ると、お前熱心だなと。違うんですよ、あなたがいるから帰るんですというだけです。これもコミュニケーションギャップです。 ただその素晴らしい上司もちょっと課題がありました。血液型がB型のせいかどうか分かりませんが、翌日になると見事に発言が変わるのです。「俺そんなこと言ったか?」とか言って・・・。でもその時々は真剣ですから。それで「心配するな」と言ってもらい、肩の荷を下ろすことによって実は自分で問題解決ができた。実は五つのうちの一つはちゃんとやってあったのです。これは最高の上司だったかもしれません。やはりそういう上司になっていただきたいですね。 ちょっとあっち行ったりこっち行ったりの話でしたが、もうあと詳細は本を読んでいただくということで今日に出版を間に合わせました。昨日の夕方に印刷が出来上がったのです。ということなので、あとはこちらの方で自習していただくということで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 今回のテキスト:「自分が変れば組織も変る」 かんき出版 大久保 寛司 著