21世紀 残る経営 消える経営 / 2001年6月(設立1周年記念講演会)

21世紀 残る経営 消える経営
大久保 寛司 氏 (人と経営研究所 代表)

 みなさま、こんにちは。ただ今ご紹介賜りました大久保です。
 まず最初に、私が感謝の気持ちを申し上げるのもおかしなことかもしれませんが、去年茨城県経営品質協議会を設立して1年、本当にこの1年いろいろやってこられたということ、代表幹事の鬼澤さんを初め、幹事、運営委員のメンバーの方に本当にお疲れ様という感じです。それから表には出てこない内助の功というのがありまして、いろいろな講演録のテープ起こしをしてくださった鬼澤さんの奥様にも、改めてこの場を借りて御礼申し上げたいと思います。一家総出でボランティア活動、これがやはりこの経営品質を支えているのですね。ですからいつまでもお客さんでポーッとしているのはだめです。やはり与える側にならないと本物にならないのではないかという気がします。
 今から4時ぐらいを目安に一方的にしゃべらせていただいて、15分休憩をとり、また去年同様質疑応答ということで進めていきたいと思います。
 今回は結構なかなか格好良い演題ではないかと思います。これは私がつけた演題ではありません。中央公論に文章が載った時、出版社の方がこういう演題をつけてくださいました。結構なボリュームになると思いますが、この秋にこの単行本が出ます。
 これから消えるか残るかという大変な時代になったというのは事実だと思います。今日来られている方も、うちの企業は消えた方が良いと思われている方はいないと思います。多分何とか残したい、ついでに当然自分も残りたいということで来られていると思います。今からの話が1つでも2つでもヒントを提供できればと思います。
 私自身、去年4月にIBMを退社して、いろいろな所でお手伝いさせていただいています。講演というよりは地についたアドバイスというのでしょうか、結構大手が多いのですが、役員会や経営会議に出ていってアドバイスしていることが多いです。
 講演も時々させていただきますが、冒頭で、最近講演でつくづく大事だなと思っていることを申し上げます。これは聴き手の能力が全てだな、これ以外にないというのが私の実感です。すなわち聴き手の気付きの能力、気付くか気付かないかなのです。だから気付きが大事だということにまず気付いていただきたい。ここで気付かないと、あと全然進まないということになってしまうので、最初に気付きの能力が全てなのだということを基本においてください。その後は行動力ということになっていきます。
 ちょっと最初に確認させていただきたいのですが、私、大久保の話を初めて聴かれるという方、挙手をお願いいたします。結構いらっしゃいますね。それでは、経営品質というのはよく分からないけれど、この類の話を聴くのは実は初めてなのですという方は? これは少ないのですね。分かりました。何度か聴かれている方は大変恐縮ですが、いつもと同じ冗談を申し上げても十分大丈夫だと分かりました。冗談のネタというのはそうないので、私にとって初めての方向けに紹介していきたいと思います。

<自らの足で立っているか>
 40歳後半になってから非常に植物に興味を持つようになりました。それまでは全然見えませんでした。「新緑よ!」と家内から言われても、「あ、そう・・・」というぐらいの非常に感性の鈍い男だったのですが、最近は新緑を見ると大地の躍動を感じるということで、すごく嬉しく感じるのです。
 今日も生産性本部から坂本さんがお見えになっていますが、二年前に生産性本部の船に乗せていただいて東南アジアに行った時、当たり前ですが花が咲いているわけです。その花は日本だと途中で枯れてしまい、そしてまた春に咲く花です。東南アジアなのに、私は馬鹿みたいな質問をしてしまいました。「これ、ひょっとしてずっと咲いているのですかね?」と言ったら、「当然です」というわけです。向こうの方の、馬鹿な質問をしますねという雰囲気が分かりました。
 日本だと春夏秋冬ありますが、東南アジアでは花がずっと咲いているというわけです。つまらないなと思いました。花というのは散るから良いのです。そしてまた新たなる喜びがあるのだなと思うのです。年がら年中暖かいわけですから、年輪もあまりないわけです。だから太いわりには、意外と強い風でパキッと折れてしまうこともある。外からの力に弱いわけです。根性がないということになるかもしれません。
 香港に行かれた方も多いと思いますが、香港をどちら側から見るか。上の丘から見下ろすというのがいちばん有名ですが、船で香港を去っていくと対岸の灯りが両方見えるのです。船がずっと動いていくと、その対岸の灯りがどんどん変化していきます。徐々に、徐々に見えなくなっていくわけですが、片一方から止まった状態を見るより非常に感動的なのです。またその船も憎いのです。その時にずっと「慕情」を流すのです。非常にロマンチックな雰囲気になるのですが、その時にその船で夜景を見ながら結論として考えたのは、変化は喜びであるということです。
 要するに変化するということは喜びなのだ。決して苦しみでも悩みでもない。変化がなかったらつまらないではないかということで、変化は喜びだということを痛感しました。
 そして日本を見たときにどうかというと激変の時代、激動の時代である。ということは今の論理を当てはめれば、最高に素晴らしい時代であるということになるわけです。激変の時代ですから素晴らしい時代なのだ。なるほどなという感じを持ちました。
 日本全体の変化というものを俯瞰して上から眺めてみると、今までは国が企業を面倒見、企業が人を面倒見ていたと思うのです。これが変わるということです。簡単に言うと、企業も人も自らの足で立つ時代なのだということです。国は企業を面倒見ません。行政で言えば国・地方分権法ということで、地方は独立して自らを考えていかなければいけません。教育法も変えました。学校独自のいろいろなプログラムを導入できるようになってきました。これはもう従来と全く発想が違うのです。自ら考える時代です。
例えば国立大学も独立法人化が言われています。国立病院も平成16年には独立法人化するということです。今の病院がこのまま独立した場合どうなるかというと、ほとんど倒れてしまう可能性があるわけです。経営として成り立っていないということです。それでもなぜ立っているのか。簡単です。国の援助があるからです。
 ですから今までは、大袈裟に言えば歩行器や親の手助けによって何とか独りで歩いている感じになっている人や組織があったということです。そして実はこれが根底から変わっていくのです。すなわち今申し上げたように、企業も人も自立の時代である、自らの足で立っていますかということです。自ら立つ、自立。これがやはりキーワードではないか。
 自分で立てない企業、自分で立てない人はどうなるのか。別の言葉で言うと、自らで価値を生み出していないということです。自らで価値を生み出していない企業と組織というのはどうなっていくのか。たった一つ、これからはなくなっていくということです。今までは援助があったから何とか立つことができていたのです。すなわち倒れていくしかない。倒れる=なくなるということです。
 今、自らの足で立っているか。これからは自らの足で立つ時代なのだとお考えいただくといいのではないか。ですから自らの足で立っていない企業は消える。自らの足で立っている企業は残る経営だということになるのではないかと思います。
 「失われた10年」という言葉がありますが、私はあまり好きではありません。国が何もしなかったのだ、失われた10年だといろいろな言い方があるでしょう。でも間違っても企業経営をやっている人はその言葉を出すべきではありません。どんなにやっていても、所詮10年経ったら10年なくなるのです。そして失われた10年と言いますが、その間に生み出し、創り、発展した企業だってあります。従来から存在していて、ここ10年で飛躍的に発展した企業もあります。企業経営者が「いやいや、失われた10年です」と言っても、「それはあなたが何もしなかっただけでしょう」ということであって、国を頼ったり景気を頼りにする人というのは、多分経営者の資格はないと思います。すなわちこれも自らの足で立っていないということです。ですからこれからはやはり自らで立つ、自立するというのが基本ではないかと思います。

<変化へ対応しているか>
 変化対応ということを去年も申し上げました。組織も全てそうなのですが、生物学的に見た生物も、全て存在し続けられるカギというのは変化対応以外にないわけです。今、世の中は激変しているのに、「私どもの企業ですか? はい、前と同じことをやっています」というのでは、やはり不可能なわけです。
厳しく申し上げれば、町の商店主の方たちというのは従来の延長線上でしかビジネスをやっていない。その中で世の中が変わってしまったから、自分たちが存在できなくなってしまった。それはそうでしょうとしか言いようがありません。でもこの激変の中で素晴らしいビジネスモデルを作っていく人もいるわけです。ですから自ら立つ、自ら考えるということです。
 この世の中の変化というものをもう一つ見たときに、変化対応というときには逆に変化を見なければいけません。いつも申し上げていますが、一つは提供側が主であったということです。商品もサービスも、全て受ける側と提供する側がありますが、今は世界中から来るので商品、サービスが多いのです。簡単に言えば今は買い手より売り手の方が多い時代です。世界中が競争相手ですから、買い手より売り手の方が多いと思ってください。インターネットで地球の裏側に注文して、一週間後に商品を手に入れられるわけですから、世の中は全然変わっているわけです。そういう観点でも、こちら側に主導権が移ったということが一つ。
 もう一つは情報という観点で見てください。従来は情報という観点でも企業が持っていて、消費者、顧客というのは情報が少なかったと思います。今インターネットの世界で見たら分かります。いろいろな商品、サービスを比較するサイトがいっぱいあります。簡単に申し上げれば、消費者や使う側の方が余程商品知識を持っているということです。
 先生と生徒という観点で見た場合、従来は先生の方がたくさん情報を持っていました。難しい質問に対するゼミの先生の解説をいろいろ聴いているうちに、生徒の方はアメリカの学者に直接ネットで質問して答をもらう。「先生、それ、解説違います」「いや、そんなことはない」「本人がそう言っているのです。」そういう時代です。
 主権者が変わってしまっています。今は上司より部下です。ネットを使えない上司より、ネットの世界でいろいろな情報をとれる部下の方が余程情報を持っています。イントラネットなどが発達すれば、社長の一言というのはいちばん下まで同じ速度と同じ質で伝わってしまいます。従来はいろいろな階層構造があったので違いますが、今はそうではありません。そうするとそちらの方をうまく使うことができる部下の方がはるかに情報を持っているということになるわけです。
 この中で企業で採用の面接をやっておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、学生というのはすごいです。面接のQ&Aというのは翌日ネットの世界で流れているのです。企業の方は知らないのですが、「どこそこの会社のなんとか面接官というのはこういう質問をして、私はこう答えたら向こうはこう言った」というのを学生の間で全部やっているわけです。学生のあの横のつながりというのはケタ違いです。すなわち、どこの企業がどんな面接をやっているという情報というのは、企業同士は知らないけれど学生はみんな持っています。
 企業より顧客。何を申し上げているか。情報の主権のありよう、イニシアティブを取る方が変わってしまったということです。何が起こったかというと、まさに主権が変わったということです。供給側から受ける側、今までで言うと受ける側に主権者が変わった。今、主権の交代が起こったと考えるといいのです。

<お客様を本当に理解しているか>
 その次に何を考えなければいけないか。主権がシフトしてしまったわけですから、その主のところから物事を考えていかなければいけないとなります。この例で申し上げれば、お客様、市場という方に主権が移ったわけですから、すなわちこちらの側から物事を考えていく必要があるということです。これを極めて平たい言葉で申し上げれば、お客様の立場に立ってという話になるわけです。
 これがまた面白いのですが、お客様の立場に立って経営しなければならないといったら、こういう企業が本当にあるのです。この間ある企業に行ったら、「大久保さん、うちは昔から社是社訓でそういうふうに書いてある」と言うのです。「書いてあるのをやっているのですか?」と言うと「え?」と言うのです。やっていないのですが、いまだに「書いてある」というのと「やっている」というのを勘違いしている人がいらっしゃいます。
 主権者に対してどう仕えていくかということを考えたときに、その主権者、すなわちお客様のことをどれだけ理解しているかというのがカギなのです。次はそのようになっていきます。そうするとお客様を本当に理解しているでしょうかということです。
 今からみなさんにクイズを出します。足は上げなくてもいいですが、手を上げていただいてちょっと運動していただきたいと思います。
 埼玉県に三州製菓という煎餅屋さんがあります。これは素晴らしいのです。どのぐらい素晴らしいかというと、どうしようもないぐらい素晴らしいのです。そこの煎餅屋さんが赤字に転落していきそうになるのですが、そこの社長が学者みたいな方で素晴らしいのです。そこはニッチャーです。だからこだわりの商品を作ることで生きていくお店です。ある時中国に行ったら、薬草がすごく豊かだというので、すごい煎餅を作ったのです。薬膳の煎餅というので仙人の「仙」をつけて社長がネーミングまで惚れこんで「薬膳仙餅」というのを売り出したのです。

 クイズその1。
 この薬膳仙餅は売上げ目標に対して何パーセントぐらいいったかという質問です。選択がいくつかあります。100パーセント以上。それから30~80パーセントぐらい。20パーセント以下。この3つでいきます。薬膳仙餅です。みなさん挙手をお願いします。
 こだわりの煎餅だから、売上げ目標に対して100パーセント以上いったでしょうと思う方、挙手をお願いします。6人。一言で言うとほんの少しです。
 30~80パーセントぐらいでしょうという方? 結構出てきました。
 何となく雰囲気的に20パーセント以下という方? 正解です。ただ、素直にやっていない感じがありますね。こういう問題を出したからどうせ下なのではないかと・・・。これはつまらないですね。大事なのは素直さなのです。ただ正解なのですが・・・。
 ほとんど売れなかったのです。実はその社長がこだわって作った煎餅というのはいまたかつて売れたことがなかったのです。ここで斉之平さんという社長は目が覚めたのです。素晴らしいのです。社員60人、パートタイマー200人の会社です。研究員といってもそんなにいるわけではないのですが、研究所の研究員に任せようと。研究員が自分たちに作らせてくれと言っていたのです。すごい煎餅ができました。製法特許が取れる煎餅です。どこも真似できない煎餅です。
 さて、今度は100パーセント以上いったと思う方? 素直に考えましょうね。
 30~80パーセント? 20パーセント以下? 正解です。茨城はクオリティが高いです。これも全然売れなかったのです。よく考えてみれば、別に製法特許が取れるからといってお客さんが喜ぶわけではないのです。これは技術者が十分考えなければいけないところです。世の中には技術者冥利に尽きるのだけれど、結局は何の価値も生み出していないということがあるではないですか。
 そして気が付いたのです。「俺たちの気に入る煎餅を作らないから売れないのだ」と普段からうるさい営業がいた。やっとそこにたどりついたのです。そして営業に聞いたのです。「どんな煎餅を作ったら売れると思うか?」「社長、よくぞ聞いてくれました。やっと私たちに聞いてくれましたか。決まっています。」「何だ?」「ホタテの煎餅です」と言うわけです。「他社が作っていない。」「ホタテの煎餅?」「私たちはニッチャーです」ということでやりました。
 さて今度はどうか。今度は200パーセント以上、100~200パーセント、それから20パーセント以下。この3つでどうかなと思います。
 200パーセント以上いったと思う方? 1人。ありがとうございます。
 100~200パーセント? 結構出ましたね。
 例によって20パーセント以下。正解です。これも売れなかったのです。すごい設備投資はパーです。
 それでどうしたかというと、お客様のご意見を聴いて作ろうといって作ったら売れ出した。これがオチなのです。自分たちで勝手に作っていたのです。それをやめたのです。そうしたら本当に売れるようになったのです。
 ここの方はまさに去年までは審査基準と言っていた8つの基準を徹底的に活用するのです。そして実際に応募してフィードバックコメントをもらいます。フィードバックコメントを見せてもらいましたが、フィードバックコメントが全部ベーシックなものばかりですから、企業としては200点台だったでしょう。審査員をやっていると大体点数が読めます。点数は本人も言いませんでしたが、とにかく基本的なことばかり指摘されましたとおっしゃっていました。そのフィードバックコメントを毎年少しずつ埋めていくのです。そして見事に赤字企業から黒字企業に脱却し、二桁成長し続けるという嘘みたいなストーリーなのです。本当の話です。
 この方の話を聴いて勉強になったのは、煎餅を専門店に卸すわけですが、ここの意見を聴こうと。社長は経営品質に狂ってしまいましたから、謙虚に相手の意見を聴く。これ一辺倒です。専門店には専門店の意見を聴こうということです。すると営業が大反対。専門店回りをしている普段の営業のつたないところがばれてしまうではないですか。でも、とにかくやるのだとやったのです。そして専門店の意見を聴きました。聴く前はみんな何と言ったか。「クレームの山になるからやめてください。」「いいんだ。聴くんだ」これは信念です。
 そうしたらすごいです。いちばん多かったご意見、ご要望は何か。本当は双方向でやるといいのですが、時間の関係で回答を申し上げます。煎餅メーカーに対して専門店のいちばん多かったご要望は何か。それは「経営のアドバイスが欲しい」です。全然違うでしょう。ニッチャーですから品数も少ない、値段も高い。だから品数増やせ、もっと安くしろ、仕切値を下げろというのがご要望でたくさんくると思ったら、それはあまり来ない。いちばん来たのは専門店としてのアドバイスが欲しいということです。このぐらい違うのです。見事なほど違います。
 今度は顧客の区分ごとに経営品質を考えなければいけないという発想です。インターネットで買うお客さんもいらっしゃる。だからインターネットで買うお客さんにも何がご要望か聴いてみましょうと聴いてみました。いちばん多かったクレームは何か。また例によって高い、安くしろ、品数増やせだと思っていたら全然違いました。送料が高いと。こだわり商品だから商品単体が高いのはいいけれど、送料がやたら高いのが目につくのです。これを下げることによってまた売れるようになった。
 極めつけはここの社長さん、何をやったと思いますか? こだわりの煎餅ですから1枚ずつ袋に入れています。やはり直接お客様のご意見を聴こうというので、その袋の裏になんと0120、フリーダイヤルのお客様相談センターを書いてしまった。社員大反対です。事務所にほとんど人がいないのですから、電話をほとんど1人で受けるのです。事務所の社員全員が反対です。「社長何をするのですか? そんなこと書いたら日本全国からクレームが来て仕事なんかできなくなるじゃないですか。」これもよくありません。0120を明記した途端クレームがいっぱいで仕事ができなくなるなんて、どういう商品を売っているのだということになってしまいます。
 これでいちばん多かったのは何か。すみません、目が合ってしまいましたね。何がいちばん多かったと思いますか? 多分当たらないから心配しなくていいです。
 「値段は言われないと思います。工場見学?」
 工場見学? すごいですね。こちらの方は突飛なアイディアが出ますね。今までにない回答をいただきました。工場見学だそうです。それは出ませんでした。
 いちばん出たのは何かというと、「この煎餅はどこで買えるのですか?」でした。9割以上だそうです。それでどうしたかというと、相談センターに全国の専門店の地図を置いておいてFAXするわけです。これでまた売上げが上がるのです。
 これは本当に聴いて勉強になりました。要は相手から謙虚に聴くということがいかに素晴らしいことかということです。ちなみに米菓業界というのはマーケットとしてはずっと減少しています。米を主食としている国は結構世界でも多いのですが、米のお菓子、米菓というのは日本だけだそうです。非常にユニークな商品なのです。この縮小しているマーケットの中で見事に伸ばし続けているのです。
 ここから学べることは何かというと、やはりどこまで実践するかです。謙虚にお客様の声を聴いたら素晴らしいことになります。聴いてみましょうよという謙虚さ、素直さ、そして行動力。これが伴うといいですね。
 ちょっとみなさんにご質問させていただきます。去年の6月の総会で私の話を聴いたという方、いらっしゃいますか? 別に当てませんからご心配なく・・・。あまりいないのか・・・。何人かいらっしゃいますよね。結局その方たちに申し上げたいのですが、その後何をやりましたか。
 あの時も申し上げたと思いますが、勉強になったとか目からウロコというのはほとんど意味がありません。落ちたウロコというのはすぐに元に戻るのです。後日お会いすれば絶対についています。すなわち実践しないのです。大事なことはやはりやることです。
 鬼澤さんがずっとやってこられているこの協議会、勉強会。素晴らしい勉強としての場を提供しておられます。これは全県にあるわけではないので、大変恵まれているのですが、その場で勉強するだけでは意味がないということです。それを勉強してただ教える。私は学校の先生だというのなら、それはそれでいいかもしれない。多分今日集まっておられる方は実務家の方ばかりだろうと思います。そのときにはやはりどこまでやるかなのです。
 1.5日の研修会というのをよくやるのですが、この間もある企業で「なるほど、私たちはお客さんの意見を聴いていませんでした。早速お客様のご意見を聴いてみたいと思います。」「いつからですか?」「来年からです。」来年というのは9ヶ月先なのです。早速が9ヶ月先ですから・・・。ちょっと遅いのではないかと思い、別の方に「今、あの方が来年からとおっしゃいましたが、○○さん、どう思われますか?」と聞くと「極めて妥当だと思います」と言うのです。予想だにしないリスポンスが来て、「来週からやったらどうですか?」と申し上げたのです。
 どうして9ヶ月先になるか。すごく簡単なのです。まず質問項目を詳細につめていこう、失敗のないようにしよう、とにかく事前準備を精緻に仕上げていこうという発想なのです。この発想はスピードがものすごく遅くなります。だめです。これからは事前にあまり時間をかけるべきではない。即やってみて、だめならその後また考えるというのが正しいのです。
 何年か前でしたが、日経の一面の左の囲み記事で、岩場の山をどんどん登っていく安いロボットが開発されたことが出ていました。従来はものすごく高かったのです。センサーがついていて、センサーで周りをセンスしながら、ここが大丈夫だというので一歩ずつ上っていくロボットでした。これはものすごく大きくなって、かつ値段も高いというわけです。ところが何分の一かの経費でロボットができたのです。このロボットはどういうものか。何も考えないでまず手を出すのだそうです。何か障害物があると手を引っ込めて、どこか空いている所はないかと登っていくと、実は短時間で登っていくことができるのです。
 すなわち即やるということです。これがいちばん安くて早いのです。人間とロボットは違いますが、やはりすぐやるということが大事ではないかと思います。
 話を元に戻せば、ここに書いてあるように、お客様を本当に理解していますかということです。多分多くのところでは理解していないでしょう。どうしたらいいのですか? それはもう謙虚に素直に聴くしかないです。謙虚に素直に聴いてみて下さい。これが基本ですということです。
 いろいろな企業をアドバイスしてお邪魔させていただき、営業と開発と生産と一緒になって1.5日の研修などをよくやるのですが、開発部門でよく出るのが、「私どもの先に生産があって、その次に営業、その先に代理店、二次代理店があって、その先にお客さんがあるのです。お客さんが遠いのですが、どうやったらお客さんの声が聴けるでしょうか?」これは意外とよく出る質問です。みなさん、このように質問されたらどのように答えますか? 
 簡単です。お客さんの所に行けばいいということです。全然遠くないのです。物理的な距離はきっと変わりません。この人は自分は行かないという前提で何とかしようとしているのです。その発想が抜けきれていないのです。簡単です。開発の人がお客さんの声を知るには、例えば商品だったら、使っているお客さんの所へ行けばいいではないですか。たったこれだけのことです。
 そもそも行って謙虚に聴くという発想がないのです。それで何がしかの格好でお客さんの生の声を取ろう。直接行く以外に取れません。無理です。営業に行かせれば、営業なんて嘘をつくので適当に言う可能性は十分にあります。どうしたらいいか。すごく簡単です。ご自身で行かれたらどうですか? 極めてシンプルな答ですが、これ以外にないと思います。
 行って、例えば商品であれば使っている現場を見た時、初めて「え? お客さん、こんな使い方をされているのですか?」というのがしょっちゅう出ます。それは企業の中にいたのでは分かりません。やはり現地、現場に出て行く。そうでないと、お客さんを本当に理解するということは多分難しいのではないかと思います。

<組織のコミュニケーションはとれているか>
 「21世紀 残る経営 消える経営」という観点で見たとき、ここ一年間いろいろな企業をアドバイスさせていただいてしみじみ思うのは、組織のコミュニケーションなのです。結論から言うとこれが全然とれていない。上も下も、上下左右もうバラバラ。よくそれで業績を上げているなというぐらいのものです。
 一言結論から申し上げますと、コミュニケーションを良くすると30パーセントの売上増というのはけっこう簡単だということを実感しています。逆に言えばそれぐらい難しいのかもしれません。
 経営品質には「組織力」という言葉がありますが、機械だと1生産するものを2つ並べれば2の生産になります。ところが人間というのは1人と1人を足したらば2人分の仕事になるかというと、これがならないというところが違うわけです。1人と1人で相性が悪いとマイナス1というケースもあるわけです。要は2人ともいない方がいいというわけです。またプラス3もあるかもしれません。これはもちろん相性と同時に、たくさんの人をいかに生産性の方に向けるかという観点で見たときに、人の総和がイコール組織力の総和ではないということです。だから組織という一つの中に入ることによって、ものすごく増える場合もあればあまり増えない場合もあるわけです。
 そうするとどうやってその組織力を向上させていくのか。経営品質では個人の能力向上というのももちろん目指しますが、組織で仕事をしているわけですから、組織力の向上というのも一つの重要な課題であるわけです。いろいろな要素はありますが、組織力という観点で、私自身が今いちばん大事だとしみじみ思うのは組織の中のコミュニケーションということです。
 この間の日経ビジネスに出ていましたが、日産のカルロス・ゴーン氏もやはり「コミュニケーションというのは手が空いた時にやることではない。経営の中枢に据えるべきものだ」と言っています。それから例のGEのジャック・ウェルチは「リーダーというのは偉大なるコミュニケーターたれ」と言っています。いかにコミュニケーションが大事かということです。
 コミュニケーションが良いと、1人1人の能力を外に向けて発揮することができるのではないか。コミュニケーションが悪いと内部でエネルギーロスしてしまいます。例えば電力会社の送電が電線の途中でどれぐらいエネルギーロスするのか存じませんが、何パーセントかなくなっていくわけです。多分人の世界における組織はそれ以上のロスを起こしているのではないか。すなわち人のエネルギーを生産的なところに使っていないということです。
 みなさんご存知でしょうか。例えば業種違えても、お客様との接点でのフェイスタイム、対面での営業活動というのは平均して2割以下と言われています。戻ってきてからレポートだ、やれ会議だ、何だかんだ・・・。今日は技術者の方もおられるかもしれませんが、例えば技術の世界でも、純粋に技術に時間を割いているのは2割から3割で、やれ会議だ、やれ資料作成だ、やれ資料のまとめだ、検索だ、何だかんだ・・・。すなわち本当に創造的でない、本当の技術開発に振り向けていない時間が7割以上だと言われています。多分ほとんど共通しているのだと思います。
 すると自分の仕事全体の内の2割しか営業活動に使っていないということで今の業績だったら、4割にしたら倍になるということです。技術開発で言えば、今2割しか自分の時間帯の内のマンパワーを割いていないとしたら、4割割いたら何か倍の開発ができるという話になってきます。
 そのためには組織をどうやっていくか。これはたくさん話の内容がありますが、やはり重要なのはコミュニケーションであるということです。
 上下でどれだけコミュニケーションがとれているか、分かり合えているかというのをいろいろな企業にお邪魔して検証してみています。どういうことかと言うと、上司がどれだけ部下とコミュニケーションをとれているかは部下に聞いてみないと絶対に分からないということです。部下に聞いてみたときに、上司の人というのはほとんど顔が蒼ざめます。全然逆です。「私はこんなにコミュニケーションをとっている」、もしくは「これだけあなたたちを重要視している」、「怒鳴らないようにしている」、「人を大事にしている」と本人は言います。部下に言わせると「あの人は四六時中怒鳴っています」、「人をばかにしています」、「微笑んだことがありません」というもの出てくるわけです。これが普通です。
 結論から言ってどうしたら分かるかというと、検証するしかないということです。私はいろいろな企業に行ったときに、去年もお配りしたかと思いますが、コミュニケーション診断シートというものを部下に配って上司を評価してもらっています。
 もう一つ申し上げておくと、これは重要なメッセージなのですが、コミュニケーションという観点で考え、組織の上下関係で言った場合に、組織のコミュニケーションを良くする最良の策は何かというと上の人が聴くことです。しゃべらないことです。
 これが極めて難しいということもよく分かりました。しゃべり慣れてしまっているのです。聴くことがいかに大事かという研修をやると、大手の企業の役員のみなさんも、ほとんど「いや、大久保さん、私は聴いていなかった。聴くということがいかに大事かよく分かった。現場に戻ってこれから部門で聴くよ」と言うわけです。毎月私はお邪魔するのですが、「その後、聴けましたか?」と聞くと、これが聴けていないのです。いろいろ聞いているとこうです。部下を集めて、「今まで私は間違っていた。いつも話ばかりしていた。今日はみんなの話を聴きたい。そもそも聴くということはこのぐらい大事なのだ」とずっとしゃべってしまうらしいのです。それで「あと5分しかない。何か聴かなければ・・・。何かないか?」これがほとんどです。慣性の法則というのがあるのです。すなわち部下を前にしたらしゃべる癖がついてしまっているのです。
 マンガで書くとこういうことです。偉くなるほど耳が小さくなるということです。ついているうちはまだ救いがある。そのうち耳がボロッと落ちます。落ちるだけならいいのですが、そこに口がつくのです。口3つです。うっかりすると後ろにもついています。どこからアプローチしてもしゃべるというわけです。これを「化け物」と言います。みなさんの所でそういう方はいませんか? 上司を思い浮かべると、「当たっているな、あれは化け物か」という感じがするでしょう。
 鏡で見ていないので自分が化け物になっているのが分からないのです。そういう方には神様が創られた、基本のところの耳2つ、口1つ、もしくは奈良や京都の仏像をご覧になったらいいのではないかと思うのです。共通しているのはみんな口が小さくて耳が大きいのです。口ばかり大きいのは悪魔というか阿修羅なのです。だから良くないのです。そういう意味ではやはり聴く。これをやったらいいのです。
 すなわち聴くというのはこの字を書きます。心のある方です。「聴く」。心を傾けて聴くということです。これをやっていくと実はコミュニケーションというのは非常に良くなっていきます。ですからコミュニケーションを良くする最良の策は、1つ申し上げれば上の方が良き耳になるということです。
 こういう話をしていたら、さっき申し上げたゴーンさんもジャック・ウェルチさんも全く同じことを言っておられます。そして古くは松下幸之助さんも、上司は部下の話を聴くことだと言っています。
 ところがさっき申し上げたようになかなか聴けないといいます。この間も研修をやった後で、「部下から話を聴きたいので何か言ってくれと言ったのですが、誰もしゃべってくれない。あの沈黙の時間が耐えられなくてまたしゃべってしまった」というわけです。どうしたら部下の話を聴けるかと言うので、「簡単です。あなたがずっとしゃべらないことです」と申し上げたのですが、これが難しいようです。
 あともう1つ、簡単なハウツーであれば、「○○さん、どうですか?」と当てることなのです。ここら辺をちょっとうまくやっていくと、人はどんどん話をしてくれると思います。
 それと同時にさっき申し上げた上下のギャップということですが、この間こういうことがありました。これもある大手の企業、グローバルカンパニーです。いかに聴くことが大事かという研修をやったら、取締役が「聴いてなかった」と。上級幹部だけ集めてセッションをやるのですが、3ヶ月後にお邪魔して、コの字でそこに座っている方に「その後どれぐらいされましたか?」と聴いたら「大久保さん、私はこんなに努力して話を聴いた」というわけです。3つぐらい力説されました。ここまで私は努力しましたというわけです。「素晴らしい。それでは部下がいるのでちょっと検証してみましょう。」本人も「はい、お願いします」と言ったわけです。

 ここから問題です。よろしいですか? 「また例のパターンだろう。」そういうことを考えてはいけません。集まっていたのは10何人ですが、パーセンテージでいきたいと思います。
 確かに良くなったと思う人が80パーセント以上だと思う方? 挙手をお願いします。ゼロ? さっきのがちょっと効いていますね。自信を持って3つ言っていたのです。
 30~80パーセントぐらいはいるだろうと。はい10人ぐらいですね。
 30パーセント以下だと思う人? はい、正解です。
 では何パーセントかということですが、どなたか一言、ボーンと大声で言ってみてください。はい、いかがでしょう? 何パーセントかポーンと言ってみてください。10パーセントぐらい? お隣の方、いかがですか? 15パーセント? ちょっと細かくなってきました。今度は18パーセントぐらいとか? 3パーセントぐらい? 10数人で3パーセントというとゼロということですね。正解です。ゼロだったのです。
 実は80パーセントというのがありました。変わらないというのが8割だったのです。すると残りの2割は何だという話です。私も「え?」と思いました。というのはしゃべる人がすごい自信を持って、部下を目の前にして俺はこんなに努力したというのに、8割が変わらないというところに挙げたのです。そして良くなったという人はゼロだったのです。そうすると残りの2割は何となく聞くのも恐ろしいのですが、「悪くなったと思う方?」と聞いたら手を挙げました。
 ここから何が学べるか。私は訳が分からないまま、第一声「素晴らしい」と言いました。その後で理由を考えたのですが、上司が一所懸命やって自身を持ってしゃべった挙句に、部下がその目の前で墨を塗っているようなものですから雰囲気が良くありません。いかにギャップがあるか。すなわち自分が一所懸命やっているつもりでも、相手から見たら全然良くなっていないというか、悪くなったというわけです。これは勉強になりました。
 それと同時にこの組織は良くなるなと思ったのは、ボスが目の前にいて努力したと言っているのに、「あんた、努力していないよ」と言える本音の文化が育ったということだからです。だから良くなると言ったのです。結論。見事に良くなりました。業績を上げていきました。
 ビデオを撮っているので申し上げにくいのですが、コミュニケーションという観点で、その会社のその組織では初めて商品開発がターゲットデート、目標どおりにできたそうです。なぜできたと思いますか? 
 1つはカスタマーインボルムメントです。すなわち商品開発で初めて事前にお客様に直接聴きに行ったのです。ですからカスタマーインボルムメントということで、商品開発の初期の段階と途中の段階で、良いかどうかお客様に検証してもらいました。
 また、開発と生産と販売の人、まとめて10数人でいろいろな場をもってセッションをやっていくのですが、全然コミュニケーションがとれていなかったのです。もうギャップなんてものではありません。別という感じです。別というのはギャップとは言いません。何もないということです。その生産と販売と開発のコミュニケーションがものすごく良くなった。結果として初めて予定どおり、かつ素晴らしい商品が出来上がったとものすごく感謝されました。これもやはり組織のコミュニケーションなのです。
 多分みなさんの中には、「何とか売上げを上げたいんだ」という思いの方が多いと思います。そして販売促進会議をやります。しかし販売促進会議をやっていて売上げが上がる企業というのはほとんどないのです。それでもやるのです。だから気休めのためにやっているのかなという感じがなきにしもあらずですが・・・。やらない方がいいのです。それよりも組織のコミュニケーションを良くしていくということです。
 具体的な参考になる話をちょっとします。別の企業で、とにかく会議の質が低いのです。会議というのはメンバーがいっぱい出ていて、やはりすごい経費をかけているわけです。だから会議の質を上げなければいけない。ところが日本の会議というのはともかく反対意見が出ません。まして偉い人が一言発言すると、ほとんどそれに流されてしまう。たいして議論していないわけです。
 「このようにされたらどうですか?」と言ったら、その会社でやりました。発泡スチロールで厚さ1センチぐらいの看板を作られたのです。私が申し上げたことをそのまま書いてあるのです。「本音で話す」と書いてある。今まで建て前でやっていたわけです。それから「反対意見を尊重する」、「簡潔に話す」などいろいろあって、5番「後で恨まない」、これがキーワードなのです。別の言葉で出ていました。「会議室を出たらさわやかに」という表現でした。会議をやる前にこの5項目をみんなで確認し合うのだそうです。ここはTQCをやっていたせいかちゃんと検証する癖がついているので、会議が終った時にこれができたかどうかをチェックするのです。
 これを全会議室に置いたのだそうです。どうなったと思いますか? たったこれだけのことで会議の質が一変したそうです。すなわち、今日反対意見が出たかと最後に検証するわけですから、反対意見をどんどん言おうと。そして最後にまた「後でグチグチ言わない」とやるわけです。たったこれだけのことで激変している企業があります。
 これは何だと思いますか? コミュニケーションです。本音のコミュニケーションです。こういう本音のコミュニケーションをやっていくと、やはり業績というのはどんどん上がっていくということです。
それから1つ良いサンプルがあるのでご紹介したいと思います。ある企業にお邪魔しているのですが、そこでは会議がものすごく多いのです。会議の質どころではありません。会議が多い。会議をやっている最中に、「悪い、次の会議があるから・・・」と転々として、結局何をやっているかよく分からない人がいっぱいいるというわけです。
 ちょっとヒアリングさせてもらいました。ヒアリングの内容はすごく簡単で、「出ている会議というのは価値がありますか?」と聞いたら、すごいです。全員が何と言ったと思いますか?「ほとんど意味がない」と言うのです。「やめたらどうですか?」と聞いたら、「それが大久保さん、やめられないのですよ。そんなに簡単なものではありません」と言うわけです。
 上場企業ですが、「私が業革本部長をやります」と社長に言いました。「やってくれるのか?」「やります。とにかく会議を減らしたり、権限委譲をしたり、基本的なところを根底から変えます」と申し上げました。
その企業は素晴らしいです。4年前にあるコンサルタント会社を入れて、膨大なチームメンバーで何回も合宿して業務改革プロジェクトというのをやり、すごいアウトプットがあるのです。それを見せてもらいました。「いや、すごいですね。これは随分お金をかけましたね。ところで、この中の何かをやりましたか?」と聞いたのです。1つもやっていないというわけです。多分やらないのです。どうしてそうなるかというと、そういうプロジェクトの特徴は業務改革プロジェクトの案を作るのが仕事になってしまうのです。やるのは別の人、誰もいないというわけです。
 私はどうしたかというと、「業務改革プロジェクトの責任者をやらせてもらいます」と言いました。「大久保さん、どのぐらいでやるんだ?」「はい、3ヶ月でやります」と言ったのです。「1年ぐらいかけてやるんじゃないのか?」「いや、1年かけること自身が改革の対象になります。ここはひとつ3ヶ月でやりましょう」と。
結論!すごかったです。激変しました。これはちょっとしたハウツーで参考になると思います。特に大会社の方、本日お見えのH系大会社の方々、参考になると思います。
 60の会議を向こうの専務にリストアップしてもらいました。そんなに時間はかかりません。数時間です。どうしても必要だと思うものに○をつけてくれ。あとは△、×でいいと。すると○が23個しかなかったのです。どうしたかというと、「23を残して他の会議はやめましょう」と言っただけです。そのように申し上げた時の質問はすごく簡単です。「どうやってやめるのですか?」「はい、ただ1つ、やめるしかありません。」これがポイントなのです。
 それでどうしたと思いますか? やめたのです。3時間で意思決定し、常務会まで通しました。一気に23個です。中間管理者は何と言っていると思いますか? 「最近仕事ができるようになった。」前は偉い人が会議に出ると、偉い人が説明するこの1枚のために、下にこんなに作業量があるわけです。この作業量が意味ない。この作業量をなくすのだったらこの1枚をなくす。この1枚をなくすには会議をなくせばいい。極めてシンプルな発想なのです。
 もう1つ申し上げたのは、「こういうのをやめると言ったときに、必ず結果的になくしたらまずかった会議が出てくることもあるだろう。そうすると偏差値の高い人は必ず言うのです。『ろくな検討もしないでやるからそうなるんだ。』こういう人間が必ず出ます。そうしたらこういう人間に言ってください。『あなたみたいな人がいるから組織は良くならないのだ』と。結果論で言うなら誰でもできるのです。×をたくさんなくしたというトータルの効果を全然見ずに、重箱の隅をつついて、『ここの1つが良くないじゃないか。検討が不充分だ。』そんなことは誰でも言える。」役員会でこれを徹底して言いました。「結果論でグチグチ言うな。言っても変わらない。会社を辞めてくれ」といったことを私は申し上げました。私には何も権限がないでしょう。ところがすごい迫力で言うと本当に辞めさせられそうな雰囲気になるようです。
 事実、「活発な討議を行えない会議はやめてしまえ」「反対意見が出ないところはやめてしまえ」「反対意見が出た後でグチグチ言う人間は、もうこの組織にはいらない。そういう人間は経営者層から去ってくれ」と。はっきり言うというのは大事です。
 組織の中の人では言いにくいと思います。一部長が出てきて、「グチグチ言う役員はやめたまえ」なんて言ったら「お前がやめろ」となってしまいますから、これはちょっと難しいと思います。私はそれに近いことを会社の中ではやりましたが、あまりお勧めできません。ちょっとリスクがあります。「お前の言うとおりやったら、俺は職がなくなった」と言われたって困るのです。『嫌なら会社を辞めろ』という本を読んで、嫌だから辞めたけれど職がないと言ってクレームを言ったという人がいますが、それは困るわけです。
 本気になってやればできると同時に、今申し上げたように、60を23にするのは前からやりたいと思っていたのです。私のアドバイスはただ1つ。やりたいと思うことはやってください。不都合があったらまたその時考えてください。
 ところが60を23にするために、普通だとまた膨大な資料を作るわけですが、3時間で充分です。That’s allです。物事はやるかやらないかなのです。いろいろ言っていますが、グチグチ言っている人はやはりやりたくないと言っているだけなのです。この辺の発想というのは変えていかなければならないし、このぐらいのスピードと意思決定と腹でやっていかないと、やはり残る経営にはならないのではないかという感じがします。

<人材を育てているか>
 やはり経営として組織体を残していくためには、当然のことながら人がカギになります。みなさんの企業は人材を育てていますでしょうか? 
これまたいろいろな企業をアドバイスさせていただいてよく分かったのは、多くの企業は何と人が育たないように努力しているということを発見しました。これは意図的ではありません。意図的ではないからできるのです。人が育たないように、育たないように努力した結果、何と言っているかというと、「うちは人が育たないんだよね」と言っているのです。簡単に言うと抑えてるのです。それでなぜ出てこないのだと言っているのです。「いや、あんたがいるからだよ」という話です。
 そういう意味では今の松下の中村社長が言われているように、もう45歳以上は全部会社を辞めるといったら人は育つのでしょう。では45歳以上の人は会社を辞めるかといったら辞めません。
 前にもお話ししたかと思いますが、IBMの最高顧問というなかなか難しい肩書きをつけた椎名さんの講演を聴いてなるほどなと思いました。確か生産性本部の講演だったと思います。「日本をよくするのは簡単です。」ちょっとダミ声なのです。「60歳以上の人はいろいろな役職から全部手を引けばいいのです。ただし、私はやめたくないので、やはり難しいですな」とか言っているのです。結局はできないという話をされていました。60歳以上は辞めたらいいというところで、私は思わず1人で拍手をしました。ジロッと睨まれましたが・・・。その中で変革していかなければならないというから、本当に今の日本というのは大変なのです。
この、人を育てる、特に常と異なる異能を育てることが大事です。そのためにはどうするかというと、これもいろいろな企業で実践していって、なるほどなと最近結構確信を持ってきました。実際やってみて成果がどんどん出てくるものですから、こうやればいいのだなというのが机上の論ではなく、いろいろな所で検証させてもらえるのでありがたいのです。
 前回お話ししたと思いますが、基本的に人は言われたことはやりたくないのです。自分で考えたことをやりたいのです。説得と納得というのがありますが、いろいろ話を聞かせるというのは説得なのです。やはり人は納得させないとだめなのです。納得させると自らの行動になるでしょう。多くの人は説得しているのです。これはだめです。
 納得してもらうにはどうしたらいいかというと、こういうステップが必要なのです。まず本人に考えさせることなのです。それから発言、発表させることです。そして行動、実践ということです。最近このステップが要るということを確信を持ちました。ところが、「もうお前は考えなくてもいい。いいからやれ!」この2ステップがないのです。行動だけ。
 かつて、今回日本経営品質賞を受賞したダスキンのフランチャイズの武蔵野という会社がそうでした。あそこの小山社長がおっしゃっていました。確か岡本さんのことですが、あるコンサルタントが来て何と言ったか。「おたくの会社は社員全員の頭が筋肉でできている。」すなわち全然考えないということです。小山社長自身も、「頭は私1人でいい。あとは言われたとおりやればいい」という発想だったのです。ところが経営品質に出会って発想を変えていくうちにどうなったかというと、実は本当に1人1人は自ら考えて行動するようになっていくわけです。そして受賞されたわけです。
 これはまさに考えさせ、発表させ、行動させる。このステップなのです。ところが多くはこのステップを通らないで、例えば会議でも、日本の場合は会議と称して情報伝達会というのが多いわけです。上の人が情報を伝達するだけで、あれは会議とは言いません。情報伝達会と言ったほうが良いのです。ワーッとしゃべって、「分かったか?」そんな時、誰も分からんなんて言いません。「分かったな。それではしっかりやれよ。」これではほとんど何の確認もしていないに等しいのです。
 結論からするとどうなるかというと、そのとおり動きません。当たり前です。どうやったらいいと思いますか? 今いろいろな企業でアドバイスしているのは、双方向でやれということです。例えば1時間の会議帯があったら、ボスがしゃべるのは10分にしろ。残りの50分、双方向でやることです。そしたら浸透度合いというのは全く変わってくるのです。ところが一方的にしゃべる。一方的にしゃべられた時の聞き手はどうなるかというと、ただひとつ、早く終らないかしか考えません。これはもう世の常なのです。ですから双方向でやるということがものすごく大事なのです。これがまたもうひとつ上の項目のコミュニケーション、これにインパクトを与えます。
 徹底するというのはリーダーシップの点でも大事なのです。リッツ・カールトンホテルというCSで有名な企業があります。リッツ・カールトンホテルにはクレドという行動指針があって、20項目あります。結構多いです。あそこのクオリティ担当の桧垣真理子さんにお話を伺って、なるほどと非常に参考になったのは、リッツ・カールトンホテルというのはワールドワイドにありますが、今日のベーシックは何番というと、ワールドワイドに決まっているのだそうです。しかしそれを唱和することはしないというのです。
 どうするのだと思いますか? 今日のクレドは№1です。例えば自らの足で立っているかというのが№1だとします。「あなたはこの観点でどう思いますか? 今日何をしますか? 何を考えますか?」全部これなのです。20個終るとまた1番目に戻っていく。すなわち唱和するとか一方的に教えるというのではなく、常に自ら考えさせているのです。これは非常に素晴らしいハウツーだと思いました。だから徹底させるためには、是非考えさせる。双方向でやる。これがものすごく大事ではないか。
 それと同時に、やはり人を育てるという意味では叱るというのも大事になります。例えば叱る時に感情的になって叱ってはいけないとか、人の前ではやってはいけないなどのグランドルールというのがありますが、かの有名な松下幸之助さんというのはそれを全部外れていたという話です。もうカーッなって2時間でも3時間でも吹き飛ばすぐらいどやし続けたといいます。ところが相手がなぜ育ったか。なるほどなと思ったのは、基本において尊敬されているとか信頼関係があるときはドーンとやっても大丈夫なのです。
 この間もあるセミナーで、「やはりガーンと叱るのは素晴らしいことです」と言いました。これが営業の支店長ばかりを集めてやったので、我が意を得たりと頷いたわけです。「ただし前提として信頼されていることです」と言ったら、みんな下を向いてしまいました。信頼なくしてガーンとやったら反発しか生まれません。そういう意味では、人を育てるという観点でもやはり大事なことは、常日頃の人と人との信頼関係です。
そして上司に要求される能力というのは何かというと、共感能力です。共感できるかどうかというのはものすごく大事です。共に感ずることができる。コーチングの基本でもあります。「なるほど」「それで」「そう」「大変ね」というやつです。
 共感能力がないというのはこういう場合です。「どうしてこんな問題、こんなにでっかくなるまで放っておいたのだ! 何を考えていたのだ!」簡単です。「あなたに言うと叱られそうだったので・・・。」これだけの話です。でもサラリーマンの世界で、あなたに怒られそうだったから報告しませんでしたとは言えませんから「すいません」と言います。しかしこれはどういう意味で言っていたかというと、ただ1つ、「まずいことになったな」と思ってすいませんと言っていただけで、普通は反省なんかしません。
 上の人が下の人とどれだけ共感できるか。企業としてのお客様に対する共感能力も、ものすごく大事なポイントだと思います。どこまで共感できるかということが非常に大事なポイントではないか。これが人を育てるという観点での1つのポイントになるのではないかと思います。

<「8つの基準」を活用しているか>
 次に「『8つの基準』を活用しているか」と見出しに書いてあります。みなさん、いかがでしょうか? この8つの基準というのは使わないと意味がないということです。使った人というのはやはり成果を上げています。
 実は栃木県と岩手県の判定委員長を仰せつかってやらせていただいています。例えば栃木県で受賞した企業の経営トップの方々のお話を伺ってなるほどなと思ったのは、「今までいろいろやっているので、これ以上もう結構です」と言っていたのが、「実際やってみたら気付きの連続だった」ということを言われています。「今まで社是社訓、標語でちゃんと書いてあるので自分はやっていると思っていた。基本方針を出していた。これを考えながら仕事をしているものだと思っていたけれど、よくよく検証してみたら何もやっていなかったことに気が付きました。社員は自分の出した方針をきっと分かってくれていると思い込んでいた。何も分かりませんでした。」ということです。
 そしてある企業では、やはりCS、ES、いわゆるカスタマーサティスファクションとか、社員満足とかビジネスパートナーの満足といったことが1日のなかで何回も話に出るようになったということがありました。
またある企業で面白かったのは、社長になった途端、前任の社長から言われたのは、5センチのバインダーを渡され「とにかくアセスメントの研修会に出ろ。」これだけしか引継ぎ事項がなかったという恐ろしい会社があるのです。考えようによってはベストかもしれません。周りの上級幹部は全部アセスメントコースに出ているというので、「ともかくお前は社長に就任だ。ついてはこれだ。やれ。」と渡されたのが5センチのバインダーで、「アセスメントコースに出ろ。」もう考える暇がなかった。何か訳が分からないままアセスメントコースに出ました。ものすごく勉強になりました。こうおっしゃっていました。
 それからある社長はこうおっしゃっていました。なるほどなと思ったのは、誰もこの世界で経営の仕方を教えてくれる人はいませんというわけです。経営のパートパートについてはいろいろなアドバイス、提言というのはくれるのですが、経営全般についてはないというのです。経営品質に出会って実践することによって、経営というのが何をポイントにしなければならないかが分かったというわけです。これもやはり素晴らしいことです。
 ですから8つの基準ということはそのぐらい素晴らしいものなのだということです。

<組織プロフィールを整理したか>
 最初に組織プロフィールというのを整理します。これは自分のおかれたビジネス環境、ビジネス領域というのを明確にする。顧客区分を明確にする。その中でいろいろなことを整理しながら、自社の強みは何なのかということを整理した上で、自分たちの事業計画を作っていくわけですが、その最初の段階がこの組織プロフィールを整理するということなのです。
 これもある会社で、1.5日の研修をずっとやらせていただいてすごく嬉しかったのは、「大久保さん、うちの部長クラスは発想が変わった。年度計画を立てるときに、従来は自分たちで勝手に単に売上げ目標を立てていた。ところが自分たちの環境はどうなっているか、市場はどうなっているか、お客様はどう変化しているのか、その中で自分たちの持っている組織の強みは何なのか、よってもって今年はこういうことをやっていこうということを全体で考えるようになった」と言っていました。これは素晴らしいことです。
 組織プロフィールの整理ということは、別の観点で見ると最高の教育になると思います。ですから今日参加された方は、今は分からなくても結構です。「そうか、組織プロフィールを整理したらいいのか」とシンプルに思っていただいたらそれでいいのです。そしてやっていただくということです。やらないとだめです。
ここでちょっと猿の話を思い出しました。何年か前にテレビでやっていたのですが、どこかの島の子猿が芋を海水で洗って食べるのです。ご覧になった方、いらっしゃいますか? 不思議なのは、島の猿なのに、しばらく経ったら日本中の海辺の猿は芋を海水で洗って食べていたという話です。ここにすごく勉強になる話があります。芋を海水で洗って食べた猿は子猿なのです。その次に真似したのがメス猿なのです。そして最後まで馬鹿にして洗わなかったのが中高年のオス猿だそうです。これは人間のことだなと思いました。すなわち最後まで塩味の芋を味わうことなく亡くなっていく猿です。
 すなわちやらない。従来の発想の延長上そのまま。芋はそのまま食べる物だ。「美味しいですよ。」「うるさい!」これです。間違ってもそういう猿にはなっていただきたくない。いやいや、皆さんは猿ではないですが・・・。ですから良いと思ったことはやらなければだめだということです。

<「8つの基準」の効果的な活用方法を理解しているか>
 8つの基準の効果的な活用方法を理解しているか。かんき出版から出ている『経営の質を高める8つの基準』という本を今年また大幅に改訂させてもらいました。ただ事前に審査基準がどう変わるかの詳細が入手できなかったので、ちょっと一部違ったところもあるのですが、パート4に簡単かつ効果的なアセスメントの実施方法というのが書いてあります。パート4のやり方を是非そのままやってみてください。この本は何と書いてあるかというと、パート4には、「パート1から勝手にコピーして使え」と書いてあるので珍しい本なのです。どんどんコピーして使ってください、自由で結構ですと。出版社はあまり良い顔をしなかったのですが、構わないでしょうということでそのようになっています。
 大事なのはこの効果的な活用方法で、組織内でこの8つの基準の切り口から討議していくということがいかに価値あるかということを最近痛感しています。
 それと同時に、みんなでマネージメントレベルが集まって討議したときに、いかに普段コミュニケーションがとれていないか、全く別のことを考えているかということがよく分かります。ですから情報の共有化、価値観の共有化、思いの共有化等々、いろいろなことができると同時に、8つの基準で見ていくことによって、自分たちの経営の仕組み、事業部なら事業部仕組みそのものの足らない点というものも明確になります。
 そしてこの審査基準の素晴らしいのは、具体的にああせい、こうせいと一切言わないことです。全部気付きなのです。自分の気付いたことというのは言い訳できないのです。人から言われると何となく嫌ではないですか。しかし全部自分で気付いてくださいというのです。その後どうするのですかというと、全部考えてやってくださいと全部自立なのです。そういう意味では、冒頭申し上げた、これからは自立の時代だということにぴったりの基準だということになります。やはり自ら考えて自ら行動してくださいということなのです。
この取り組み状況が最近広がりをもってきました。何かというと、病院や自治体などからの依頼がものすごく多いのです。
 先々週も岩手県に行きました。ご承知のようにJQAを県として取り組んでいるのは岩手県や三重県、高知県です。岩手県も増田知事がすごく熱心で、1.5日の研修をやって、どうでこうでこういうふうにやらないとだめですよと申しあげたら、やろうということになって知事自ら出てこられたのです。知事、副知事、出納長、部局長ばかり集めて合宿研修をやったのですが、そういうことは初めてだと言っていました。そして8つの基準の考え方や本質のところで学び合うという1.5日の研修をやったのですが、ものすごく素晴らしい内容でした。それ以外にもどんどんやってくれと言われ、ちょっと自分の日程が厳しいのですが、要は県がそういう取り組みをやっているのです。
 岩手県の盛岡から車で30分ぐらいの所に滝沢村(小泉首相がタウンミーティングを実施した村)というところがあります。人口5万人の日本でいちばん大きな村で、ISOを取っている村です。そして何とJQAに取り組んでいる。村長は変人と言われています。今変人というのは素晴らしい時代ですね。その変人と言われている村長がJQAに取り組んでいて、どうしても来てくれというのでお邪魔させていただいたのです。合宿の後だったので疲れがあり、あまり行きたくなかったのですが、行ってみて私の方が勉強になりました。どういうことかというと、村役場の職員の方たちの、行政の質を高めていこう、村民のために喜んでもらおうという思いの深さです。これに感銘を受けました。20歳代、30歳代の職員の方、素晴らしい方がいらっしゃるのです。
 その後戻ってきてから、東京の大きなガス会社と言ったら1つしかないかもしれませんが、そのガス会社に呼ばれました。ここにはCS委員会というのがあるのです。副社長が委員長で、役員と部長18人ぐらいで2、3ヶ月に1回やっているのだそうです。そこで1回アドバイスしてくれないかというので、「いいですが何回も行けませんよ、1回だけですよ」ということで行ったら、安西会長以下上から200人ぐらい出てこられて、大変真剣に聴いていただきました。大阪ガスというのは昔から熱心なのですが、東京ガスが真剣になり出したのです。ガス会社ですよ。ガスです。
 それ以外に、医療の方で6月末にすごいところの呼ばれてお邪魔させていただくのです。東北6県の看護部長が集まった席で指導してほしいというのです。看護婦の部長さんばかりです。最初20~30人と聞いていたら、募ったら全部で147人になりましたと大分話が違ってきてしまったのですが・・・。147人の看護部長を前に何をしゃべったらいいのかなとちょっと悩むところもあるのですが、なぜ呼ばれたかというと、ある看護部長さんがこの本を読まれたのだそうです。理由は簡単で、意外と看護部長さんが病院の経営というのを真剣に考えていたのです。
 病院もこれから経営という観点で見ていかなければならないわけです。冒頭申し上げたように、平成16年に国立病院も独立法人化します。ほとんど生きていけなくなる可能性があるわけです。その中で生きていくということで経営という観点、そして患者中心という観点で医療を変えていかなければ生き残れないのです。その2つをドッキングしてやっていくための良い手引書があったというわけです。
「よくこんな本を読まれましたね」と言うと、「主人が住友3Mに勤めていて、病院経営の苦しさを言ったら、この本を読んでごらんと渡された」というわけです。看護婦さんがこの本を読んで勉強している。感銘を受けました。企業でさえろくにやっていないのに、看護婦さんたちがやっているというわけです。ついては「ここまで勉強しました。一度直接ご指導いただけないか」と。実はそれ以外にも医療の世界からいっぱいご要望をいただいています。
 何を申し上げたかったか。教育関係でも実際やっていますが、自治体でしょう、医療でしょう、ガス会社でしょう、CSの視点がゼロだった世界です。その人たちが今真剣に相手を中心に据えて、自分たちの仕事のやり方を根底から見直そうという動きになってきているということです。そのぐらい変わりつつあるのです。そうしたら、ましてや普通の企業はどうかということです。これは負けてはいられないのではないでしょうか。
ですから今日戻られて明日以降、講演した人の話の論評をしてもほとんど意味はありません。「いや、今回の講師は面白かったな」とか、「前回より冗談が少なかったな」とか、そんなことを言っても何の意味もありません。それより大事なのは何をやるかなのです。これをやらないと意味はありません。みなさんが講師の論評をして評点をつけるために私が来たのならば論評すればいい。でも何かを学びに来られたのでしょう。学ぶというのは手段でしょう。何かを実践して成果を出すための何かのヒントを掴みに来られたのでしょう。それが目的でしょう。だったら、1つか2つ掴んで、明日からやるということです。これを是非行動に移していただきたいということです。
 冒頭お約束したとおりちょうど16時になりましたので、今から15分休憩をとります。とりあえず一方的に話は終らせていただきます。どうもありがとうございました。

<質疑応答>
 それでは質問のある方、挙手をお願いします。なるべく簡潔にご質問いただきたいと思います。3つ、4つ連続で質問されると、最後のしか頭に残りませんので、1つずつ区切っていただいて、とりあえず1人最高で2つぐらい、もしなくなればまた3つめ続けていただくという格好で進めたいと思います。それではご質問のある方、どなたでもどうぞ。

【質問】
本日はありがとうございました。今お話しいただきましたような会社の文化の根本的な改革と実行について質問します。それと国際会計基準の方で売上げ、利益など、経営品質で言う成果がものすごく重視されるようになっているわけです。とにかく3ヶ月で数字を揃えなければいけないというような状況で、どうやって経営品質的な考えを推し進めたら良いかというバランスについてお聞きしたいと思います。

【大久保】
 確かに日本は今まで年1回だったのが最近四半期単位ということで、その分慌しくなっているのかもしれませんが。その数字とこういうことを進めることをどうバランスとっていくかということなのですが、基本から言うと、そこの考え方がそもそもちょっと違うのです。
 経営品質の考え方は、仕事のやり方を変えていくことで成果に結びつけることなのです。だからこれをちゃんとやっていくことが成果に結びつくことで、仕事とそれ以外というように発想すると、今のような感覚になってくるのです。だから本当に良い仕事のやり方をしているのだろうか。まずいことはないのだろうか。その切り口をいろいろあてて見ていく。その見方、考え方を提供してくれるわけです。
 今、私はいくつかの企業と契約して毎月お邪魔させていただいています。大きな会社だと全部見られないので、いくつかの事業部だけということになるのですが、幸いというか運が良かったというか、自分がお手伝いしている全ての会社で、自分がアドバイスした事業部だけは全部業績が前年比で向上しているのです。もっとも、これはたまたまだったのかもしれませんが。また良いところが要望してくるのかもしれませんが、ともかく現実にはそうなっているのです。さっき申し上げた、全然聴いていなかったところもコミュニケーションが良くなって業績が上がったというのもそうですし、経営品質の考え方で仕事を進めていくということは、絶対に業績が上がるというのはものすごく確信を持っています。それは大中小の企業サイズは一切関係ありません。小さければ小さいほど早く効果も出ます。なぜかというとすごく簡単で、顧客視点で経営が行われていないのです。簡単に言うと経営をやっていないのです。ちょっと難しいセリフになりますが・・・。
 顧客視点で価値を届けるという経営をやっていったら、絶対に業績というのは上がるのです。それをどうやっていいか分からない。その考え方や見る視点をたくさん提供しているのがアセスメント基準なのです。それを使えばいいということです。
 ただし道具です。道具というのは使い方があります。火でも使い方をうまくやれば美味しい物を食べられますが、間違ってしまえば火事になりますし、包丁だって美味い刺身を作れるのに、ついでに指を切ってしまえばえらいことになります。だから道具というのは使い方があるのです。これはちょっと考える必要があります。あくまでも道具は道具であって、手段であって目的ではない。最後は美味い料理を食べるためなのだということです。
 そのいちばん簡単な効果的な使い方というのが実際に実績を上げた方法だったので、この本のパート4に書かせてもらったわけです。こうやったら結構簡単に効果につながります。別に趣味でやっているわけではないでしょう。効果を出したいのでしょう。
 「CSと業績、どちらかにしてもらえませんか」というのがよくあるのですが、そうではないのです。結果として業績というのは出てくるのです。別にピーター・ドラッガーが言うでもなく、業績というのは結果として見るべきで、目標に据えるのは悪いとは言いませんが、やはり結果なのです。だからその前のプロセスを良くしていく。そのためにはこれをやっていく。
 現実にやっていくとなるとなぜそうなるか。いろいろな手法を導入するときにうまくいかないということと、経営以外、仕事以外でやっていく感じになって、結局全然ワークしない。そして効果的でないといろいろな火傷をしているがために、何かをやろうとするときに、「この忙しいのにそういうことはできません」というセリフになるのです。これはやはり違うのです。
 今やっていることは顧客視点でできていますか? お客さんの要望を把握していますか? どうやって把握していますか? その把握の方法は良いのですか? 把握した結果、お客さんの声を本当に商品、サービス、開発に反映していますか? そのつながりはどうなっていますか? いろいろな質問が出てきます。これを見ていくことでしょう。見ていったら良くなるに決まっているではないですか。だからそれをやってくださいということなのです。
 それから前の質問はもっと難しいです。基本的な企業風土・文化を変えるにはどうしたらいいか。結論から言うとめちゃくちゃ難しい。これが回答になってしまうのですが、それではつまらいので・・・。難しいけれど変えられます。それは変えようと思った人がその情熱を持ち続けることです。
 それからよくご質問いただくのは、「うちの社長は売上げ一辺倒でお客様満足度なんてどうてもいいと裏で言っているのです。どうしたらいいのでしょうか?」これはいろいろな選択肢があります。その社長の思いを変えるか、社長を変えるか、自分が辞めるか。
 そういうケースでいちばん最良の策は、第3者を使うことです。会社の中で自分で説得しないことです。自分で説得すると「お前、いつからそんなに偉くなったのだ。いつから社長に意見するようになったのだ」と必ず言われます。大体そういう発言をする社長のクオリティは低いわけです。そういうクオリティの低い社長の会社に入った自分の運のなさを嘆いてもまたしょうがないわけです。どうすればいいかというと打開していかなければならない。
 それでは打開するにはどうしたらいいかというのを自分で無理にしない方がいいです。外の力をうまく使うこと。例えば水戸だったら鬼澤さんを上手く使うことです。あの人はJQAの鬼ですから・・・。だから鬼澤さんを上手く使って、「こんなに良いものですよ」と言ってもらうのもいいでしょう。また、私のビデオというのは100種類以上あります。全部ダビングフリーにしています。「どうぞ自由にお使いください、一切お金はいただきません。どうぞ」という格好でずっとやっています。たくさんあるので、そんなビデオを上手く使っていただいて、そういうのをきっかけにして進めていく。
 やはりトップの意識が変わっていかないと、文化・風土というのは変わりません。文化・風土の基本は何かというと、判断の軸なのです。すなわち何か異質なアイディアが出たとき、良しとするのか、そういうのはだめだよねとすぐ反射的に答えるのか。どこか行き詰まったときにどちらを選択するのかというのが1つの文化・風土の具体的な表れです。
 例えばIBMというのは確かにお互い全部「さん」づけでやっています。肩書きで呼ぶというのは非常に違和感があります。私自信も「先生」と言われるのに違和感がありますし、好きではありません。必ず名前で呼んでくださいとお願いしています。それはIBMさんだからできたのでしょうと言われますが、椎名さんという人が社長の時には、全員「イエス、サー」で肩書きで呼んでいた会社なのです。決して外資だからできたというわけではない。北城さんという人が社長に就任して変えていったのです。
 だからリーダーが本気になって変えていこうとしたときにできるということです。そのリーダーに本気がないときはどうするのか。これはもうしょうがありません。諦めるしかしょうがないかもしれません。こう言うと回答にならないのですが、時期を待つということでしょうか。ここら辺でちょっとよろしいですか?
 それでは次の方、お願いいたします。何か紙がいっぱい来ているのですが・・・。手を挙げては質問しにくいですか? その辺いませんか? 水戸の方は謙虚なのでしょうか。東京だとどんどん手が挙がるのですが・・・。
 それではちょっと読み上げましょうか。
【質問】
組織のコミュニケーションにおいて、上司の留意すべきポイントはよく分かりましたが、部下の留意点でいちばん大切なことは何ですか?

【大久保】
 これは上司とか部下に関係ありません。
 例えば上司が「良い情報は後でいい。とにかく嫌な情報を持って来い」と言う。嫌なことがあったときに、すぐ持って行って馬鹿と叱られた。全然話が違うじゃないかというのはよくある話です。これは何が足りないかというと、上司も人間だということです。バイオリズムというのがあるのです。読みというのが要るのです。
私の常識としては、サラリーマンの世界では部下というのは上司の1週間のタイムスケジュールが大体頭に入っていなければいけません。そうするとどうなるかというと、上司が何に注意しているかというのが分かるでしょう。すると前もってそろそろこういう2回目の要求が来るというのが読めるではないですか。それを全然読まないで突然言って来た。それは部下としての読みがないのです。
 だから何かというと、一言で申し上げれば部下は部下で上司の視点で物事を見ていくということです。そうすると何が大事かというのが分かってきます。何を求めているか、次にどう行動しなければいけないかというのが分かる。前もって読めるので前もってやれる。だから余裕があってクオリティも高くなっていきます。
 駄目な部下というのは言われた途端、バタバタバタと走る。右に走っているうちに「今度は左だ!」と言われ、「どうして右だ、左だとでたらめを言うのですか。」これはやはり部下のクオリティが低いのです。
 そういう意味ではいちばん留意すべきポイントは何かというと、上司も人間であるということ。それから上司の視点で物事を考えるということ。これをやると全然変わってきます。それ以外に細かいことを挙げればいっぱいありますが、そういうことだと思います。

次、ご質問ありませんでしょうか? ないですか?  
それではあと2人ありますので・・・。

【質問】
ともかく気付いてやる。このことが大切であることがよく分かりました。

【大久保】
 全くそのとおりです。しかしここまで書いてやるかというと、やはりなかなかやらないのです。これが難しいところです。この人は読み上げられたので多分やっていただけるのではないかと思いますが・・・。

【質問】
ところで、日本の昔からの不況時の経営手法として傘商法というものがあります。つまり景気の良いときは傘を広げ、景気の悪いときは傘をつぼめるという考え方があります。今の失われた10年という状況、傘をつぼめ、リスクを恐れて新しいことをあえてやらず、借入金の圧縮と遊休不動産の処分をしながら時代の環境が落ち着くのを待つという流通業の在り方、企業が永続し、のれんを守るために収益と費用のバランスが悪いデフレ経済下、何もしないという戦略を大久保さんはどのようにお考えですか? 経営品質のまな板にも乗らない考え方でしょうか。お教えください。

【大久保】
 この方は頭の良い方ですね。相当知識の豊富な方とお見受けしました。「収益と費用のバランスが悪いデフレ経済化、何もしないという戦略をどのようにお考えですか?」何もしないということは変化対応も何もしていないということですから、そのまま衰退していくのではないでしょうか。私の結論。全くまずい。
 何かするというときに、経費がかかることとかからないことがあるわけです。経費がかからない工夫で何かはできます。例えばお客さんの意見を聴く。もしお客さんが来られたら、今までただ売るだけだったのを、ついでに「ところでお客さん、どんなご意見をお持ちですか?」と聞く。これはお金をかけないでできます。どんなことだって、お金をかけないでできることはいっぱいあるではないですか。それを何もしないというのは、この場合は費用をということかもしれませんが、適切な観点である領域に投資というのは常にすべきでしょう。
 ご承知のように、伸びる企業というのは不況下、ある意味では投資効率が良いわけです。例えば不動産を買うのでも安くなっていますし、人を採用するのでも良い人が採れるし、本当に伸びる企業というのは不況下に伸びると言われています。不況下に縮まる企業というのはそれなりの企業だという話です。
 そういう意味では不況下に何もしないというのはまずいと思います。
 ある方がこういう話をしています。「この変革の時代に何もしないというような恐ろしいリスクテイクは私にはできない。」
 ただしやみくもに何かやればいいのかというと、変化が右に行っているのに、1人左に行ったらこれまただめです。そのために変化の流れる方向性、その中でどこを軸としてやっていくかというのを今ご紹介しました。そういう観点で考えて何かアクションをとられる。これは是非やられた方がいいのではないかと思います。

3つ目の質問です。
【質問】
弊社において事業本部として某コンサル会社にアセスメントを受け、フィードバック報告会を完了しました。現在、今後どのようにJQA活動を展開すべきか迷っております。つまり
(1) フィードバック報告に基づき、すぐアクションプランを作って、弱みである改善領域に取り組むべき。その中でCS文化の土壌を作るべきという意見
(2) これまでなぜ顧客を向いた事業をできなかったのか、なぜCS文化の情勢がなされなかったのか、根幹部分を徹底して議論してからアクションプランを作成すべき
という意見に分かれおり、今後どのようなアプローチをするべきか迷っております。

【大久保】
これは結構頭の良い企業ですね。頭の良い人というのはいろいろと屁理屈を言うのです、そして要はやらないのです。
 ちょっとみなさんに聞いてみましょう。フィードバックコメントを受けました。素直にそれをやるというのが1です。そもそもお客さんの方を向いていない。なぜなのだ。その基本をもっとディスカッションすべき、ここからスタートだ。これが2ということです。みなさんの評価はどうかということで、この場合は1が良いと思う方、挙手をお願いします。やはり2だと思う方? 
 私の回答。それでは両方やればいいではないか。どうして二者択一にするのか。やれることはやって、根幹のディスカッションもすればいいではないかと思います。いちばん良くないのは、どちらが先かとずっと討議していることです。世の中にはこれをやっている企業があるのです。そしてそれぞれに論陣を張っていくわけです。「よってもって1が先だ。」「いや、2が先だ。」その間何もやっていません。それより1やれ、2やれ。それが私の回答です。やればいいではないですか。やらない限り何も前進はないのです。そういうことです。3番目に1と2同時にやれば良いとあえて言わなかったのですが、これが私の回答です。
2の意見を言っている人は一見頭が良いのですが、このタイプの人というのは一般に実行に移す確率が少ないと言えます。すなわちいろいろ格好良いことを言うのです。「そもそも基本的な問題点をもっと洗い出してからやらないと・・・。要は詰めが甘いのではないか。もうちょっと詰めてから・・・。」私のあまり好きでない言葉に「それは時期尚早ではないか」というのがあります。要はやりたくないと言っているだけなのです。
 やればいいのです。よろしいですか? 物事はやるか、やらないかなのです。その軸で見ていったら、いろいろ言ってもやらない人は所詮やりたくないと言っているだけなのです。でもやりたくないとは言えないから「そもそも根本理由を追究して・・・」とか格好良い理由を並べるわけです。でも要はやらないのです。ただし冒頭申し上げたように、拙速であらぬ方向に行ってはいけません。
 でもフィードバックコメントをもらっているわけでしょう。これは迷っているよりすぐやった方がいいです。1年間やるかやらないか討議していても全然意味がありません。2年目にどうなるかというと、人が変わってまた討議が始まるという会社があるではないですか。ずっと討議して誰がいつやるのかというと、「さあ?」これは非常に愚かです。ですからやるということが良いのではないでしょうか。
はい、他にご質問ありますでしょうか? ないですか? 

<リーダーシップの基本は何か>
 一応5時までということでお約束いただいているので、実はさっきご説明していない項目が配布資料の裏にあるのです。リーダーシップの基本は何かということです。こんなこともあろうかと思って裏に書いておきました。読みが当たったような気がいたします。
 リーダーシップといったときに、経営者のリーダーシップというのは分かりやすいと思うのですが、これからいろいろな局面において職位・肩書き関係なくリーダーが必要なのです。リーダーというのは肩書きではないのです。役割なのです。
 どういう役割かというと、これは藤原直哉さんに教えていただいたのですが、リーダーシップというのは正確に言うと日本語に訳せないのだそうです。バラバラの混沌とした状態を秩序ある状態にたらしめるのがリーダーシップだということです。簡単に言えば、組織の中、もしくは組織外も含めていろいろな人がいるではないですか。それはいろいろな方向を向いている。それを1つの方向に向けて整列させること。これがリーダーシップだということです。そうすると、いろいろな仕事で局面局面に応じていろいろなリーダーが必要になるのだと思います。
 リーダーシップでいちばん大事なことをご紹介します。組織でも企業でも人でもいいですが、バラバラを向いている。これをちゃんと整列させて1つの方向に向けさせる。こう持っていくのがリーダーの役割だというわけです。
 どうしたらこれができるか。これはたった1つ、「思い」なのです。別の言葉で言うと理念ということにもなります。ですから企業というものを、何を中核に据えてその組織、メンバーを引っ張っていくのかというのかというと、たった1つしかないのです。経営理念なのです。実はこれが全てなのです。そして企業・組織体というのはこの経営理念を具現化するために存在している組織であり、人であるのです。ですからまず思いが中心にあるということです。
 またこの思いにはいろいろな思いがあります。高邁なる思いもありますが、単に欲という観点でまとまっているケースもあります。恐怖という観点でまとまっている組織もあります。これも1つの強い思いです。すなわち「逆らったらクビにするぞ。黙ってやれ。」これは恐怖心という強い思いで1つにまとめている。恐怖心でまとめたときに、自主性、創造性というのは出てくるか。これは当然出てきません。
ともかく金だ、欲だというので、欲の思いを中心に置いて1つの組織をまとめているときには、当然のことながら欲の摩擦が出てくるのでそのうち分解していく。欲を達成できないと思ったら分解するし、達成できた段階でもやめてしまいます。
 この思いをどこに持っていくか。社会に喜ばれる企業であってほしい、働いている社員の満足度が高く、伸び伸びと自分の能力を発揮できる組織体であってほしい、そして経営としても業績をちゃんと維持できる素晴らしい企業体であってほしい。このバランスのとれた組織体を目指していこうというのが日本経営品質賞の基本の発想です。ここが私が経営品質賞の好きなところです。ただ業績だけ上げればいいというものではない。従業員の満足度は高いのだけれど、最近あの会社は危ない。これではだめです。業績はすごいし、給料が高いので社員は喜んでいるけれど、もう世の中にゴミを撒き散らしています。これも困るではないですか。このバランスをとった企業を表彰していこうというのが日本経営品質賞なわけです。これはやはり素晴らしいと思うわけです。それが日本経営品質賞の中核の思いです。
 ですから企業経営においては、この「思い」ということがいちばん大事になります。具体的にもう1つ申し上げるとすると、例えば年度初めに方針、行動計画を作ります。もしくは年度末にそれを検証する。そのときにいちばん大事なことは何かと言ったら、必ず経営理念や行動指針とつき合わせることなのです。すなわち年度計画を作ったときに、その計画を具現化し、実現し、結果を出すことは、元々経営理念やビジョンをゴールに目指して進んでいますかというつき合わせがいるのです。やっていません。なぜか。ほとんどの企業は経営理念をお題目に唱えています。
 先日JQAの審査員から見て、これは素晴らしい経営理念だというある会社の経営理念がありました。その会社の幹部に向かって、「世の中に素晴らしい経営理念があります。社会に、従業員に、会社に・・・こんなにお役に立ちたいという非の打ち所のない経営理念を今からご紹介しましょう」と言ってその会社の経営理念を配ったら、反応がすごいです。「うちの経営理念とはそういうものだったのですか」というわけです。初めて見るような顔の人もいました。
 みなさんのところはどうでしょうか? みなさんは会社の経営理念をご存知でしょうか? ご存じだとしましょう。それに基づいてやっていますか? そして経営理念や行動指針というのは何かというと、判断の軸なのです。何かあったときにイエスとするのかノーとするのかの判断の軸が経営理念であり行動指針なのです。それに合致しているか、していないかということです。
 ですからリーダーシップというのは、経営理念をどこまで徹底させていくかというのがいちばん重要な課題です。そして経営品質の特徴というのは、ビジネスパートナーまで含めてくださいと言っています。全ての関係者含めて経営理念や思いを徹底してくださいということを言っています。
 東京ディズニーランドというのは素晴らしいです。これは前回お話したかどうか覚えていませんが、ある会社の方がそこの社長さんに会いに行きました。ディズニーランドも裏の方の事務所というのは非常に質素なのですが、行ったらそこにガードマンの方がいらっしゃった。そこに行って、例えば「茨城の鬼澤です」と言ったとしましょうか。そうすると「い」と言っただけで、「茨城の鬼澤様ですね」とガードマンの方が言われたというのです。「受付はあちらでございます。」そして受付に行って「い」と言っただけで「茨城県の鬼澤様ですね、お待ちしておりました。社長室はこちらでございます」と案内された。すなわちビジネスパートナーまで徹底しています。
 かたや全然そうでない企業もあります。これは否定的なので会社の名前はちょっと言いにくいのですが、受付に5人も座っている大企業です。行ったら「どちら様ですか?」実は役員と部長以上全員数百人を対象にした講演をするために行ったときに、「しばらくお待ちください」です。これが結構待たされました。一流と言われているところですが、何が一流なのかなと思います。
 ディズニーランドというのはご承知のとおり、5、6週間の夏休みのアルバイトに対してディズニー哲学を1週間教育するそうです。経営理念です。その間報酬を払うのです。
 この原型が米国のディスニーランドにありました。すごいなと思ったのは、ディズニーランドを作るときにディズニーは何をやったかというと、土建業者にまでディズニーの哲学を教育したそうです。4日間しか働かない、土砂を運ぶ人に2日間教育しているのだそうです。何の教育か。ディズニー哲学を教育するのだそうです。本当の話です。これは読んでものすごく感動しました。6日間のうち、4日間働いて2日間教育を受けた。すると土砂を運ぶ人が何といったと思いますか?「話が高邁すぎて、2日間聞いてほとんど分からなかった。しかし俺は楽しかった。」なぜかというと、砂を運ぶしかやったことのない人はそんな教育を受けたことがないわけでしょう。中身はよく分からないけれど、認められたという感じがあるではないですか。「俺、中身はよく分からなかったけれど嬉しかったよ。ディズニーによろしく伝えてくれ」と言ったのです。そして最後にこう言ったそうです。「俺、一生懸命土砂を運ぶよ。」すると事務局の人がすごいです。ディズニーに伝えず、彼の所に本人を呼んできたのです。そして対話をさせるのです。
 これが業者間に全部伝わりました。どんな効果があると思いますか? 1人1人が目に見えないところを真剣にやるのです。実際に目に見えない所の建設現場ですから、もし不具合があったらオープンした後でクローズしなければなりません。目に見えない所はいい加減にやっても分かりません。しかし目に見えない所をちゃんとやりなさいとは言わなかった。目に見えない所をやってくれる人に対して、ディズニー哲学を教育したということです。経営理念の共有化です。
 みなさんの会社でいかがでしょうか? 経営トップが、上級幹部が自社の経営理念を何回語っていますか? 常日頃、どれだけ、機に臨んで、そのフレーズを使っていますか? ほとんどの企業はゼロです。経営理念はお題目です。
 なぜこんなことを申し上げているか。これから残る経営というのは何かというと、高邁なる経営理念を愚直に実践していくことを要求されると確信するからです。これが多分企業力になります。
 先ほど医療の世界のことをちょっと申し上げましたが、私の友人がアドバイスしていて、医療の世界で劇的に変わった病院があります。結論から言うと患者が倍になりました。
 その病院では、今までは医師が通路の真中を歩いていました。そして患者さんは点滴をしながら壁沿いに歩いていたということです。違和感もなくみんなそうしていた。彼はそれを見ておかしいと。患者さんが真中のはずだ。医師と看護婦は脇を歩くべきだ。気が付かないのです。
 そこから根底を変えていくのですが、理事長が素晴らしいのです。1年ちょっと前、経営品質を勉強し、看護婦、事務局、医師を集めて何と言ったか。「日本一患者満足度の高い病院を実現する」と言ったのです。周りの人は何と言ったと思いますか?「気が狂った。」超ネガティブな反応です。それが1年後見事に変えるのです。
 ここには素晴らしい物語がいっぱいありますが、その中で1つだけ紹介したいのはまさに経営理念の徹底です。本当に患者さんを中心に据えようということでどうなったか。そこの病院では患者さんを迎えに行って治療し、また送り届けるサービスを提供しています。マイクロバスでご年配の患者さんを何人か後ろに乗せている時、交差点の真中で事故があった。その時に運転手さんがこう思ったそうです。「ぶつかりそうになった瞬間ブレーキを踏むか。ブレーキを踏んだら後ろの患者さんが飛び込んできて怪我をする。それともこのまま突っ込むか。」その時に理事長の顔が浮かんだというのです。そして突っ込んだ。車は壊れたけれど、誰1人怪我をしなかったそうです。
 これが経営理念の徹底なのです。まさに極限に置かれたときに何を選択するのか。これは見事な話です。本当の話です。それ以上に感動する話がその病院にはいっぱい出てきています。ここ一年で、看護婦さんや医師に対して感謝の言葉が患者さんからいっぱい来るようになったのです。
 1年前、患者満足度№1の病院を目指すと言った時に全員に馬鹿にされながら、しかしやり続けた理事長がいるのです。そしてそうなっていったのです。これがまさにリーダーシップです。そして実際に業績にも見事につながって、患者が倍になったというのです。そして今度病院のベッド室を倍増するそうです。通常の企業で言えば販売が倍、設備倍という感じです。これをやっていくというわけです。これはまさに経営理念の徹底ということになります。
 先ほど岩手県の例を申し上げましたが、実は来週の末、三重県の北川知事のところにお邪魔します。北川さんのところも本当に熱心で、ものすごい勢いで意識変革を迫られていて、徹底してやっていくということです。北川さんが「ともかく一緒に教育をやってほしい」とおっしゃって、北川知事と一緒になって一般職の研修をやらせていただくのですが、その北川知事の熱意はすごいものがあります。
 なぜそこまで熱意を持たれたかというと、実は2年間ずっとパイロットでやって、アセッサーを養成し、次長クラス中心にセルフアセスメントをやった結果、ものすごく価値があると次長さんたちが言い出したのです。「知事、これは価値があります。素晴らしい手法です」と。そこで腹に落とされて「よし、やろう」ということで、北川知事は「来年は自治体で初めてJQAに応募します」と公の場で断言されました。その熱意というのはすごいのです。
 その基本は、県の行政というのは県民のためにある。県民の視点で行政のクオリティを高めていくのだ。そのために何をやれ、どう考えろといったときに分からないではないですか。この基準はものすごく使えるということです。
 高知県も前からやっておられます。それから今私は岐阜から出てきていますが、岐阜県の梶原知事も大変新進気鋭な方で、実は今年から徹底してJQAをやっていくのだということです。行政評価室というところが中心になって行政のクオリティを高めていこうと、庁内アセッサーを育成し、セルフアセメントをどんどんやっていこうということなのです。
 病院もやり出しています、行政もやり出していますという中で、民間の企業だったらもっともっとやりやすいはずなのです。それをやらない手はないのではないかということです。ですから今日来られた方で、アセスメントはどんなものなのか、価値のあるものなのかと思う方、中身は分からなくても結構です。ここは価値があると信じてください。あとやってみてください。やってみたら何か分かります。
 水戸近辺の方は大変幸いなことに水戸に協議会というのがあって、毎月例会ということで勉強もできるわけです。1人ポツンとする中でやるということはめちゃくちゃきついことです。でもみなさんの所には協議会があって、こういう場があるわけです。ものすごく恵まれています。日本ではまだ何もない所が多いのですから・・・。ですから与えられた場を活かしていただきたいと思います。
 ちょっと別な話になりますが、チャンスの神様というのは前髪しかない、来た時に掴まなければいけないと言いますが、これは違うと最近思い出しました。チャンスの神様はいつもウロウロ、すぐ傍にいるのです。掴まないだけです。掴み損なっても結構まだいます。掴んでくれと正面に来るのですが、本人が横を向いているのです。この意味が分かりますか? 結構深い意味で申し上げたのですが、伝わっていない感覚があります・・・。チャンスの神様というのはもう自分周りにウロウロいるとお考えいただいた方がいいです。
どうしたらいいか。目を開けて語りかけ、掴んでみたらいいのです。その掴むというのは分かりますね。実践です。実践しないと掴んだことになりません。ですから是非実践していただきたいと思います。
 余分な話をしろといったら何時間でもやりますが、「そろそろ5時になるよ、大久保さん、そろそろやめたら?」という思いの方も3人ぐらいいらっしゃる感じがしましたので、まだ5分ありますが終らせていただきます。どうもありがとうございました。

使用テキスト : 「経営の質を高める8つの基準」かんき出版

2001.6.6 センチュリープラザ那珂にて